日本の政党政治を考える

2012年2月27日

第1部:若い政治家の力で現在の政党政治の混迷を変えることはできるのか

工藤:こんばんは、言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOでは、私たち有権者が考えないといけないことを、みなさんと一緒に考えようということで、この言論スタジオを行っています。今日は、日本の政党政治を考えるということで、自民党と民主党の若手4人の方に来ていただきました。

 もともと、この議論をなぜ行うことになったかというと、私たちがこの前、野田政権の100日評価をやったときに、有識者アンケートで、日本の既成政党に対する失望がかなり強かったんですね。これは日本の政党政治というものが今問われているな、と考えたので、今日は4人の方に来ていただいて、本気の議論をしたいと思っているところです。

 では、早速今日のゲストを紹介します。まず右側から、民主党の参議院議員の梅村聡さんです。そのお隣が、同じく民主党の衆議院議員の森山浩行さんです。今度こちら側が、自民党の衆議院議員の西村康稔さんです。そしてそのお隣が、自民党の衆議院議員の平将明さんです。よろしくお願いします。

 さて、早速、議論を始めるのですが、実は先ほど説明した100日評価のアンケートというのは、野田政権の評価それ自体は厳しかったんですが、それ以外に、日本の政治の状況をきちんと考えようという結果もかなり厳しかったんですね。例えば、日本の選挙があったときにどこの政権になるだろうということで、有識者500人くらいが回答したものでいうと、驚いたことに、野田政権の継続を予想したのは5.3%しかいなかった。自民党への政権交代は、6.2%しかなかった。その大多数が、政界再編か、日本の政治が混迷に入る、つまり、既存の政党では駄目だと思いながら、展望が見えないからどうしたらいいか、というところにあるんですね。ただそのときに、では、この問題を誰が打開できるんだ、と。当然、私はその答えは「有権者」だと予想しました。結果は、55%くらいが有権者が大事だと答えたんですが、それと並んで回答を集めたのが、「若い政治家」だったんですね。その若い政治家というものの定義はよくわからないのですが、なぜ若い政治家に期待があったのかというところを僕も知りたいので、そのあたりを今日は話していただこうと思っております。

 まず、この結果と、若い政治家が期待されているということはどういうことなのか、それぞれお話しいただけますか。


若手政治家に対する期待は、どこから来るのか

梅村:この結果を、方程式を解くように考えると、政界再編を期待しているというこれだけを取ると、政党がガラガラポンをすることを期待しているように見えるんですが、実はこれは、政党という機能というか、仕組み自体に限界を感じているのではないかと思います。仕組みとして、では何に不満があるのかといえば、結局最終的には能力のある政治家が出て、能力を発揮しないと、社会の問題解決にはならない。そういった能力をきちんと評価できない今の既成政党に対する不満があって、それは今しっかり表に出ていない政治家の中に、そういったことができる有能な政治家がいるのではないか。今、政党というのは程度の差はあれ年功序列的なところがありますから、そういったことに対する限界を、有識者の方は感じておられて、だからこそ政界再編を期待して、一方では若い政治家に期待する、という2つの答えになるのかな、と私は感じています。

工藤:わかりました。では西村さんはどうですか?

西村:はい。小選挙区制度を導入しまして、二大政党制というものを考えたときに、これは、まさに政権交代の実現によって我々は野党になってしまったわけですけれども、政権交代時、民主党は輝いていたわけですね。ところが、だんだんだんだん、民主党は駄目じゃないか、となった。もし民主党が良い政策を、本当に矢継ぎ早に実現をしていれば、民主党に対して自民党は変わらないといけないということで、もっと改革を進められたと思うんですね。ものすごい危機感がありましたから。「もう俺たち、15年くらい政権政党に戻れないんじゃないか」という危機感がものすごく強かったです。だから、その危機感が改革のバネになっていたんだと思いますけども、残念ながら民主党がものすごく堕落をして、めちゃめちゃになってしまって。

工藤:そうすると、たるんでしまったということですか?

