言論NPO創立18周年特別フォーラムの終了後、パネリストや言論NPOの関係者100人近くが参加し、創立18周年記念パーティーが開催されました。パーティーには2人の現職閣僚と、政党の要職者を含む多くの有力者が駆け付け、言論NPOが日本を代表する世界的シンクタンクとして、世界の課題、北東アジアの平和、そして民主主義の再建に言論の力で挑んでいくことへの強い期待が示されました。
世界の自由秩序と民主主義の再建に言論NPOが果たすべき二つの「責任」
初めに、言論NPO代表の工藤泰志が挨拶に立ち、年の瀬も迫る忙しい時期にもかかわらず、今回のフォーラムとパーティーに集まった人たちへの感謝を述べました。そして、2001年の言論NPO設立時に提起した「言論不況」という言葉の意味を「民主主義が強く機能するためには、世論を支える言論の力が不可欠。私たち有識者はその役割を果たしているのか、という自戒があった」と振り返り、「今こそ、その初心が問われる歴史的な局面だ」と強調しました。
そして、工藤は、今回のフォーラムのテーマである「世界の自由秩序と民主主義の再建に問われた私たちの責任」について、「責任」には二つの意味があると語り、「世界に対する責任」と「日本の将来に対する責任」を挙げました。
まず、前者については、日本政府が不安定な世界で、自由秩序と民主主義の立て直しにリーダーシップを発揮する強い意思があることを理解しているとしつつ、その実現に向けては世界のオピニオンや世論を大きく動かす必要があり、言論NPOは各国のシンクタンクと連携して、世論を作り出す動きについて、「役割を果たしたい」と意欲を見せました。
さらに、後者について工藤は、「日本が世界の課題に役割を果たすためにも、日本の民主主義を強く機能させなければいけない」と述べ、日本自身が将来の課題に答えを出さないといけない危険な局面にある、と指摘しました。
最後に工藤は、「この二つの責任を果たすための作業は、言論NPOだけでできることではない。今日集まった多くの皆さんの力を借り、自由と民主主義の未来のために努力を開始したい」と呼びかけ、挨拶を終えました。
続いて、元外務大臣で自民党政調会長の岸田文雄氏が挨拶を行いました。岸田氏は、北東アジアの平和に向けた「東京-北京フォーラム」や「日韓未来対話」、「日米対話」、さらに世界10カ国の有力シンクタンクトップを東京に集め自由と民主主義、世界秩序の将来をG7首脳会議に提案する「東京会議」など、18年の間に様々な取り組みを通して日本の社会と国際世論に大きな存在感を発揮してきたことを評価。自身も、今年の「東京会議」歓迎夕食会へのゲストスピーカーとしての参加など、「様々な形で参加させてもらっていることは光栄であり、感謝している」と述べました。
さらに、「世界では今、自国第一主義と保護主義、ポピュリズムの台頭、そして社会の分断、格差の拡大などの動きがあり、民主主義は壁に直面している。日本でも、投票率の低さだけでなく、民主主義の原点である地方議会も無投票の選挙区が多い」と、世界と日本の民主主義の先行きに対する危機感を表明。こうした民主主義の修復に加え、「北東アジアや世界の課題に対して言論NPOが引き続き取り組み、高い発信力を発揮し、課題解決の大きな流れをつくるという志を果たしてもらえれば」と期待を寄せました。
乾杯の発声は、言論NPOのアドバイザリーボード・メンバーで元国連事務次長の明石康氏が行いました。明石氏はフォーラムでの議論を、「民主主義への危機感を共有しながら、国内外の高名なパネリストによる大変前向きで良い議論ができた。しかも、工藤さんの企画意図の通り、単なる議論ではなく、民主主義をどのように強化できるのか、引き続き究明を重ねる決意を共有することができた」と振り返り、「民主主義の困難に直面する日本と世界の現状が、そうした取り組みを必要としている」とも述べました。
最後に明石氏は、「18周年を迎えた言論NPOが、日本の民主主義の極めて有用な手段としてますます力を発揮することを祈念し、また世界中の有識者が我々の作業に協力してくださることを懇願している」と述べ、乾杯の音頭を取りました。
