安倍政権5年の11政策分野の実績評価【経済再生】

2017年10月11日

【総合評価】

1年目
2年目
3年目
4年目
5年目
3.2点
2.8点
2.8点
2.7点
2.6点

【個別項目の評価】

評価対象の政策
2013
2014
2015
2015
2016
「三本の矢」によって10年間の平均で名目3%、実質2%程度の経済成長を達成し、雇用、所得の拡大を目指す
物価安定目標2%の早期達成に向け、大胆な金融政策を引き続き推進する
より弾力的かつ効果的な経済財政の運営を推進し、機動的な政策対応を行い、経済再生に向けて万全を期す
一億総活躍社会を実現するため、「成長と分配の好循環」(賃金上昇、所得上昇・消費増大の循環)を生み出す
同一労働・同一賃金の実現により、正規・非正規の格差を是正する
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生産性を向上させ経済を発展させるため、働き方改革を実現する
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米国のTPPからの離脱を踏まえて、残り11カ国で11月のAPEC首脳会議までに日本がリーダーシップを発揮し、議論を前進させる
国家戦略特区のさらなる制度拡充を図る
訪日外国人2020年4000万人、旅行消費額8兆円を目指す
日中韓自由貿易協定(FTA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などのアジア太平洋における広域経済連携の取り組みや、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)などを通じた自由貿易を促進する
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国内総生産(GDP)600兆円の実現を目指す
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評価の視点

 安倍政権の経済政策は、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3本の矢から成る。さらに、アベノミクス3年目の2015年9月には、「アベノミクスは第二ステージに移った」とし、1億総活躍社会をキャッチフレーズに、「名目GDP600兆円」「希望出生率1.8の実現」「介護離職ゼロの実現」を掲げる新3本の矢が公表された。4年目には、「第4次産業革命の実現」、「働き方改革」、5年目には「人づくり革命」など新たなキャッチフレーズが加わった。衆議院が解散され総選挙がとなった2017年10月は安倍政権にとっては政権発足後4年9カ月になるが、この時点で、デフレ脱却がどの程度実現したのか、3本の矢によって名目成長率3%、実質成長率2%の目標が実現する道筋がどこまで見えたのか、さらに、少子高齢化、人口減少に伴う様々な課題のの解決に、新3本の矢がどの程度寄与すると期待できるのか、生産性向上に向けた各種改革がどの程度実効性を持つのかという観点から評価を行う。

 安倍政権は、第1の矢、第2の矢によって成長率を嵩上げしつつ、第3の矢によってゼロ%台前半まで低下した潜在成長率の少なくとも2%以上への引き上げを目指している。このため、ここでの具体的な点検項目は以下となる。第1の矢による円安・株高によって、企業業績が回復し、これが賃上げの実現、設備投資の拡大に結び付く「経済の好循環」実現を図っているが、これはどの程度うまくいっているのか、第2の矢による計6次にわたる経済対策・補正予算の編成は、持続的な景気押し上げにどの程度寄与したのか、中長期的な財政健全化との整合性がどの程度確保されたのか、第3の矢はどの程度実行され、どの程度潜在成長率の押し上げに作用しているのか、名目GDP600兆円の実現可能性はどの程度か、出生率1.8への引き上げ、介護離職ゼロが実現できる可能性はどの程度か、これら新目標を達成するための政策手段は十分といえるのか、生産性引き上げのための様々な改革はどのように評価されるのかである。

 結論を先取りすれば、3本の矢は、第1、第2の矢に偏重し過ぎた結果、潜在成長率の大幅な引き上げには結び付かず、成長率目標、2%物価目標の達成はなお道半ばと言わざるを得ない。それどころか、円安による物価押し上げは、企業の仕入れコストの増加や家計の実質所得の減少を通じて個人消費を下押しするといった副作用が顕在化するなど「経済の好循環」発揮は、力不足な状況に止まっている。株価押し上げを狙ったコーポレートガバナンス強化も所期の効果を発揮するに至っていない。第2の矢の乱発は、財政健全化に逆行し、日銀による国債大量購入と相まって、財政規律の緩みをもたらしたことは疑いない。さらに、第3の矢である成長戦略の実行は観光、農業などある程度進捗している分野もみられるが、法人税改革、労働市場改革など進捗が不十分な分野も多く、全体的に実行スピードが遅いこともあって、経済全体を力強く押し上げるまでには至っていない。

 新3本の矢関連施策も、一定規模の予算積み上げが実施されたものの、外国人労働者の活用等、タブーを排した本格的な構造改革には踏み込んでおらず、目標達成が確実視される状況とは程遠い。

 第1の矢は出口戦略への道筋を描くことが求められる。また、第2の矢は、景気刺激から財政健全化に舵を切るべき時期に差し掛かっている。第3矢については、生産性の飛躍的な向上に結び付くよう、さらに実行スピードを上げていくことが不可欠である。同時に、財政や社会保障制度の改革を含めた構造問題に対する抜本的な取り組みが待ったなしの状況にあり、今後、安倍政権がそうした意思を内外に示し、実行に向けて舵を切っていくことが出来るのかどうかがアベノミクスの成否を決定づけることになる。安倍政権が今回の選挙後も継続する場合、アベノミクスの展開や、今回、解散総選挙で提示した「消費税2%引き上げ財源の一部を教育無償化などに充てる」という公約の妥当性、実効性についても、今後の展開をしっかりと検証していく必要がある。


