財政再建計画は不十分で2020年のPB目標達成の道のりは描けていない
【財政再建】評価の視点 | 2.25点(5点満点) 昨年:2.0点 |
評価の視点 |
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安倍首相は2014年11月18日の記者会見において、15年 10月に予定していた消費税の10%への引き上げを17年4月に先送りする考えを示すと同時に、財政健全化の指標である国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を20年度に黒字化する目標を堅持し、2015年夏までに、達成に向けた具体的な計画を策定する旨を表明し、解散に踏み切った。では、具体的な計画が策定されたのか。また、その実現可能性はどうなのか、そうした点から評価する。 |
【財政再建】個別項目の評価結果
2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。 2015年度にプライマリー赤字のGDP比半減、2020年度まで黒字化、20年代初めには債務残高比を引き下げる |
2点(5点満点) 昨年:2点 |
2012年衆院解散時に約束した財政再建計画は、具体的な計画とは呼べない中身安倍首相は2014年11月18日の記者会見において、15年10月に予定していた消費税の10%への引き上げを17年4月に先送りする考えを示すと同時に、財政健全化の指標である国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を20年度に黒字化する目標を堅持し、2015年夏までに、達成に向けた具体的な計画を策定する旨を表明し、解散に踏み切った。その後、2015年6月30日に「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針2015)」が閣議決定された。骨太の方針2015は、「経済再生なくして財政健全化なし」をサブタイトルとしており、経済成長と財政再建の二兎を追うということを明確にした。また、16~18年度を集中改革期間と位置づけ、改革努力のメルクマールとして18年度までにPB赤字を国内総生産(GDP)比1%程度に縮小する目安を設定。社会保障や公共事業など国の一般歳出の実質的な増加額を、今後3年間で計1.6兆円に抑える方針も示された。 ただし、骨太の方針2015の段階では十分に具体的な工程は示されず、専門調査会を設置して、速やかに改革工程とKPIを具体化するとともに、改革の進捗管理、点検、評価を行うとされた。また、骨太の方針2015は地方財政への切り込みが不足していると思われ、そもそも「目安」「実質的な増加額」など曖昧な書きぶりが目立った点は評価を下げざるを得ない。 12月24日、改革の内容の具体的な内容、規模、時期等について明確化し、
2015年8月には、骨太の方針2015に規定された「経済・財政再生計画」を着実に実行するため、経済財政諮問会議の下に専門調査会として「経済・財政一体改革推進委員会」を設置し、①主要歳出分野ごとにKPIを設定するとともに、改革工程表を作成すること、②歳出改革への取組を促進するため、関係府省及び予算当局と連携し、予算編成過程からPDCAを回す仕組みを構築すること、③改革工程表に基づき、毎年度、進捗管理・点検・評価を行い、結果をその後の改革に反映すると共に、2018 年度には経済・財政一体改革の中間評価を行うこととされた。2015年12月までの間に専門調査会においては、5回の推進委員会、3つのワーキンググループ(社会保障WG(6回)、非社会保障WG(7回)、制度・地方行財政WG(5回))がそれぞれ開催され、12月24日には「経済・財政再生アクション・プログラム」が経済財政諮問会議において決定された。骨太の方針2015で掲げられた80の改革項目について改革のより具体的な内容、規模、時期等について明確化し、進捗管理しながら目標に向かって着手した点は評価できる。 |
安定した社会保障制度を確立するために、2017 年(平成 29 年)4 月に消費税率を10%にする 消費税率引き上げは実施半年前に社会保障国民会議の結論を踏まえ、経済状況を確認の上、予定通り実施するかを判断 |
3点(5点満点) 昨年:3点 |
2016年度税制改正大綱で、消費税率引き上げの先送り余地はなくなってきた自民党は、2014年の衆議院選挙のマニフェストで経済再生と財政健全化を両立させるため、2017年4月に消費税率を10%へ引き上げることを明示した。その後、2015年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針2015)」では「社会保障制度を維持するため、経済環境を整える中で、消費税率の10%への引上げを平成29年4月に実施する」と明記された。さらに、15年12月16日にまとまった与党の2016年度税制改正大綱では「「社会保障と税の一体改革」を実現するため、消費率10%への引上げを平成29年4月に確実に実施する」とされ、基本的に税率引上げ先送りの余地はかなり小さくなっていると評価できる。2015年秋から年末にかけてみられた軽減税率の議論に関する政治的な妥協も、軽減税率制度自体には問題があるとしても税率を10%へ引き上げるための、あるいはインボイス制度導入への道筋をつけるための環境整備と見ることが可能である。消費税率引き上げに向けて、社会保障制度改革の議論は必要不可欠ただし、消費税率の引き上げは安定した社会保障制度を確立することが目的であり、税率引き上げに合わせた社会保障制度改革の議論が大きく進んでいるようには見受けられない。また、軽減税率は1兆円規模での導入が与党間で合意されたが、その財源には十分なメドがたっておらず、安定した社会保障制度を確立するための消費税率引上げというコンセプト自体にゆらぎが生じている。また、今回は税率引上げに関する景気弾力条項がないとはいえ、10%への引き上げは一度延期された事実があるため、多少の景気悪化でも再延期がありうるという観測が完全に払しょくされているわけではない。 |
軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。2017年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について早急に具体的な検討を進める。 |
3点(5点満点) 昨年:-点 |
