安倍政権2年実績評価【経済再生】評価結果
【経済再生】総論 | 2.8点(5点満点) 昨年:3.2点 |
評価の視点 |
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安倍政権の経済政策は、アベノミクスという「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の三本の矢から成る。政権発足から2年間で、アベノミクスがデフレ脱却、名目3%、実質2%成長の実現に向けてどのような効果を発揮したのか、あるいは、発揮する道筋がどこまで見えたのかという観点から評価する。アベノミクスの最終的な目的は、第一の矢である金融政策によって円安・株高を実現し、これを契機とする企業業績の回復が民間設備投資の拡大、賃金上昇による持続的な個人消費の拡大に結び付く好循環を実現することであり、この点からは、未だ十分な効果が発揮されたとは判断しがたい。公共事業の拡大など財政支出の拡大という第二の矢は、景気下支えの役割を果たしてはいるが、財政制約面から持続性には乏しく、安倍政権発足後のGDP統計を見ると、一番増えたのは公共事業への投資であった。民間企業設備投資については設備投資計画(日銀短観)で過去数年の中では高い伸びを示しているが、7~9月期までの実績を見る限り、駆け込み需要を除けば増えておらず、公需から民間需要へのバトンタッチが進むかは未だ不透明である。この好循環を実現する鍵は、第三の矢である成長戦略の着実な実行によって、民間企業のリスクテイクを促すとともに、企業業績の回復が賃上げ、個人消費の拡大という形での景気回復メカニズムを発揮できるかどうかにある。 まず、第一の矢である金融政策に関しては、異次元緩和と呼ばれる市場の予想を上回る大胆な金融緩和によって、市場の「期待」は大きく変化した。円安・株高によって、個人や企業のマインド改善が明確となり、円安は輸出企業の業績改善をもたらし、株価の上昇につながった。同時に、株価上昇は、資産効果の発現という形で個人消費の回復をもたらした。第二の矢である機動的な財政政策については、消費税率引き上げ前に追加経済対策の発動をおこなったものの、消費税引き上げ後の個人消費の回復の動きが当初想定していたよりは非常に鈍いという状況が続いている。ただし、大規模な財政支出は、財政制約面から持続不能であり、現実にも財政政策の効果が切れると大きな需要の反動減が生じる。この意味で、第二の矢は、第三の矢の効果が発揮されるまでの時間を稼ぐ政策に他ならず、同時に財政規律を緩ませるリスクを冒すものであることには留意が必要である。13年1月22日の政府・日銀の共同声明でも、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、政府及び日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを示しており、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進することになると記載されている。その点から言っても、財政出動による景気刺激策が多用されるべきではない。ただ、安倍政権において、そうした認識がどこまであるのかは不透明である。 アベノミクスの最重要の矢である成長戦略については、本来持っている日本経済の潜在力、成長力を高めていくために、企業のリスクへの積極的なチャレンジというものを促していくような構造改革、あるいは税制改革などを行っていくことによって、企業が先行きの経済に自信を持つような状況をいかに生み出していくか、ということである。政府が打ち出した「日本再興戦略」(14年6月24日改定)では、わが国経済がデフレから脱却し、少子高齢化、人口減少が続く下でも持続的な経済成長を遂げるために、①産業の新陳代謝を活発化させることによって、産業構造を高度化する、②健康・医療、環境・エネルギー、次世代インフラ、農業の4分野を新たな内需拡大の柱に育て上げる、③製造業のみならず非製造業も、大企業のみならず中小企業もグローバル展開を加速することによって海外市場を開拓すると同時に海外からの対日投資拡大をも促すことなどが掲げられた。そのためには、TPPなど経済連携の促進、大胆な規制改革、法人実効税率の引き下げ、労働市場の改革による雇用の流動化促進が不可欠の課題であり、これらの課題に対する安倍政権の取り組みは、なお不十分といえる。 経済政策全体に対する安倍政権2年の実績を見てみると、今までの政権にないぐらい、様々な取り組みが動き始めており評価できる。しかし、現時点での好景気は、異次元の金融緩和や公共事業等の公需によるものであり、成長戦略で出された項目をどれだけ早く実現し、民需へのバトンタッチの姿を示すことができるか。加えて、より長期的にみると、社会保障改革がアベノミクスにどう位置づけるか。投資は日本の将来を展望して行われることから、少子高齢化が急速に進む日本の社会保障改革を、きちんとアベノミクスに位置づける必要がある。こうした点が、安倍政権の経済政策見ていく上でのポイントとなる。 |