【経済再生】個別項目の評価結果


「三本の矢」によって10年間の平均で名目3%、実質2%程度の経済成長を達成し、雇用、所得の拡大を目指す

「三本の矢」で 10 年間の平均で名目 3%程度、実質 2%程度の経済成長を達成し、雇用・所得の拡大を目指す
【出典:2014年J-ファイル】
「経済再生本部」を司令塔に「成長で富創出」ができる経済に転換、今後10年間の平均で、名目3%程度、実質2%程度の経済成長実現をめざす
【出典:2012年、2013年衆参マニフェスト】

【2016年はマニフェスト、J-ファイル共に記載なし】

右右

4年評価:
3年評価:
2年評価:3点
1年評価:3点

アベノミクスで改善した経済指標

 安倍政権は発足後から、①大胆な金融緩和、②機動的な財政運営、③成長戦略の3本の矢から成るアベノミクスを打ち出した。この政策は、市場や家計、企業の期待に働きかけることによって、デフレ脱却を目指すと同時に、規制改革などの構造改革によって潜在成長率の引き上げを目指すものである。

 まず第1の矢、金融の異次元緩和によって少なくとも1年目は為替の円安や株価上昇をもたらした。その後も円ドル相場は上下動を繰り返したものの、かつての異常な円高は回避され、上場企業の経常利益は5年連続増収増益で過去最高益を更新し続けるなど、コーポレートガバナンス強化と相まって、企業業績を改善させた点で一定の効果を発揮したと評価はできる。ただ最近の経済の回復基調は対外経済の好調による輸出増に支えられたもので、アベノミクスの効果だけで説明することは難しい。

 他方で、企業業績の改善により、雇用情勢も近来にない改善振りを示している。17年8月の有効求人倍率は1.52倍と43年5ヵ月振りの高水準、失業率は2.8%とほぼ完全雇用レベルに低下し、完全失業者数は189万人と、87ヵ月連続の減少となるなど、労働需給は引き締まった状態となっている。こうした労働需給の引き締まりに伴い、17年8月の従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は前年同月比0.9%増の27万44490円となったが、基本給は前年比0.4%、物価上昇率を差し引いた実質賃金は、前年比0.1%増に止まり、賃金の上昇圧力は鈍く、力不足は否めない。

アベノミクスが掲げた名目3%、実質2%の経済成長の達成は難しい

  一方、ミクロ面の成果に対して、マクロ経済のパフォーマンスは芳しくない。安倍政権が成立してから4年間の実質成長率は、13年度:2.6%、14年度▲0.5%、15年度1.3%、16年度も1.3%なり、4年間平均で1.2%に止まる。名目成長率は13年度2.6%、14年度2.0%、15年度2.7%、16年度1.1%と4年間平均で2.1%となっているが、消費税率引き上げや原油価格低下の影響が含まれており、過大評価となっている。また、17年9月8日に内閣府が発表した17年4~6月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.6%増、年率換算では2.5%増、名目成長率は前期比0.7%増、同年率3.0%と比較的高めの成長となったが、輸出の増加や公共投資の拡大という外生的需要の拡大に依存しており、持続性には疑問符が付く。内需の主役である個人消費は同年率3.4%と高めの伸びとなったが、賃金の上昇率が弱く持続性には疑問が残る他、設備投資は同2.1%と回復力は未だ弱く、企業収益の増加が賃上げ→個人消費の回復、設備投資の回復に結びつく「経済の好循環」のパワーは依然弱いままである。

 こうした基本的背景として、アベノミクスが副作用や反動影響が出る金融・財政政策に過度に依存し、潜在成長率を引き上げ、経済の体質を強化する成長戦略の歩みが遅いことが指摘できる。「10 年間の平均で名目 3%程度、実質2%程度の経済成長を達成し、雇用・所得の拡大を目指す」ためには、イノベーションや設備投資の本格的な拡大によって、生産性の大幅な上昇を図る必要があるが、そうした展望は現時点ではなお見通しがつかず、10 年間の平均で名目3%程度、実質2%程度の経済成長率の達成は難しいと考えざるを得ない。

物価安定目標2%の早期達成に向け、大胆な金融政策を引き続き推進する

大胆な金融緩和でデフレから脱却する
【出典:2016年J-ファイル】
物価安定目標2%の早期達成に向け、大胆な金融政策を引き続き推進する
【出典:2014年衆院選マニフェスト】
2%の物価目標を設定し、日銀法の改正も視野に政府日銀が連携し、大胆な金融緩和を行う(第一の矢)
【出典:2012年、2013年衆参マニフェスト】