目的と効果がはっきりしない軽減税率の導入について、国民に説明が必要自民党は2014年の衆議院選挙のマニフェストで、「軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入します。2017年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について早急に具体的な検討を進めます。」としていた。15年12月16日、自民党と公明党は、17年4月に消費税率を10%に引き上げるのに合わせ、「酒類、外食を除く食品全般」と「新聞」の税率を8%に据え置く軽減税率を導入することを盛り込んだ2016年度与党税制改正大綱を決定した。検討を行って結論を出したことそれ自体は一定の評価ができる。ただし、軽減税率制度に対しては、十分な低所得者対策にならず目的と効果がはっきりしない、線引きが困難な商品があったり企業の生産活動に歪みを与えたりする、今後の軽減範囲の設定等が政治的利権となりかねない、などの指摘が多くの専門家からなされており、その目的や必要性において十分に国民の理解を得たといえるか疑問なしとしない。 軽減税率の導入で生じる財源につては、事実上の先送りさらに、酒類、外食を除く食料品全般という広範囲に軽減税率の導入が決定されたが、税収が1兆円規模で減ることになるにもかかわらず、その安定財源についてはメドがたっていない。低所得者の医療や介護の自己負担に上限を設ける「総合合算制度」の導入を見送ることで生じる4000億円の財源が少なくともあるという点についても、かつて菅直人内閣当時の「社会保障・税一体改革成案」(11年6月30日、政府・与党社会保障改革検討本部決定)で最大4000億円程度とされていたにすぎず、総合合算制度に関する議論が野田佳彦内閣以降まったく進められてこなかったことに鑑みると財源と言えるのか疑問である。2016年度与党税制改正大綱では、安定的な恒久財源の確保について自民党・公明党両党で責任をもって対応するとされたが、事実上の来年以降への先送りであり、国民に対する十分な説明にはなっていない。インボイス(税額票)が導入される21年までは、「益税」の問題も区分経理や税額計算については、与党税制改正大綱において2021年4月に、インボイス制度として「適格請求書等保存方式」を導入するとしたが、それまでの間は簡易な方法が認められることになった。すなわち、消費税率の10%への引き上げ時である2017年4月より税率が複数になるにもかかわらず、現行の請求書に近い簡易な方式(区分記載請求書等保存方式)が認められ、さらに区分経理が困難な中小事業者には税額計算の特例(みなし納税)も認められる方向となった。品目ごとに税率や税額を記すインボイス(税額票)の発行が行われるまでの間は、事業者間での税額計算が不正確となる可能性が高く、納めるべき消費税が事業者の手元に残る「益税」の問題も拡大する恐れが強い。消費税制度に対する国民一般の信頼や理解という観点からは、懸念を覚えざるを得ない制度が当面続くことになる。 |
5年間の集中財政再建期間に、国地方の公務員人件費を年間2兆円削減 |
1点(5点満点) 昨年:1点 |
人件費削減は議論されているが、あまりに過大な目標のため、目標達成は困難2012年の衆議院選挙で示された公約であり、国家公務員については2014年7月25日に「国家公務員の総人件費に関する基本方針」が閣議決定され、総人件費の抑制やICT活用などによる業務改革推進で定員を合理化することなどが謳われている。また、地方公務員については人事院が「地方公務員の給与制度の総合的見直し」を2014年12月にとりまとめ、2015年度以降の取組みが進められている。その後、閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針2015)」において、「国・地方の公務員人件費について、給与制度の総合的見直し等を着実に進めることにより総額の増加を抑制していく」旨が盛り込まれた。これを受けて、12月24日に経済財政諮問会議が決定した「経済・財政再生アクション・プログラム」及び「経済・財政再生計画改革工程表」において、内閣官房内閣人事局及び総務省公務員部を主担当として、総人件費の額や総定員数、給与制度の総合的見直しの取組み自治体数をKPIとしながら公務員人件費の総額の増加の抑制を進める工程が示された。 ただし、いつまでにどれだけの金額の人件費を削減するかなどの定量的な情報は示されてはおらず、現時点で目標達成は困難だと言わざるを得ない。 |
各分野の点数一覧
経済再生
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財政再建
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社会保障
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外交・安保
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エネルギー・環境
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地方再生
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復興・防災
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教育
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農林水産
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政治・行政・公務員改革
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憲法改正 |
評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・この3年間で未だに着手しておらず、もしくは断念した計画であるが、国民にその事実や理由を説明している
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1点 |
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
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2点 |
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない |
3点 |
・着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できるもの
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4点 |
・この3年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |
新しい課題について
3点
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新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの |