安倍政権2年の11政策分野の実績評価【社会保障】

2014年11月30日

安倍政権2年実績評価【社会保障】評価結果

【社会保障】総論 2.05点満点)
昨年:2.3点

評価の視点
 ・社会保障財政の持続可能性を高めるためにどのような取り組みをしたか
 ・現役世代に過度に依存している負担構造を見直したか
 ・社会保障の現状を国民に対してきちんと正面から説明しているか

 2013年12月に国立社会保障・人口問題研究所が発表した2011年度の社会保障給付費は107 兆4,950 億円に達し、過去最高を更新した。この30年間の年平均では2.6兆円増加している。一方で、日本の人口は減少局面に入っており、しかも 65 歳以上の高齢者人口の割合(高齢化率)は 25%を超え、世界最高水準の高齢化率となっている。

 人口減少社会となって生産年齢人口が減少し、しかも長寿化で高齢者が増えることは、支え手が少なくなる一方、支えるべき高齢者は多くなることであり、現役世代が高齢世代を支える賦課方式を基本とする社会保障財政の持続可能性にとって脅威である。こうした状況の下、2011年民主党政権下で社会保障・税一体改革はスタートし、第2次安倍政権はそれを引き継ぐこととなった。

 そこで、政権として日本の将来を見据えた上で、どのような持続可能な社会保障制度の具体案を提示してきたのかをまず評価していく。その際、特に現役世代の負担軽減をどのように図っているのかは重要なポイントになる。また、テクニカルな議論の多い社会保障において、現状をごまかすことなく国民に対してきちんと説明してきたのか、という点も見ていく。

 例えば、社会保障給付費の半分を占める年金では、給付水準を確実に抑えるマクロ経済スライドの強化など、持続可能性を高めるための制度改革を行っているか、財政検証を踏まえながら「年金100年安心プラン」の現状を国民に対してきちんと正面から説明しているかなどを見ていく。また、高齢者の割合が多い国民健康保険制度改革では、現役世代に過度に依存している負担構造を改革しているか、ということが評価ポイントになる。さらに、将来の支え手を増やすために重要な子育てについても、財源を確保しながら取り組んでいるか、ということも見ていくことにする。

【社会保障】個別項目の評価結果

政権交代後、急激に肥大した生活保護を見直す(国費ベース8000億円)
【出典】2012年衆院選マニフェスト


2点(5点満点)
昨年:3点

 生活保護の受給者は7月の時点で216万人に上り、生活保護費は約3.8兆円(このうち国費は約2.9兆円)となり、昨年よりもさらに膨らんだ。これを受けて財務省は2015年度予算編成で、「住宅扶助」の基準額引き下げや、被保護者に対する後発医薬品(ジェネリック)の使用徹底による「医療扶助」の適正化などからなる生活保護費引き下げ案を10月にまとめ、厚労省に要請する方針である。ただ、昨年に「生活扶助費」の段階的削減(年670億円)を決定したため、厚労省は「既に保護費の大幅な削減を進めている」などと慎重な立場をとっている。
 財務省の試算では今回の引き下げで国と地方で計約500億円の削減になる見込みである。なお、自民党の2012年のマニフェストでは、民主党政権下で増加した生活保護費を「国費ベースで8000億円」と指摘した上で、「見直す」という書き方をしている。仮にこの8000億円が削減目標であるならば、現状は目標達成にはほど遠いという評価になる。もっとも、8000億円の削減は現実的ではなく、適正化という観点からは500億円の削減でも十分に評価すべきである。ただ、現実的な目標を再設定した上で、国民に対して明確に説明する必要はある。
 他方、被保護者の就労支援については、福祉事務所における就労支援や就労活動促進費の創設がなされているが、被保護者数が高止まりしている。就労を通じた保護脱却のインセンティブが一層働くように仕組みを見直す必要があり、この点からは目標達成への具体的な道筋は見えてきていない。

