【民主主義インタビュー】アメリカ・ファーストの民主主義を考える / ラリー・ダイアモンド(スタンフォード大学教授)

2018年11月08日

実施日:2018年9月13日
ラリー・ダイアモンド(スタンフォード大学教授)
インタビュアー:工藤泰志(言論NPO代表)


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工藤:世界では、「民主主義が後退している」としばしば言われています。貴方はこうした見方に賛成しますか、後退しているとしたら、その原因は何でしょう。


経済的鈍化と移民流入で増す、民主主義への不安

ダイアモンド:確かに、民主主義というのは後退していて、以前よりも取り巻く状況は悪化していると思います。言論NPOやフリーダム・ハウスはこの12年間ずっと、後退している状況が世界的に起きているということをよく見てきたと思います。ポピュリズムや権威主義的な状況が欧州で生じてきていて、また米国でも、リベラルではない傾向というものが、だんだんと強まってきているというのが今の状況です。この民主主義の後退というのは、国内外の両方で起きていると見ています。

 まず、国内的に起きていることの理由は、経済的な状況の変化、色々なことが自動化されたり、グローバリゼーションによるものでもあります。また、先進国では、経済成長の鈍化に苦しみ、世界の多くの国で所得格差が広がっています。さらに、人口面での問題では、特に韓国、日本、台湾では高齢化が進み、福祉的に色々なところで問題が起きています。職も減り始めています。それは、ロボット化や自動化が進み、また、国際貿易によるプレッシャーがかかることで、職がだんだんと失われているということです。実質所得も横ばいとなり、米国も含め所得が上がらない状況です。また、国際金融の面で、2008年、2009年の大きな金融危機からやや回復の兆しもあるのですが、まだまだそのスピードは上がっていません。数々の民主主義国家の中で、特に経済的な状況から、将来への不確定さを懸念しています。自分の子供たち、さらにそれ以降の子孫が、自分と同じような経済的な豊かさを経験できるのかということへの不安を感じています。

 二つ目の側面は、移民の増加、人口的に様々な人々が国境を越えて移動し、民族の多様化ということが起きています。これによって、社会にストレスがかかっている。移民を受け入れることに対して慣れていない国では、それだけの大人数の移民をどのように管理すればいいのか、よく分からないわけです。また、こういった理由によって、反リベラルで極右の人たちが、反移民を主張する人たちの票を獲得するというような状況が出てきています。例えば北ヨーロッパで、以前はリベラルな国だと知られていたような国でも、非常に敏感になっている。ドイツでは13%くらいの人たちが反移民を唱え、スウェーデンでは17%の人たちが反移民を口にする人たちで構成されています。また、デンマークでは、反移民の極右政党が第二政党に躍進しています。


社会を分極化するエコチェンバー現象

 三つ目の側面は、ソーシャルメディアが急速に拡大しているということです。これは、いわゆるエコチェンバー(自分の意見が増幅、強化される現象)と呼んでいるのですが、似たような見解を持っている人たちだけが、一部のソーシャルメディアの中で集団を形成していて、その人たちは自分たちにとって都合の良い、自分たちが同感できるような情報だけを、お互いに交換するというようなことをしています。そういった集団がかなり増えてきています。その結果、社会が分極化してきて、人々というのは、自分たちと同じ意見を持っている人、共有する意見を持っている人だけと意見を交換している、という状況になっています。自分たちが納得する、あるいは同意するような人たちだけが集まっており、そういった状況で更に良くないのは、悪い情報、間違った情報だけが流れてしまうということです。そのため、政治的に良い意味での分極化が出来ているわけではなく、お互いを信頼しないという意味での分極化が起きてしまっています。そうして人々は、政府・政党、あるいは今ある状況というのを信頼しないという状況になっています。


中国のシャープパワーとは

 もう一つ大きな側面としては、国際的な環境があります。ロシアや中国のように、民主主義を標榜しないような国が台頭してきています。ロシアではインターネットを活用して、シニシズムを標榜する、あるいは伝播するというようなことをやっています。それによって、民主主義を誤って捉えるような人々が増えるような形になっています。また中国では、シャープ・パワーというものを活用して、民主主義国のメディア・社会・政治に浸透し、中国に対抗する力を削ぎ落とそうとしています。


民主主義の復権には

工藤:私も、ダイアモンドさんが言われたようなものと同じような問題意識を持っています。ただ、その中で私は3年間世界の人たちと議論してきて、我々先進国の民主主義が考えなければならないことは、特にその中でも選挙や政党、国会などの代表制民主主義というものが、市民の信頼を失い始めていることではないかと思います。この問題をまず解決して、そこから民主主義の復権というものを作っていかなければならないと思っているのですが、こうした見方をどう思いますか。それと、こうした代表制民主主義を回復するために今、何が必要なのでしょうか。

ダイアモンド:おっしゃったことには私も同感です。やはり先進国ですら、民主主義というものが後退してきています。世界的に民主主義に対して不信感が募っていて、政治的に信頼感が失われています。ただ、一つ強調したいことは、こうした国々のほとんどで、民主主義を「信じたい」という気持ちはまだ根強く残っていると思います。確かに、民主主義に対して不信感を抱いている人たちはある程度存在し、代わりに権威主義的なものを支持する人々もある程度増えていますが、やはり根底的には、民主主義を信じようとしている人たちの方がまだまだ多く、状況はそれほど極端なものではないと思います。この状況をさらに悪化させないようにしないといけない。民主的な組織への信頼を回復しなければならないと強く思います。それぞれの国が、各々で民主的な組織をどのように守っていくことができるのか。また、どのように民主主義をさらに健全なものにすることができるのか、という真剣な見直しが必要だと思います。

工藤:最後の質問です。今、世界では我々の民主主義と権威主義が並存しています。未来において、民主主義は勝ち残ることができるのでしょうか。勝ち残るために、我々は何をしなければならないのでしょうか。それを教えてください。


個人の、自由と尊厳を守る

ダイアモンド:民主主義について、長期的に考えれば私は楽観的です。一つの理由は、人というのは他の人から圧力を受けることなく、一人の人間としての自由や尊厳を守りたい、という欲望があるからです。トランプ大統領やその他の「ストロングマン」の誕生の後でも、人々は民主主義を放棄し、引き換えに権威主義的支配を望んでいるわけではありません。しかし、民主的な組織への信頼を回復することによって、今よりも更に民主主義がうまく機能するようにしないといけない。ですから、私たちが今直面している問題としっかりと戦っていくために、色々な改革のリストを私は考えています。

工藤:有難うございました。


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