「東京会議」プレ企画「代表制民主主義は信頼を回復できるのか」 オープニングフォーラム 報告

2018年11月22日

⇒ 設立17周年記念パーティー 報告
⇒ 第1セッション「代議制民主主義の危機をどう見るか」報告
⇒ 第2セッション「民主主義への信頼をどう取り戻すのか」報告


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 11月21日、言論NPOが設立17周年を迎えるにあたり、記念フォーラム(「東京会議」プレ企画)「代議制民主主義は信頼を回復できるか」が開催されました。
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kudo.jpg 冒頭、言論NPO代表の工藤泰志は開会のあいさつとして、この3年間、民主主義に関して世界の400人近くの論者と議論を行い、その結果、日本や欧米が抱える最も大きな問題は「代表制民主主義が信頼を失った」ことにあると強調。そうした中で、「世界の民主主義が信頼を取り戻し、より強靭なものにするために改革が必要な局面にある。私たち言論NPOもそのための作業を始めることを考えていて、今日がそのスタートだ」と語り、今回のフォーラムの開催の意義を語りました。

日本・EUの世論調査結果から明らかになったのは、国民の民主主義への信頼低下

 続いて、2018年9月に実施した「日本の民主主義に関する世論・有識者調査結果」から(11月21日公表)、工藤は、日本には民主主義に対し強い信頼がまだ残っている一方、政党に問題解決を期待できないという人が59%いるなど、政治に対する期待が低下していることを指摘。さらに、「国会」、「政府」、「メディア」には信頼を寄せておらず、自衛隊や警察、司法を信頼しているという結果に触れ、「私たちが選挙で参加し、政治家に課題解決を託しているという代表制民主主義の仕組みが、軒並み信頼を失っている」と分析しました。

 こうした調査結果も踏まえながら工藤は、「市民が政治から退出しており、世界の民主主義は危機に直面していると判断した。ぜひ、みなさんにも一緒にこの問題を考えていただきたい」と呼びかけました。

re.jpg 工藤の発言を受け、ドミニック・レニエ氏(仏政治刷新研究基金代表、パリ政治学院教授)は、ヨーロッパで実施した世論調査の結果の説明を行いました。レニエ氏は、工藤の発言に賛同するとともに、EUにおける世論の政党への信頼が18%しかないことを紹介。さらに日本の調査結果と同様に、EUでも「軍」や「警察」への信頼が高く、議会への信頼があまりないこと、さらに伝統的メディアへの信頼も危機的で、「25カ国のうちの4カ国でしか、メディアに対する信頼が50%を超えていない」との現状を説明しました。

 加えて、国民の大部分は、政治家が腐敗していると考えていること、権力者によって国を率いてほしいと考える国民が一定数存在することに言及し、「ヨーロッパの民主主義国家はかなり深い問題を抱えている」と断じました。また、こうした問題は調査結果からだけではなく、イギリスのブレグジットでの国民投票や選挙の投票結果でも現れているとし、問題が様々な場面で表面化していることを強調しました。


国会や政党と国民の間にある溝を、どのように埋めればいいのか

 レニエ氏の発言を受け工藤は、世論調査の中で、「日本に強い政治リーダーを求めるか」という設問で、国民の20.4%が「自国の経済や社会がより発展するのであれば、多少非民主的でも強いリーダーシップを持っても構わない」と回答したことに言及し、国内でも強力なリーダーシップをより求めていることは、民主主義を考えていく上での重要な課題だと補足しました。

 さらに工藤は、政党と国民の代表であるべき国会が、市民の支持を得ていないことについてどのように考えればよいのか、と問いかけました。

ishiba2.jpg 衆議院議員の石破茂氏は、「政党が信頼されていない」という調査分析結果に同調。世論調査の設問について、「政治家は有権者を信頼しているか」という逆の問いも有り得るのではないかと指摘し、「どうせ難しいことを言っても国民は理解してくれないのだから、この程度の国民に対してこの程度の政治家でよいだろう、というのは絶対に言ってはならない。国民は忙しいのだから、わかりやすく様々なことを表現することが仕事だ」と、政治家の持つ説明責任の重要性を訴えました。他方、国民にも自らが為政者という自覚がなければ主権国家とはならないと、国民に対しても当事者意識を持つことの必要性を説きました。さらに石破氏は、自衛隊への信頼が高まっている現状についても「極めて信頼が高いことはよいが、これまで自衛隊に対する文民統制の議論が突き詰められたことはない。民主主義と実力組織の関係はよく考えないと、もう一度(第二次世界大戦と)同じことが起こる可能性がある」と、手放しの自衛隊への信頼への問題点も指摘しました。

ra.jpg ギデオン・ラックマン氏(フィナンシャル・タイムズ・チーフ・フォーリン・コメンテーター)も、ジャーナリストの立場から政党への信頼の失墜について話します。「西洋やアジアの民主主義国をみると、伝統的な政治家ではない人々やアウトサイダーに訴えかける人に票がいくことが多くなった。政党はやはりそれなりの規律の中で動かなければならず、そうした規律に縛られて動いていることが、国民からみると不誠実に見られることがあるのではないか」と、フランスのマクロン大統領やアメリカのトランプ大統領を例示しながら語りました。

 ここまでの議論を受けて、工藤は「今回の日欧の世論調査に共通する傾向は、市民と政党に乖離があることだ。つまり政党が市民のために動いていないとなると、そもそも政党の存在意義は何なのか」と代表制民主主義をとる上での根本的な問いを提示。さらに、政党が極端な民意を利用して地位を得る傾向が、ヨーロッパのみならず日本にも見られると分析し、このような現状を立て直すことは難しいのか、パネリスト諸氏に問いかけました。