【経済再生】個別項目の評価結果
「経済再生本部」を司令塔に「成長で富創出」ができる経済に転換、今後10年間の平均で、名目3%程度、実質2%程度の経済成長実現をめざす 【出展:2012年、2013年衆参マニフェスト】 |
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内閣府が9月8日に発表した4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整値)改定値は、物価変動を除く実質で前期比1.8%減、年率換算で7.1%減となった。消費増税の影響で個人消費や設備投資等の内需が落ち込み、大幅なマイナスとなった。その後、11月17日発表した7~9月期の実質国内総生産(GDP)の速報値は前期比で年率1.6%減と、2四半期連続のマイナス成長に沈んだ日銀も2014年度の実質成長率の見通しを現行の1.0%から0.6%程度に下方修正する見通しである。
成長のカギとなるのは成長戦略であるが、効果が出るまでには5年~10年程度の時間がかかり、また、いわゆる岩盤規制改革など着実に実行できるか不透明なものも多く、政府が目標とする10年間の平均名目3%、実質2%の経済成長については、現時点では見通せない。
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2%の物価目標を設定し、日銀法の改正も視野に政府日銀が連携し、大胆な金融緩和を行う(第一の矢) 【出展:2012年、2013年衆参マニフェスト】 |
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日銀は13年4月に2%の物価目標を2年程度で達成するため、資金供給量(マネタリーベース)を積み増す「量的・質的金融緩和」を導入。これを受けて、生鮮食品を除くコアCPIは一時1%を超えて、2%を伺うところまでいったものの、原油価格などエネルギー価格が下がり、14年10月のコアCPIは0.9%となった。また、エネルギーを除くコアコアCPIでは1%を超えたこともない。こうして物価上昇が鈍る中、日銀は14年10月31日に、マネタリーベースを年10兆~20兆円増やし、年80兆円に拡大する追加緩和を行った。
しかし、実質2%の成長を実現するためには、資本、労働、それから全要素生産性というイノベーションによる生産性向上が必要となる。具体的には、設備投資は1990年代並みの伸びを回復して、長期的にかなりの伸びを実現させ、安定的な労働力人口を確保、生産性の向上、名目賃金の上昇など多くの要素が実現しないと難しい。現時点では、需給ギャップが大きく縮小したり、実質賃金の上昇が見込めない中では、まもなく期限が到来する2年での目標達成は困難である。
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2、3年は景気の落ち込みや国際リスクに対応できる弾力的な財政運営を推進(第二の矢)【出展:2012年衆院選マニフェスト】 |
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消費増税後に個人消費が落ち込むなか、公共工事が景気の下支え役となった。ただ、これは政府が2014年度予算の執行を4~9月に集中させた予算執行の前倒しの効果によるもので、秋以降減速する可能性がある。また、資材価格の高騰や人手不足などによって、各地で公共工事の入札不調が相次いでおり、今後も下支えできるがどうかは不透明である。
そもそも第二の矢はあくまでも経済が本格的に回復するための時間稼ぎに過ぎないが、依然として財政支出に依存した経済が続いており、民需中心経済への明確な道筋が見えていない。これは統計にも出ており、安倍政権発足後のGDP統計を見ると、一番増えたのは公共事業への投資であった。民間企業設備投資については設備投資計画(日銀短観)で過去数年の中では高い伸びを示しているが、7~9月期までの実績を見る限り、駆け込み需要を除けば増えておらず、公共事業から民間設備投資への好循環が生まれたとはいえない。
また、政権が掲げる「経済再生と財政再建の両立」という観点からも過度の財政出動は問題である。13年1月22日に政府・日銀は共同声明を表明し、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、政府及び日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを示した。ここでは、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進することが記載されている。その点から言っても、財政出動による景気刺激策を多用するべきではない。 |
