公開フォーラムの第二部では、「日本の政治家は日本の民主主義の現状をどう見ているのか」をテーマに議論を行い、現役の政治家に日本の民主主義の現状を問いました。
自民党の衆院議員で前法務大臣の山下貴司氏、国民民主党政調会長の泉健太氏、そして立憲民主党参院議員の牧山弘恵氏が登壇し、内山融東大教授などの政治学者4氏が質問役を務めました。
冒頭、司会の言論NPO代表・工藤泰志は、政党や国会への信頼が2割にとどまっているという世論調査結果を改めて紹介。「国会や政党はなぜ国民の信頼を失っているのか」と、3人の政治家に疑問を投げかけました。
政治家自身もメディアも、政治家の仕事の意義を国民に伝えきれていない
これに対し山下氏は「政治家や政党が国会で何をやっているか、その仕事が国民から見えない」ことに理由があると発言しました。山下氏は世論調査で民主主義の様々な問題について「分からない」と答える国民が多いことにも触れ、政治家自身やメディアが政治家の仕事の意義を国民に伝える努力が足りない、と主張。有権者は消費税増税のような痛みを伴う政策であっても、きちんと説明すればその必要性を分かってくれる、とし、「全国民の代表という立場で考え、それを有権者に伝える努力を忘れなければ、政党や政治家への信頼を取り戻せる」と語りました。
泉氏も「可視化」をキーワードに提示。「警察や自衛隊は組織の統制が効いており、不祥事を起こした人にはきちんと処分が行われる。また、世論調査でそれらに次いで信頼が高い『首相』は一個人であるため、行動を予見しやすい。それらに比べ、統制が弱く、行動が可視化されず予見しにくいのが政党と国会だ」と分析しました。
一方で、「統制の取れた行政に対して、あえて不協和音を作り出し、問題を整理し直すのも国会の役割だ」と述べ、社会の縮図として多様な価値観を持つ代表が議論し、新たな解決策を生み出すことが国会に求められている、と語りました。
牧山氏は、「国会への信頼の低さは、代表制民主主義の機能不全そのものだ」との見方を提示。「日本は議院内閣制のもとで与党と政府が一体化しているため、野党がしっかりと少数意見を吸い上げることが民主主義の生命線だ」と述べました。そして野党議員としての経験から、「議員立法の審議に割く時間が短い」と指摘。また、「国政調査権に基づいて役所に資料提出を求めても、『秘密』だという理由で黒塗りの資料ばかりが出てくる」と不満を語り、行政を「可視化」するという国会のチェック機能を果たすという観点からの制度改革が必要だ、と訴えました。
政治改革はまだ終わっていない
次に工藤は、小選挙区制の導入を柱とした90年代以降の政治改革の評価に関して質問をぶつけ、「政策本位、国民本位の政党政治を実現させ、首相のリーダーシップを高めることが目的だったが、今はそれが中途半端で終わっているとの声がある。一方、そもそも小選挙区制自体が日本の社会に合っていなかった、という人もいる。日本における政治改革の動きは終わってしまったのか、まだ続けないといけないのか」と3氏に問いました。
これに対し3人の政治家は、「政治改革は終わりではなく、今後も続けないといけない」という見方で一致しました。
山下氏と泉氏は、両氏が所属する「平成のうちに」衆議院改革実現会議の議論で、議員から政府への質問通告を早めることで合意していたことを紹介。山下氏は、自身が大臣を務めた経験から、「直前に質問通告されると、役人が持ってきた原稿を読み上げるしかない。国民の代表として政治家が審議の主導権を取り戻すためにも、この点は改善が必要だ」と述べました。泉氏も、「役所の負担を考えれば、国会審議を隔日にすることも必要だ」と述べ、こうした観点から、同議連において国会会期の通年化などの議論も超党派で進めていることを紹介しました。
牧山氏は、政治家を自分たちの代表と思っている国民が少ない、という世論調査結果に触れ、「選挙の時期以外にも、民意を吸い上げる手段が必要だ」と主張。具体的には、確定申告の時に、納税額の一部を、自分が重視する政策に充てられるよう使途を指定できる制度の導入を提案しました。
デジタル技術を、むしろ民主主義のバージョンアップに活かす努力が必要
さらに工藤は、言論NPOが2004年から行っている各党のマニフェスト評価において、今年の参院選では、初めて点数化を見送る事態となったことを紹介し、「各党の公約は単なるスローガンと化し、課題解決の手段を国民に説明しないのが当たり前となっている」と指摘。政党間で課題に向かい合う政策の競争が起こり、有権者がそれを判断するという民主主義の基本的な仕組みが壊れている、と改めて問題提起しました。
そして、「デジタル技術が進展する中、世界では、権威主義の方が民主主義よりも効率的だ、という意見が出てきている」と述べ、「日本の民主主義の将来をどう見ているのか」と問いかけました。
これに対し3氏はいずれも、「民主主義の未来には希望を持っている。AIやIoTの技術を、民意の正確な把握や将来推計といった面で、むしろ民主主義のバージョンアップに活かしていかなければならない」という意見を提示しました。加えて山下氏は、「与野党の議員で話していると、少子高齢化や地方の崩壊という課題認識自体は同じ。そうである以上、課題解決には期待を持っている。実際に、国会改革という難しいテーマでも、泉氏らと党派を超えた合意を形成している」と発言。泉氏は、「民主主義は時間もコストもかかるが、国民が自由を獲得できる唯一のシステムだ」とし、民主主義に代わる制度はなく、それをさらに発展させる努力が必要だと主張しました。
工藤は、今日から始まった民主主義の議論の当面のゴールが、11月19日に開催する言論NPOの創立18周年特別フォーラムであることを説明。このフォーラムの場に、元デンマーク首相のラスムセン氏ら世界で民主主義の修復に取り組む論者を集め、日本の民主主義の改革案を発表する予定であることを紹介した工藤は、「今日をスタートとし、日本の民主主義をさらに点検していく」と意欲を語り、合計2時間を超える議論は幕を閉じました。