今の政権は何を実現したいの?「菅政権の100日を考える」その1

2010年12月22日

 放送第12回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、元総務大臣で野村総研顧問の増田寛也さんへのインタビューを中心に、言論NPOが毎回実施している政権100日評価について話し合いました。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。

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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
― 今の政権は何を実現したいの?
    「菅政権の100日を考える」その1

 
(2010年12月22日放送分 19分40秒)

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「今の政権は何を実現したいの?菅政権の100日を考える」その1
 ― 増田寛也氏の見方

工藤: もうまもなくクリスマスということで、楽しい予定がいっぱいあると思います。でも、私はクリスマスの日は、菅改造内閣の100日評価をまとめるために作業を進めています。菅政権というのは半年前にできたのですが、参議院選挙が終わって代表選挙が行われ、第二次の改造内閣ができて100日目というのが、まさに12月25日なのです。で、僕たちは政府の100日目の実績はどうなのだろうということを発表することにしていますので、今その作業で大わらわです。それから、この評価作業に活かすために有識者2000人にアンケートを出したり、年末なのに、かなり忙しい状態です。

 今日はこの100日に関して、地方分野の評価を担当していただいている、増田寛也さんにインタビューを行ってきましたので、増田さんと一緒に菅政権の100日を考えてみたい、と思います。増田さんは今は、野村総研の顧問ですが、昔は岩手県知事や総務大臣をやったりして、まさにマニフェストを提案し、主導していた人です。

 ON THE WAY ジャーナル、「言論のNPO」、今日のテーマはこちらにしました。

谷内: 「今の政権は何を実現したいの?菅政権の100日を考える その1」
おはようございます。ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」のスタッフ谷内でございます。言論NPOでは、毎年のように年末に100日評価というものをやっているのですよね。この100日評価作業の一端をここでは紹介したいということで、今回がその1ということですね。


100日後から監視を始める

工藤: そうですね。

谷内: 師走で慌ただしいのですが、まず、100日にこだわっているのはなぜですか。

工藤: 最近、日本の政権は、毎年9月頃に誕生しているので、いつもクリスマスの時期に100日の評価をすることになっているのですね。なぜ、100日評価をやっているかというと、やはり有権者と政治との関係をもっと緊張感のある関係にしたいからです。やはり、政治家は選挙の時に、有権者にこういうことを実現しますよということを約束して、その実現に責任を持ってもらいたいじゃないですか。そのためにも、有権者が、約束の実現をきちんと監視する始まりは100日からだと、思っています。結婚しても、ハネムーン期間というのは100日ぐらい必要じゃないですか。その時は温かく見守って、でも100日経てば有権者は厳しく見るぞ、ということを日本の社会に定着させたいと思ったのですね。


谷内: ただ、菅さんの場合は100日ってわかりにくいですよね。

工藤: ただ、菅さんが自分の約束を国民に出したのが、この前の参議院選挙だったのですね。その後に、代表選に出て、自分の約束、つまり何を実現したいかということを一応、出した上で、政権を誕生させたのは第二次菅内閣だと思っています。だとすれば、そこから100日ということを厳しく見ないといけないと思っています。ただ、実は評価をしてみると、本当に大変です。つまり、菅さんは何を実現したいのかということが、段々見えなくなってきているのです。今、各省庁の官僚や、専門家にヒアリングしているのですが、基本的に今の政権は、ある目標をベースにして、それを実現していくというプロセスになっていないために、非常に苦労しています。だけど、こうした評価をやることがマニフェストのサイクルを回すことにもあるのです。では菅政権の100日は期待通りだったのでしょうか。今回は増田さんにインタビューをしてきましたので、その話を元に議論を進めたいと思います。