西村:ええ、それを受けて我々の方も、改革をしなくてもいいんじゃないかという雰囲気が、油断がものすごく出てきてしまったんですね。だから二大政党は、お互いに切磋琢磨して良い方向にずっと行くんでしょうけど、残念ながら片方が駄目になるともう一方も駄目になるという、ものすごく典型的な例ですね。

 そんな中で、本来、我々若手が期待されているし頑張らなければいけないわけですが、それはやっぱりしがらみが少ないし、毎週地元に帰って、現場の有権者の声を一番よくわかっている、肌身に感じてわかっているのが我々だと思いますので、それを実現してくれるという期待感も、たぶんあるんだと思うんですね。長老の先輩の方々は、帰られる方もおられるかもしれないですけど、そんなに毎週帰っているわけではないですから、我々のようにずっと歩いてやっているわけではないでしょう。そういう意味で、そこへの期待感はあるんだと思うんですけども、残念ながら油断していることプラス、二大政党で、小選挙区で、党代表でやるわけですから、選挙が近づいてくるとなかなか思い切ったことが言えないというこの小選挙区制の弊害みたいなのが出てきている。いま若手が頑張らないといけないんだけれども、もがいているような状況なのが現状じゃないかと思います。ただ、しがらみはないし、本来我々がもうちょっと勇気を出してやらなければならない場面に来ているんだと思いますので、ぜひ頑張らなければいけないと思います。

工藤:今の話を聞いてちょっと思ったんですけど、若い政治家だったら何ができるんですか。つまり、今の状況に対して実際に何かができるんでしょうか。森山さん。


「しがらみのない」若手は、ベテランと比べて何ができるのか

森山:おそらく、若いということに対して期待をいただいているのは、これまでの政界のしきたりであるとか、これまでやってきたこと、これまでの発言、こういうものに、自分自身が縛られていくということがベテランに対して少ないのではないか。これが期待ではないかと思うんですね。ベテランの人が、これまで言ってきたこと、やってきたことを、自己否定しながら変えていくんだということになると、高いハードルがあるけれども、政治を変えたい、またあるいは政策を変えたいという形で、若い者が次に出てきますから、むしろ年齢的な若さというよりも、期数という意味での若さについて、期待をいただいているんではないでしょうか。

工藤:そうですか。それは平さんもどうですか。何が違うんですか。若い人は、変えられますか?

平:一つは、やはりしがらみがないことだと思うんですね。これから政治が対応していかなければならないテーマを見ると、民主党にしろ自民党にしろ、いわゆる後援組織、非常に強力な後援組織と、利害が相反することがたくさん出てきますね。ただ、ベテラン議員でもずぶずぶになっている人はそれはできませんね、というのは当然あると思います。

 あと我々は、やはり若い議員に期待をするというのは、政治は結果責任なので、この失われた20年、自民党は方向転換できませんでしたね。結果としていろんな歪みが出て、民主党にやってもらいました。そして、失われた20年の中のさらに超失われた2年になっちゃいました。ですから、この主たる担い手はもう駄目ですねと。最近の菅さん、鳩山さんを見ても、田中防衛大臣を見ても、当選回数が多ければ優秀かといえば、逆に全くそうではないということが明らかになっているわけですから、ここはしがらみがない若い政治家が活躍をするだろうということでしょう。

 あと、これは自民党にも大きな変化がありまして、ほとんど派閥が機能してませんから、先輩議員の顔色をうかがうという必要はまったくありません。私も無派閥ですけども、何の問題もありません。あと小選挙区になって、派閥対派閥ということもなくなりましたので、要は正論を言って小選挙区で勝ってくればいいだけなので、そういった意味では、独立性が高くなったと思います。よくベテラン議員が、中選挙区から小選挙区になって、政治家が小者化するって言うけど、そう言っている本人のほうがよほど小者だったりするわけで、やっぱり選挙区が変わって、マインドが変わって、自分の判断で行動できる、発言できる議員が増えてきているんではないかなという気はします。


基盤の弱い若者に、国民を説得する役割が果たせるのか

工藤:しがらみという話でちょっと一般の人にわかりにくいんですが、一方で選挙が弱ければ、自分の思っていることを言えなくて、やっぱり一般の雰囲気、世論ではなく雰囲気に迎合してしまう。つまり、決断で国民を説得できるようなことが言えないというのがありますよね。それは若い人達はそういうことでは選挙で弱い人が多いじゃないですか。それは特に民主党、どうですか?

