続く第2セッションでは、言論NPO理事を務める近藤誠一氏(近藤文化・外交研究所代表、元文化庁長官)に司会を交代し、「民主主義への信頼をどう取り戻すのか」をテーマに議論を行いました。
第1セッションから引き続きの参加となるマクシェーン氏とゴジ氏に加え、アジアの民主主義国からハッサン・ウィラユダ氏(元インドネシア外相)が参加。日本からは、大橋光夫氏(昭和電工株式会社最高顧問)、藤崎一郎氏(日米協会会長、元駐米大使)の2人の言論NPOアドバイザリーボードメンバーが参加しました。
まず、司会の近藤氏が「第1セッションで浮き彫りとなった代表制民主主義の危機を乗り越えるため、今何をすべきなのか」と問題提起し、各氏にその処方箋を求めました。
民主主義を機能させるため、一人ひとりが考えるべき
これに対しマクシェーン氏は、代表制民主主義によって全ての人が満足できるような結論を出すことは不可能であるとした上で、それでも代表制民主主義によって出された結論に意味があるのは、代表者たる議員たちが「議論を尽くした末に下した結論」だからこそであると指摘。住民投票のような直接民主主義は、スイスのような成功例はあるとしつつも、往々にして「YesかNoかのボタンを押すだけで、愚かな結論を下すことになりがち」と警鐘を鳴らしながら、暗にイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票を批判。代表制民主主義に対する人々の不満に対しては、「結局、文句を言わずに民主主義が機能するように自分たちで組み立てていくしかない」と説きました。
さらに、選挙制度のあり方についても同様の視点から、「虹の向こうにいる誰かが完全な制度をプレゼントしてくれるわけではない」とし、自ら模索していくべきだと語りました。
新たな課題から生まれる新たな運動を民主主義の活性化につなげていく
ゴジ氏は、国民の政治運動や政党の活性化の必要性に言及。現代の多くの国々で見られる現象として、旧来的な「右」と「左」の分断ではなく、「都市と地方」や「高齢者と若者」など様々な領域での分断が進んでいるとしつつも、そうした新しい課題から新しい運動が生まれると語ります。また、水の確保や気候変動などの新たな課題も新しい運動の端緒になるとし、こうしたことに活性化の好機を見出していくべきと主張しました。
一方で、そうした政治運動や政党は「人々の感情に寄り添い、希望を高めるような成果を出すことにこだわるべき」とも語り、そのためには、しばしば民主主義の欠点と指摘される効率性とスピードを意識することも重要であると留保を付けました。
選挙過程だけでなく、行政も不断の見直しが必要
ウィラユダ氏は、「選挙を通じて、自らを改善させることができる点が民主主義の強みだ」とした上で、民主主義は"最終形態"に向けての進化の最中にあるのだから、多少の問題が起きても動揺せず、辛抱強く改善に取り組んでいくべきと訴えました。
一方で、民主主義が機能していないと思われることの要因としては、民主主義によって選ばれた政治部門が、国民に福利をもたらすことができていないことがあると指摘します。それは議会だけの問題ではなく、行政にも問題があるとし、一例としてインドネシアでは汚職を捜査・起訴し、政府を監視することなどを任務とする「汚職撲滅委員会」が、国民の中で最も信頼度が高い機関となっていることを紹介。選挙過程だけでなく行政過程の透明化も、民主主義に対する信頼回復のためには不可欠であるとの視点を提示しました。
「3つのC」
藤崎氏は、EU離脱に関する国民投票とそれに伴う混乱を踏まえ、選挙で選ばれた代表が長期的な視野に立って討議し、決定することの重要性を再確認したとしつつ、日本の選挙をめぐる問題点を挙げました。立候補の自由はあるものの、実際には世襲議員や官僚出身者などの候補者が多く、「地盤」、「看板」、「鞄」がない人は、なかなか選挙に出馬できない現状を指摘した上で、こうした現状をchangeし、challenge しようとする人にchanceを与えるべきとする「3つのC」を提唱。そのためには、現行小選挙区制の見直しや、イギリス型の落下傘候補の一般化などが検討に値するとしました。
さらに藤崎氏は、そうして選挙をくぐり抜けた政治家の意識の問題にも言及。「ゴルフの時ですら議員バッジをつけているような人がいる」とし、こうした見え隠れする特権意識をどう考えるか、という視点も提示しました。
まず、教育から問い直すべき
大橋氏は、民主主義に関する制度の問題ではなく、人間教育の観点から問題提起。まず、日本社会の特質として「宗教や人種に対して比較的寛容であること」や「調和を重んじること」を挙げ、こうした姿勢が民主主義に不可欠であると論及。また、イギリスの政治学者A.D.リンゼイが民主主義を維持していくためには、自らの意見と不一致な意見も真摯に傾聴すべきと述べていたことや、天才物理学者アインシュタインの「人間にとって最も大切な努力は、自分の行動の中に道徳を追求していくこと」などの格言を紹介。民主主義の不完全さを補うことができるのは人間の理性だけであるとし、その理性を身に付けるためには教育が重要であると主張。「相手の話をきちんと聞く、という習慣を身に付けなければ、寛容も身に付かない」、「憎悪によって分断を生まないような自己抑制をできるようにすべき」など、こうした姿勢を小学校教育の段階から意識して習得するような教育改革を提言しました。
この寛容の精神の重要性については、ゴジ氏も社会が多様化していく中での不寛容の拡大が、分断につながっているとし、今後の民主主義を考えていく上では「寛容が重要なキーワードになると」と話しました。
ウィラユダ氏も多元的な社会で構成されるインドネシアでは、寛容とそのための対話が不可欠であると説明。さらに、世界各地でのポピュリズム勃興の背景には、エリート層に対する大衆の反発があるとし、この両者が対話することの必要性について語りました。
その後、会場からの質疑応答を経て、言論NPO設立17周年記念フォーラムのセッションは終了。議論は明日の「第4回アジア言論人会議」に続きます。