右右

4年評価:
3年評価:
2年評価:2点
1年評価:2点

黒田総裁の任期中の2%の物価目標達成は困難となった

 黒田日銀総裁の当初の約束は2%の消費者物価目標を2年程度で達成することだった。その実現に向けて、資金供給量(マネタリーベース)を積み増す「量的・質的金融緩和」を導入したものの、2年経過しても物価目標は達成できず、目標年次を何回も先送りしながら、マネタリーベースの上積み(2014年10月31日)、マイナス金利の導入(2016年1月29日)など、様々な追加の緩和を行ったが、物価は依然としてゼロ%台に止まっており、2%の物価目標は極めて遠い。さらに、日銀は16年9月21日の金融政策決定会合で、金融緩和強化のための新しい枠組みとして、短期金利でマイナス金利政策を維持しながら、長期金利をゼロ%に誘導する金融政策の導入を決定した。これは、これまでの「量」を重視から「金利」重視への政策転換といえる。その結果、これまで日銀は年間約80兆円の長期国債を買い取っていたものの、現在は年間60~50兆円のペースに事実上軌道修正しており、大胆な金融緩和を追加的に行うことを事実上断念したということができる。日銀は目標年次を先送りし、17年7月20日にはその達成時期を「19年度ごろ」としているが、少なくとも黒田東彦総裁の任期中(2018年4月8日)の目標実現は極めて困難と言わざるを得ない。

合理的期待形成ではなく、適合的期待形成が実証された

 期待インフレ率に関しては、日銀の大胆な金融政策実施に伴う心理面への影響は一時的・限定的に止まり、むしろ、消費者は現実の物価上昇率に影響される側面がより強く、現実の物価上昇率の鈍化に歩調を合わせる形で期待インフレ率も0%台前半に低下している。このことは、マネタリストが暗黙の前提としている合理的期待形成はあまり働かず、期待が現実の動向の影響を受けるという適合的期待形成がなされていることが実証されたことを意味する。この点を考えると、景気拡大がさらに続き、小幅のプラスに転じている需給ギャップのプラス幅がバブル期を超えるまでに大きく拡大すると同時に、期待インフレ率も急激に上昇するという状況にならない限り、2%目標達成は極めて困難であるといえる。

より弾力的かつ効果的な経済財政の運営を推進し、機動的な政策対応を行い、経済再生に向けて万全を期す

今秋にも、速やかに経済対策を断行し、切れ目のない対応をとる【出典:2016年参院選公約】
より弾力的かつ効果的な経済財政の運営を推進し、機動的な政策対応を行い、経済再生に向けて万全を期す。【出典:2014年衆院選マニフェスト】
2、3年は景気の落ち込みや国際リスクに対応できる弾力的な財政運営を推進(第二の矢)
【出典:2012年衆院選マニフェスト】

右右

4年評価:2
3年評価:2
2年評価:3点
1年評価:3点

4年間で6回にわたって行われた経済対策・補正予算

 安倍政権誕生以来、アベノミクス第2の矢である「機動的な財政政策」と銘打って、大規模な経済対策と補正予算が組まれてきた。安倍首相自身、2013年1月28日の衆議院本会議において、「財政出動をいつまでも続けるわけにはいきません」と発言しているものの、過去4年間で、6次にわたる経済対策・補正予算が組まれてきた。確かに切れ目のない対応がとられてきたとはいえるが、その規模は膨大である。いわゆる真水にあたる国費投入額は、総額26.9兆円、政府保証や政府系金融機関などの融資などを含む事業規模総額は実に累計で66.9兆円に達している。対策の中身は、復興・防災対策、災害復旧、21世紀のインフラ投資と位置付けた公共投資の拡大を中心に、成長力強化、暮らしの安全、地域活性化、生活者・事業者支援、一億総活躍関連、TPP関連など多岐にわたっているが、その経済効果は、対策の規模対比でみて、さほど大きいとは言えない。名目公共投資の増加により、13年度は0.5%成長率を押し上げたものの、2014年度は0%、2015年度は▲0.1%、2016年度▲0.2%と景気押し上げ効果は次第に減衰している。

財政政策は成長戦略の効果が発揮されるまでの繋ぎの政策

 そもそも第2の矢である機動的な財政政策については、景気の下振れリスクへの対応が目的であり、この効果は本来一時的である。財政の持続可能性確保の観点からも、毎年継続して行うべきかどうかは慎重に吟味されなければならない。しかも、大規模な財政支出は、財政制約面から持続不能であり、現実にも財政政策の効果が切れると大きな需要の反動減が生じている。こうした意味で、本来、第2の矢である財政政策は、第3の矢の成長戦略の効果が発揮されるまでの繋ぎの政策に他ならず、同時に財政規律を緩ませるリスクを冒すものであることに留意が必要である。本来、大規模な景気対策は、失業や企業倒産の増大など明らかな景気悪化が生じた場合にのみ行うべきものであり、深刻な人手不足や過去最高の企業収益を謳歌しているときに、行う大義名分はないはずである。第二の矢は、財政健全化の方向に舵を切るべき時を迎えているが、安倍政権にはその認識は乏しく、減点材料とせざるを得ない。

一億総活躍社会を実現するため、「成長と分配の好循環」(賃金上昇、所得上昇・消費増大の循環)を生み出す(「ニッポン一億総活躍プラン」より 16年6月3日)

新三本の矢を放って、「成長と分配の好循環」を創り出す【出典:2016年参院選公約】
経済再生と財政再建を両立させながら、雇用や所得の増加を伴う経済好循環の更なる拡大を目指す【出典:2014年衆院選マニフェスト】
雇用拡大や賃金上昇が、消費の増加や景気回復につながる「成長の好循環」をつくり上げる
【出典:2013年参院選マニフェスト】

