工藤:今、言論NPOは一つのメッセージを社会に提供して、広く賛同を集めようとしています。そのメッセージとは「私たちは政治家に白紙委任をしない」ということです。これは私たち有権者の覚悟であり、決意表明だと思っています。こうしたメッセージを社会に提起しながら、日本の政治における民主主義が今まさに問われていると感じています。また日本の社会に本当の変化を起こすために有権者が主体となって自分で考えて政治に発言し、政治との緊張関係を持つ、そのようなサイクルを実現していかないとこの国の民主主義は機能しなくなるのではという危機感を持っています。私たちはこの賛同を100万人の人から集めようと思っていますが、そういう賛同を多く集めることによって日本の社会に大きな変化を起こしていきたいのです。
崩壊過程にある政治家と有権者との信頼関係
今回は「日本の民主主義を考える」をテーマに、言論NPOのアドバイザリーボードから3人の方に来ていただき、今の日本の民主主義をどのように考えれば良いのか、またどのように改善すべきなのか、を議論していきます。
今回の議論に先立ち、私たちは有識者2000人にアンケートを送付し、その内413人の方からの回答を公開しています。日本の社会で民主主義が機能していると思いますか、という設問では、約7割の人が「機能していない」と答えました。民主主義が機能するとは、私たちが代表制民主主義をとっている以上、まず有権者が自分たちの代表の政治家を選ぶ、選ばれた代表の政治家・政党は日本の課題解決のために仕事をする、その結果を評価した上で次の選挙が行われる、そうしたサイクルがしっかいと回ることだと私たちは考えています。今は我々が代表を選んでから長い間選挙のない状況であり、政治家は有権者から、「本当に私たちの代表なのか?」「その代表は日本の抱える大きな問題に対して答えを出す努力をしているのか?」を問われています。多くの有識者は、民主主義が「機能していない」と思っていますが、皆さんはどう思っていますか。またその原因はどこにあるかを伺いたい。
増田:私は代表制民主主義の下では、選ぶ側の選挙民と選ばれた側の代表者の両者の信頼関係が出来上がっているのが民主主義の大前提だと思っている。今7割の人たちが先行きに危惧を抱いており、私も両者の信頼関係はまさに崩壊過程にあると思っている。選挙において何を代表者に託すのか、あるいは託したはずのことを本当に選ばれた側が実行したのか、その不信感の蓄積がアンケートの結果に出ている。これは、選ぶ側の思いと全くかけ離れた方向に政策が進んだ現状を反映している。一方で、選ぶ側にも、最近の投票率が非常に低く、また小泉(郵政)選挙、民主党による政権交代など、きちんとした政策に基づいて選んでいない、という問題がある。いずれにしても、信頼関係が崩れ、代表制民主主義の基本を揺るがすような事態になりつつある。
武藤:私がまず申し上げたいことは、2006年9月に安倍政権が発足して以来、6年間に6人、つまり1年に1人の総理大臣である、ということだ。このことだけを見ても日本の民主主義が機能しているとは思えない。選挙民が負託をして、施策を実施して、結果を出して、評価して、また投票する、こうしたサイクルが働くはずがない。この原因には、国民が代表を選ぶ手続きの問題もあるが、むしろ政治のシステム、それを運用する能力の点で重大な欠陥があるのではないかと思う。こんなに頻繁に指導者が変わるということは他の主要国にはない。それは仕組みやルールに重大な欠陥があると考えざるをえない。
日本の民意と日本の制度を反映した民主主義の課題
宮内:お二人の言った通りだと思う。しかし、機能していない、とそこまで言ってもいいのかという感じがする。すなわち、選挙になってきちんと政権が変わるというのは機能しているということだろう。政権交代の結果、政治が動かなくなっている。これはやはり日本の民意と日本の制度を反映した結果であり、これが日本型民主主義なのだろう。だから、それをよりよいものにしていくのは重要だと思うが、日本型民主主義は駄目だ、全く機能していないのではない。
一方で、民主主義を動きにくくしている一つの問題は、民意が非常にぶれる、うつろいやすいということだ。その結果、非常に妙な政治形態を作っている。もう一つは日本の現在の制度、例えば政府と衆議院、参議院、政党、これらによって今の民主主義が機能しないように見える結果をもたらしている。例えば政党がマニフェストを掲げて、選挙で政権を取ったが、全く実現できないだけでなく、反対のことを始める。こういうことによって国民がより失望している。だから、民主主義というものはそれに関わる国民と政党、それを動かしている制度にメスを入れないとよりより民主主義にならないと思う。
工藤:今の意見で基本的な論点が明確になったと思います。今の発言のように民意がぶれやすい、民意にひきずられるという問題とそれを利用する政治、政党・制度の問題、そうしたいろんな問題が今の状況を作っています。つまり、日本の民意と制度を反映して日本の民主主義を作っていることは確かにそうです。しかし、今の日本では課題解決が先送りされ、重要な問題が山積している状況です。これらの話を踏まえて、増田さんはどう考えますか。
増田:結局うまく機能していない。日本が民主国家であることはその通りである。それは近隣の国とは様子が違うと思う。だが、今のままでいけば非常に心配されることが多いことも事実であり、それは最近出てきている国政課題で顕著である。以前は毎年税収が増え、利益をどう分配するかが国政の大きなテーマだったが、今は負担をどう分かち合うかが大きな国政のテーマとなり、これに政治と行政がどう関わっていくかが重要になってきた。また、環境の変化として、例のチュニジアのジャスミン革命ではないが、一人一人がいろんな意見を外に発信するソーシャルネットワークの"武器"を持ち始めている。一方で、日本の選挙制度は小選挙区制度に変わって、二大政党を前提に政党政治を運営することになっているが、負担を分配する中でどうも民意を大きく二つに集約しきれない。今は、より多様な民意の終着点が必要ではないか。従って、日本の抱える問題を見ると時代の変化に合わせて民主主義をより上手く機能させていくために知恵を相当絞らなければならないということだ。