マイケル・アブラモヴィッチ(フリーダムハウス代表)
インタビュアー:工藤泰志(言論NPO代表)
工藤:この前、アメリカでの世論調査の結果を拝見しました。アメリカの市民は、アメリカの民主主義を信頼していますか。
弱体化が進行する米国の民主主義
アブラモヴィッチ:私たちが行った調査ですが、ジョージ.W.ブッシュ図書館、バイデン元副大統領がやっているペンバイデンセンターという二つの団体をパートナーとして、大体1、700人ぐらいを対象にした、かなり大がかりな世論調査を実施しました。
アメリカの民主主義について、アメリカの人々がどう見ているか、ということについて尋ねるのが目的でした。結果としては、良いニュースもあれば、悪いニュースもあるということでした。良いニュースとしては、85%に近い人たちが「民主主義は重要である」、「民主主義国に住むということは非常に重要である」、という回答をしていました。1930年代を見てみると、民主主義の価値ということに関しての危機感は全くありませんでした。しかし、今回の調査では、多くの人が、民主主義が脱線し始めているというふうに考え、既に民主主義は弱体化していて、その弱体化がどんどん進んでいると考えていることが分かりました。こうした懸念は、政党間を超えて皆が持っている問題意識だということです。確かに民主主義は重要ではあるが、その健全性に関しては、どんどん劣化しているという結果でした。
工藤:民主主義の機能の健全性が劣化していると判断している理由は、何だと考えていますか。
巨大化する既得権益への懸念
アブラモヴィッチ:いろいろな要素があるので、一つに括ることはできませんが、第一に、日本とは違っていろいろな制度、特に政府に対する信頼というのがどんどん低下しているという問題があります。それから、マスコミや、その他の機関や制度に対しても、信頼度がどんどん低下しているという問題が挙げられます。特に、私は調査の結果として出た二つのことについて、興味を持っています。
第一に、民主党や共和党といった政党の支持にかかわりなく、皆が、ビッグマネーが政治に大きく影響を及ぼしていることに対して懸念を感じているということです。すなわち、既得権益がどんどん大きくなっていることです。二つ目として、アメリカ特有の問題かもしれませんが、人種的な問題、そしてそこに正義が存在しないというか、不平等であるということに関しても人々は非常に大きな懸念を持っているということです。
工藤:フリーダムハウスの論文を読んでいますが、民主主義がこの10年間、世界でどんどん後退している。逆に言えば、民主主義という国と、権威主義という国が共存する世界になってきている。民主主義はそうした世界の情勢の中で、勝ち残れるのでしょうか。そして、民主主義が勝ち残るためには何が必要なのでしょうか。
繰り返す民主主義の進化と後退 ―そのメリットを訴え続けることが重要
アブラモヴィッチ:私は、最終的には民主主義が勝ち残ると思います。例えば、歴史的に見てみると、民主主義が進んで、その後、少し後退するということの繰り返しが起こっているわけです。1970年代、サミュエル・ハンチントンが「第三の道」ということに関して論文を書いて、それによってラテンアメリカ、あるいは東ヨーロッパの多くの諸国が民主化を遂げるなど、そうした傾向が数十年続きました。しかし、それがこの10年間位は休止していて、他の方向にぶれているということがあると思います。しかしながら、全体的に見た場合には、やはり民主主義の方向に進んでいると思うので、これからも民主主義が増えていくと考えています。
私たちがやらなければいけないこととしては、民主主義を採用することでどのようなメリットがあるのか、ということを常に訴え続けていくということ。そして、ただ好ましい価値観があるということだけではなくて、こういった価値観に基づいて、民主主義の下でより多くの繁栄、自由、そして最終的には安全保障といったものが遂げられていく、ということを、何度も訴えていく必要があると思います。そうしたことをやっていけば、長期的には民主主義が勝っていくと思います。
工藤:有難うございました
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