右右

4年評価:3
3年評価:2
2年評価:3点
1年評価:3点

1億総活躍プランの中で新3本の矢を打ち出す

 安倍政権は、2016年6月2日「ニッポン1億総活躍プラン」を閣議決定した。アベノミクスの第1と第2の矢である金融政策と財政政策によって円安・株高を実現し、第3の矢である成長戦略によって企業の業績が回復し、民間設備投資が拡大することで、賃金上昇による持続的な個人消費の拡大に結び付ける。そうして拡大した「経済のパイ」を分配し、さらなる成長につなげていくことが、アベノミクスが目指した「成長と分配の好循環」である。ただし、こうした好循環の実現を阻む隘路は、少子高齢化という構造的な問題であり、こうした問題に正面から取り組み、課題解決を図ることが、「成長と分配の好循環」を実現する鍵を握っている。そうした点では、問題認識や課題設定は正しいといえる。このため、安倍政権は、「1億総活躍プラン」の中で、後述する「名目600兆円経済の実現」(第1の矢)と合わせて、「希望出生率1.8の実現」(第2の矢)と「介護離職ゼロ」(第3の矢)という新たな数値目標を設定して、その達成を図るべく、女性の子育て支援や社会保障の基盤強化など様々な政策を打ち出した。この基本的考え方は、アベノミクスの成果を活用し、女性が子育てや介護をしながら仕事を続けることができるようにすることで労働参加率を拡大させ、潜在成長率の底上げを目指すという「新3本の矢」として打ち出されている。

新数値目標の達成は容易ではない

 新3本の矢関連の財政支出は、その後の経済対策・補正予算にも組み込まれ、①企業内保育所、小規模保育所の整備支援、②産前産後も国民年金保険料免除、③不妊治療助成の対象を男性にも拡充、④保育の受け皿50万人分に拡充、⑤3世代同居・近居支援、⑥児童扶養手当の拡充、⑦特養ホーム、在宅サービス整備で50万人の受け皿整備、⑧介護休暇(法定93日)の3分割取得可能に、⑨介護休暇給付金の引き上げ(40→67%)、⑩介護士の再就職支援などの施策に対して、2015年度補正予算で1.2兆円、16年度当初予算で2.4兆円の財政資金を投入しているが、目標年次である2025年度まで、毎年継続的に巨額の財源手当てが必要になる。しかし、2016年の合計特殊出生率は1.44に止まり上昇の気配すら見られない他、介護離職者数は年間10万人を超えており、目標実現への道筋は描き切れていない。

 少子高齢化や人口減少など構造問題に踏み込む姿勢は評価できるが、いずれの目標も財政支出拡大だけでは達成困難な目標であり、例えば、①男性の育児休暇取得促進、②非嫡出子への児童手当付与などの支援、③ベビーシッター、介護労働者など外国人労働者の本格活用等、従来のタブーを排した抜本改革が不可欠だが、安倍政権にはそこまで踏み込む意志が見られず、新数値目標の達成は相当困難と言わざるを得ない。

「同一労働同一賃金」の実現により「正規・非正規の格差」を是正する

同一労働・同一賃金の実現により、正規・非正規の格差を是正する【出典:2016年参院選公約】
同一価値労働・同一賃金を前提、パートタイム労働者の均等・均衡待遇の実現に必要な法整備を行い、非正規労働者の処遇を改善する
【出典:2013年参院選マニフェスト】
【出典:2014年J-ファイル】

右右

4年評価:3
3年評価:2
2年評価:2点
1年評価:- 点

格差是正に向けた法案化の流れを作り出したことは評価できる

 安倍首相は、2016年9月26日の所信表明演説において、「同一労働同一賃金を実現します。不合理な待遇差を是正するため、新たなガイドラインを年内を目途に策定します」との目標を掲げた。同日、政府は働き方改革の実現を目的とする実行計画の策定などに係る審議を行うために、内閣総理大臣決裁によって「働き方改革実現会議(以下、実現会議)」が設置された。そして、12月20日の実現会議において「同一労働同一賃金ガイドライン案」が提示された。ガイドラインでは、正規と非正規との不合理な待遇差を例示し、基本給や賞与、手当などについて格差是正を促した。例えば、基本給は①職業経験や能力、②業績・成果、③勤続年数の3要素の基準を設定した。また、賞与に関しても業績への貢献が同じであれば正規・非正規にかかわらず同額を支給し、貢献度合いに違いがあればそれに応じた額を支給するとした。こうした格差是正を行うという問題設定は正しく、法案化に向けた流れを作り出したことは評価できる。

