第6回エクセレント「NPO課題解決力賞」講評

2019年1月17日

1.  審査の視点

 課題解決力賞は、基本的に課題解決力について、自己評価とそれが適切になされているかを基準に審査しました。すなわち、課題認識のあり方、課題の背景にある原因や制度、慣習をどの程度把握しているか、こうした課題認識に基づきどの程度、明確に目標を設定しているのか、また、アウトカムを意識した活動をしているかなどの視点から審査いたしました。このほかに、市民性や組織力の評点が極端に低くないかどうかも加味しました。


2. 審査結果

(1)ノミネート団体

「エイズ孤児支援NGO・PLAS」

 エイズ孤児支援NGO・PLASは現地を訪れた学生たちによって2005年に設立され、エイズ孤児(エイズで夫を失ったHIV陽性シングルマザーの家庭の子ども)たちが未来を切り拓ける社会を実現するために、ウガンダとケニアで現地のパートナー団体と連携しながら支援活動を行っている。これまでに1,370人のエイズ孤児たちに教育を届け、エイズ啓発事業では67名の現地ボランティアを育成、27,000人にエイズ教育を施してきた。また2015年には孤児20名にインタビュー調査を行い、「キャリアプランニング支援」事業を立ちあげた。エイズ孤児には経済困窮によって中学を中退せざるを得なくなる者や将来を具体的に計画し実行するためのライフスキルを得られない者がいるが、このような孤児に対応するものである。この実施によって、キャリア発達を示す指標は1.5倍になったという。現地のパートナー団体は、「彼女たち(これらの事業に参加したシングルマザーたち)はPositive living(前向きな生き方)を得た」と評価しているという。


「吉備高原サラブリトレーニング」

 吉備高原サラブリトレーニングは、日本中央競馬会などで活躍している競走馬の引退後のセカンドキャリアを構築することを目的に設立された団体である。ここでは、競走馬がもう一度活躍できる場所ができるようリトレーニングを行っている。競走馬は、毎年7,000頭生まれが、5,000頭が引退し、行き先が不透明になっている。競走馬出身の馬は、気性が荒く、乗馬倶楽部に競走馬が来ても、暴れる噛むで扱いが難しい。そのため再トレーニングして福祉や教育に活用できないかと調教師などの専門家が立ち上がり、吉備中央町町長の支援を得て活動が始まった。2年間で54頭がトレーニングされたが、これらの馬たちはホースセラピー、大学の乗馬部などでセカンドキャリアを歩み始めた。吉備高原サラブリトレーニングは、課題に対する着眼点、ストーリー性に優れている点が評価された。また、サラブレットの引退後の状況(食肉)、過剰生産をせざるをえない状況など、これまで知られていなかった問題を複雑な背景とともに、世に知らしめている。この問題を解決するためには、制度的な改変も必要になってくると思われる。セカンドキャリアとして送り出した馬の活躍や貢献の状況とともに、制度的な視点からのアプローチも期待したい。 


「きらりびとみやしろ」

 きらりびとみやしろは、埼玉県みやしろ町という、人口34,000人の町で、地域の人々の助け合い、支え合いによって、介護事業、有償ボランティア、送迎サービス、ふれあい事業を実現している団体である。1998年4月、行政職員の尽力で地域での助け合い活動を中心とした組織「ハートフルみやしろ」が設立された。2001年に法人化され「きらりみやしろびと」となった。会員は630人、2017年度の助け合い実績は、6,364件である。34,000人という小さな町で、毎日、17件以上の助け合い事業が行われているが、今後の介護事業のあり方に示唆を与えるものと思われる。きらりみやしろびとは、介護保険法の理念である「助け合い」の精神を貫き、地域で支え合う活動を設計し、継続的に運営している。この背景には、みやしろ地域の高齢者の課題を定量的、定性的の両面から把握し、それをデータとして集め、管理システムを構築したことが挙げられる。課題の適切な把握、分析、それに基づく活動計画の作成が上手に組み立てられているという点で高く評価された。


「フードバンク山梨」

 フードバンク山梨は1人の女性が退職後のボランティアとして2008年に自宅で始めたもので、賞味期限内で安全に食べられるにも拘らず何らかの理由で販売できなくなったり、消費しきれなくなった食品を企業や市民などから提供してもらい、生活困窮者や施設・団体などに無償で配布している。生活保護に至る前の生活困窮者を対象にした「食のセーフティーネット事業」は行政への相談者に食糧支援を行うものである。2009年9月から9年間の食糧支援は26,432箱、提供重量で677トン、金額に換算すると約4億円相当するという。県内7市と連携協定を結び、86の小中学校との協力のもとに1,339人(649世帯)を支援対象として捕捉しているが、県内の相対的貧困状況の子どもは約1万人というから、その約13%に当たる。メディアへの働きかけや政府への政策提言など、社会全体の意識を変えていく取り組みも活発である。2015年には全国フードバンク推進協議会を立ち上げ、フードバンクの定着に向けても尽力している。課題解決の手法を全国に普及するものとしても評価したい。


「ユニバーサルケア」

 ユニバーサルケアは、保険会社を退職した代表が、「何か自分にできることで起業を」と考え、有志を集めて、設立した成年後見人の育成、普及、運営を行うNPO法人である。具体的には、成年後見制度の利用相談、制度利用手続支援、成年後見人等の引受け、加えて一般市民向け成年後見セミナー開催や医療・福祉関係者向け研修講座を実施している。成年後見制度は、いかに普及するのかという点が大きな社会課題になっている。そこで、「多用されていた法律用語や専門用語は一切使わない」という方針を決め普及につとめている。ユニバーサルケアは、成年後見人とそれを必要としている人々の数、制度的問題について、全国規模でわかりやすく把握している。また、団体のある京都地域においては、5つの活動拠点、30のセンターと連携しながら、具体的な活動目標をデータで示して共有し、進捗を逐次把握することができている。制度的な視点と地域の視点の双方から課題を把握し、エビデンスを活用して運営している点が評価された。
      

(2)課題解決力賞

 今回の課題解決力賞はノミネートされた5団体について慎重に審議し「エイズ孤児支援NGO・PLAS」「フードバンク山梨」の2つの団体への授賞を決定した。5団体とも高い評点でその差は小さい。各団体の社会課題への質的な取り組み内容を含めて議論を重ね、まず2団体に絞った。「途上国」を活動基盤とする団体と日本の「地域」を活動基盤とする団体である。それぞれに活動基盤の違いによる特徴があり、これらを同一平面で比較して一つに絞るのはとても難しい。そこで、最終的には複数授賞としたのである。これまでも市民賞や組織力賞で複数授賞はあるが、課題解決力賞では初めてのことである。


3. 今後に向けての期待

 エクセレントNPOの課題解決力の評価項目には(6)として「組織は取り組む課題の背後にある原因や理由を見出そうとする姿勢や視点を持っていますか」いう問がある。これが課題解決のための最も重要な項目とも言えるが、2つの団体は、自己評価においても審査員の評価においても、この項目で高い評点を得ている。課題解決力とは、いわば鋭い課題発見力であり、地道な課題調査力にあるといってもよいのかもしれない。

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