雇用拡大や賃金上昇が、消費の増加や景気回復につながる「成長の好循環」をつくり上げる 【出展:2013年参院選マニフェスト】 |
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「成長の好循環」が実現するためには、予想インフレがあって、実質金利が下がり、それによって設備投資が増える。一方で、資産価格が上がる。その結果、企業収益がよくなり、雇用が増え、賃金が上がり、消費が増える。また、円安によって輸出が増え、輸出の数量が増えることによって、設備投資が起こる、そういった循環が生まれる。また、量的緩和により日本銀行による国債買入れが大きく増加し、日本銀行以外の主体は、全体として国債投資を減少させ、貸出のほか、株式・投信や社債への投資フローを増加させるというポートフォリオ・リバランスが起こり、企業が動いていく。そういったサイクルが回ることである。では実際にそれが起こっているのか。 アベノミクスによって円安にはなったものの貿易統計による輸出数量は横ばいが続いた。しかし、11月20日発表の貿易統計速報では、貿易収支は赤字が続いているものの、輸出は前年比9.6%増の6兆6885億円、数量ベースでも4.7%増となり、直近では上向き始めた。それに合わせる形で、11月28日発表の鉱工業生産もプラスであり、改善の端緒はある。一方、安倍政権発足後のGDP統計を見ると、一番増えたのは公共事業への投資であった。民間企業設備投資については設備投資計画(日銀短観)で過去数年の中では高い伸びを示しているが、7~9月期までの実績を見る限り、駆け込み需要を除けば増えておらず、公共事業から民間設備投資への好循環が生まれたとはいえない。 また、安倍政権になってから雇用は100万人増えた点は評価できる。しかし、正規雇用は9万人減る一方で、非正規雇用が147万人増えており、雇用は増えたものの、雇用の質が改善しているとはいえない。 加えて、賃金上昇について、政府は政労使会議を開催し、賃金引き上げを要請。これに応じて、14年の春闘で大手企業が相次いでベースアップを実施した。その結果、厚生労働省の勤労統計調査(14年9月)によると、現金給与総額は残業代など所定外給与が増え、26万6595円と前年同月より0.8%増え7カ月連続プラスとなった。また、基本給を表す所定内給与も24万2211円と0.5%増え4カ月連続のプラスとなった。本来賃上げは労使で交渉の上、実現することだが、これまで、日本の企業は利益が上がっても賃上げしない状況が続いていた点から見ると、政労使会議を開催し状況を変えたという意味では評価できる。しかし、物価変動分を考慮した実質賃金ベースの水準をみると、現金給与総額は2.9%減でマイナスが15カ月続いており、消費増税や円安による物価の上昇に賃金の伸びは追いついておらず、多くの人が景気回復を実感できるまでには至っていない。 また、日銀は異次元の緩和などで、マネタリーベースをかなり増やしている割には、今までの安定的なマネーストックのトレンドを変えられてはいないし、出回っているお金は増えておらず、貸出も国内投資向けにはそれほど増えていない。 以上のことから、現時点で成長の好循環に入ったとは言い切れないが、今後、好循環になる可能性も否定できず、現時点では様子を見るしかない。加えて、好循環の端緒はところどころで散見できるが、それを加速させて循環を起こさせるという手段が第三の矢で提起されているとは言えない。 |
同一価値労働・同一賃金を前提、パートタイム労働者の均等・均衡待遇の実現に必要な法整備を行い、非正規労働者の処遇を改善する 【出展:2013年参院選マニフェスト】 |
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同一価値労働・同一賃金とは、性別、雇用形態、人種、宗教、国籍などに関係なく、同一の職種に従事する労働者に対して同一の賃金水準を適用し、労働の量に応じて賃金を支払うことをいう。これを前提にして、非正規労働者の処遇を改善することを、自民党は2013年の参議院選挙の公約に掲げた。しかし、第二次安倍政権において何ら議論されておらず未着手とせざるを得ない。 ただ、14年度の臨時国会に派遣社員の受け入れ期限の制限を事実上撤廃する労働者派遣法改正案が出されたものの、廃案となった。この改正が実現していれば、一般派遣と特定派遣という区分をなくし、すべての派遣事業者を許可制に変更する。