 ただし、今後、このガイドラインを基に、改正法案が臨時国会に上程される予定だったが、解散総選挙で法案提出が遅れることは必至の情勢となっている。

同一労働同一賃金という手段が自己目的化してしまった

 安倍政権が実行しようとしている同一労働・同一賃金は、次の2つの点で問題がある。1つは、「ニッポン一億総活躍プラン」では、「正規労働者と非正規雇用労働者の賃金差について、欧州諸国に遜色のない水準を目指す」との目標を掲げているが、今回示されたガイドラインでは、格差是正と言いながら、いつまでに、どこまで格差を是正するかということが示されなかった。もう1つは、本来の意味での「同一労働同一賃金」とは、労働市場の処遇を決める方針であるということだ。例えば、記者であれば正規だろうが非正規だろうが同じ賃金になるが、日本は同じ仕事でも正規、非正規で賃金を決める仕組みになっている。つまり、今回、安倍政権は同一労働同一賃金を、正規労働と非正規労働の格差を是正するための論理立てに使ったに過ぎず、本来の意味で「同一労働同一賃金」を目指すのであれば、わが国の雇用システムのあり方を抜本的に変えるところまで踏み込む必要があった。しかし、そうした労働市場の全体的なビジョンの設計、それに向けた改革に踏み込まなかったために、同一労働同一賃金という手段が自己目的化してしまい、中途半端になったために目標が曖昧になったと言わざるを得ない。その結果、現時点で格差の是正が本当に行われるかどうかは判断できない。

生産性を向上させ経済を発展させるため、働き方改革を実現する(「働き方改革実行計画」より17年3月28日)

「働き方改革実行計画」を今年度内にまとめる
【出典:9月26日所信表明演説】

右右

4年評価:3
3年評価:-
2年評価:- 点
1年評価:- 点

働き方改革実現計画をとりまとめで民間企業にも意識・行動変化の兆し

 2016年9月26日、政府は内閣総理大臣決裁によって、働き方改革の実現にむけて、実行計画の策定などについて議論する「働き方改革実現会議(以下、実現会議)」を開催することを決定し、全部で10回の会議を行い、2017年3月28日に、働き方改革実行計画を取りまとめている。

 実行計画の中では、①同一労働・同一賃金など非正規の処遇改善に向けたガイドラインの作成(前述)、②最低賃金の引き上げ等、企業への賃上げの働きかけと取引条件の改善、③罰則付き時間外労働の上限規則の導入による長時間労働の是正、④テレワークなど柔軟な働き方がしやすい環境整備、⑤女性・若者の人材育成など、活躍しやすい環境整備、⑥子育て・介護などと仕事の両立などを始めとして、様々な施策が盛り込まれ、法案化が図られてきた。この結果、民間企業の間でも働き方改革に対する関心や意識変革、社内制度の見直しなど、法案成立に先んじて意欲的な取り組みがみられ始めたことは素直に評価できる。

長時間労働是正の真の目的について問題意識の共有が不十分

 実行計画の中でも、労使ともに最も関心の高いテーマは、長時間労働の是正であるが、何のために是正が必要かについては、政労使の間で必ずしも共通認識が出来上がっているようには見えない。政府は36協定の見直しを労使に働きかけるとともに、労働基準法を改正して、①40時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を原則として「月45時間かつ年間360時間とする、②上記の違反には罰則規定を課す、③特別条項付36協定を締結している場合には、上限は「年間720時間」とする、④ただし、2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月の平均で、休日労働を含んで「80時間以内」を満たす、⑤単月では休日労働を含んで「100時間未満」を満たすこと、⑥「月45時間かつ年間360時間」を上回る特例の適用は、「年6回を上限」とするなど、詳細な規定を設ける改正法案を臨時国会に上程予定だったが、解散総選挙で提出は年明け以降にずれ込む。2019年4月以降の施行を予定しているが、法案成立が遅れれば、施行も遅れる恐れがある。

 政府は、規制強化によって従業員の健康維持、ワークライフバランス実現、ブラック企業の根絶などを目的としているが、規制が余りに複雑多岐に亘れば、企業の労務管理コストが増加し、生産性を却って落としかねない点に留意が必要である。他方、経営者サイドは、残業時間の削減により、労働コストの引下げや生産性の向上を期待しているが、残業時間が減った分、残業手当など個人の所得減少につながる恐れもあり、個人消費の抑制要因となるリスクも看過できない。また、従業員の早期代謝を促す社内制度の改革は、本来、仕事の効率化を行う業務改革とセットで実施されなければ、単に無償の持ち帰り仕事が増えてしまうだけに終わりかねない。組合サイドは、従業員の健康管理の観点を重視し、規制の強化と労基署による監督・罰則強化を望んでいるが、行き過ぎが生じれば、企業の生産性を大きく損ないかねない。長時間労働の是正を柱とする働き方改革の真の目的は、仕事や業務の無駄を見直し、空いた時間をより付加価値の高い仕事に振り向けることによって、生産性向上を実現していくことにある。そのためには、働く時間だけでなく、働く場所、使うITデバイスなどについても、より柔軟な仕組みを導入することが不可欠である。働き方改革の真の目的を政労使で共有することが成功の鍵を握るが、法案成立も遅れる状況下で、働き方改革によって生産性向上がどこまで実現するかは、見通し難い。

米国のTPPからの離脱を踏まえて、残り11カ国で11月のAPEC首脳会議までに日本がリーダーシップを発揮し、議論を前進させる(TPP11か国閣僚声明17年5月23日、安倍首相決算委員会6月5日)
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の早期発効に努力を重ねる

速やかにTPP協定の国会承認をいただき、立法府を含めた日本の固い決意を世界にしっかり発信するとともに、TPPの意義を米国に粘り強く訴えていく
【出典:11月28日参院本会議】
米国と共にTPP交渉をリードし、早期の交渉妥結を目指す。
【出典:施政方針演説2015年2月】
TPP交渉は聖域なき関税撤廃を前提とする限り反対
【出典:2012年衆院マニフェスト】

