近藤誠一
第7回エクセレントNPO大賞審査委員、近藤文化・外交研究所代表
1. 審査の視点
課題解決力賞は、まず6項目の課題解決力についての自己評価基準に関し、自己評価とそれが適切になされているかを審査しました。すなわち、課題を明確に理解しているか、課題の根本にある法制度や慣習など社会の仕組みに関わる問題を視野に入れているか、こうした課題認識に基づき、どの程度明確に目標を設定しているのか、また、アウトカムを意識した活動をしているかなどの視点から審査いたしました。このほかに、市民性や組織力の評点が極端に低くないかどうかも加味しました。
2. 審査結果
(1)ノミネート団体
「ぎふ学習支援ネットワーク」
ぎふ学習支援ネットワークは、子どもの6人に1人(2012年当時)が貧困である状況に、各団体単体だけでの取り組みでは限界があることを実感した思いを同じくする8団体が集まり、2014年に設立されたネットワーク団体です。現在は12団体が参加し、学習支援をはじめ、生活支援、食糧支援、子ども食堂、居場所づくり、メンタルケアなど多岐にわたる活動を展開しています。今回の課題解決力賞への応募にあたって、岐阜市内の生活保護学齢児童300人、準要保護4000人について、その数のみならず、個別具体的なニーズも定期的に把握しようとしている点が高く評価されました。また、現場で知りえた問題点や課題と法制度とを結びつけてとらえている点も評価されました。特に学習支援について、めざすべき成果を分かりやすい指標やデータを用いて説明されており、大変素晴らしいと思いますが、学習支援以外にされている活動についても言及されるとなお良かったと感じます。
「特定非営利活動法人 きらりびとみやしろ」
きらりびとみやしろは、埼玉県宮代町で、地域の人々の助け合い、支え合いによって、介護事業、有償ボランティア、送迎サービス、ふれあい事業を実施している団体で、昨年に続き、ノミネートされました。1998年4月、行政職員の尽力で地域での助け合い活動を中心とした組織「ハートフルみやしろ」が設立、2001年に法人化され「NPO法人きらりみやしろびと」となりました。会員は、正会員、賛助会員あわせて638人、2018年度の助け合い実績は、2,437件、福祉有償運送件数は4,021件です。34,000人という小さな町で、一日平均6.7件以上の助け合い活動と11.0件の有償運送があることから、毎日17.7人の有償ボランティアが活動している計算になります。行政サービスの限界や高齢化が進む地域社会での自助の限界を踏まえ、「新しいふれあい社会づくり」をめざす姿は、ますます重要なものとなる思われます。2017年の認定NPO法人の認定取得以降、寄付者も順調に拡大しており、組織全体として法人の目的に向かって努力している様子が評価されました。なお、宮代町の要介護・支援者の状況も踏まえて、団体の資源が限られる中、団体としてどこまで取り組むのかについても説明されればさらに良かったと思います。
「特定非営利活動法人 サラブレトレーニング・ジャパン」
サラブレトレーニング・ジャパンは、日本中央競馬会などで活躍している競走馬の引退後の支援をすることを目的に設立された団体です。競走馬は、毎年7,000頭生まれ、5,000頭が引退すると言われています。引退した馬の行き先は不透明で、殺処分されていることも少なくないと考えられています。競走馬出身の馬は、気性が荒く、乗馬倶楽部に競走馬が来ても、暴れる噛むで扱いが難しい状況です。そのため再トレーニングして福祉や教育に活用できないかと、調教師などの専門家が立ち上がり、吉備長町長の支援を得て活動が始まりました。昨年に続いての課題解決力賞への応募でしたが、課題に対する着眼点、引退後の競走馬の再利用の多様なアイディアなどが評価されました。また、ふるさと納税を通じた寄付金が増加傾向にあり、また、課題であった日本中央競馬会(JRA)との協力も始まり、課題の社会的認知に向け、一定の成果を出している点も評価されました。一方、競走馬の再利用の多くのアイディアについて、そうしたアイディアに到達するためのステップがより明確になると思われます。
「特定非営利活動法人 日本レスキュー協会」
日本レスキュー協会は、1995年の阪神淡路大震災時に、海外から災害救助犬も駆け付た際に、当時の日本では災害救助犬の認知度が極めて低く、受入れや連携が上手くいかなかったことを契機に同年9月発足した団体です。現在は、災害救助犬や、被災者や障がい者、高齢者などに、身体的・心理的・社会的効果をもたらすことで、様々な痛手や不安を軽減する「セラピードッグ」の育成と派遣を行うとともに、虐待や飼育放棄等人間の身勝手な理由で捨てられた犬や猫を救い、温かい家族を探す「動物福祉」の活動を行っています。これまでの24年間の活動を通じて、全国52の行政と災害協定を締結し、またこれまで育成、派遣したり、保護したりした犬の数について、明確に記録していることなどを評価しました。ただ、協会として災害救助犬やセラピードッグを何頭くらい育成したいのか、また動物虐待問題については、どこまで関与していくのか、具体的な目標が書かれているとなお良かったと思います。
「特定非営利活動法人 ReBit」
ReBitは、LGBTを含めた全ての子どもが、ありのままの自分で大人になれる社会をめざすNPO法人です。自身もトランスジェンダーである代表が大学2年の時に学生団体として設立したのが始まりです。活動としては、子どもと教職委員の理解促進や各地域でのLGBTリーダーの育成などの教育事業や、就労に関わるキャリア事業などを行っています。LGBTの子どもや若者が抱える課題に関し、各事業の成果目標をしっかりと整理し、精力的に活動を進めている点が評価されました。ただ、LGBTの方々の抱える課題はとても大きなものであり、限られた資源で団体としてどこまで取り組むのかといった視点での活動の計画の記載等もあればなお良かったです。
(2)課題解決力賞
今回の課題解決力賞はノミネートされた5団体について慎重に審議し「ぎふ学習支援ネットワーク」への授賞を決定しました。5団体とも総合点は高い評点でその差は小さかったのですが、課題解決力の分野では、ぎふ学習支援ネットワークは適確に自己評価をし、またその記載もとても丁寧であり、特に高い評点を獲得したため、授賞につながりました。
3. 今後に向けての期待
今回、課題解決賞にノミネートされた団体は、いずれも、基準(8)で問われているアウトカム目標、すなわち事業の対象となる地域や人々への効果や影響を意識した活動をされていると思われます。ただ、基準(8)で掲げたアウトカム目標の成果を基準(10)で説明する際に、その記載の仕方にやや課題があるように感じました。とはいえ、全体的に課題解決力を問う設問への回答を通じ、課題の原因や理由を追究しようとする視点を持つ団体が増えており、今後もこの傾向が続くよう、期待したいと思います。