菅政権は2010年12月25日に発足後100日を迎えました。どのような政権も、発足後100日を過ぎれば有権者による厳しい監視にさらされなくてはなりません。そうした考えから、言論NPOではマニフェスト評価の一環として2006年の安倍政権から、「100日評価アンケート」を行い、その結果を公表しています。
今回の菅政権の「100日評価」は、安倍政権、福田政権、麻生政権、鳩山政権に続き5回目になります。民主党への政権交代以降、マニフェストを軸とした政策実行のプロセス、その実現性が問われています。そのため、今回は、日本の政治にマニフェストが必要か否か、そして国民との約束に基づいた政治をつくり出すために必要なことを問う設問なども盛り込まれています。
アンケートで浮かび上がった菅政権の100日時点での評価は、歴代政権への評価と比較しても極めて低いものになりました。菅政権に対しては6割を越える人々が「支持しない」と回答し、今後の政権運営についても7割以上の人々が「期待できない」と回答しています。政権の実績に対する評価でも「内政、外政いずれも評価できない」とする見方が7割にのぼり、菅政権がこの100日で手がけた30項目の政策分野について「適切」あるいは「今後期待できる」という回答が半数を超えた項目は、ありませんでした。
また、首相のこの100日間の「実績や資質」に関わる8項目を5点満点で見たときの平均は1.8点で、その中でも実績に対する評価は特に厳しいものとなっています。
「日本の政治にマニフェストは必要か」を問う設問では、7割近い人々が「必要である」と回答しており、国民とに約束に基づいた政治をつくり出すために、「政権をとった後、党のマニフェストを『政府の約束』と位置付け、その際に修正を行う場合には国民に向けて説明するなど、その実行に責任を持つこと」「マニフェストを政策リストとしてではなく、目標や財源、達成時期など検証可能な約束として定式化(フォーマット化)すること」が必要との回答が多くみられました。
この他、日本の政治の現状を問う設問では、過半数に近い人々が、「政府の統治が崩れ、政治が財政破綻や社会保障などで課題解決できないまま混迷を深める国家危機の段階」と回答しています。
アンケート調査は2010年12月上旬から約2週間の日程で調査票の郵送やメールの送付によって行われ、言論NPOの活動にご参加、あるいはご協力をいただいている各分野の有識者、ジャーナリスト、企業経営者、官僚など508人から回答をいただきました。
回答者の属性は、男性が44.5%、女性が7.7%となっています(それ以外は無回答。以下同様)。年齢別でみると、18~30歳が5.7%、31~40歳が6.9%、41~50歳が11.6%、51~60歳が11.8%、61歳以上が13.4%です。回答者の職業は、公務員が6.1%、サラリーマンが10.0%、企業経営者が2.6%、企業幹部が4.1%、マスコミ関係者が6.7%、学者・研究者が2.8%、NPO・団体関係者が4.7%、政治家が0.4%、大学生が3.0%、自営業が2.8%、自由業が3.0%、その他が3.0%となりました。
菅政権を支持するか
財政や外交・安全保障等で深刻な課題を残した鳩山政権に代わる新しい政権として、発足当時菅政権には注目が集まっていましたが、こうした当初の期待が、100日時点でかなり落ち込んでいることが明らかになりました。
菅政権を「支持する」という回答は15.9%で「支持しない」の64.4%を大きく下回る結果になりました。鳩山政権の100日時点での評価(支持率33.0%、不支持率41,4%)と比較しても、厳しい結果となっています。
また、発足時に抱いていた期待と比べて、100日時点での菅政権をどう思うか尋ねたところ、「期待以下」という回答が58.5%と半数以上にのぼりました。「期待以上」、「期待通り」と答えた人はそれぞれわずか0.6%、3.0%にとどまりました。また、「そもそも期待していなかった」も34.4%となっています。
問2 SQ「現在までの菅政権は、発足時に抱いていた期待に比べどうでしたか。その理由をお聞かせください。」
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では、菅政権は誕生時、どんな役割を期待されたのでしょうか。菅政権に本来期待されていた役割を問う設問で最も多かった回答は、「財政再建への道筋を明確にすること」(34.6%)であり、「中長期的な成長戦略をたて、「強い経済」を実現すること」(29.7%)、「持続可能な社会保障制度を確立すること」(25.4%)が続きました。「既得権益に基づいた政治や行政の構造を徹底的に壊すこと」や「新しい時代に即して社会全体を組み替えること」を期待していた声が多く見られた鳩山政権時とは異なり、首相自らが掲げた「強い財政」「強い経済」「強い社会保障」への対応を多くの人々が期待していたことが明らかになっています。
さらに、「菅政権の今後の政策運営に期待できるか」という問いに対しては、71.7%が「期待できない」と回答しており、「期待できる」と答えた人は4.5%にすぎませんでした。