梅村:私はこの中で唯一参議院議員なんですよ。それで、私がたぶん過去の衆議院に近いと思うんですね。中選挙区制の任期は6年ということからいえば、たしかに選挙が近づいてくれば、思い切ったことが言えないという傾向が特に地盤の弱い方というのが、そういう傾向が強いのかな、ということはあります。それで、しがらみというのが何かというと、結局、先ほども森山さんもおっしゃいましたけども、一度過去に自分がやったことを、時には否定するという場面が出てくるんですよね。そうすると、そこはものすごく自己矛盾に陥る。いろんな税制にしても予算にしても、そこのところをきちんと線を引けるかどうか、これはやっぱり若い人とベテランの人との大きな違いとして感じますね。

平:工藤さん、ちょっといいですか。選挙制度で、小選挙区になったので、結局半分とらなければいけませんねと。中選挙区のときは、その既得権益を持っている人の、ある一定数支持をしてもらえれば、当選できるんです。小選挙区は、そこだけフォローしていても、当選できない。ですから、無党派といわれる人達の支持も得なければいけないんです。ですから相対的に、そういう既得権益の団体の影響は、逆に減ってるんだと思うんですよね。

工藤:そうですか。よく数%で勝ち負けが決まるとか、最終的には一人なので、そのとき意外に支持基盤のあるほうが発言力が逆に増したとか、そういうことはないですか?

平:都市部はですね、要は票の積み重ねではないですよ。だから1つ1つの団体に制約されるよりも、自由に発言できる議員の方が、強いと思います。

工藤:本音ベースに近づけたいので、たとえば、昔の小泉さんのときも同じようなことがあったけど、民主党も政権交代でかなり多くの人が出ましたよね。そういう人達は、非常に、僕たちが見ていると右往左往しているように見えちゃうんですよ。選挙が近づくと。自民党も、新しいそういう人達ができているんだったら、なぜ今の民主党に対抗して、政策の課題解決を一本に絞って、大きく変化のドライブがかからないんだろうかと。

西村:彼は東京の大都市の選挙区で、私は田舎とわりと大きな都市が両方混じっているところなんですけど、得票は民主も自民も変わらないと思うんですけど、まずそれぞれの党の基礎票があって、どんなことがあっても自民党が好きだとか、どんなことがあっても民主党が好きだとかという基礎票があって、これはたぶんそんなに動かないですね。プラス、個人の基礎票があって、これは党関係なしに西村が好きだとか梅村さんが好きだとかそういう人がいる。あとは党の浮動票と、そのときの党のイメージで、民主党はやっぱりいいな、自民党は小泉さんでいいな、といった党の浮動票があるんです。プラス、個人に対する浮動票。自民党は駄目だけど、西村さんが好きだ、もともと好きだっていう人じゃないけども、毎日駅に立ってるからいい、という、この4層の人がたぶん入れてくれると思うんです。

 それで、いま我々は小泉チルドレン、彼は選挙に勝ってきてますけども、選挙運動しない人たちは、党の基礎票の部分に頼って、党を支援する団体の言うことばっかり聞いていたってそこしか増えないし、それはぜんぜん新しい政策が打てないわけですよね。そこを説得もしながら、自分の個人後援会も作り、個人の浮動票も取ってくる、という努力をしないと、この4層を積み重ねて、過半数を取れないですよ。たとえば、私は田舎で淡路島で農業と漁業しかないようなところですけども、TPP賛成でやってます。これは地元では農協の人とか漁協の人とかにちゃんと話をして、理解をしてもらいながら、もちろん全員が全員理解してくれているかどうかわかりませんけども、でもやっぱりそういう努力をして、自分は正しいと思うからやる、という、自民党の基礎票であるコア層に対してもやっぱり自分の主張をしていかないと、ぶつけていかないと駄目なんですね。そういう努力が足らないんじゃないかなと思います。


