1.審査の視点
「組織力」とは、責任ある活動主体としてガバナンスが機能し、活動持続のために経営を安定させるための努力を行い、さらに組織の不断の努力を促す刷新の力を持っていることを意味します。
そこで、「組織力賞」では、組織の使命や目的が文書に明示され、その課題や方針が明確になっているか、事業の成果がホームページなどで公開されているかなど、情報開示、資金調達の多様性や透明性などの点を中心に審査を行いました。また、活動に見合った運営の独立性や中立性を維持しているか、使命を持続的に遂行できる基盤を十分に持っているのか、という面からも審査しました。
2.審査結果
(1)ノミネート団体
「特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International」
日本および欧米の先進国において、食生活の改善と開発途上国への寄付事業を通じ、世界の肥満と飢餓の解消を目指すNPOです。1食20円という寄付プログラムにより、700にのぼる企業や官公庁、大学などが参加。その結果大口の寄付や補助金に頼らない資金源の多様化を実現させている点は、他の団体のモデルともなります。今後、寄付を得て実施した活動の成果や社会的インパクトを、定量的な評価も含めて、より可視化させていくことができれば、組織としての信頼度が一層増していくものと思います。
「認定特定非営利活動法人ホームホスピス宮崎」
在宅での生活を願う患者さんを支えようと立ち上がった医師、看護師などの医療職、介護職、患者や遺族らが中心となって活動を発足させたNPOです。現在は相談機能を持つ在宅ホスピス支援センター事業を中心としながら多岐にわたる活動を展開しています。特定の団体と偏った関係を築くことのないよう、理事会も多様な分野から人材を選出するなど、団体経営の独立性、中立性、多様性を強く意識した運営に努めています。とはいえ、財源の多様化に苦労されている様子が伺えます。今後さらに、活動の目標をどのように見極め、どのような種類の資金を必要とするのか、といった計画・施策を具体化されていくとことが次へのステップにつながるかもしれません。
現行の"組織力"の評価基準には、人材育成に関する項目を設けていませんが、活動のご説明から、従来よりも手厚くヘルパーさんや看護師さんを充当してケアに臨んでいることがわかります。ターミナルケアという難しい介助ですから、人材確保や育成は今後も続く大事な課題となると思われます。
「特定非営利活動法人 テラ・ルネッサンス」
カンボジアの地雷問題をきっかけに設立されたNPOです。15年周年を迎えた昨年には、「2031年までにすべての子どもが紛争に巻き込まれない社会をつくる」ことを中期ビジョンとして掲げ、現在世界6カ国において活動に取り組んでいます。収入源が、活動と組織の方向性にもたらす影響を設立当初から意識し、寄付収入、事業収入の維持拡大に努めてこられました。結果7割という高い自己財源率を確保し続けてきたことは高く評価される点であると思います。組織規模の拡大や外部環境の変化の中で、新たなチャレンジが求められてくると思いますが、今後の取り組みにも大いに期待しております。
「特定非営利活動法人 美ら海振興会」
海洋と海辺の環境保護を目的として、サンゴの植え付けや水中駆除、水中・陸上清掃、安全学習などの取り組みを行っているNPOです。2000年の発足時は、数人の有志の呼びかけに賛同した人々による活動でしたが、活動範囲が広がりを見せると共にその活動応じた資金調達が求められようになる中で、NPO法人化への道を決断。その是非については難色を示した人たちも少なくなかったそうですが、法人化の必要性と意義を根気よく説いて回ったことで、2008年に設立を果たされました。そのような経験が下地となり、全員が納得するまで話し合い合意形成していく文化、資金調達についても関係者内で常に共有される仕組みなどが組織内に根付いてきたのだと思います。一方、HP上において会計報告をはじめとする情報公開にはまだ限りが見られるようです。今後はより積極的な発信に努められることを期待します。
「特定非営利活動法人 みらいの森」
児童養護施設で暮らす子どもたちの豊かな成長をサポートすることを目的として、多様なアウトドアプログラムを提供しているNPOです。現在展開しているサマーキャンプ、ウィンターキャンプ、リーダー研修プログラムなどには、今年300名を超す子ども、施設職員の参加が見込まれているそうです。毎月開かれている「自然・つながりプログラム」は、企業スポンサーからの寄付とボランティア参加で実現されており、子どもたちにとっても将来のロールモデルとなる働く大人と触れ合う機会を生み出しています。企業、個人からの支援の輪を積極的に広げ、それらのサポーターを上手に可視化してHPで紹介されている点も、ユニーク且つ他のモデルに値すると思います。多様な支援を受けていく一方で、団体としての使命、価値観、方針に反する資金・支援をスクリーニングしていける仕組みなども、今後求められてくる要件となるかもしれません。
(2)組織力賞
以上ノミネート団体の中から慎重に議論を重ねた結果、組織力賞は「認定特定非営利活動法人ホームホスピス宮崎」に決定しました。組織力の評価基準で重視している、団体の独立性、中立性、多様性を強く意識した運営に特に努めている点が高く評価されました。
財源の多様化に向けた試みの最中におられると思いますが、そのための計画・施策づくり、またその試行を継続されていくことを期待しています。
受賞には至りませんでしたが、ノミネートされた他の4団体も受賞に匹敵するような高い組織力を持っています。
3.今後に向けての期待
どの組織も、組織の持続性の観点から資金源の多様化が大きな課題となります。支援者の特性にあわせ、face to faceのコミュニケーションによって構築していく深い信頼関係に基づいた寄付の獲得、またSNSをはじめとする新たな資金獲得手法などにも積極的に取り組まれていくことを期待しています。
さらに、効果的な事業の推進と持続性の観点から、重要な課題は組織運営を担う人材の育成です。現在、人材育成は応募の際の自己評価基準にはなっておらず審査していませんが、将来を見据えた組織力の強化としても、今後、検討すべき課題であると考えています。
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