がっかりの繰り返しの100日

増田: まず政治の意思決定ははっきりと行う。そのために意思決定の仕組みを変えて、その上で政策をきちんと決めて実行していく。私は、そのあたりに期待をしていました。国家戦略局構想だとか色々ありますが、それがどういうものにしろ、内閣がきちんとリーダーシップを発揮して、社会保障とその財源としての消費税の問題だとか、今までの従来の決定の仕組みでは大きな決断ができなかったところ、その意思決定の仕組みを変えてそれできちんと実行して欲しいと思っていたのですが、仕組みを変えることもできない。そこは従来型の自民党タイプだし、結果として決まることは何もない。
 目がうつろになっただけで結局何も決まらない。そういうがっかりの繰り返しの100日だったと思います。

 自分はこういう世界をつくりたい。例えば中曽根さんが前川レポートによって、内需主導型の経済をつくっていきたいとか、田園都市構想をまとめた大平内閣、最近では小泉改革。色々議論があるにしても規制緩和を行って、経済の成長を目指すとか何かそれなりのものがありました。今回は政権が変わったわけだから、例えば政治に信頼を取り戻すクリーンさ。その一点でも良いですよ。

工藤: でもその一点もやらないでしょ。

増田: 総理のポストについて、総理大臣でいるということが目的で、だから石にしがみついても離さないと。駄目と言わない限りはずっとこのまま続きますね。

工藤: 佐々木毅さんが、今、日本の政府の統治が壊れてきていて、ナショナルクライシスじゃないかという話をされていました。やっぱり今の目的が間違っていると、存在、権力を維持することが目的になっていると、それを活用して...


政党の作り直しこそ必要

増田: 手段が完全に目的化してしまっている。佐々木さんがいみじくも言ったように、政権の構造を作り変えなければいけないのですが、それは結局政党のつくりかえをやるしかないと思います。政党というのは我々がまさに選んでいる政治組織なわけですが、これまでは政治リーダーを政党の中で曲りなりにも育ててきたわけです。つまり、政党が政治的なリーダーシップのある人間を見つけて、その中で代表者としてね、党の総裁なり何なりで送り出して、それで政権を作り上げてきましたが、現在は、その政党が実は政治的な人間を形成させるという能力を失っています。これは、民主党の中を見ても自民党の中を見ても、今のこういう中で次に担うリーダーがいるかというと心もとないですね。ですから私は政府に問題がありすぎると思うのですが、つきつめてみれば政党のつくり直しみたいな、政党のほうに行き着くんじゃないかと思います。

工藤: つまり、政党そのものが壊れているというか、政策を軸にして何か動いていくという形ではないので政権もそうなってしまいますよね。

増田: 民意をきちんと受け止めて、それを政策という形で辛い決断もして、それでまとめ上げる。それを政権についてから、権力を武器に実現していくというのが、今までの政治だと思っていました。しかし、今の政府では、役人が社会保障などを政府の中で案としてまとめれば、政党が言ってくることは、そのうちの負担は全部重過ぎるからそこはやめにしようと。だから、場合によっては国民に厳しい負担もお願いせざるをえない。それを自分たち政党は、選挙で負ける覚悟で捨て身の覚悟で国民に訴えるということを何もしてないですからね。


工藤: のっけから、かなり厳しい話になりました。この前出ていただいた佐々木さん、石破さんも、今回の増田さんも、皆さん共通しているのですが、政府の統治ということがうまく機能していないということを、非常に気にしているのですね。実は、この間、国家戦略室とか、官僚の人たちにヒアリングをしてきたのですね。そこでまだ成立していませんが、政治主導法案が国会に出されており、継続審議になりました。国家戦略室を局に格上げして、その中で色々な国家の戦略プランを立案して動かそうということが、去年の民主党のマニフェストにもあったし、それを動かそうとしていたのですが、それが全く機能していません。それだけではなくて、色々な人に話を聞いて、ちょっと何か変だなと。つまり、縄張り争いをしているような感じで、国家戦略室という動きと、官房副長官補室というのがあって、指揮ラインが2つあって、その下に省庁がぶら下がっている状況です。その統合が行われていないのですね。だから、役割の奪い合いというか、それだけで何ヶ月も使ってしまって、その間は何も議論が動いていない。やはり、政権とか政治が、政策実行を動き出す仕組み作りに、今の100日時点で見ると、かなり失敗しているのだと感じています。この状況が改善されないということになると、例えば年金、財政破綻など今の日本には色々な問題がある中で、政府として機能しないのではないかということが、今100日評価する時点で気になっています。これに関して、増田さんがどう思っているか聞いてみたいと思います。


