第2部:すでに信頼を失っている民主党と自民党を立て直すことは可能か
工藤:次は、自民党と民主党そのものが本当に変われるのか、ということです。僕たちはかなり厳しいと思っているのですが、1月の有識者アンケートでは、既存政党に不信があって政界再編を求める声が圧倒的だったんですね。でも、民主党、自民党ですから、今大きいのは、そこが不信を乗り越えて党を刷新できるのか。「再び期待を集める政党に戻れるのか」ということで、今回アンケートで聞いてみました。すると今日現在では、民主党、自民党も無理なのが47.8%。民主党は可能だけど自民党は無理とか、自民党は可能だけど民主党は無理とか言うのがありますが、それを見ると、基本的に民主党に対して厳しい見方になっている。それは期待があったからかもしれませんが。実際には、民主党はこれ以上無理だと、政党そのものに期待できないと思っているのが6割を超えている。でも自民党も無理なのが5割を超えているんですね。
この問題なのですが、では、皆さんの力で党を変えられますか。もう無理なんだったら、党を脱出した方がいいのか、どういう風に考えているのか。
政党の人材育成機能がないところに小選挙区が導入されたことが、混迷の始まり
梅村:このアンケート結果でわかることは、私は自民党の問題点と民主党の問題点は根底ではつながっているというか、一緒の課題を抱えていると思っているんですよ。というのは、2009年の政権交代の選挙で、結局、民主党はどういう候補者が当選されたのか。
「反自民」であれば、言葉は悪いが誰でも良かったわけです。あるいは今の状況を見ると「反民主」、民主がどうしようもないということで自民党の候補者の方は活動ができる。これが繰り返している限りは、この結果は変わらない。
つまり何を言いたいかというと、結局、党が人材育成機能、党としての考え方、綱領の問題もありますが、そういったものをきちんと候補者の方なり政治家に伝え、育てる、そういった機能を持った上で小選挙区を導入しないと、「反与党」「反権力」という形でどんどん政権交代が起こっていく。だから、政党が、先ほど小選挙区制度は政党同士の戦いというお話があったが、そこで戦う候補者が、その政党の考え方や基本的な思想を反映できる、そういった仕組みがないままに小選挙区を導入したところに、混迷の最初のスタートがあって、そのことが結果に含まれていると感じています。
工藤:このアンケートは自由記述になっているんですが、少し紹介します。「政党が烏合の衆になっている。何のために存在して何を実現しようとしているのか分からない」。よく見ていると党内で色々な反対をしているし、その反対の声の中で政策決定ができないとなると、意思決定ができない組織は意味がないじゃないですか。そういう風に見切られてしまっている感じなんですよ。
梅村:小選挙区制度と政党の人材育成機能はセットなんです。どっちがかけても、二大政党なり政権交代の意味というのはなくなってしまいます。
工藤:民主党で綱領を作るというのは止まってしまっているのですか?
梅村:止まっています。
工藤:ですよね。そういうところから始めないといけない感じもするんですが。
政党のガバナンスをいかに機能させるのか
平:梅村先生がおっしゃるような高尚なお話の以前に、社会の変化に対応できなかった自民党があって、そのあと出てきた民主党が、これは誰が見てもありえないマニフェストを出したわけですよ。もう桁の違いも分かりません。5兆と10兆の違いも分かりませんと。これはもう信用されないですよ、詐欺ですから。詐欺か嘘つきかバカ。反省してもらわないといけない。
その上で、統治です。政党のガバナンスができていません。ですから、政党法を作るという話もあるし、それをつくらないまでも、本来は、リアリティのあるマニフェストをしっかり出すことが第一歩だと思います。
そしてそのリアリティのあるマニフェストをどう出すかということですが、やっぱりマニフェスト型代表選とかマニフェスト型総裁選をやって、政策本位で集約して政界再編をやっていくしかない。だから、誰なら勝てそうだとか、この派閥とこの派閥が一緒になると過半数だということをやっていると、なかなかガバナンスは取り戻せません。
いま政党は部族連合といわれていますよね。それを近代国家にしなければならない。これに尽きると思うので、これは政党法を入れるというやり方もあるだろうし、マニフェスト型代表選、マニフェスト型総裁選で党を割ることもいとわないというようなやり方をすればスムーズに行くと思います。
