11月21日、設立16周年を迎えた言論NPO(代表・工藤泰志)は、都内のホテルで設立16周年記念フォーラム「民主主義の試練にどう立ち向かうか」を開催しました。
オープニングを飾るフォーラムでは、山中あき子氏(ケンブリッジ大学中央アジア研究所上席フェロー)の質問に答える形式で代表・工藤との対談が行われました。
始めに山中氏は、言論NPO設立から16年の間に、国際情勢が激しく変化していることを指摘した上で、言論NPOが北朝鮮問題や北東アジアの平和構築に真正面から取り組んでいる理由について質問を投げかけました。
設立時からのミッションである「民主主義」と「平和」
これに対して工藤は、16年前の設立時を振り返りながら、「設立当時からのミッションは、『民主主義』と『平和』だった。民主主義というものは、それをきちんと機能させる努力をしないと場合によっては壊れてしまう。2001年、まさにそれを予感した」と語り、言論NPOの使命の1つである民主主義について説明しました。さらに、もう一つのミッションである平和に関して、政府間外交の議論において、領土問題そのものが存在しないとされる慣習について問題を投げかけ、そのような中で民間が政府間外交の基盤作りとして不戦の合意をする意味を強調。その取り組みの一例として2013年の「東京-北京フォーラム」において中国との「不戦の誓い」で合意したことを振り返りながら、「このような平和に関する動きを北東アジアに広げたいと考えていたが、その作業を開始した時に北朝鮮問題が起こった。北東アジアの平和をつくるためには、北朝鮮問題の解決は不可欠である。そのために昨年から韓国・中国のい有識者と議論し、先日はアメリカの人たちと議論した」と北東アジアの平和実現に向けて現在進行形で言論NPOが取り組んでいる動きを紹介しました。
日本の民主主義をテーマに設定して議論を続ける理由
この話を受けて、山中氏は言論NPOが16周年を迎えるにあたって、今回のフォーラムでなぜ「試練を迎える民主主義」、「民主主義の今後と言論の役割」という難しいテーマ設定をしたのか、さらに工藤が「日本の民主主義についてどのように考えているのか」と問いかけました。
工藤は、「日本の民主主義は壊れかけている」と断言しました。その理由として、「自由を獲得した我々が、その責任を果たさずに社会の課題に無関心であると民主主義は機能しない」と指摘しました。一方で、課題解決を託す人物を選ぶために選挙を実施しているにもかかわらず、日本国民の6割が日本の将来に不安を感じる中で、課題解決を政党に期待する人は2割にも届かないとの言論NPOの世論調査結果(2017年8月公表)を紹介しながら、有権者側と政党側の両者に問題があるために、民主主義が機能していないのではないかとの見解を示しました。
さらに工藤は、有権者に将来への不安がある限り、国民がポピュリズムや権威主義を統治体制として選択する危険性があると主張しました。そうした状況に至らないためには、ジャーナリズムや知識層、NPOやNGOが機能しなければいけないが、そうしたセクターへの信頼も政党と同様に低い調査結果を紹介。そうした点も踏まえ、「日本の社会に民主主義と自由をきちんと議論する人が少なくなってきている」との危機感から、今回のパーティーで民主主義をテーマに設定し、問題解決のスタートにしたい、とっその意味づけを語りました。
自由と民主主義を守るための努力が足りない
だからこそ、言論NPOはそうした流れをつくり出したい
続けて山中氏は、日本に民主主義が導入された際、国民は大いに喜んだという歴史について触れつつ、「日本では、国民一人ひとりに民主主義が根付いた上で壊れそうなのか、それともまだ根付く前で今、揺らいでいるのか」との質問。工藤は「民主主義の仕組み自体は日本に根付いている」としつつも、有権者が課題解決の方法を選択するために必要な言論の自由や司法の独立の確保、知識層の競争ができているとは言い難いと指摘。特に有権者と政党間の緊張関係については、言論NPOが2004年以来実施している各党のマニフェスト評価、政権の実績評価などでは、近年、与党ですら30~40点に留まっているが、誰もそれを批判しないことについて危機感を口にしました。
また、工藤は世界の論壇の中で、民主主義よりも権威主義の方が優れているのではないかという疑問が浮上している点にも触れ、「ここまで民主主義が追い込まれたのは、民主主義の価値に疑いがあるからではない。自由と民主主義というものは絶対守らなければならないが、それを守るための努力が足りない。言論NPOは2020年を一つのめどに、そうした民主主義を機能させるような流れを作っていく」との決意を語りました。
民主主義を機能させるために、多くの人たちの協力が必要不可欠
最後に山中氏は、「言論NPOやその他の民間団体が、どのようにして信頼を失っている政治を変えていくのか」と問いました。
これに対して工藤は「私たちの力だけで変えていくのは難しい」としながらも、「日本の社会には、私たちと同じような思いをもっている人がたくさんいる。言論NPOの使命は、日本の将来への不安やアジア全体の平和秩序の空白を自分たちの問題だ、という意識をもった人々のプラットフォームになることだ」と説明。さらに、そうしたプラットフォームの実現に向けて、3年以内に協議会方式で課題解決の議論と発信ができる基盤作りを目指すとの決意を述べました。
さらに、「民主主義を機能させるためには、多くの人たちの協力が必要不可欠だ。日本の社会に民主主義を促進して課題解決に挑んでいくようなサイクルを是非とも作りたいので、皆さんの力を貸していただきたい」と会場に集まった聴衆に向けて呼びかけました。
これを受けて山中氏は、民主主義の国民一人ひとりの意思を尊重するという意義を確認した上で「言論NPOのような世界をリードする存在が、大きく羽ばたいて工藤さんが述べたような願いを成就させるように期待している。会場の皆様もこれからも参加して、応援していただきたい」と語り、オープンフォーラムを締めくくりました。
その後、議論は国外からの招聘者3名を加えた、パネルディスカッションに移りました。