日本でも「代表制民主主義を機能させる改革」 に取り組む必要性で一致

2019年10月09日


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 言論NPOは10月3日、日本の民主主義の改革に向けた提案に取り組むことを決め、第1弾となる公開フォーラムを、東京大学大学院の内山融教授や北海道大学の吉田徹教授ら4人の政治学者の参加で実施しました。議論では、現在、市民の信頼を失い始めている代表制民主主義の仕組みを強く機能させるため、国会や選挙、政党のあり方を中心とした民主主義のシステム改革に取り組む必要性で一致しました。

 フォーラムは二部構成で行われ、第一部では、言論NPOが今年7月に実施した「日本の民主主義に対する世論調査」の結果を踏まえ、日本の民主主義の診断を多方面から行いました。議論には内山氏に加え、北海道大学の吉田徹教授、津田塾大学の網谷龍介教授、立正大学の早川誠教授が参加しました。

 それを受けた第二部では、日本の民主主義の状況や将来をどう見ているのか、自民党の山下氏に加え、国民民主党政調会長の泉健太氏、そして立憲民主党参院議員の牧山弘恵氏と意見交換しました。


kudo.jpg まず、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、「言論NPOは創立以来『市民が強くならなければ民主主義は機能しない』という思いから様々な議論を展開し、近年では世界のシンクタンクとも連携して各国の民主主義の状況を調査してきた。その結果、『代表制民主主義が市民の信頼を失っている』という問題意識にたどり着いた」と説明。

 そして、言論NPOの世論調査では「政党」や「国会」を支持する国民が2割にとどまっていることや、政治家を自分たちの代表と思っていない国民が多いこと、さらに、急速に進む少子高齢化や人口減少、地方の将来に国民の不安が高まる中、こうした日本が直面する課題解決を政党に期待できないと答える人が6割に上っていることを説明。さらに、政治不信の傾向は特に若い層で顕著だとし、「政治は固定された支持層の既得権益をベースに行われ、課題解決からますます遠ざかるという悪循環になっている。これは、国民が国会における代表者を通じて行動するという、憲法で定められた統治構造の原則が揺らいでいることを意味する」と語り、この状況をどう見ればいいのかと問題提起しました。


代表制民主主義への不信は世界的な現象

uchiyama.jpg これに対して、東京大学の内山融教授は、現在の日本の政治自体が、日本が直面する課題に取り組む点で、期待を失っているだけではなく、自分たちの代表としても期待できないという二つの次元が言論NPOの調査結果に表れているとし、「民主主義は選択肢を選ぶものだが、選択肢が選べないことが政治への不信を高めている」と強調しました。

yoshida.jpg 北海道大学の吉田徹教授は、日本の政党が議員政党であることを指摘し、有権者の政治家へ不信が、政治不信に繋がっていること、さらに政治家と有権者をつなぐ労働組合や農協、経済団体などの中間団体の衰退や、これまで代表制民主主義が機能していたのは経済成長などの限られた時期であり、「こうした恵まれた条件がなくなってきた中で政治家がその存在感を出せなくなっている」ことを指摘しました。

amitahi.jpg 津田塾大学の網谷龍介教授は、現在の政治不信が日本の固有の問題なのか、世界的に代表制民主主義が信頼を失っていることとどう関係があるのか、それを丁寧に考えないと間違った答えを出しかねない、とした上で、政党が世界で成功したというのは限られた時期の話であること、さらに日本の若者にはパブリックマインドはあるが、それが政治の期待に結びついていない、これらを単純に政治不信と片付けるわけにはいかない、と提起しました。

hayakwa.jpg 立正大学の早川誠教授は、代表制民主主義自体の機能不全に対する指摘は、90年代から既に存在していたと指摘。「グローバル化や民意の多様化で争点構造が複雑化し、パッケージ化されたいくつかの政党、という枠組みでは意見集約が難しくなってきていた」と当時の議論を振り返り、「それは特定の政党や政治家の努力では解決できない問題だが、にもかかわらず、90年代の日本の政治改革の議論が『政治家不信』のような議論に収斂してしまったこと自体が不幸だとし、「30年間、十分な議論を尽くさないまま過ごしてしまったことが今の大きな問題を招いている」と話しました。


 これらの発言を受けて、工藤は、日本の民主主義を分析する前に、世界の民主主義が壊れ始めていることに目を向けたいとし、世界の民主主義はどのような方向に向かっているのか、問いました。

 吉田氏は、欧州に広がる既成政党の凋落、という現実に目を向け、90年代の冷戦後に、社会民主党が経済的な自由主義の傾向を強め、保守政党も社会的なリベラルになることで、大きな隙間が生まれ、ポピュリズムが侵食する構造となり、長期的な規制政党の凋落を招いている、と解説。網谷氏は、欧米は個人の国ではなく集団間のバランスを取ることで政治や制度の仕組みができていた、との議論を展開し、その集団の代表としての政党が機能していたのはそのためだが、集団的なものがその後、解体する中で、政党の機能が弱くなり、今では不人気なことを行うと支持がどこまで落ちるか、分からない状況にまでになった、と話しました。
 