その結果、原則として、派遣で同じ人に働いてもらえるのは3年となり、3年経過後、同じ人に引き続き働いてほしい場合は、派遣先の会社が正社員として雇用するか、派遣事業者が正社員として雇用するかの2通りとするものである。加えて、派遣事業者と無期雇用契約を結んでいれば、派遣先でも無期限で働けるということも新しく盛り込まれた。派遣で働いている人間にとっては、派遣先か派遣事業者のどちらかで正社員として働ける機会が増える可能性はある。しかし、3年以内に変わった場合にどうなるのか、曖昧な部分も多い。また、正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者については、これまで、(1) 職務内容が正社員と同一、(2) 人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一、(3) 無期労働契約を締結しているパートタイム労働者であることとされていたが、2014年4月1日改正後は、(1)、(2) に該当すれば、有期労働契約を締結しているパートタイム労働者も正社員と差別的取扱いが禁止されるなどパートタイム労働法の改正が行われ、一定程度の待遇改善は図られている。しかし、非正規労働者の処遇改善にはほど遠いものである。 |
TPP交渉は聖域なき関税撤廃を前提とする限り反対 【出展:2012年衆院マニフェスト】 |
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2013年2月に安倍首相は訪米し、その直後に記者会見を行いオバマ大統領との首脳会談で「TPPでは『聖域なき関税撤廃』が前提ではないことが明確になった」と表明。その後、3月15日に記者会見を行い、TPP参加を決断したことを明らかにした。自民党のマニフェストを形式的に守りながら、実現に向けて努力をしている点は評価できる。 なお、2013年のJファイルでは重要5品目などの聖域を確保するなどが掲げられている。聖域の確保をどう解釈するのかという問題はあるが、国内農業や産業への影響を勘案しつつ、ここまでなら譲ることができるというラインまで自由化をして、譲るところについては補償措置や改革のための手当てをするなどの措置を採れば、「聖域を確保した」と解釈できる。 交渉については、11月10日、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する12カ国の首脳級会合が開かれたが合意には至らず、「終局が明確になりつつある」と強調したものの目標時期は明確化されず、当初予定の14年内の合意は見送られた。また、今後の工程についても示されておらず、TPPが日本の主張の沿う形で合意できるのか現時点では判断できないが、合意に向けて動いている表現にはなってきたことは評価できる。 |
特異な規制や制度を徹底的に取り除く「国家戦略特区制度」を創設する 【出展:2013年参院選マニフェスト】 |
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国家戦略特区はこの1年間で制度的枠組みや区域指定などが行われ、各区域で事業が始まる実行段階に入った。さらに、政府は10月10日、国家戦略特区の規制緩和策の第2弾をとりまとめた。今回の緩和策では、医師資格のない企業経営者などを医療法人のトップに就きやすくするほか、シルバー人材センターの労働時間上限を週20時間から週40時間に延長する。起業支援の一環で、法人設立のための手続きを1カ所で完結できる「ワンストップセンター」を設置。保育士不足の状況を踏まえ、地域限定の保育士資格を創設する案も盛り込んだ。このように昨年よりは前進しているものの、農業分野では、農業生産法人への出資要件緩和などの調整がつかなかったなど踏み込み不足が目立った。規制緩和が不徹底な部分は依然として残存しており、真に「特異な規制や制度を徹底的に取り除く」制度となるかどうかは不透明である。 また、農業、医療など規制緩和のモデルとなる国家戦略特区の関連法案が14年度の臨時国会に提出されていたが、今回の解散で廃案となった。特区に指定されていた地域では事業拡大を検討中だったこともあり、影響は大きい。 |
立地競争力の観点から思い切った投資減税や法人税の大胆な引き下げを実行し、今後3年間(2013年から)で、設備投資水準の年間70兆円の回復、2020年までに外国企業の対内直接投資残高を現在の2倍の35兆円に拡大させる 【出展:2013年参院選マニフェスト】 |