右下

4年評価:3
3年評価:
2年評価:3点
1年評価:3点

安倍首相のリーダーシップでTPP関連法を成立させたことは評価できる

  米国のトランプ大統領は、2017年1月20日の就任式で環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を表明した米国の離脱により、TPPの全参加国、もしくは全参加国のGDPの85%を占める6カ国以上が批准することがTPPの発効要件を見た図事ができず、TPPの発行自体困難になっている。

 しかし、日本としては安倍首相がリーダーシップを発揮して、TPPと関連法を16年12月9日に成立させたこと自体は高く評価できる。また、TPP交渉の中で、知的財産権の保護、政府調達、国有企業の改革などで新たにルール作りが進んだことで、今後の日本の通商政策の枠組みを作っていく上でも、様々な検討の余地が広がるなどの点においても、高い評価となる。

米国を除く11カ国でTPPその早期発効に向けた議論が始まったが前途多難

 米国のTPP離脱後、米国を除いたTPP11カ国は、17年5月21日、「米国を除くTPP署名11カ国の閣僚は、TPPの均衡の取れた成果と戦略的・経済的重要性を確認」する閣僚声明を採択したが、現時点では11カ国の足並みは必ずしもそろっておらず、米国が抜けたことで一部合意内容の見直しを求める国が出てきている。また、米国のTPP復帰を促すためにも、11カ国以外の国々に参加を呼びかけ、GDP基準を満たす必要があるが、これは現時点でまったく展望が開けていない。閣僚声明は、あくまで11カ国がTPPの早期発効を追求する方針を明記したに過ぎず、協定文の変更を含む今後の選択肢を11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに事務レベルで検討することとなっている。ただし、11カ国の中には米国抜きの協定に慎重な国も少なからずあり、「11カ国で発行を目指す」という枠組みや「年内の大筋合意」といった目標については、まったく合意できていない。日本は、合意内容の大枠を維持したまま米国抜きの11カ国による早期発効を主張しているが、立場の異なる11カ国の意見集約は難航を極める可能性が高い。現在まで、12カ国で合意した貿易・投資ルールのち、各国が米国のために妥協した項目について、修正要望が出てきており、TPPの内容が後退する恐れも否定できない。

 他方、米国のTPP復帰を促す方策の検討が共同声明に盛り込まれたが、米国は現時点でTPPという多国間貿易協定よりも、2国間の貿易協定締結を最優先しており、日本や他のTPP署名国の要望には応じる気が全くない。

現時点で、11カ国での合意に向けて議論が前進するか判断できない

 安倍総理は6月5日の決算委員会での質問に答える形で「各国と緊密に連携し、スピード感を持って11月のAPEC首脳会議に向けて議論を前進させていきたい」「TPPを推進する意図について、わが国として11カ国と米国の橋渡し役を担っていく」と表明したが、TPP11カ国での再スタートや米国の復帰は困難を極める可能性が高く、安倍政権の努力不足とまでは言えないが、TPPの成果を得るまでには相当の時間を要する公算が大きく、現時点で米国を除く11カ国で、11月のAPEC首脳会議までに日本がリーダーシップを発揮し、議論を前進させることができるか判断できない。

国家戦略特区の更なる制度拡充を図る

【出典:2016年参院選公約】
今年スタートした国家戦略特区の更なる制度拡充を図る
【出典:2014年衆院選マニフェスト】
特異な規制や制度を徹底的に取り除く「国家戦略特区制度」を創設する
【出典:2013年参院選マニフェスト】

右右

4年評価:3
3年評価:3
2年評価:2点
1年評価:3点

岩盤規制を突破する特区になり得るか

 国家戦略特区は、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るため、2015年度までの期間を集中取組期間とし、いわゆる岩盤規制全般について突破口を開いていくものと位置付けられた。また、2016年度から17年度末までの2年間を「集中改革強化期間」とし、重点的に取り組むべき6つの分野・事項を中心に、残された「岩盤規制」の改革を行うこととされている。

 安倍政権の4年10ヵ月間を通じて、第一次指定地域として、2014年5月1日に、東京圏(東京都、神奈川県、千葉県成田市)、関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)、新潟県新潟市、兵庫県養父市、福岡県福岡市、沖縄県の6地域が指定され、その後も、15年8月28日に第二次指定地域として、秋田県仙北市、宮城県仙台市、愛知県の3地域が追加され、さらに、16年1月29日には、第三次指定地域として、広島県・愛媛県今治市、千葉市(東京圏の拡大)、北九州市(福岡市に追加)の3地域が追加され、特区数は当初の6地域から12地域(既存特区に追加されたものを除けば10地域)に拡充されている。

 特区内における規制緩和も都市再生、創業、外国人材、観光、医療、介護、保育、雇用、教育、農林水産業、近未来技術など11分野、72項目と大幅にメニューが拡充されている他、認定事業数も242事業に拡大し、着々と制度拡充が進んでいることは素直に評価できる。