問4 SQ「菅政権の100日間をご覧になって、菅政権の今後の政策運営にあなたは期待できますか。その理由をお聞かせください。」 ⇒ 回答をみる
また、内政、外政問題に対する菅政権の取り組みで最も多かったのは「内政、外政いずれも評価できない」の68.8%で、「内政は評価できる」と回答した人が7.5%とそれに続きましたが、「外政を評価できる」とする人はわずか2.2%にすぎませんでした。
菅首相の資質・100日間の実績は
続いて、100日時点で見た菅首相の資質や政権の実績に関して、①首相の人柄、②首相の政策決定におけるリーダーシップや政治手腕、③首相としての見識、能力や資質、④政権として実現すべき基本的な理念や目標、⑤既に打ち出されている政策の方向性、⑥これまでの政策面での実績、⑦菅政権を支えるチームや体制づくり、⑧国民に対するアピール度、説明能力、の8項目について、「よい」(5点)「ややよい」(4点)「ふつう」(3点)「ややよくない」(2点)「よくない」(1点)と「わからない」の6段階で評価してもらいました。
今回の評価ではこの首相の資質を問う8項目の評価を5点満点で点数化してレーダーチャートで表示しています。
この8項目の平均は1.8点で、安倍、福田、麻生、鳩山の各政権の100日評価と比較すると、麻生政権に並ぶ最低点となっています(安倍政権:2.2点、福田政権:2.3点、麻生政権:1.8点、鳩山政権:2.4点)。最も評価が高かったのは「首相の人柄」の2.6点でしたが、「実績」への評価1.4点と極めて低く、回答者の83.5%が「ややよくない」、「よくない」と回答しています。
次に菅政権がこの100日の間に行った30項目の個別課題への対応や政策などに関して、回答者に評価を求めました。それぞれの課題に対し、この100日時点で「適切である」「うまく対応できていないが、今後期待できる」「うまく対応できておらず、今後期待もできない」「わからない」の4段階で評価してもらいました。
その結果、「適切」との回答のうち10%を超えたのは「行政刷新会議による無駄削減の動き(事業仕分け)」(11.8%)のみでした。「適切」と「うまく対応できていないが、今後期待できる」という回答が比較的多かったのは、「TPP参加への検討」(41.7%)、「法人税率の引き下げなど税制への対応」(39.6%)、「様々な地域、国とのEPA・FTA交渉の推進」(37.2%)でした。
一方で、こうした肯定的な回答が過半数を超えた項目はゼロで、「今後も期待できない」との見方が強まっています。中でも、「在日米軍の普天間基地移転問題」(80.7%)、「尖閣諸島沖の漁船衝突事件への対応」(80.7%)などの外交面での対応や、「マニフェストを実現するための財源の捻出」(80.9%)、「政策決定における首相のリーダーシップや統率力」(80.7%)については、否定的な意見が際立っています。
菅政権が国民への説明を求められている課題とは
菅政権が現在、国民に説明を求められているものとして最も多かった回答は「日本の今後の経済成長に向けた戦略」の42.3%で、この傾向は鳩山政権の100日時点での評価(52.5%)と変化がありません。「菅政権として任期中に何を実現するのか、政策面での約束」(37.2%)、「民主党が目指すべき社会と改革の目標、そのための中長期の道筋」(29.5%)、「財政再建に対する道筋」(29.5%)がそれに続いています。
総選挙を実施すべきか
「菅政権はいつまで続くか」という設問では、72.3%が「2013年の衆議院議員の任期満了まではもたない」と考えていることがわかりました。「2013年の衆議院の任期満了まで」との回答は12.0%、「衆議院の任期満了後も続く」との回答はわずか1.4%にとどまりました。
また、「菅政権は総選挙を実施すべきか」については、44.7%が「行うべきだ」と回答し、その理由として「民主党にはもはや政権を担うだけの能力がないと思うから」(26.0%)、「政治が迷走を続けており、現状を変えるには総選挙を行うしか無いと思うから」(22.0%)との回答が多く見られました。
一方で、総選挙を「行う必要はない」、「どちらともいえない」はそれぞれ31.1%、18.3%となっています。
民主党マニフェストについて
また、民主党マニフェストについては、38.6%が「多くが修正されており、何が約束か判断できない状態である」と回答し、「すでに約束として破たんしているが、説明されていないだけ」との回答も同様に38.6%にのぼっています。一方で、「形式的にも実質的にも約束として機能している」と見る回答はわずか0.4%にとどまりました。
既存政党に対する評価は
政権交代後の1年余りの民主党中心の政権を見て、現政権に期待できるかどうか問う設問では、「どちらかといえば期待できない」(23.6%)、「全く期待できない」(41.5%)との否定的な回答が6割を超え、期待できるとの回答(「非常に期待できる」(1.2%)、「どちらかといえば期待できる」(16.1%))との回答を大きく上回りました。
問12 SQ「政権交代後の一年余りの民主党中心の政権を見て、あなたは民主党の政権に期待していますか。その理由をお聞かせください。」 ⇒ 回答をみる
