菅改造内閣発足から1ヶ月。有言実行するには?

2010年10月20日

 放送第3回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、「菅改造内閣発足から1ヶ月。有言実行するには?」と題して、10月20日(水)­5時30分からJFN系列で放送されました。その収録風景を公開致します。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。

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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
―菅改造内閣発足から1ヶ月。有言実行するには?

 
(2010年10月20日放送分 15分14秒)

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谷内: 番組スタッフの谷内です。ON THE WAY ジャーナル水曜日、今日のテーマは、菅政権、民主党政権について考えていこうかなと思います。昨年9月に政権交代によって民主党鳩山内閣が発足して1年です。そして1年後の9月17日、今度は「菅改造内閣」が発足しました。菅総理大臣は「この1年間は色んな意味で試行錯誤の1年だった」としまして、新しい内閣は1つの具体的な事柄を実行していく「有言実行内閣」と皆さんに呼んでいただけるような内閣を目指す、と言っています。菅総理大臣は政府税制調査会では景気の下支えを優先して、企業に配慮する、という姿勢を示す一方、子ども手当の満額支給を廃止するとか、家計重視の視点がすこし薄くなっている気がします。さて工藤さん今日はリスナーの皆さんに何を投げかけて行きますか。

工藤: 僕は政治が「課題解決」という言葉を使ったことは非常に良いことだと思います。政治はやはり課題解決に挑戦して答えを出さないといけない。しかし今まで日本の政治はそれをやってこなかったのです。ただ、僕はまだ、菅政権の課題解決がどうかという議論をする前に、やはり日本の政治そのものを考えるべきだと思います。私は先日、国会中継を見ましたが、見れば見るほどなんか国民と政治の距離が最近非常に開いていると感じるのです。ひょっとしたら、この政治を続けても日本は何も変わらないのではないか、という気がしているのですね。そこで皆さんに今日言いたいのは、「僕たちが変わらないと日本は変わらない」ということです。つまり、ただ政治に期待するだけでは、日本は本当に変わらないという局面にあるのではないか。菅政権を見ながら、それを今日は皆さんと考えていきたいと思います。


谷内: つまり有権者が変わらないといけないと。


工藤: そうです。昨年政権交代がありましたが、政権交代があった時は僕も結構嬉しかったのです。要するに、チェンジするというのは非常にワクワクするではないですか。
僕たちのNPOは政策の評価をやっていますので、きちんと1年間政権運営を見ていましたが、しかし、「これはやはり違うな」と段々気づいてきて、何か昔の政治とあんまり変わっていないという気がしてきました。
 少なくとも鳩山さんは政権を継続できなくなり退陣に追い込まれた。「政治とカネ」の問題で小沢さんと責任を取ったというのではなく、やはり鳩山さんが選挙時に言ったことがほとんど実現できなくなったからです。普天間問題もボロボロになりました。それで次の菅首相は、それに対して国民と政治の距離を縮めたかというと、そんな感じはしません。菅政権は実は国民の選挙で選ばれたわけではないですよね。この前の選挙で菅さんは負けました。しかし一応継続している。だけど菅総理とか今の国会議員の人はみんな去年の選挙で当選した国会議員ですので、その時に鳩山さんが行った約束がほとんど実現できない状況なのに、そこに政治家がいると。すると国民から見れば、首相が新しくなってまた別なことを言い出しても、国民は蚊帳の外にいる感じがしてしまいます。
 そしてもうひとつ本質的な問題があるのではないかと思います。それは、僕たち自身が昨年の選挙で「日本が変わるのではないか」とかなり強く期待したことです。それがどうも違うのではないかと国民はうすうす気づき始めた。だから、政治との距離が開いたままだと感じているのです。