年金は現行制度を基本に「改革推進法」に則り、国民会議の審議結果を踏まえ必要な見直しを行う
【出典】2013年参院選マニフェスト


1点(5点満点)
昨年:2点

 厚労省は6月3日、年金の財政検証結果を公表した。財政検証は法律に基づき5年に一度行われるが、今回の検証はこれまでと異なり、(1)名目運用利回りや実質賃金の伸び等の異なる条件で8つものケースが示されたこと(前回は3ケース)、(2)オプション試算(前回はなし)が示されたことが形式上の大きな特徴である。
 具体的中味について、まず、8ケースは、「100年安心」年金プランが、見かけ上の数字とは異なり、総じて破綻していることを示している。8ケースは、「高成長を前提とする5ケース」と、「低成長を前提とする3ケース」に分けられる。このうち、「高成長5ケース」は、内閣府が公表した中長期の経済財政試算(中長期試算)の経済再生ケースに依拠している。すなわち、成長戦略が着実に実行され、効果が表れたことを前提とするものである。この場合、所得代替率(現役世代の平均的な手取り額に対する年金額の割合)は政府公約の50%を維持できるとされている。しかし、運用利回りや賃金上昇率が非現実的なほど高く設定されている上、現段階では成長戦略の効果発現を見通すには至っておらず、その他にも女性の労働参加が十分に進むことや、利回りの想定など楽観的な見通しが目立ち、前提としてそもそも妥当ではない。よって、50%維持という結果も信憑性が乏しい。
 他方、「低成長3ケース」は、中長期試算の参考ケースに依拠しているもので、慎重な成長率(同期間の実質成長率が平均で1.3%)を前提としているなど、より日本経済の実態に即したものとなっている。しかし、このケースでは所得代替率は40%台半ば、あるいは40%割れも視野に入ると試算されており、2004年の「100年安心年金」は総じて破綻していることを示している。次に、オプション試算のなかでは、マクロ経済スライドの仕組みが、単にデフレだけでなく、物価変動にも弱いという欠点が浮き彫りにされたうえで、マクロ経済スライドをデフレあるいは物価変動下においても確実に実施していくことで年金財政をより早期に持続可能なものとできることも確認されている。
 こうした結果も踏まえ、10月15日、マクロ経済スライドの強化の方向での見直し案が厚労省から社会保障審議会年金部会(厚労相の諮問機関)に示され、大筋了承された。もっとも、政権内からは、マクロ経済スライド見直しに向けた意気込みはほとんど見えてこない。マクロ経済スライド見直しは、現在の年金受給者にとっては厳しい内容となる上、政権にとってみれば、100年安心プランが破綻していることを自ら認めることにもつながり得ることから、実際に、マクロ経済スライド見直しの法改正に至るかは不透明である。
 仮に法改正に至っても、年金給付水準を確実に抑えるマクロ経済スライドの強化は、年金財政の観点からは重要であっても、家計の側からみれば給付水準が下がり過ぎてしまうという問題がある。そこで、それを少しでも食い止めようと、準備されたのがもう1つのオプション試算である被用者保険の更なる適用拡大、保険料納付年数の延長であるが、前者に関しては厚生年金加入者と国民年金加入者間の公平性や、企業負担増加の問題がある。後者に関してもマクロ経済スライドによって大きく削減される年金に45年も加入するインセンティブがあるのか、といった問題がある。
 以上を踏まえると、マニフェストで掲げられたように「現行制度を基本に」したまま年金制度を維持していくことは限界になりつつあり、より根本的な改革が求められる。しかし、政権は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用見直しという、周辺的な課題の議論に終始しており、今後の改革に向けた展望は現段階では示していない。