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安倍政権は日本再興戦略(14年6月改定)にて「3年間でリーマンショック前の設備投資水準(70兆円/年)を回復する」との目標を掲げた。2013年度は66.9兆円で、14年度は1~9月期では年率換算で13年度の設備投資額を上回る67.6兆円と徐々に増えてはいるが、2015年度で70兆円を超えるかは微妙な状況であり、現時点では目標達成について判断できない。また、15年度以降も増えていくという展望が持てているかどうかもわからない。 また、法人税減税を日本再興戦略に盛り込み、数年で法人実効税率を 20%台まで引き下げることを目指すことを目標とし、赤字法人への課税強化などにより、2%台半ばの税率引き下げに必要な代替財源の確保にめどをつけ、宮沢洋一経済産業相は引き下げ幅を「15年度から2.5%以上」と表明していた。しかし、再増税の延期で財源確保ができるかは不透明で来年度からの実現は微妙な状況である。確かに、法人税減税によって多少の空洞化を抑制する効果はある。しかし、法人税減税だけで日本の国内設備投資を盛り上げることは困難であり、第三の矢で提起されている農業、医療などの岩盤規制を改革し、新しい市場をつくり、コーポレートガバナンスの強化など、様々な政策と組み合わせることで法人税率引き下げが効果を上げることになる。現時点で、法人税減税が先行しているものの、これだけでは立地競争力は強くならない。 |
科学技術を国家戦略として推進し、世界で最もイノベーションに適した国を創り上げる 【出展:2013年参院選マニフェスト】 |
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研究開発の成果を円滑に実用化につなげ、成長戦略に基づいて府省の枠を超えた資源配分を実現するため、「科学技術イノベーション予算戦略会議」を設置するとともに、総額 500 億円の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」を創設し、内閣府に予算計上を行った。さらに、内閣府設置法の改正法案が4月に成立し、総合科学技術会議を「総合科学技術・イノベーション会議」への改組等が行われるなど司令塔機能を発揮するための新たな体制整備がなされた。 他にも、産業や社会に大きな変革をもたらすイノベーションの創出を狙った「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」を創設し、必要な法改正(独立行政法人科学技術振興機構法の改正法)も2月に成立。研究開発法人の機能の強化のため、昨年 12 月に、研究開発成果の最大化を第一目的とする世界最高水準の新たな研究開発法人制度の創設を閣議決定し、6月に独立行政法人通則法の改正法及びその整備法が成立するなど体制整備は進んでいる。 全体的に昨年よりは前進していると評価できるが、科学技術イノベーションランキングは今年も5位にとどまり、研究開発投資目標についても「日本再興戦略 改訂2014」で引き続き今後の課題とされている。「科学技術イノベーション総合戦略 2014」を6月24日に閣議決定し、取り組みを重点的に強化する方針を示しているが、目標実現に向けた明確な展望は描かれていない。 |
再生医療の実用化をさらに加速させる 【出展:2012年衆院選Jファイル】 |
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再生医療推進のための二つの法律(改正薬事法、再生医療安全性確保法)が11月に施行される予定である。これまでは、医療機関が自前で培養施設を持たなければならなかったが、費用の負担が大きく、臨床研究が遅れる原因となっていた。それが安全性確保法によって、医療機関は企業などに細胞培養事業を委託できるようになり、治療法の開発に専念できる環境が整えられつつある。 また、再生医療の技術を使って人の心臓の筋肉や神経、網膜などを安く大量につくり出す手法を確立するため、産学官が連携して共同開発に乗り出した。経済産業省が所管する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が中心となり、ニプロやクラレなど民間28社、東京大など11大学と連携する。政府・地方自治体が所管する7つの研究・医療機関も参加し、4つのチームを組み、2018年度の実用化を目指している。 このように研究体制の整備は進められているが、人材面では課題もある。再生医療に取り組む医療機関や企業が増えると考えられ、治療や臨床研究に使う細胞の品質管理、さまざまな法令の順守などが求められるが、現場で知識を持つ人は多くはなく、医学部や大学院でも再生医療の体系的な教育は実施されていない。経済産業省などの調査に基づくと、現在、臨床研究などを担う医療機関の細胞培養施設(CPC)で働く人は全国で約600人(2012年)。20年には約9000人に増えると試算され、年約1000人の育成が必要になる。 