YKAA1228.jpg 「難問だ」と応答したのはレニエ氏です。「全ての政党が危機にある、ということは正しい認識ではない。もっともヨーロッパを見ると、明らかにポピュリストは台頭していることは事実であり、一般国民と政治家との乖離は、今に始まったことではない」と、ヨーロッパに関する自らの見解を主張。また、政府としては一般国民と理性的な議論をすることが難しい時代になったと指摘し、このような時代では、共通の利益がどこにあるのかを見定めることは難しいのではないかと分析しました。

 工藤は、石破氏が所属する自民党について、様々な人々から支持を受けているのか、それとも棄権する人々が多いために相対的に支持基盤を獲得できているにすぎないのかを問いかけました。

 石破氏は、「国政選挙の投票率は50%程度しかない。そして50%の得票率で当選できるということは、25%の積極的支持で、70%以上の議席を獲得してしまっている。したがって、当然民意との乖離は生じてしまう」と、選挙制度の構造的な部分に原因があることを指摘しました。

YKAA1267.jpg また、日本の両院制は両院が同様の権限をもってしまっていることにも触れ、「同じようなものが二つあって意味があるのか」と、少数意見を尊重できない現行の両院システムに異議を唱えました。また、自らの自民党総裁選出馬経験を踏まえ、本来であれば総裁選に勝利した安倍総理が、石破氏を支持した45%の議員の意見を取り入れなければ、次回の選挙では辛酸を舐めることになる可能性が高いが、野党がバラバラである現状では負けることはないだろうと、日本の政治構造そのものにも疑問を投げかけました。


議会は行政の追認機関にすぎなくなってしまったのか

 ここで工藤は、日本にあるような与党審査制度はヨーロッパ諸国にも存在するのか問いました。ラックマン氏は、「一般的にはそのようなことに基づいている」と回答。さらに、国民が政党に対して信頼をしていないのはなぜか、という問いに関して、「フランスの国民戦線やトランプ大統領の出現に代表される社会の分断の中で、政党は社会を代表できていないと考えられているのかもしれない。亀裂を代表できている党が現れれば、人々は国会や政党に信頼を寄せるのではないか」と語りました。

 工藤は、国会の信頼度が低いことをどう捉えるのか。また、「日本には与党審査という制度があり、その中で揉まれている問題に国民はあまり触れられない」と、与党審査の抱える問題についても問題提起すると、石破氏が答えます。「与党審査があるのだから、与党は政府を持ち上げるような質問はしなくてもよいのではないか。また、野党もバラバラに質問するのではなく、どこに国民の興味があるのかを把握し、本質的な議論をする必要がある」と指摘。また、小泉政権時代の有事法制についての長期間の野党との議論と調整の末、二党を除いて合意を結べた経験を振り返りながら、「よりよい議論の一致を見出すのが議会の役割。国会は追認機関なのであれば意味がない」と力強く主張しました。

 この発言を受け、工藤が「党議拘束と与党審査をやめるのは無理なのか」と問うと、「与党が運営する政府で与党審査をやめたら意味がない」と石破氏は返答。また、党議拘束については、全てに党議拘束をかけるわけではないと述べ、実際に過去にも、脳死など死生観に関わる事柄については党議拘束を外したことがあると語る石破氏でした。

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正確な情報を提供し、政府批判を恐れないことがメディアにとって重要な役割

 次に工藤は、「メディアはインフラとしての機能を果たせていないのではないか」という問題意識を提示。ラックマン氏は、トランプ大統領の登場に懸念を示します。「彼は、メディア攻撃、不信感醸成を正当化している。アメリカでは報道の自由が確立されているので多分メディアは生き残るが、世界中のメディア叩きを助長しているのは事実だ。その結果、世界で投獄されている記者数は記録的だ」と語りました。また、報道に対して過剰に批判的になることにも問題意識を示し、「民主主義の抱える問題にはメディアへの攻撃も含まれているからだ」と話すのでした。

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 「メディアに対する攻撃がある」という点について理解を示しつつ、工藤は最後に、一方でフェイクニュースの問題に世界の既存のメディアはどのように取り組めばよいのか、と問いかけました。

 「諸外国と日本だと状況は違うと思うが」と前置きしつつも、「日本だと、メディアと権力が癒着すると社会が滅びるということは間違いない」と断言するのは石破氏です。「(第二次世界大戦)当時は大政翼賛会しかメディアがなく正確な情報がないために、実に都合がよいストーリーしかなかった。いかにして正確な情報を提供し、政府の批判を恐れないかということが重要だ」と、戦時中を振り返りつつメディアの持つ役割の重要性を提示しました。また、近年のメディアについて、各々の論調がはっきりしてきたと指摘。「ただ、市民は普通一種類の新聞しか読まない。それでは一つの論調に市民の意見が固まってしまいよくない。メディアは自分とは違う立場についても紹介すべきだが、商業ジャーナリズムの下では困難だ」と、現代メディアが抱える役割とそれを果たす困難についても言及しました。

 今回の議論を振り返った工藤は、「当初の期待よりも何十倍も高いレベルの議論ができた。この議論を後のセッションへ引き継ぎたい」と満足感を示し、オープニングフォーラムは終了しました。

文責:小菅生草太(言論NPO インターン )