国保運営の安定や保険者機能強化のため、運営単位を都道府に広域化、料率の平準化で協会健保と共済を統合
【出典】2013年Jファイル


2点(5点満点)
昨年:2点

 社会保障制度改革国民会議の報告書を踏まえ、議論の舞台は、厚労省の社会保障審議会医療保険部会に移された。厚労省は年内に都道府県単位化の具体策をまとめ、2015年の通常国会に関連法案を提出する方針である(衆院解散で中断)。10月の医療保険部会では、単位化後も都道府県内一律の保険料とせず、市町村ごと差を設け、医療費の抑制や保険料の納付率向上への取り組みを保険料額に反映させる案を示した。努力次第で加入者の保険料を下げられるようにすることで、都道府県と市町村に積極的な取り組みを促す狙いがあり、懸念されていた市町村のインセンティブ低下対策という点では一定の議論の進捗があったとみることもできる。
 他方、広域化の前提とされてきた国保の財政基盤の強化については、引き続きその財源を被用者健保の負担増に求める案が俎上に上ったまま、こう着状態にある。具体的には、後期高齢者支援金の負担方法として「総報酬割」を全面的に導入し、それによって、協会けんぽの支援金負担が約2400億円減少することから、それと同額、国が協会けんぽに投入している国庫補助(国費)を削減し、それを国保に充当するというものである。協会けんぽの支援金負担が約2400億円減少する裏では、組合健保と共済組合の支援金負担を合わせて同額増えるので、国保財政基盤強化の財源を被用者健保に付け替えているに過ぎない。
 加えて、都道府県化の意味するところも曖昧なままである。現在、国民健康保険法に、保険者は市町村であると明記されているが、それが、都道府県となるのか否か、本来は、議論の入り口で明確にされておくべき最も根本的な点が明らかになっていない。2008年度にスタートした後期高齢者医療制度が、この点決着が着かず、市町村でも都道府県でもない広域連合となり、責任主体が曖昧になった二の舞になる懸念もある。以上のように、一般の国民がついていけないテクニカルな議論に終始し(総報酬割の議論に象徴)、根本的な点がなお明らかになっていないのは、政治が果たすべき責任を果たしていない結果ともいえる。
 なお、協会けんぽと共済の統合については動きはない。

医師の地域科目偏在の是正や医学部定員の確保等必要な地域で必要な医療の確保
【出典】2012年衆院選マニフェスト、2013年参院選マニフェスト


3点(5点満点)
昨年:2点

 6月に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(以下「医療介護総合確保推進法」)が成立した。同法では、地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保策として、①医療機関が都道府県知事に病床の医療機能等を報告し、都道府県はそれをもとに「地域医療ビジョン」を医療計画において策定すること、②医師の偏在を是正するため「地域医療支援センター」の機能を法律に位置付けることなどが盛り込まれた。
 地域医療ビジョンの効力は、現行の「医療計画」に比べて格段に強化されており、病床機能報告により、都道府県は病床数のみならず、病床の機能についても権限を有することになる。地域医療ビジョンに基づいて医療機関の機能分化が進めば、地域特性に応じた医療提供体制が効率的に整備されることが期待される。また、地域医療支援センターは、医師適正配置のために都道府県知事に医師派遣の要請をする権限を付与したり、協力義務の対象とする医療関係者の範囲を拡大しているため、派遣が加速されることが予想される。
 ただ、都道府県の裁量範囲や病床の機能別再編の基準がまだ不明確な点など詰めるべき課題はまだ残っている。
 また、医療・介護制度の持続可能性を根本的に回復するためには、このような供給体制の再編だけでなく、同時に患者の過剰な受診行動をはじめとする需要サイドの改革が必要である。しかし、政府の医療制度の見直しはそういう方向には向かっておらず、地域に必要な医療の確保という目標をどこまで達成できるかは現時点では未知数である。

介護は財源の安定化を図り、保険料負担の抑制を進めながら必要なサービスを提供する
【出典】2013年Jファイル


2点(5点満点)
昨年:3点

 「医療介護総合確保推進法」の成立により、介護保険制度が2000年4月の創設以来、大きく改正された。同法の介護分野に関する内容としては、まず、一定以上の所得者の自己負担を引き上げた。制度ができて以来一律1割だったが、15年8月からは年間の年金収入が単身で280万円以上の人を2割負担とする。これは夫と専業主婦の妻のモデル世帯では「年収359万円以上」に相当し、高齢者全体の約20%がこの区分に入ることになる。
 次に、特別養護老人ホームの入所対象の厳格化として、15年4月から障害や認知症の場合を除き、特養ホームに入ることのできる人を「要介護3~5」と重度認定された人に限定した。これにより「同1、2」と軽度の場合、新たな入所はできなくなる。
 この他にも、低所得者に対する食費・居住費の補助である補足給付に資産要件を設定したことや、要支援者に対する予防給付を介護保険制度から市町村の主体で行う地域支援事業に移行するなどの制度改革がなされている。
 利用者からの強い反発が予想されるなか、要介護度や経済状況の面で真に救済すべき者に給付対象を限定する姿勢に転換するなど、敢えて負担増を実行した姿勢は高く評価できる。また、地域支援事業の充実により、予防給付の利用者である要支援者が全国一律のサービス内容から、地域特性が反映されたサービスを享受できるようになることが期待できる。
 だが、介護給付費総額は現在の約10兆円から25年度には約20兆円への倍増が見込まれる。厚労省によれば今回の改正によって、15~17年度の平均で年1430億円の給付費が削減できると見込まれているが、これだけでは給付費の増加の伸びには対応できない。今後も負担増と給付の抑制をさらに徹底することが避けられず、財政基盤を安定化させ、介護サービスを充実させていくという目標を達成できるかは現段階では見通せない。