世界が変動する今、言論NPOの存在感はますます大きなものに
西村康稔・経済再生担当大臣は、今年の「東京会議」で、官房副長官としてG7首脳会議への提言を受け取っています。西村氏は、言論NPOが日本や世界を代表する識者を集めて様々な取り組みを行っているのは工藤の情熱の賜物であり、自身も工藤と対話を重ねる中で、言論NPOが世界中にネットワークを広げ、「今、世の中でこのことを議論しなければいけない」という思いを一つ一つ結実させている姿に感銘を受けている、と語りました。
そして、「世界が大きな変動期を迎える今こそ、言論NPOの存在感はますます大きくなる」と発言。TPPを担当する自身としても、言論NPOの議論において多くの識者の考え方を参考にしながら、米国、中国、インドも加わった自由貿易システム、国際経済ルールの実現に尽力していきたい、と表明しました。
木原稔・内閣総理大臣補佐官は、ちょうどパーティー開催当日の11月19日、安倍首相の通算在職日数が2886日と歴代最長に並んだことに言及。「その中で特筆すべきは、長さではなくて中身だ」とし、歴代首相で最多の計80カ国、延172カ国に訪問した外交面での成果を強調しました。そして、多くの言論NPO関係者にも、安倍政権の外交政策は高い評価を得ていると述べた上で、自身は今後も「外交の安倍」を支えながら、アドバイザーとして政策提言をしていきたいと表明。その中で言論NPOとも連携していくことに意欲を見せました。
自由と民主主義は、長い目で見れば必ず勝者となる
続いて、今回のフォーラムのためだけに来日したアナス・フォー・ラスムセン氏(元デンマーク首相、前NATO事務総長)が登壇しました。
ラスムセン氏は、民主主義を守り推進していくための工藤の尽力へ敬意を表した上で、自身が2017年、デンマークに「民主主義同盟財団」を立ち上げた目的を「民主主義国家が、ともに専制政治に対抗するための声を上げていく」ことだと紹介しました。そして、「我々は冷戦終結後、自由と民主主義を当然のものと考えるようになったが、最近の世界を見ると、世界の全ての自由民主主義国が連携し、自由と民主主義を守るために戦わなければいけないことが分かる」と述べました。
そして、「民主主義には現在、かなりの圧力がかかっているが、この状態を改善することが我々の責任だ」と述べ、「責任」の中身について、「第一に、民主主義的に選ばれたリーダーが人々の正当な懸念に対応すること、第二に、民主主義国のリーダーは約束を守り、約束した以上の成果を出していくこと、第三に、自由社会に住む人々が自由の原則を守ること」と訴えました。
最後にラスムセン氏は、「自由は世界で最も強い力だ。自由はイノベーションとアントレプレナーシップを推進し、それによって繁栄が生まれる。そして、人々は、自由な選挙を通じて、真の問題に対応できない政府を追いやることができる」と、自由と民主主義の重要性を指摘。その上で、「日本は、民主主義が平和と繁栄をもたらすことを世界に示す、輝かしい事例だ」と語りました。そして、今後、民主主義というテーマで日欧の協力関係が強化されることへの期待を述べ、挨拶を締めくくりました。
日本ではまだ低い言論の価値
加藤勝信・厚生労働大臣は、約40年前の大学時代に恩師が語った「各国で行われている言論統制は、それだけ言論に力があることの証拠だ。日本に言論統制がないとすれば、それはかえって、日本において言論の価値が低いことを意味するのではないか」という言葉を引用。「政治も言論が武器でありツールであるため、その価値が下がってしまえば、言論によって社会を変えていくことができなくなる」と、現在の日本の言論空間の状況に懸念を示しました。その上で加藤氏は、言論NPOが言論を通じて社会を良い方向に転換していき、そこに若い人も思いを一つにして加わっていくことに期待を述べ、自身も「その流れを手伝っていきたい」と語りました。