工藤: となると、このまま民主党政権でいっても期待ができないということになりますよね。これはどこがだめだったのでしょうか。
 国家戦略局(室)は機能していないし、行政刷新会議も本来は制度設計をするところだったのにそれもできずに、事業仕分けだけになってしまった。つまり、官邸機能として、官邸中心の政策立案・実行という仕組みがないわけですよね。

増田: しかも事業仕分けも3回やったけど、「この法的根拠はいったい何なんだ」と。仕分け人の権限はいったいどういうものに基づくんだ、ということを相変わらず言わないままだから、各省だって、事業仕分けの会場で黒板に廃止と書いたって何の意味もないことはわかっているので、名前だけ変えて正々堂々と予算要求復活させる。

工藤: だから、まずそういう形で政策立案・決定のプロセスが壊れちゃいましたよね。一方で党側に政務調査会をつくったのだけれど、今度、党の人たちは意見がありすぎてそれをまとめきれない。

増田: 党は今壊れていますからね。きちんとした責任を果たすという機能は失われていて壊れています。そうすると、党もラクな国民受けのすることばっかり言うようになってくる。結局、党が政府に言ってくるのは、負担が重過ぎるから国民負担を求めるのやめよう、やめようということになる。

工藤: そうですよね。そうなると、今の政治、日本の政府は日本の課題に答えを出せない非常に危険な状況にきているということ。日本の今の政治の現状っていうのは、どういう時期なのでしょうか。


日本は政治的空白であり、国家危機の時期

増田: 全く期待を持てないし、正直に今の事態をとらえると空白の時期であり、さらには、もっと国が危うくなる危機の時期と思いますね。その打開をどこかでしなければいけない。でもあえて、突き放して言えば、おそらく年が明けてから一層ポピュリズムは横行するでしょう。


工藤: 実は今、2000人の有識者にアンケートをやっています。その際に、今の日本の政治についてどう思いますか、という設問を毎年聞いています。そうすると、最近の傾向は、二大政党がきちんと機能すると思っている人はほとんどいません。それよりも、既存の政党に対して、非常に疑問が出てきている。去年の段階で、政界再編を含めて、色々な新しい政治を模索する時期ではないかという声が、日本の有識者の中にはかなり多いのですね。にもかかわらず、最近気になってきたのが、政党や政治の再編よりも、ひょっとしたら日本の政治が混乱して、全く出口がみえない、そういう時期になっているのではないか、国家危機の段階にきているのではないか、という設問を今回入れてみました。それを、増田さんに聞いたところ、増田さんがそこに食らいついてきました。まさに、政治の空白と国家の危機だと仰っていました。多分、日本の多くの有識者もそういう風な見方をしている可能性があります。しかし、日本の統治が崩れてきても、財政や社会保障など、日本の課題というのはあるわけですね。そうなってくると、非常に困難な状況を国民は覚悟しなくてはいけないという状況になってしまうわけですね。そこに、さっき増田さんが、無責任な発言になるかもしれないと言いながらも、そういう状況になるのではないかと仰っていたわけですね。その辺りを、もう少し聞いてみました。


甘んじて危機を受け入れる

増田: しかし、この状況は小手先のことで変わるようなことではありません。2年3年続くかもしれませんし、国がどうなるのか、という話があるかもしれませんけれど、むしろ今は色々なことが、国政に限らず、地方行政も含めて、様々に起こったほうがいい、何でもありで起こったほうがいいと思います。そういう混沌の中から、やがてはポピュリズムからもう少し冷静に考える方向に...

