第7回エクセレントNPO大賞 総評

2019年12月12日

1. 第7回エクセレントNPO大賞における新たな2つの試み

 今回は、新たに2つのことを行いました。

 第1に評価基準の改定です。エクセレントNPO基準は「市民性」「課題解決力」「組織力」の3分野、15基準で構成されています。これまでも、応募書類に記述された内容の状況を踏まえて微修正を加えてきましたが、今回第7回では思い切って評価基準の構成を変えました。その理由のひとつは、応募者の自己評価のレベルが全体に上がってきたことです。また、社会的な動向も加味しました。ボランティアへの関心が高まっている現状を鑑み、非営利組織はより多くの人々を受け入れ、それらの人々が達成感をもってワークできるように運営してゆく必要があると考えました。そこで、ボランティア・マネジメントの重要性に基づき、市民性に関する基準を改定しました。


 第2に新たに「チャレンジ賞」創設に向けて試行を行いました。応募書類を拝見しておりますと、きらりと光るものがあるのに、自己評価の方法に慣れず、うまく記述できていないものが散見されました。他方で、応募をリピートされている団体は、評価修了後にお送りしているフィードバックを参考にされるなど、自己評価の力がレベルアップしています。そのため、点数面においても高い団体と、低い団体の差が広がり、両極に分布する傾向がみられるようになりました。そこで、評価基準項目の数を減らし、いわば、入門編としてのチャレンジ賞を新設し応募しやすくすることを検討しました。今年は、中央共同募金会の協力を得て、試行的に、これまでの公募とは別枠でクローズのかたちで行いました。その結果を踏まえて、来年より部門賞のほかに「チャレンジ賞」という応募枠を設けたいと考えております。


2. 応募状況

 第7回エクセレントNPO大賞の応募期間は、2019年7月1日から8月23日の約1.5カ月間でした。応募総数は97件で、リピーターは6割、新規は4割でした。このうち、従来のエクセレントNPO大賞へのご応募は85件、試行的に実施したチャレンジ賞枠では12件でした。ほぼ例年並みの応募数と言えるでしょう。また、リピーターの応募についても興味深い傾向がみられました。例えば、最初の応募から数年経て、改めて応募をされるケースです。一定の時間を経たところで、自分たちの成長ぶりを確認するためにご応募されているのでしょうか、本賞のこのような活用の意義もあることを知りました。

 今年も多様な分野や規模の団体からご応募をいただきました。医療、動物保護、子どもの貧困、国際協力、環境保全、LGBT、芸術文化などでしたが、今回は特に、医療分野、国際協力、動物分野からのご応募が顕著でした。また、年間予算100万円未満の団体から5億円まで、規模面も多様です。ただしノミネートされた団体については1,200万円以上と、昨年と比べて規模の大きな団体が選ばれています。前回のエクセレントNPO大賞では、100万円台の予算規模の団体が2つノミネートされていましたので、規模の小さな団体が自己評価力の面で決して劣るという訳ではありません。来年は小粒でぴりりと味のある団体もノミネートに選出されることを期待しています。


3. 審査の論点・議論

 審査委員会では活発な議論が行われました。審査員各自が悩みながら論争になることもありました。ここではその論点を2つ挙げたいと思います。

 第1に、自己評価の力が向上しているという点です。今年は基準を改定し項目数を減らしたので得点が下がることが予想されましたが、さほど下がりませんでした。

 市民性基準を中心として改訂したことは前述のとおりですが、その記述が想定以上にしっかりと基準を理解され記述されたことが、主な理由と思われます。その意味で、ボランティア活用のための計画、募集、事前説明、事後の振り返りといった一連の運営体制を整えている団体が想定以上に多かったのは嬉しいことでした。特に、ボランティアの運営は、事前のみならず事後のフォローアップが大事で、これがボランティア活動の学びだけでなく、その後の継続にも大きく影響します。この点をよく理解し、工夫を凝らしている団体が複数見られました。中でも大賞を受賞された、ジャパンハートは有償・無償あわせて4,500人のボランティアを運営していますが、その規模の大きさのみならずメニューの豊富さ、事前・事後のフォローの仕方には目を見はるものがありました。

 また、ボランティアには有償ボランティア、無償ボランティアがあります。応募団体にも両者を抱える団体が複数ありました。審査委員会では、その区分や定義がどのようになっているのかということについて議論されました。我が国においてこの議論は久しく、まだ結論が出ていないのが現状です。しかし、現場においては様々な工夫をしながら両者を共存させながら運営しており、その工夫や経験に学ぶところが多くあったと思います。


 第2の特徴は、課題解決に関する自己評価の記述です。基準6~基準11は、課題解決に関わる基準です。基準6は、自らが取り組む社会課題を明確かつ具体的に把握しているかを問う基準です。有限の人材、資金、時間で、目下着手している課題を説明することが求められています。しかし、説明された課題が壮大で、漠然と抽象的な記述にとどまるものが散見されました。課題認識が適切なものでなければ、目的や計画も適切に立てることができませんし、成果を正しく把握することもできません。大きな視点を持つことも大事ですが、同時に自ら取り組む課題を的確に把握することが大事です。この点は昨年も指摘させていただいたことですが、さらに説明を尽くしてゆく必要があると思います。また、基準8はアウトカム目標に関する基準です。アウトカムは政府、民間ともにその定義や判断に悩む考え方です。しかし、私たちが目指すのは、対象となる人々や社会の状態の向上ですから、やはりアウトカム成果を目指す必要があります。難題ではありますが、アウトカムについてどのように理解を促してゆくかという点が課題であると考えています。


4. 今後について

 エクセレントNPO大賞は、多くの関係者のご協力により第7回目を迎えました。東日本大震災の翌年、2012年度から開始されました。私どもの運営の仕方もこの間、大きく変化してきました。中でも、ご応募いただく方々、支援をしてくださる方々とのつながりについては、私たちが最も大事にしてきたことです。応募された各団体には、可能な限り丁寧にフィードバックをすることに努めてまいりました。その結果でしょうか、リピーターが多いこと、何よりも自己評価のレベルが向上していることを、私たちも嬉しく思います。

 来年はチャレンジ賞を新設する予定ですので、本賞のハードルが高いと思われている方々にも、段階的に、評価についての理解や伝え方をレベルアップする機会としてご参加いただければと願っています。


 また、エクセレントNPO大賞は協賛企業、後援団体、そして多くのボランティアの方々によって支えられています。昨年は、支援してくださった皆さんと受賞団体の勉強会、また、10人ほどで山梨にある団体に出向きボランティアを体験させて頂きました。こうした交流の場は、刺激的な学びの場になっていました。

 また、政策評価などの専門性を有する官僚の方々も審査ボランティアとしてご参加下さっています。審査に携わった方々からは「少ない人数、予算の中で、どうしてこれだけの成果があげられるのか、驚いた」「人材マネジメントの勉強になる」「改めて社会課題の現場に触れ、またそこで頑張っている人がいることに感銘した」など、様々な感想が寄せられています。こうした機会を通じて感じるのは、ドラッカーが述べた「市民性創造」で、エクセレントNPOの活動を通じて、そこに関わった人々の市民性を育む場になっているという点です。

 今後も、エクセレントNPO大賞という場を通じて、こうした出会いと学びの場を育むことができれば幸いです。そして、エクセレントNPO基準による評価を通じて、非営利活動と人々の間に好循環を作ることを目指してまいります。

⇒ 第7回「エクセレントNPO大賞」関連記事一覧