国民民主党代表の玉木雄一郎氏は、「今、世界は民主主義と自由秩序の危機にある。それを克服する最大の処方箋が言論だ」と発言。力強い言論を維持するためにも野党の役割が大切であり、それを見直していかないといけない、と訴えました。そして、「民主主義や自由秩序を守るのは国民の意思であり、それをどう育んでいくのかが極めて重要だ」と、工藤も冒頭に述べた言論の役割に言及。言論NPOがその名前の通り、言論を通じて、民主主義と自由秩序を守るフロントランナーとして発展していくことに期待を寄せました。
続いて、言論NPOのアドバイザリーボード・メンバーが次々に登壇し、言論NPOへの支援を呼びかけました。
言論の力で課題を解決する熱意を、今後は社会の大きな波にすることが必要
昭和電工株式会社名誉相談役の大橋光夫氏は、自身がアドバイザリーボードに名を連ねているのは、言論NPOが世界で大きな使命を果たすことがどうしても必要だという思いからだ、と紹介。そして、「今、政治と国民がどのように一致団結して日本をさらに発展させていくか、という分岐点に来ている」との見方を示しました。大橋氏は、そうした現状だからこそ、言論NPOが日本の民主主義に危機感を持って今日のような取り組みをしていることは非常に重要であり、そのため今後、言論NPOの役割が大きくなってくる、と活動の重要性を指摘しました。
さらに大橋氏は、欧米の著名なシンクタンクと言論NPOとの最大の違いは、活動を支える財政基盤の弱さだとし、会場に集まった参加者らに支援を呼びかけました。そして、「言論NPO設立から18年経ったが、社会の状況は必ずしも良い方向には向かっていない」と述べつつ、多くの人の協力を得てその状況を改善していきたいと語り、発言を締めくくりました。
元駐中国大使の宮本雄二氏はまず、自身が言論NPOを応援しているのは「東京-北京フォーラム」への賛同以上に、「民主主義という政治の根本を強化しなければ、日本の将来はない」という工藤の志に感動しているからだ、と語りました。そして、「言論の力で日本の課題を解決するという工藤の熱意は、18年経っても衰えていないが、今後はこれが日本社会の大きな波になっていかないといけない。そうでないと、我々の大切にしてきた民主主義が失われ、日本の経済社会が活力を失い、世界の片隅に追いやられた日本になってしまう」と、民主主義と日本の将来に対する危機感をあらわにしました。
さらに、自身が座長を務める言論NPOの「アジア平和会議」についても、「中国が台頭し、米国の将来も見通せない状況の中で、この北東アジア地域にどうすれば平和をもたらせるか。これを日本で考え、プロジェクトを進めている人物は工藤の他にいない」と、協力を呼びかけました。
野村総合研究所顧問で元総務大臣の増田寛也氏は、「言論NPOは民主主義の基盤を鍛えるために18年間、大変な努力をしてきたが、一方で言論NPO自身の財政基盤は脆弱だ」と、皮肉も交えて発言。居並ぶ参加者らに、これをどう強化するかというアイデアを出していかないといけない、と求めました。増田氏はこれに関連して、自身の総務大臣時代に創設された「ふるさと納税」制度を活用すれば、言論NPOに10万円を寄付したとしても、2000円の手数料を除いて全額が税の還付・控除対象となり実質的な負担がないことを紹介。「言論NPOはそれだけの意味がある団体だ」と、「ふるさと納税」制度を用いた言論NPOへの寄付を呼びかけました。
中締めの挨拶に立った、アドバイザリーボード・メンバーで株式会社大和総研名誉理事の武藤敏郎氏(元日銀副総裁)は、自身がここ数年、東京五輪・パラリンピック組織委員会の事務総長として多忙になり、言論NPOの活動にあまり参加できずにいる間、言論NPOのグローバルな知名度はうなぎ上りになった、と評価しました。武藤氏は、「それは工藤さんの努力の成果であると同時に、海外のシンクタンクにとって連携相手となる独立・中立のシンクタンクが日本には他にないことの表れでもあり、日本にとってはその方が残念なのかもしれない」と述べます。一方、「言論NPOが日本の独立シンクタンクとしての地位をさらに確たるものとするため、いろいろな体制の整備が必要になる。我々もそれをぜひ応援していきたい」と語りました。
その後も国内外から集まった参加者同士の活発な歓談が行われ、パーティーは盛況のうちに幕を閉じました。