工藤: 民主的にきちっと議論を重ねて。

増田: プロセスを大事にすると。その上で成果を求めるという風に変化していくのではないでしょうか。今は二大政党にもなかなかなっていないような状況ですが、今の混迷を脱するためには、菅さんは早く辞めたほうがいいと思います、本当は。選挙しないでしょ、なかなか、怖くて。

工藤: 選挙をすればいいんですよね。国民が全く参加できない政治の混乱ですから。

増田: 混迷が2年くらい続くと、出口も見えない。その間にTPPも参加できないとかいう話になりますよ。参加できなくなってどうなるかというと、経済がさらに悪くなるだけというくらいのつもりでね。また、さらに国民生活は苦しくなるかもしれない。結局開き直っていえば、我々が全部選んだ国会議員の中で行われていることです。地方政治と違って国政についてはリコールできませんから、それを甘んじて受け入れながら次の2013年の衆参同時選挙に備えるしかないのではないでしょうか。そういう現実を一度本当に甘んじて受けるということを我々もやらないといけないのではないでしょうか。そこから始めて、政党をしっかりと自分たちで動かす。地域政党のほうに行く人たちもいると思いますが、私としては、それは限定的だと思います。むしろ、全国規模の政党がもっとしっかりする必要があると思うのですが、全国規模の政党が各地方選挙で足腰も強くした上で、本当に国としての世論を統一するような責任を果たすべきだと思います。そういう全国政党のつくり直しのようなことに繋がっていって、はじめて政府が機能してくるのではないでしょうか。高機能の政府というのはそういうことだと思います。

 ただ319議席で3分の2の議決に足りないからといって、社民党とくっついたりするのは無理で、数合わせをしたところで、中の政党の考え方が違うわけです。政党は基本的には主義主張、思想、信条を同じにするものの集まりだという原点に立ち返って、政党のマネジメントをもう一回やり直すという、政党の作りかえをやらないといけないと思います。


既成政党の数合わせでは答えにならない

工藤: 今回、増田さんの話を聞いて、かなり深刻なのですね。つまり、政権交代をして、一つの政治をチェンジするということ自体はよかったし、大事だったのですが、政府があるものを実現するという「統治」というものがあります。政策を実現したり。そこが、非常に準備不足のまま、混乱してしまったと。ただ、そこの原点には政党そのものの機能が非常に脆弱になっているのではないかと。そうなってしまうと、単なる既成政党の枠組みを数合わせでやったとしても、ほとんど答えにならないと思っている訳です。だから、彼は、これは甘んじて受け入れるしかないと仰っているわけです。つまり、日本の政治を選んだことのツケが来るだろうけど、それを経ることによって、本当の意味で、政治が強くなるのではないか、そういう問題提起をしたわけです。ただ、その時は、まさに、住民とか有権者が、そのプロセスの中で、きちんとした政党の在り方とか、自分たちと政治との関係を見つめ直すとか、そういうことができないといけない。そういう話だったわけです。最後に、そうは言っても、マニフェストは大事なのかと聞いたところ、増田さんは凄い大事だと言っていました。つまり、こういうプロセスが大きく変わる時も、有権者と政治との緊張感が絶えずないといけないわけです。
 

2011年、日本は新しい時代への基礎固め

 今日は、クリスマスの前夜としてはあんまり楽しくない話でしたが、これまで議論してきたことと同じで、僕たちが今の政治に対して、ある程度覚悟を固めないといけないのだなと思いました。そうやって、2011年は新しい時代に向かい合おうと、そういう覚悟を新たにして、時間になってしまいました。

 次週は、僕たちが今評価作業をしていますので、それについてきちんと皆さんに説明をしたいと思っています。また、皆さんの意見などありましたら、どんどんお寄せください。今日はどうもありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

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