 国家戦略特区は、いわゆる岩盤規制の突破口と位置付けられており、特区での規制緩和を全国展開していくことが想定されている。ただし、72項目中、全国展開を進めているのは24項目と3分の1にとどまっており、農業や医療、労働分野などの岩盤規制とされているものについては、特区内での実施にとどまっているものが多く、改善を要する。また、農業特区の中で兵庫県養父市のように岩盤規制に風穴をあけて市外から11の企業が参入し、農業生産法人を設立するなど、それなりの成果が出ている特区もある一方、大多数の特区では、目立った成果に結びついていない地域も少なくない。これは、国家戦略特区諮問会議や区域会議など意思決定機関や利害関係者が多く、大胆な規制緩和項目の採用に慎重になったり、利害調整が難しいなどの問題に起因している。また、東京圏などでは外資系企業の特区への参入が期待されているものの、法人税の問題などもあり、目立った動きが生じていないのが実情である。外国人起業家の特区での認定についても、複数の特区で盛り込まれたが、実績が今のところ、出ていない。特区を活用した経済活性化に対する安倍政権の意気込みは評価されるが、実績面では不十分な結果となっており、現段階では課題が残る。

訪日外国人2020年4000万人、旅行消費額8兆円を目指す

【出典:2016年参院選公約】
観光立国を推進すべく、2020 年に向けて、訪日外国人旅行者数 2000 万人、そして 2030 年には 3000 万人を目指す
【出典:2014年衆院選マニフェスト】
観光立国の取り組みを強化。2013年に外国人旅行者1000万人、2030年に3000万人超を目指す
【出典:2012年、2013年衆参マニフェスト】

右右

4年評価:
3年評価:
2年評価:4点
1年評価:4点

2014年の公約から目標値を倍増させ、野心的な目標を掲げた

 自民党は2016年の参議院選挙の公約において、14年に掲げた「2020年訪日外国人旅行者数2000万人」という目標を倍増させ、「2020年4000万人」という野心的な目標を掲げた。日本政府観光局の公表テータによれば、2016年の訪日外国人数は、前年同期比21.8%増の2403万9053人と過去最高を記録した。2017年1~8月の累計でみても、1891万6200人(前年比17.8%)と年間ベースで2800万人を上回るハイペースの増加が続いている。訪日ビザの取得規制緩和や免税店の拡大に加えて、紅葉シーズンの到来や展示会等のイベント開催、東アジアにおける航空路線の新規就航・増便、クルーズ船の寄港増加、そして、これまでの継続的な訪日旅行プロモーションなど政府、地方自治体を含めた政策努力が、増加要因として指摘できる。

 一方で、もう1つの目標値である「旅行消費額8兆円」については、16年の訪日旅行消費額は、15年に比べて7.8%増の3兆7476億円となり、一頃と比べると増加ペースが落ちている。17年も、これまでの指標を見る限り1~3月:9679億円(前年同期比4.0%増加)、4~6月:1兆776億円(同13.0%増加)となり、今年も、前年度を上回る方向で動いており、訪日外国人、旅行消費額共に増加傾向が維持されている。現段階では、実現はしていないが、2020年の東京オリンピックによる観光客増も含め、目標達成の方向に向けて動いていると評価できる。

目標達成に向けて課題も明らかに

 一方で、課題も明らかになってきた。訪日外国人の増加により、現在でも、東京都や大阪府などの都市部のホテルでは、稼働率が80%を超える状況が続き、今後、目標の引き上げなどによりホテル不足が更に激しくなる可能性が強い。一方で、地方の旅館などは利用が伸び悩んでおり、いかに都市部の宿泊施設を確保しつつ、外国人観光客を地方に誘導するかが重要な政策課題となる。

 こうした課題に対して、政府は民泊の本格解禁を目指した新法、住宅宿泊事業法案を国会に上程し、6月9日に可決成立させている。新法では、家主に都道府県への届け出を、仲介業者に官公庁への登録を義務づけ、年間営業日数の上限を年間180日と設定しているが、各自治体が条例で上限日数を短縮できる規定も盛り込むなど、柔軟性を付与している。新法の施行は2018年1月からとなっており、今後、一定の効果が期待できる。ただし、現在でも民泊物件は全国で約3万カ所以上登録されているとされるが、近隣住民とのトラブルなどが社会問題化しつつあり、そうした問題について、今後どのように対処するかが課題として残っている。

日中韓FTAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などのアジア太平洋における広域経済連携の取組みや、EUとの経済連携協定などを通じた自由貿易化を促進する

【出典:2016年J-ファイル】
【出典:2014年J-ファイル】
戦略的海外投資や経済連携、国際資源戦略を展開

【出典:2012年衆院選マニフェスト】

右右

4年評価:3
2年評価:4点
1年評価:4点

各協定足踏み状態が続き、今後、合意に至るかは現時点では判断できない

 安倍政権は、2013年の日本再興戦略の中で、「2018年までにFTA比率70%を目指す」ことを掲げ、RCEP(東アジア包括経済連携協定)、日EU・EPAについては15年末までに合意する目標を掲げていたが、一向に交渉が進んでいなかった。しかし、15年10月5日にTPPが大筋合意されたことで、TPP以外の経済連携協定の交渉加速が期待されていたが、RCEPについては依然足踏み状態が続いている。ただし、日EU・EPA協定は、2017年7月6日に「大枠合意」がなされたことは、時間がかかったにせよ一歩前進と評価される。