工藤:先ほどの自由記述を紹介させてもらいます。自民党もどうなるのか厳しい視点で見られていることを知ってほしいのですが、40代会社員の方で「民主党は党内対立が解消されるとは思えない。自民党はなぜ野党になったのか理解していない」。40代自営業の方は、「行動や発言を見ていると、次回選挙で受かることしか考えていないのではないか。それを議員本人たちも気付いていると思うが、しかしそれを何も変えられない」と記述しています。また、これは地方公務員の方ですが、「政党ごとに目指すべき方向が示され、それがぶれることなく政策に反映されていく状態であれば、それぞれの政党を評価できると思うが、党首が党内を統率できていない綱領ではそれができないのではないか、評価できないんではないか」。意外に皆さん見ているんですよ。それに対してはどうですか。
党としての政策をまとめ上げる仕組みが脆弱なところに問題がある
森山:たぶん、小選挙区制を導入するときに、野党第一党が何をするのかということがはっきりしていなかったんじゃないかと思います。与党は政権を運営する、それに対して野党第一党はトータルで示してこっちの方がもっといい社会じゃないか、いい政策ではないかとやらなければならないのに、場合場合によって徹底的に抗戦するという戦術をとったり対案路線を取ったり、行ったり来たりする。そうなると、国会の議論はいつ見ても面白くない。民主党が野党の時もそうだったし、今もそういうところがある。
工藤:今の話はわかるんですが、だったら前の民主党も同じで、政権を取ったんだから有権者は課題解決の競争を期待しているのだと思うのです。しかし、民主党も何かしようと思うと結局党内で骨抜きになってしまう。これは自民党と全く同じ状況だけど、こういう民主党は変わらないんですか。
森山:テーマごとだと思います。いま私は水の基本法というのをやっていて、これは超党派でやっているんですが、この問題とこの問題は国の基礎に関わる問題だから一緒にやっていこうということ自体も、その場その場でしかできていない。
工藤:党として政策をまとめあげていく仕組みがまだ弱いと言うことですね。
森山:弱いし、交渉のテーブルも個人的なところで行われている。
民主党は党内をまとめるシステムがない。自民党は調整過程がしっかりしているがために意見がまとまらず、思い切ったことができない
西村:自民党もそうだが、民主党も政策の幅が広くて、双方にそれぞれの主な政策課題に対して賛成、反対、左右がいて、TPPについても両方に賛成、反対がいる。消費税についても賛成反対がいる。まあ自民党の場合は反対は少ないですけれども。
工藤:TPPは少ないんですか。
西村:賛成、反対います。若干反対の方が多いと思いますが、今の段階では。民主党はこれは真っ二つに割れている。消費税は自民党は反対は少ないですけれども若干います。集団的自衛権でも安全保障でも民主党はきっと真っ二つに分かれるし、自民党は賛成が多いですけど反対が若干いる。
要は主要政策でなかなかきれいにそれぞれの党がいかないところが、再編しないといけないんじゃないかという声になっているんじゃないかと思います。民主党の悪口ばかり言うわけじゃなくて我々も反省しなければなりませんが、民主党の場合は党内をまとめていくシステムができていなくて、プロセスがなくて問題。閣僚やトップが好きなことをいっている。一方で自民党は、調整過程プロセスがしっかりできているのでなかなか意見がまとまらなくて時間がかかってしまう、ということで思い切ったことができないということだと思います。
一番きれいな解は、再編して、きれいに分かれることだと思います。ただ全ての政策ごとに真っ二つに分かれることは絶対にない。どんな形になっても、党内でいかにはやく意見集約して大きな方向性を決めてそれをトップが示すかということなんですが、自民党は残念ながらできていない。
工藤:野田さんは消費税とTPPの問題で踏み込んだじゃないですか。あれは政界再編の軸になり得るテーマですよね。
西村:なると思いますね。そのときに党がまとめるのかまとまらないのかはっきりしてくれという話ですよ、民主党が。消費税だって、党の案として出してくれれば委員会作って議論します。だけど、党の案としてまとまるかどうかも、反対派がたくさんいて、鳩山さん、小沢さんの二人の代表経験者が反対といっている中で、まとめてきてやるなら、選挙しないと再編にはならないのですが、そこまでやるかどうかですね。
2つの総括をして、結果として変われなかった自民党
平:さっきのアンケートで、選挙向けの発言ばかりしているじゃないかという指摘がありましたが、選挙向けの調子のいいことって言わない方が選挙で強い、ってことにもうなっているとおもいます。そういう政治家ってあんまりいないんじゃないかなと思います。僕は鳩山さんで懲りてます、民主党のマニフェストで懲りてます、と。
自民党はなんで負けたか分かっていないのではないかという指摘がありましたが、これは非常に面白い議論で、わたしは無党派というニューマーケットが広がっているんだから、
そこのシェアをどうとるかと、それは日本の課題解決のマニフェストだといっているわけですね。その反面、お得意さんを粗末にしたから負けたと総括している人もいるわけです。だからこれまで応援してくれた各種団体をもっと手厚くメンテナンスしましょうと。