野党である現在の自民党のこれからに期待できるかを問う設問では、「非常に期待できる」、「どちらかといえば期待できる」との回答がそれぞれ1.4%、18.9%となり、約2割が「期待できる」と回答する一方、「期待できない」との回答(「どちらかといえば期待できない」(31.3%)、「全く期待できない」(22.2%))は過半数を超えています。
問14 SQ「あなたは、野党となった現在の自民党のこれからに期待できますか。その理由をお聞かせください。」
⇒ 回答をみる
さらに、現在の日本の既存政党に対しては、過半数近い47.4%が「期待していない」と回答し、「期待している」との回答(17.1%)を大きく上回りました。その理由として最も多かった回答は、「どの党も権力を取ることだけが自己目的になっており、選挙対策のために行動しているようにしか見えず、日本の将来に向けた課題解決に挑もうとしていないから」(31.9%)、「既存の政党は新しい日本に向けた構想力が乏しく、課題解決能力が不足しているから」(24.6%)「既存の政党は異なる意見が党内に混在するなど、政策を軸としては結成されておらず、組織として体をなしていないから」(21.1%)がそれに続いています。
日本の政治の現状について
菅政権の100日を見た段階で、日本の政治の現状について判断を求めたところ、鳩山政権時に4割見られた「これまでの政治を一度壊し、新しい国や政府、社会のあり方を模索する時」との回答は、今回は25.0%へと低下し、「日本の改革のビジョンや課題解決の競争によって、本当の二大政党制をつくり出す時期」についても7.1%にとどまっています。
反対に最も多かった回答は、「政府の統治(ガバナンス)が崩れ、政治が財政破綻や社会保障などで課題解決できないまま混迷を深める国家危機の段階」で43.7%にのぼりました。
政界再編を期待するか
既存政党への評価を問うた後に、今回は、政界再編を行うことへの判断を求めました。その結果、政界再編が起こることを「期待している」との回答は63.6%にのぼり、「期待していない」(11.2%)を大きく上回りました。
また、その際、どのような政策を軸として政界再編が行われるべきかについては、「財政再建への道筋」を挙げる回答が24.6%と最も多く、「日中関係や日米関係など外交問題」(17.9%)、「大きな政府や小さな政府か」(14.0%)、「年金などの社会保障制度に関する考え方」(13.2%)がそれに続きました。
既存政党への懐疑から、財政や外交・安全保障、社会保障など、日本が直面する課題に対する政策を軸に、政界再編が起こることを期待する声が高まっていることが明らかになりました。
その上で、今の日本の政治の混迷を打開する主体として誰に期待するかを問う設問において、「期待する」との回答が最も多かったのは、「政治家」(49.8%)や「首長」(50.6%)をおいて、「有権者」(55.3%)でした。一方で、「メディア」に対しては「期待できる」との回答は25.2%と最も低く、逆にメディアに「期待できない」との回答は45.5%と最も高くなっています。
日本の政治にマニフェストは必要か
今回は、「日本の政治にマニフェストは必要か」を問う設問を新たに盛り込みました。その結果、「必要である」と回答した人は68.5%となり、「必要ではない」との回答(11.4%)を大きく上回りました。
問18 SQ「あなたは、日本の政治にマニフェストは必要だと思いますか。その理由をお聞かせください。」
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その上で、マニフェストを軸として国民との約束に基づいた政治をつくり出すために必要なことを問うています。最も多かった回答は、「政権をとった後、党のマニフェストを『政府の約束』として位置づけ、その際に修正を行う場合には国民に向けて説明するなど、その実行に責任を持つこと」(46.9%)であり、「マニフェストを政策リストとしてではなく、目標や財源、達成時期など検証可能な約束として定式化(フォーマット化)すること」(29.7%)、「政策を軸に政党が組織化され機能するような、政党自身の改革や再編」(26.2%)、が続きました。
一方で、15.2%が「民間な中立的な評価機関」を挙げ、政治以外の主体がマニフェストの評価を行う必要性を見出しています。
政治が取り組むべき最優先の課題とは
現在の日本の政治が取り組むべき最優先の課題としては、「日本の中長期的な経済成長戦略」(50.0%)、「財政再建」(39.0%)、「年金、医療、介護など少子高齢化に伴う制度の抜本的な見直し」(38.2%)が圧倒的に多くなっています。菅首相が自ら掲げた「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」という三つの課題に対する対応が強く求められていることがこの結果からも明らかになりました。
【調査に関するお問い合わせ】
このアンケートに関してご不明な点などがございましたら、
言論NPO事務局(TEL:03-3527-3972 担当:宮浦・山下)までお問い合わせください。
※なお、記述回答の結果につきましては、2011年1月中旬までに本ウェブサイト上にて公表いたします。