このため、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長らが細胞培養に関する知識や技術を持つ人材育成の支援団体「再生医療支援人材育成コンソーシアム(仮称)」の設立準備を進めているが、ハードルは高い。 7月22日閣議決定の「健康・医療戦略」では2020 年頃までの達成目標として、「iPS 細胞技術を活用して作製した新規治療薬の臨床応用」、「再生医療等製品の薬事承認数の増加」、「臨床研究又は治験に移行する対象疾患の拡大 約 15 件」、「再生医療関係の周辺機器・装置の実用化」、「iPS 細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化への提言」を掲げているが、人材面での課題がクリアされるか現時点では見通せないため、どこまで再生医療が実用化されるかも現時点では見えない。 |
観光立国の取り組みを強化。2013年に外国人旅行者1000万人、2030年に3000万人超を目指す 【出展:2012年、2013年衆参マニフェスト】 |
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ASEAN 諸国を中心にビザ発給要件を緩和、外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充などの取り組みによって、2013年の訪日外国人旅行者数は1036万人となり、「2013年に外国人旅行者1000万人」は達成した。日本政府観光局が10月22日発表した2014年1~9月の訪日外国人客数も前年同期比26%増の973万人となり、年全体では1300万人に達するペースである。 さらなる訪日旅行者増を目指して、6月には、「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」が観光立国推進閣僚会議で決定され、①「2020年オリンピック・パラリンピック」を見据えた観光振興、②インバウンドの飛躍的拡大に向けた取り組み、③ビザ要件の緩和など訪日旅行の容易化、④世界に通用する魅力ある観光地域づくり、⑤外国人旅行者の受け入れ環境整備、⑥MICE(Meeting、Incentive、 Convention、 Eventの頭字語/国際会議、展示会など)の誘致・開催促進と外国人ビジネス客の取り込み、の施策が打ち出されている。 達成期限が2030年と遠いために、現時点での判断は困難な部分もあるが、必要な施策は打ち出されており、また、東京五輪という好材料もあるため、目標達成の方向で動いていると評価できる。 |
2020年までにあらゆる分野で女性が指導的な地位を占める割合を30%以上とする目標を実現 【出展:2012年衆院選マニフェスト】 |
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「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という目標に対して、2013年の管理職比率は7.5%となり、前年の6.9%からの微増にとどまっている。 政府は10月10日、包括的な政策集「すべての女性が輝く政策パッケージ」をとりまとめ、さらに、目標を達成するための具体策として、臨時国会で「女性活躍推進法案」の成立を目指していたが、廃案となった。 法案では、301人超の大企業や国、地方自治体に対し、職場での女性の処遇実態を分析した上で、改善に向けた数値目標を含む「事業主行動計画」を取りまとめるよう求め、公表も義務づけた。2016年度からの実施を予定している。 数値目標は、採用者や管理職に占める女性比率、勤続年数の男女差、労働時間の状況などを勘案し、事業者が自主的に定める。国は必要に応じて助言や指導、勧告ができ、優良企業を認定する制度も設ける。 一方で、経営者側は数値目標導入に消極的で、実際、法案のあり方を議論した労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)では、経営側委員から慎重論が相次いだ。そのため、それぞれの企業で女性社員が置かれた状況や課題が異なるため、経営者側に配慮し、一律の数値目標は設けず、従わない場合の罰則規定もない。300人以下の企業は「努力義務」にとどめた。 「政策パッケージ」では女性登用に積極的な企業への補助金付与や公共調達での優遇措置などを明記しているが、数値目標の実現を裏付ける仕組みが不十分である以上、実効性は不透明である。 |
戦略的海外投資や経済連携、国際資源戦略を展開 【出展:2012年衆院選マニフェスト】 |