実は自民党での二つの総括があって、どちらかというと、都市の人たちはグローバルに見ていて、地方の人はローカルな発想が多くて、ローカルで年寄りが増えたのでお得意さんを小泉のときに粗末にしたから我々は負けたんだという総括が多少強いんですよ、党内に。ですから分かってない、僕に言わせれば分かっていないんだけど、そういう2つの総括をして、実際変わっていないというのが現状です。
もう1つ。党内は、谷垣さんがリーダーシップを発揮できればまとまりますよ。ただ、あえてまとめていない。それはなぜかというと、民主党が割れそうだから、何もしない、党を割らないというのが戦略で、そのために政策を集約しないというのが戦術なんで。だから支持率が上がらない。僕はそれがいいとは思っていませんが、やはり野党といえども政策の立ち位置を明らかにしてバンバン発信していくべきだと思いますが、まとめようと思えばまとめられる。
ただし、谷垣さんの総裁選のとき、「みんなでやろうぜ」がスローガンですから、そのときに大きな組織改革はできません。ですから、あの総裁選の時点で谷垣さんには党の大きな改革ができないことは分かっていた。結果として谷垣さんが勝ったので、今日こういう状況になってしまっている。
工藤:それは民主党も同じで、党内融和を優先すると言うことは、党がバラバラになっていくということですよね。それをつなぐことを一番のプライオリティにしたわけで 国が抱えている課題を解決してほしいですよね。何かがここで組織原理を優先しているところに国民の既存政党離れがあると思いませんか。
民主党の「純化路線」が結果として政界再編につながる
梅村:僕は、民主党に綱領がないということ、なにを基軸に集まっているのかどうかが分からないと、そこをまずきちっと、言葉は極端ですが、純化路線。それで軸を作ることが必要だし、それが結果として政界再編という形につながるのが自然な形だと思います。
そのときに、平先生と私の考えが違うのは、小選挙区制度のことなんですよ。たとえば綱領なりなんなりで割れたと、キレイになったときに、同じ選挙区の候補者が同じ側につくということが戦術上できないわけですよね。そう考えると、小選挙区制が足かせになっているところが僕はあると思うんですよ。片一方がAという政党に行ったらもう一人はBに行かないといけない。Aですと言うことはできないんです。小選挙区の良さもあるんですが、そのことが足かせになっていて、その点についても議論が必要だと思う。小選挙区が小物大物ということに加えて、いま限界が出てきていると思います。
西村:たしかに小選挙区制は政界再編が起こりにくいといわれるし、同じ選挙区で戦えないということになるんですが、選挙前はそういう状況なんですね。民主、自民、候補者を決めていますから、なかなかこの状況で再編しろと言うのも難しいと思うのですが、だけど選挙が終わったあとは十分あるんですよね。調整してもいいし。だから、小選挙区で再編がないということはないと思う。
もう一つは、私は、大阪で梅村さんも感じておられると思いますが、維新の会のすごさっていうのは肌身で感じるのです。私は隣の兵庫県ですが。覚悟を決めてやっているし、スピード感をもってやっている。本来我々がやらなければならないことをやられているような感じです。あの刺激が、自民党を再生する刺激になってくれるんじゃないか、これを糧にして改革やろうと思います。ギリギリまで。自民党ダメだと言われていますし、どこまでできるか、我々も若手の力でやって、それから選挙に臨みたいと思います。それがうまくいかなければ再編になるんでしょうが。
リアリティのある政策パッケージとビジョンを出した政党が勝つ
平:先ほどのビジョンの話は全くおっしゃるとおりで、民主党も自民党も示せていない。イギリスはいま強烈な歳出削減をやっていて、2割公務員削減、8%消費税を上げて、その一方で産業はしっかりしなければいけないので法人税を下げて、なおかつその副作用が出てくるから金融緩和をやる。彼ら保守党は筋金入りの小さな政府だから、それはいろんな議論が出てくるけどそれをやりきると。ビジョンとリアリティのある政策パッケージがしっかりできていて、自民党も民主党も立ち位置が分からない。
私は、リアリティがある政策パッケージとビジョンを出した方が勝つんだと思いますので、その競争にならざるをえないんじゃないかと思うのです。
工藤:その競争が必要です。国民との、有権者との緊張感がないとダメだと思うんですが、純化路線は民主党は無理なんですか。
梅村:民主党と言うよりも、今の既成政党が、純化という言葉が過激だったかも知れないが、そうなってきたときに相手とシンクロしながらやらないと、こっちだけがそうなっても意味がない。そのときに若手が手を取るっていったら変だけど、そこできちんと議論する場を普段から持っておくことが重要なことだろうと思いますね。