 また、内山氏は政党政治が機能していたのは戦後の数十年という例外性に言及し、「右肩上がりの経済のもとでは、自由貿易と福祉国家の両立が可能だったが、70年代のオイルショック後の経済成長の停滞、さらにその後のグローバル化の中で、各国とも取りうる政策の選択肢が絞られてきた。既成政党はどこも似たような政策となり、そこに自分たちの民意が反映されないと感じた有権者の閉塞感が2010年代以降、エスタブリッシュメントへの反発として爆発している」と分析しました。


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国会審議の質を高めるという観点からの制度改革が必要

 これを受け工藤は、世界における代表制民主主義の揺らぎは、言論NPOが世界のシンクタンクと連携して行っている世論調査からも明らかだ、とした一方、日本では「国会」への信頼がイタリアと同じで、フランスやドイツと比べて相対的に低いという調査結果を説明。「同様に国会への信頼が低いイタリアでは、知識層への反発やグローバル化への不安に迎合して支持を集める政党が政権を握るまでになっている。日本の参院選後の新しい政党の動きを見ると、イタリアの現状は日本の将来を暗示しているのではないか」と述べ、この原因をどう考えればいいのか、意見を求めました。

 吉田氏は、工藤が指摘したイタリア政治と日本政治の類似性について触れ、90年代以降にイタリアと日本で同様に政党と有権者の安定的な繋がりが切れてしまい、無党派層が広がったこと、さらに政党の離合集散が激しいことが、政党や国会が信頼されないという悪循環を作っているのではとの見方を示すと同時に、日本自体の制度的な問題にも言及しました。

 ここでは、国対政治や党議拘束の多さ、与党の事前審査、会期不継続の問題など、提出された法案の修正が行われにくい日本特有の様々な国会制度を列挙。「法案の実質的な審議が難しい制度のもと、国会の論戦は単なるセレモニー的になり、メディアもその点をショーアップして取り上げる。そこに国会不信の原因があるのではないか」と語りました。

 そして、国会の議論に自分たちの声が反映されている、という信頼を国会が取り戻すには、一部議員が提案しているペーパーレス化のような小手先の改善でなく、こうした制度論にまで踏み込んだ改革が必要だ、と主張しました。

 早川氏は、言論NPOが最近行った世論調査で、国民の半数近くが政治家を国民の代表とは思っていないという点に言及し、立法府に集まる政治家は、法律は作っているが、信頼はできない、それをどう捉えるかが問題であり、「国会の議論が劇場化し、演出はされているが内容がない、ということであれば立法機能ではなく議論の質をどう上げていくのか、が論点となる」と指摘。この点が制度改革のポイントになるという認識を示しました。

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政治家は何を「代表」しているのか

 ここで工藤は、早川氏が挙げた「代表」というキーワードに改めて着目。「選挙が終わったら全て白紙委任してほしい、という政治家もいる。政治家は何を代表しているのか。国民は政治家に何を託したいと思っているのか」と問いました。

 早川氏は大学教員の立場から、「学生が政治家を信頼していない一因は、社会全体でなく個別の利益を代表して動いていると思っていることだ。しかし、政治家は自身の支持基盤の利益を実現することが自分の仕事だと思っており、それを否定されると代表制そのものが成り立たなくなってしまう」と、「代表」の意味を巡って有権者と政治家に意識のギャップが生じていることを指摘しました。

 網谷氏は、講義の際に「政党は部分の代表でいい」と話していることを紹介し、政党同士が話し合ったり、勝ち負けで交代することで中期的には国民の意思が代表される、ことをその理由として説明するが、若い層から見れば、政治への提案という間接的な手段よりも、NPOや社会的起業を通して自ら直接的にサービスを供給することに関心があり、それが政治への関心に繋がらない一因になっている、と分析し、「社会の中で誰が何を分担するのか、という観点から、統治構造のグランドデザインが必要になっている」と語ります。

 吉田氏は、日本の政治改革は、政治主導や官邸主導になってという点で決める政治がある程度、実現したが、政権交代に向けた競争ある関係はできておらず、政党不信の一因に、こうした選択肢が提供されない政治がある、と説明します。

 また、吉田氏は世界の若年層を対象にした世論調査によると、日本の若者は社会課題の解決に対する義務意識は強いものの、それを行動に移す割合が低いことを紹介。「『社会をこのように変えたい』という思いを、政治との接点につなげていくという観点からの主権者教育が必要だが、日本の主権者教育は優等生的、表面的で、自己利益を実現する手段として政治を考えてはいけない、と教えている」と指摘しました。

 内山氏は、政治改革の評価に関しては、首相のリーダーシップが強くなったという点では成功であるが、政権交代が可能な政治という点では目的は実現していないとし、「そもそもこうした目標で良かったかは問い直さなくてはならない」と語ります。

 その上で、代表制民主主義への不信は小手先の改革で直すことは難しく、制度と社会的な仕組みとの相互補完性も見ながら、複雑な連立方程式を解くものとなるが、その議論をこの場で進めたいと、強い意欲を示しました。

 最後に司会の工藤は、4氏の意見を踏まえ、選挙や国会、政党といった代表制民主主義の仕組みを、多くの市民が信頼していないということは、日本の統治構造の基本が揺れているということ、だと指摘し、「今が日本のこれからの民主主義を考える重要な局面であり、日本の民主主義をより強く機能させるための議論を進めていきたい」と語り、第一部の議論を締めくくりました。

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