党内融和を優先するあまり、民主党は年功序列に偏りすぎた

工藤:なるほど。つまり、そこが今度、党というものをどういう風に刷新できているかという問題になってくるんで、実をいうともう1つ、今日ですね、緊急にみなさん来られるというので、アンケートをしたんですね。これは、「あなたは、日本の現状の課題とこれからの未来を考えて、民主党と自民党という2つの政党にそれぞれ期待できますか」、ということで、「民主党、自民党ともに期待できない」が66.2%。民主党は期待できるけれども自民党は期待できないとか、自民党は期待できるけど民主党は期待できないとか、あるんですね。そういうことで民主党は期待できないというのが、併せると78%、自民党は73.4%なんですよ。ちょっと自民党が勝つんですが、ただ基本的に7割以上が、党として期待できないということと、いま若い政治家がしがらみなくやっている、できる、ということとのギャップがあるんですね。これについてはどう思われますか?

平:これはですね、若い人はしがらみはないんですよ。じゃあ何で自民党は変わらないかというと、見てもらえば簡単で、若い人がいないですよ。今回勝ってきたのは、おじいちゃんと地方出身者だけ。だけとは言いませんが、比率が急激に増えたんで、思い切った党改革ができていないということです。

工藤:すみません、その場合のおじいちゃんの定義というのは何歳くらいのことを言っているんですか?

平:おじいちゃんは中選挙区世代。

工藤:ああ、そういう世代ということですか。

梅村:民主党で言えば、やっぱり党内融和ということを言われましたよね。やはりそれによる、少し年功序列に偏りすぎたという点は僕はあると思っています。そのことがやはり党の活力を無くしてきている。プロ野球のチームで、入団の年順に打順組んで野球をやったら、それはなかなか厳しいものがありますよね。だから両方いるんです。両方いるんですけど、少し年功序列側に偏りすぎた、党内融和がありましたから。そこがちょっと今偏りすぎているところに、民主党の少し弱点が出てきていると、そう思っています。

森山:もともと私は地方議員を無所属でやっていたんですね。何かというと、政党が、中央国会議員のためのものであるというのが非常に大きくて、公明党・共産党の党員さんのほうが、自民党・民主党の党員さんよりも多い、という状態なんですね。このあたりのところで、我々のいうことをわかってくれない。というような感覚も多いんじゃないかな、と。

工藤:そうですか。一言、どうですか?


"曖昧戦略"で失われた自民党のビジョン

西村:民主党はさっき言ったようにもう駄目になってきたんで、自民党は別に自分たちの態度をはっきりしなくてもいいんではないかという、そういう曖昧戦略みたいなのがあってですね。

工藤:本当にそれはあったんですか?

西村:いやもうそれは、TPPも、賛成も反対も両方あるから、どっちかよくわからないし、消費税もやる、と自分たちが言い出しっぺでありながら今、賛成か反対かわからないような立場ですから、そういう曖昧戦略みたいなところがもうまったく、自民党はどういうビジョンなのかわからなくなっているところだと思いますね。

工藤:それは戦略ですか?それとも構造ですか?

西村:それはまあ、執行部の判断なんですけども、我々は賛成でいこうとかですね、いろんなことを提案していますけども、それは全体的に頭でっかちになってしまっていますので、若手がもっと勇気出せ、という部分もありますけども、全体としてはそういう雰囲気ですよね。

工藤:自民党の中に、そういう変化の兆しはあるんですか?

西村:予算委員会とか、いろんな委員会で若手が、私もやりましたし平さんもやったり、いろんな機会や出番が増えてきているのは事実ですけども、それが全体の意思になるかどうかというところは我々の力がまだ足らないところはありますけど、そこが課題ですね。

工藤:わかりました。それでは次は、今の有識者の意識をどう変えるかということを議論してみます。

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