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安倍政権は、マニフェストで掲げた項目を日本再興戦略の中で、「2018年までにFTA比率70%を目指す」、「2020年までに、海外企業の対内直接投資を35兆円に倍増する」などを掲げた。 安倍政権はコンテンツ輸出やインフラ輸出などに積極的で、総理・閣僚によるトップセールスを13年は計67 件(うち総理が 25 件)実施しており、2013 年のインフラシステムの受注金額は約 9.3 兆円と、2012 年の約 3.2 兆円から大幅に増加した。また、円借款や海外投融資の戦略的活用のための各種制度改善や無償資金協力・技術協力の積極活用を通じた ODAの戦略的な展開を進めたほか、貿易保険の機能見直しを行う貿易保険法改正案や、海外における交通事業や都市開発事業を支援する株式会社海外交通・都市開発事業支援機構の設立法案を4月に成立させた。さらに、6月には「インフラシステム輸出戦略」改訂版を策定した。2020年に約30兆円という目標を達成できるか現時点で判断できないが、目標達成に向けて昨年同様、積極的に取り組んでいる。 経済連携については、日豪EPAに関して、国内法案を閣議決定し、年度内に発効する見通しである。日欧EPAについても交渉を進め、日トルコEPAについては12月に交渉が始まる。東アジア包括的経済連携(RCEP)は8月の閣僚会合で、最大の焦点だった輸入関税をなくす品目の比率(自由化率)の目安を設定できず、目標とする2015年末の妥結は困難な状況である。「2018年までに、FTA比率70%(2012年:18.9%)を目指す」という目標は、日本の貿易総額のうちFTA相手国との貿易額を積み上げていったときに70%に達するという目標設定である。この目標を実現するためには、今、日本が交渉して動いているTPP、日EU・EPA、RCEP、日中間FTAの目がFTAを2018年までに合意できれば達成できる目標である。それぞれ遅れてはいるものの、合意に向けて進んでいると評価できる。 国際資源戦略については、総理自らオセアニアや中南米、中東、アフリカでエネルギーの安定調達に向けた外交を進めている。さらに、米国からのLNG供給の早期実現に向けた働きかけを実施するなど多角的な取り組みを続けている点は評価できる。 |
各分野の点数一覧
経済再生
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財政
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復興・防災
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教育
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外交・安保
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社会保障
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エネルギー
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地方再生
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農林水産
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政治・行政改革
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憲法改正
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評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・未着手、断念
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1点 |
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
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2点 |
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
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3点 |
・着手して順調に動いており、目標達成の方向に向かっている
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4点 |
・この2年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |
※理由を国民へ説明していなければ1点減点としました。