 僕たちは先週、千葉で合宿してきました。なんでしたかと言うと、今ソーシャルメディアということでブログとかSNSなどたくさんありますが、そういうことを活用して、もっと一般の人たちと議論できる仕組みを作れないかと思ったからです。そのモデルとして、オバマの大統領の選挙戦について勉強したのです。
 オバマさんの時はやはりすごいのです。つまりいろんなボランティアの人と一緒になって「アメリカを変えよう」という感じになっていて、何10万という市民が参加した、というのですね。民主主義の復権をみんなで一緒にやっていこう、とするのですね。それで見てみたら、ネットで5億ドルも寄付を集めているのです。今の為替で行けば400億円です。つまりアメリカの変化は、国民や市民と一緒に動いている。
 米国で変化が始まったその年に日本では政権交代がありました。でも冷静に考えてみて、鳩山さんは民主党政権が誕生した時に、そういう感動的なシーンがあったのだろうかと。市民がどんどん参加して、「日本を変えたい」という動きがあったのだろうかと考えれば、結局選挙ではサービス合戦だけで、こども手当とか色んな形を競いあって、でもそれが実現できなくなって大騒ぎになるのですが、やはり昔的な展開なのですね。市民が大きな政治の変化に参加していないのです。
 多分僕もそうですが、まだ政治に期待したい気持ちがあったのでしょう。でも、期待だけではもうだめで、やはり自分が参加して、発言して当事者としてこの社会に向かい合わないと、日本は変わらないのですね。今回、政権交代以降ずっと続いている日本の政治の状況を見て何となくそんな感じがしました。


谷内: つまり一緒にやっていこうと。


工藤: まず変化しようよ、と。日本もやはり今変化しないといけないではないですか。それを政治に期待しましたが、変化というより非常に疲れ切った菅さんがいて、普通の政治になっていますね。


谷内: なんか国会中継を見ていても盛り上がらないですよね。


工藤: つまり僕たちに問いかけがないのですね。民主党政権ではこうしたい、だから皆さん協力してほしいとか、こういうことをしたいのだ、という直接のメッセージがないですよね。


谷内: 1年前の政権交代の時はやはり国民側では変わるだろう、という期待は当然大きかったのですが。


工藤: 戦後、既得権益とか利害関係でやっているとか、国民に説明をしないとか、そういう古い政治を変えたかったのですよ。それは皆さんも同じだと思いますが、それが1つの政治のなかで自民党という長期政権を変える原動力になったのですよ。だから日本にはパワーがあって、国民は変化を求めています。しかし、人が変わっても、今の政権には何となく昔と同じような政治を感じてしまうのです。

 辞めると言っていた小沢さんや鳩山さんが、また復活してきて代表選をやっていたり、政治家の言葉の軽さが目につきます。昔の政治という感じがするではないですか。


谷内: 菅政権に代わってその辺はどうですか。


工藤: 鳩山さんはすごくいい加減ですね。やはり色んな事を言ったけど、後で覆すではないですか。宇宙人と言われていましたが、本当にそうだと思います。菅さんは宇宙人的な発言はありません。しかし、彼はもともと市川房枝さんという伝説の人を市民運動の事務局長として支えた人です。まさに市民派の感じで、僕から見ても本来は同じ匂いがするはずなのですよ。


谷内: サラリーマン(家庭)出身でね。


工藤: だからもっと市民に向かい合うような動きがあればいいですが、なかなかないのです。これまでに国会では2つの代表質問がありましたが、なんか面白くないのですね。
 たった1つ菅さんのメッセージで僕の胸に刺さったものがあるとすれば、「孤立化」ということなのですね。つまり今の社会には若者やお年寄りもそうですが、家族とか社会から切り離されて孤独で人とつながりを持たない、一人ぼっちで大切な人生を終えてしまう人がたくさんいるのです。この人たちに対して何もしないで何が政治だと、まあそこまでカッコよくは言ってはいませんが、これには僕にもズキッときました。まさにこれが社会の課題であり、大きな社会の貧困が広がっている中で、働けない人がいてその人たちが孤立して厳しくなっていると。でもそれは1回目の所信表明演説でした。2回目からは課題を説明しているだけですね。本当に自分が政治をやって日本を救いたいと思うのであれば、ビジョンを説明して、我々は今こう思っていることをこう解決したいのだ、だからみんなに協力してほしい、という形にならないといけない。しかし、そんな姿勢は現時点ではほとんど感じない。
 だから、変わっていることは変わっていますが、結局何も新しいことはなく、市民に政治側が寄っていく動きを感じません。
 菅さんは「強い経済、強い財政、強い社会保障」と言っています。実はこの3つは正しいのです。この3つを解決するということは、日本の未来にとって非常に大きなアジェンダなのです。しかし実を言うと、自民党末期政権の福田元首相や麻生元首相も同じようなことを言っています。つまり自民党であろうが民主党であろうが、社会保障、高齢化で人口減、財政破たん寸前、経済が強くならないといけない、というのはどの政権でも同じアジェンダなのですよ。


