第二次安倍政権成立から3年を迎えた2015年12月26日、言論NPOはこの3年間の政権の通信簿となる、「安倍政権3年実績評価」の全文を公表しました。
※全ての点数において国民に説明していなければ-1点
これは、2014年衆議院選挙や、2013年参議院選挙、2012年衆議院選挙の選挙公約、さらには、安倍首相の所信表明や施政方針演説などをベースに、国民に対して約束した安倍政権の経済(アベノミクス)や外交、原発、復興などの中心的な政策、11分野71項目を抽出し、3年間でどのような成果を出したのかを評価したものです。
評価作業には各分野の約40氏の専門家に協力をいただいたほか、有識者303人がアンケートで参加し、それぞれの政策実行の追跡調査やヒアリングなどを下に行われました。そして、選挙時の公約の達成状況や、それらが修正された場合に国民に説明されたかなどを、一定の評価基準や採点基準をもとに判定を行いました。
その結果、11分野71項目の評価は5点満点の平均で2.7点となり、政策項目や計算方法などにより単純に比較はできないものの、昨年の2.5点からは微増となりました。
(※このうち60項目に関しては毎日新聞とも共同の評価を行いましたが、少数二桁を四捨五入した平均点では71項目と同様の結果となりました)
各分野の政策が実行され、その評価が問われる段階に
言論NPOは、2004年の小泉政権以来、政権の実績評価を行っており、2012年に発足した第二次安倍政権では,2013年、14年に続き今回が3度目の評価となります。
評価は一定の評価基準の下で行われており、安倍政権下の3年間で選挙の際に国民に約束された71項目の公約がどう着手され、目標の実現の方向に向かっているのか、また、うまく行かなかった場合、目標などを修正した場合、さらには公約にないものを行った場合に国民にそれを説明したか等も採点され、説明が足りなかった場合は減点となっています。
今回は国民への説明が不足していることを理由に、12の政策項目で減点されました。
安倍政権は3年を経て大部分の政策は実現段階に入っているため、それぞれの政策の成果で評価が問われる段階に入っています。
安倍政権の今年の実績が平均ベースで昨年よりも若干高い評価となったのは、外交・安全保障分野の得点が3.6点(昨年は3.2点)と上がったことが寄与しています。これには、TPP交渉が大筋で合意したこと、首相自身が64ヶ国・地域を積極訪問する攻めの外交や日米関係の深化、周辺国との関係改善が影響しています。ただ、積極的平和主義の核心が依然として明確ではなく、どのように周辺諸国(特に中国)を巻き込みながら、「国際社会の平和と安定」を実現していくのか、その長期的なビジョンを国内外に示していくべきですが、それがなされていないことが減点要素となっています。
反対に評価が低かったのは、「エネルギー・環境」の2.2点、「社会保障」と「財政」の2.25点でした。「エネルギー・環境」では懸案だった電源構成やCO2の削減目標が今回初めて出されたものの、再生可能エネルギ-の取り組みは力不足の他、化石燃料に依存している構造が世界の潮流と食い違っていること、財政再建では先の選挙で約束した具体的な財政再建計画が提起されず、2020年目標も実現の目処が立っていないこと,社会保障全体は高齢化が進む中でも積極的な取り組みが見られないこと、等が理由となっています。
今回の評価結果71の政策項目で見てみると、今年の評価が昨年の評価を上回ったのは16項目あります。TPPは、大筋合意に至り、交渉の最終局面で日本が一定の役割を果たしたため、また、安保法制は可決されたために高評価となりましたが、国民に対する説明が減点要因となっています。逆に、昨年の評価を下回った項目も15項目あります。安倍政権の中心的な政策であるアベノミクスでも、経済成長目標や物価目標が現状のままでは困難だ、とされたほか、農業の減反政策や行革など一定の進展がある政策でも、その政策目的が修正され、曖昧になったり、国民への説明が足りないものは評価が下がっています。
また昨年と今年で点数が同じものは34項目となっています。
今回の評価の対象になったのは主に2014年の衆院選時のマニフェストですが、2012年衆議院選や13年参議院選の公約と合わせて評価を行っています。14年の公約内容は抽象的になっており、政策の目的や目標が分かりにくく、変更されても何ら説明がなされないなど公約自体が約束として不完全で、それぞれの政策が、日本が直面する課題の解決や日本の将来に基づいた政策体系として提起されていないことも実績評価にマイナスの影響を与えています。
各分野の71項目にわたる詳細な評価結果は、下記の表の点数をクリックしてご欄いただけます。
なお、今回の評価には氏名の公表を承諾した下記の各分野の専門家30氏を含めて約40氏の方々にご協力いただきました。この場をお借りして、御礼申し上げます(五十音順)。
池本美香(日本総合研究所主任研究員)
岩井奉信(日本大学日本大学教授)
内田和人(三菱東京UFJ銀行執行役員)
大泉一貫(宮城大学名誉教授)
小黒一正(法政大学経済学部教授)
小幡績(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
加藤出(東短リサーチ株式会社代表取締役社長)
加藤久和(明治大学政治経済学部教授)
神谷万丈(防衛大学校 総合安全保障研究科・国際関係学科 教授)
亀井善太郎(東京財団研究員・政策プロデューサー)
川崎興太(福島大学共生システム理工学類准教授)
橘川武郎(東京理科大学大学院イノベーション研究科教授)
新藤宗幸(公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所理事長)
菅原淳一(みずほ総合研究所株式会社調査本部 政策調査部上席主任研究員)
