「安倍政権100日」評価 議論編/石原信雄氏の発言

2007年3月19日

第2話 国家安全保障会議(日本版NSC)を創設する狙い

橋本行革のときに、経済財政諮問会議の設置を提案したのは私でした。内閣機能を強化するにはどうすればいいか、私は、この国を動かしていく一番の基本は予算であり、財政であり、経済政策であり、それは従来の各省がばらばらにやっていて、専ら大蔵省の主計局の査定の力だけでやる時代はもう過ぎたと考えました。世の中が前へ進んでいて、増える財源をどう分配するかというときにはそれでもできたのですが、削り込むときは、役人の力だけでやるのは限界があります。そこで、財政政策や経済政策の基本的な大方針については、内閣全体の場で議論し、内閣総理大臣の責任でやる形をより明確にするために、それを議論する場が要る。それも日本型のものをつくるべきだと申し上げました。

これについては、色々な議論もありますが、内閣機能強化の1つの前進だと思います。その後、竹中平蔵さんという個性の強い方が担当になったため、急にクローズアップされましたが、政策運営における内閣の存在感を高めた功績は非常にありました。内閣機能強化の1つのヒット商品だと思います。これからも危機に直面したときには、諮問会議が前面に出て、各省だけではなく、与党に対しても物を言う場にならなければいけません。

私は今回の日本版NSC(国家安全保障会議)の問題は、アメリカのNSCの制度を真似て意見を言ったのではなく、それ以前から、安全保障の問題について関係者が議論する場がない。防衛庁は今までは一人前の役所ではなく、そこが防衛事項を担当し、外交は外務省がやる。それぞればらばらで、一緒に外交・安全保障を議論する場がなかった。

中曽根内閣のときにできた安全保障会議はありましたが、それはおおよそ安全保障を議論する場ではなく、政府が防衛関係の大きな計画変更などを行う場合にそこでの議を経て決めるという、一種のチェック機関です。いわば、シビリアンコントロールのためのメカニズムとしてできて、審議事項は限定列挙になっている。極めて限られたものしか検討しないことになり、予算の前に防衛庁が防衛計画などを変えるときだけ審議する。ですから、年に1回か2回の、形式的な機関になってきたわけです。

安全保障の大問題が起こっても、現在の安全保障会議は全然議論する機能が与えられていない。私も内閣におりまして、在職中、湾岸戦争や北朝鮮の核開発疑惑だとか、冷や冷やする場面に何遍か遭遇しましたが、安全保障会議は一遍も開かれていないわけです。

ですから、これは直さなければいけないと思っていました。たまたまですが、安倍内閣になる前に防衛庁を省に昇格させるという防衛庁設置法の改正法案が出ました。防衛庁は内閣総理大臣が主任の大臣になっている内閣府の外局ですから、防衛庁が自ら防衛政策について外に言う立場にはないのです。必ず内閣総理大臣経由ですから、一人前ではない。ところが、防衛庁が防衛省になると主任の大臣になるわけです。

そうすると、防衛政策については分担管理原則で、それは所管大臣として決定権を持つ。皆さん、閣議請議や予算要求ができなかったなどと形式的なことしか言っていませんが、もっと根本的に違います。外局のときには、防衛庁という役所の限りでは行政執行できなかった。防衛省になると、防衛大臣の権限で一定のことは行えるようになるのです。そこで、いよいよ外交と安全保障は総合的に同じ場で議論する仕組みをつくらないと、この国は危ういことになる、戦前の過ちを繰り返すという思いが私にはありました。防衛庁が省になって、主任の大臣として防衛問題について権限を持ちます。そうなれば、外交や、その他のエネルギーなどの色々な問題と調整する場をつくらなければ、それぞれが勝手に動いていくとどうなるかということです。

防衛庁を省に昇格させるこの機会に、安全保障会議を名実ともに安全保障政策を議論する場に改組すべきだということを、私は去年からずっと言ってきています。当時は官房長官だった安倍さんにも、当時の額賀防衛庁長官や久間総務会長、政調会長の中川秀直さんにも、私は意見を申し上げました。安倍さん自身が官房長官在職中に北朝鮮の核開発問題が起こり、ノドンやテポドンの発射問題があった。そうなると、安全保障問題を総理大臣が1人で決めなければいけないというのは非常に大変だ。やはり外交や防衛の関係者と一緒に、安全保障というものは常に準備しておかなければならない。そういう場が要るということで、日本版NSCという表現になりました。

内閣機能の強化という見地から、経済財政については経済財政諮問会議ができて、毎週開いて頻繁に議論しています。ところが、安全保障については盆と正月しか仕事をしないような状況でした。一方、国際情勢はどんどん動いているし、北朝鮮はおかしなことをやっているのに、これでいいのかいという意見を私が持っていたところ、安倍さんが総理になって、安全保障政策を議論する場が要るとおっしゃった。ですから、私が前々からご意見を申し上げていたこととちょうど合致したわけです。

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