谷内: 変わってない。


工藤: そうなればプランニングの力が試されます。つまりどっちが課題解決を行なえるかと。これについては、有権者は冷静に見ないといけません。しかしそういう競争は政治の世界に今はないのです。菅政権もまだ具体的なプランは出していないし、政治の舞台でも互いに足を引っ張り、国会答弁を見ていても「いずれ説明します」とかみんな予告編だから、ではどうすればいいのかわからない。まだまだ政治に新しさもない、国民に向かい合っていない。一方で課題に関してもプランを競い合うところまでいっていない。そうなれば僕たち国民は自分の将来が不安ですから、だんだんこの政治で大丈夫かなと思いますよね。


谷内: なんか2大政党ではなく3つ目の政党に期待するとか...


工藤: 2大政党になれば何かの答えが出せると思っていましたが、あのイギリスでも2大政党が難しくなって、大連立するとかいう形になっていくのですね。日本で結局2大政党が機能するという前提は、それぞれの政党にプランを作る力がないといけません。しかしお互いその力がまだ見えないのです。
 僕たちの言論NPOも4年前の日本の将来像をめぐる議論で「課題解決」という言葉を使ったことがありました。その意味は少し違っています。日本の将来戦略を考えるときに、考えなくてはならない日本の課題は、人口減少と高齢化なのですね。超高齢化です。65歳以上のお年寄りは今は4人に1人ですが、それが3人に1人になって、2050年には40%位が高齢者なのですよ。私が青森に帰るとバスに乗れば高齢者ばかりです。それがこれからどんどん増えていきます。それに対してどう将来設計をしていくのかと。韓国も中国も世界が高齢化し始めていますが、それに対して日本は、世界に先駆けて超高齢化という先進的な課題を持っている。だからそれを克服することが世界に対して日本の存在感を大きく出す非常に大きな役割になるのではないかと思って、「課題解決」という言葉をNPOでも使ったのです。
 今の政権が、課題解決というのなら、どういう課題認識をして、何を解決しなければいけないのか。そこが何となくまだ分からないのです。今の当面の危機は財政破たん、経済が改善せず、雇用がうまく拡大しない、そして社会保障や年金・医療に不安がある。これは未来に向けた話とすべて連動していますので、政治には将来課題の解決が問われているのです。そういうことを競い合う政治に期待していますが、まだそうはなっていません。

 僕は、日本の政治というのは大きな変化の途上にいると思っています。だから多分ドラマはこれからだと思います。まだ古い政治から脱却できていない。これから菅さんが変身するかも知れませんが、これからなのです。
 言論NPOは、毎年、有識者を対象にアンケートを行っています。昨年の鳩山政権が終わった後にこういう質問をした時に、え?と思いました。要するに日本の政治の現象をどう判断するか、という設問で、一番多かったのは「これまでの政治を一度壊して、新しい国や政府、社会のあり方を模索するとき」と答えています。つまり大きな変化の途中だと、4割の人が答えています。ただそこに並ぶように多かったのが、「未来の選択肢が既存の政党から提起されないまま、サービス合戦や官僚たたきに明け暮れ、ポピュリズムが一層強まる時期」というのが39%ありました。次に多かったのが、これは厳しいですが「政治的な混迷や空白のはじまり」これが27.2%です。
 つまり、今まさに変化がはじまっています。ただ、この変化はまだ出口が見えない。この出口をみつけ出すのは僕たち国民なのです。なので、一番初めに僕が言ったように、日本の政治を変えるのは僕たちなのだ、というのはそういう意味なんです。
皆さんはどうお考えですか。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)