妊娠から子育てまで切れ目ない家族支援政策を積極的に進める。年少扶養控除は復活
【出典】2013年Jファイル


2点(5点満点)
昨年:2点

 現在、「子ども・子育て支援新制度」の2015年4月からの実施に向けて、全国の自治体が準備作業を進めている。同制度は2017年度までに、40万人の保育の受け皿を確保することを柱としており、幼稚園や保育園を統合した「幼保連携型認定こども園」制度の創設や、小規模保育、事業所内保育なども国の補助対象とし、待機児童の解消を目指すものである。
 しかし、新制度には1兆1000億円の財源が必要とされていたが、確保できているのは消費税10%への増税分(注:先送りされたため、政府は「つなぎ国債」の発行等で対応する見込み)からの7000億円だけで、残り4000億円については確保の目途が立っていない。3月に行われた内閣府の子ども・子育て会議では、確保できる 7000億円で優先的に実現すべき内容の案が示されたが、それによると、「量的拡充」に必要とされる4000億円は優先的に確保される見通しである。ただ、「質の改善」については消費税増収分だけでは所要額の半分も確保できない見通しとなり、新制度の実効性に不安が残る。さらに言えば、質の改善の項目には、保育者の処遇改善などの量的拡充の色彩が強い項目が含まれており、質の改善の財源が確保されないことで、結局、量的拡充の実現もできないおそれがある。
 他にも、制度上の不備が目立つ。新制度の柱である認定こども園に関して、補助金の見直しによって、園児1人当たりの補助単価が低く設定された大規模な園や、自治体が手厚い助成を行ってきたところほど大幅な減収になる見込みとなり、幼稚園から認定こども園への移行が進まず、認定を返上して保育所や幼稚園に戻ろうとする動きまで出ている。政府は新制度移行後も補助額は大きくは変わらないと説明してきており、見通しと制度設計の甘さだけでなく、説明責任という観点からも大きな問題がある。これを受けて政府は、補助金を見直して拡充する方針を明らかにしたが、来年度の予算編成で追加財源を確保できるかどうかは不透明である。
 「小1の壁」の解消に向けて、学校施設を徹底活用して2019年度末までに放課後児童クラブ(学童保育)を30万人分整備するとして、「放課後子ども総合プラン」が策定された点は評価できるが、予算制約のもとで、量・質両面の充実がどこまで進むかは不透明である。
 3歳から小学校就学前までの幼児教育無償化も、財源の制約から実現していない。3歳まで男女共に育児休業や短時間勤務が取得しやすい環境整備については、育児休業給付金が一部引き上げられたが、他方、育児休業が取得しにくい非正規雇用が増加している。育児休業や短時間勤務の取得は女性に偏っており、男性の取得は進んでいない。
 企業に子育て支援の取り組みを求める「次世代育成支援対策推進法」は、10年間の延長が決まり、より高い基準を満たした企業を認定する「プラチナくるみん」制度も新たに導入された点は評価できる。
 以上のように、課題は多く、新制度が「切れ目のない家族支援政策」という目標達成につながるかどうかは現時点では判断できない。
 なお、年少扶養控除の復活については今年も議論が行われている様子はない。

各分野の点数一覧

経済再生
財政
復興・防災
教育
外交・安保
社会保障
2.8点
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2.0点
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2.8点
防災・復興分野の評価詳細をみる
2.9点
教育分野の評価詳細をみる
3.2点
外交・安保分野の評価詳細をみる
2.0点
社会保障分野の評価詳細をみる
エネルギー
地方再生
農林水産
政治・行政改革
憲法改正
2.0点
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2.0点
地方再生分野の評価詳細をみる
3.2点
農林水産分野の評価詳細をみる
3.0点
政治・行政改革分野の評価詳細をみる
2.0点
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評価基準について

実績評価は以下の基準で行いました。

・未着手、断念
1点
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
2点
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
3点
・着手して順調に動いており、目標達成の方向に向かっている
4点
・この2年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
5点


※理由を国民へ説明していなければ1点減点としました。