 RCEPについては、アメリカのTPP離脱表明によって、日本にとっての重要性が一段と高まっている。だたし、RCEPは経済発展段階の異なる国が参加しており、高水準の自由化実現には障害が多い。日本は、オーストラリアやシンガポールなどTPP参加国と連携して、TPP並みの自由化水準を目指そうとしているが、自国市場の開放に消極的なインドや国有企業の優遇を禁じるルール導入に強く反対する中国などの発言力が大きく、自由化の度合いをTPP対比で大きく低下させない限り、妥結は困難と判断される。これまで7回の閣僚会議と19回の交渉会合が実施されているが、目標とする2017年中の妥結は見通せない状況にある。

 日EU・EPAについては、大枠合意により、ワイン、チーズ、パスタ、革製品などEUからの輸入関税が最終的に撤廃され、日本の消費者にとってのメリットは大きい。他方、日本からEUへの輸出については、自動車の関税が段階的に引き下げられ、8年目でゼロに、自動車部品は大半が即時撤廃となり、関連業界の得るメリットは大きいと判断される。

 日中韓FTAについては、2013年3月に交渉が始まって以降、12回の交渉会合が開催され、すでに4年以上が経過しているが、自由化の水準を巡って3カ国の隔たりは大きく、現時点では早期合意に至る可能性は低いと言わざるを得ない。交渉が停滞する間に中韓2カ国のFTAが2015年に成立し、日本は置いてきぼりを食らっている。EUとの大枠合意は評価できるものの、全体的には課題が山積している。

GDP600兆円の実現を目指す
【出典:2016年参院選公約】

2020年頃にGDP600兆円を達成する(新第一の矢)
【出典:自民党総裁記者会見(9月)】

右下

4年評価:3
3年評価:2
2年評価:- 点
1年評価:- 点

息の長い取り組みが必要になる

 日本再興戦略2016では、600兆円経済の実現に向けて、①潜在需要を掘り起こし、600兆円に結び付く新たな有望成長市場の創出・拡大、②人口減少社会・人手不足を克服するための生産性の抜本的向上、③新たな産業構造への抜本的転換を支える人材力強化、の3つの課題が掲げられた。こうした課題認識自体は正しいといえるが、問題はその実行手段である。①については、第4次産業革命の実現、世界最先端の健康立国を目指す、環境・エネルギー制約の克服と投資拡大など、「600兆円に向けた官民戦略プロジェクト10」を掲げ、具体的な付加価値創出額の目標を設定している点は評価される。ただし、サービス産業の生産性向上、スポーツの成長産業化など実効性が疑わしいものも含まれており、期待先行の感はぬぐえない。この他、生産性向上を実現するために、規制・制度改革の推進、イノベーション・ベンチャー創出、経済連携協定締結促進などによる海外需要の取り込みが掲げられているが、これらの進捗の歩みは遅く、そもそも成果が短期的に期待できるものではない。腰を据えた息の長い取り組みが必要である。

GDPはかさ上げされたが、現実的には相当困難を伴う目標

 名目GDP600兆円の実現は、新アベノミクス第1の矢に位置付けられている。2016年度の名目GDPは、538兆円と600兆円達成には、17年度以降の4年間の平均で2.8%の高成長が必要となる。これは過去4年間の平均値2.1%をさらに上回る高成長である。しかも、過去の名目GDP成長率が22を超えたのは、2014年度の消費税率引き上げや原油価格の大幅な下落に伴うGDPデフレーターの上昇が原因であり、実力ベースでは1%台半ばに過ぎない。しかも、内閣府は16年12月18日に2015年度の名目GDP確報値を532.2兆円と発表した。これは改定前の数値から31.6兆円嵩上げされており、その主因は、これまで費用計上されていた研究開発費を設備投資にカウントしたためという技術的な要因によるものである。こうした要因を考慮に入れると、600兆円は現実的には相当な困難を伴う目標であり、目標達成への道筋が描かれたとはいえない。


各分野の点数一覧

経済再生
財政再建
社会保障
外交・安保
エネルギー・環境
地方再生
2.6
(昨年2.7点)

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2.0
(昨年2.7点)

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2.3
(昨年2.4点)

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3.3
(昨年3.4点)

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2.3
(昨年2.5点)

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2.5
(昨年2.5点)

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復興・防災
教育
農林水産
政治・行政・公務員改革
憲法改正
2.4
(昨年2.4点)

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2.8
(昨年2.8点)

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2.3
(昨年2.4点)

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2.3
(昨年2.7点)

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2.0
(昨年2.0点)

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評価基準について

実績評価は以下の基準で行いました。

・すでに断念したが、国民に理由を説明している
1点
・目標達成は困難な状況
2点
・目標を達成できるか現時点では判断できない
3点
・実現はしていないが、目標達成の方向
4点
・4年間で実現した
5点

※ただし、国民への説明がなされていない場合は-1点となる

新しい課題について

3点

新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目的や目標、政策手段が整理されているもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの
(目標も政策体系が全くないものは-1点)
(現在の課題として適切でなく、政策を打ち出した理由を説明していない-2点)