鈴木準(大和総研主席研究員)
田中秀明(明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授)
田中均(日本総合研究所国際戦略研究所理事長)
田中弥生(大学評価・学位授与機構教授)
西沢和彦(日本総合研究所上席主任研究員)
早川英男(富士通総研エグゼクティブ・フェロー)
藤波匠(日本総合研究所調査部上席主任研究員)
藤野純一(国立環境研究所主任研究員)
増田聡(東北大学大学院経済学研究科教授)
松下和夫(京都大学名誉教授)
宮本雄二(宮本アジア研究所代表)
矢嶋康次(株式会社 ニッセイ基礎研究所経済研究部チーフエコノミスト)
山田久(日本総合研究所調査部部長)
湯元健治(日本総合研究所副理事長)
渡部恒雄(東京財団ディレクター・上席研究員)
「安倍政権3年の通信簿」 各分野の評価結果
経済再生 TPP合意などを実現したが、「三本の矢」の目標は未達の公算大、経済の好循環は不十分 評価政策数15 (評価全文を読む) |
2.8点 (昨年2.8点) |
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財政再建 財政再建計画は不十分で2020年のPB目標達成の道のりは描けていない 評価政策数4 (評価全文を読む) |
2.25点 (昨年2.0点) |
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社会保障 マクロ経済スライドを発動せず、将来世代の年金の持続性に疑問。 国保の保険者変更や病床削減についても国民への説明不足 評価政策数8 (評価全文を読む) |
2.25 (昨年2.0点) |
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外交・安保 積極的な攻めの外交や日米関係の深化、周辺国との関係改善で評価上げる。 安保法制などの国民への説明で減点 評価政策数9 (評価全文を読む) |
3.6点 (昨年3.2点) |
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エネルギー・環境 電源構成は示したが、再エネは力不足。化石燃料依存は世界の潮流に逆行 評価政策数5 (評価全文を読む) |
2.2点 (昨年2.0点) |
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地方再生 統治機構改革には消極的で、目指すべき改革像が見えない 評価政策数5 (評価全文を読む) |
2.4点 (昨年2.0点) |
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復興・防災 復興財源は確保したが、生活基盤確保のためのきめ細かな対応は不十分 福島原発は、国が前面に立って責任を果たしているとはいえない 評価政策数7 (評価全文を読む) |
2.3点 (昨年2.8点) |
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教育 教育予算確保、幼児教育無償化は進展はあったが、財源のめどが立たず 大学改革は既存制度との関連が不明確で、大学側の理解も進んでいない 評価政策数9 (評価全文を読む) |
2.8点 (昨年2.9点) |
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農林水産 農協改革や農業の産業化に動いたが、減反後の農政のビジョンが見えない 評価政策数5 (評価全文を読む) |
2.6点 (昨年3.2点) |
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政治・行政改革 統治機構の改革に消極的で公約後退、行政改革も不徹底 評価政策数3 (評価全文を読む) |
2.7点 (昨年3.0点) |
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憲法改正 改正原案の作成に着手したものの、現時点で憲法改正の見通しで説明不足 評価政策数1 (評価全文を読む) |
2.0点 (昨年2.0点) |
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評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・この3年間で未だに着手しておらず、もしくは断念した計画であるが、国民にその事実や理由を説明している
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1点 |
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
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2点 |
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない |
3点 |
・着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できるもの
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4点 |
・この3年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |
※全ての点数において国民に説明していなければ-1点
新しい課題について
3点 |
新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの |