安倍政権2年実績評価【エネルギー・環境】評価結果
【エネルギー・環境】総論 | 2.0点(5点満点) 昨年:2.6点 |
評価の視点 |
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これまで原子力発電を基幹エネルギーとして位置付けてきた日本のエネルギー政策は、2011年3月の福島第一原発事故を機に、大きな変容を迫られている。4月11日閣議決定のエネルギー基本計画においては、原子力を「重要なベースロード電源」と位置付けて再評価し、九州電力の川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)が来年早々にも再稼働する見通しである。しかし、原子力リスクは多くの国民が感じており、また、現状では新規増設が困難なことや「40年で廃炉」の原則を考えると、中長期的に原子力への依存度を低減していくことは避けられない。 そこで政権は、今後の日本の電源構成における原子力発電の位置付けを早急に明らかにし、このためにどのような取り組みをしてきたのかをまず評価のポイントとする。それと同時に、再生可能エネルギーの普及や、安定的なエネルギー供給のための電力システムの整備も含めた長期的なエネルギー政策のビジョンを描き、それに向かってどのような道筋で進んでいこうとしているのかも確認する。 一方、環境問題とりわけ地球温暖化対策も重要課題である。現在、2020年以降の地球温暖化の防止に向けた京都議定書に代わる新枠組みについて、2015年末にパリで開く国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)での合意が予定されている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次報告書の「地球温暖化を2度以下に抑制するシナリオ」実現に向けて、EUさらには、米国と中国も動き出す中、「ポスト京都で主導的な役割」を果たすために日本として、どのような目標と貢献策を打ち出しているのかを評価のポイントとする。 また、長期目標である「2050年までに50%削減、先進国は80%削減」の達成に向けた長期的なビジョンに基づくロードマップを、政権として責任を持って国民に対して示しているかも見ていく。 さらにエネルギー政策、環境政策両方に共通した評価の視点として、目の前の選挙を意識して、問題の争点化を避けることなく、正面から国民に対して丁寧に説明しているかも検証していく。 |
【エネルギー・環境】個別項目の評価結果
原子力の安全性は規制委員会による専門的判断を優先、原発の再稼働は順次判断し、3年以内の結論を目指す 【出典】2012年衆院選マニフェスト、2013年参院選マニフェスト |
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九州電力の川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)が来年早々にも再稼働することが確実になり、さらに、関西電力の高浜原子力発電所3、4号機(福井県)も、今冬にも原子力規制委員会による安全審査に合格する見通しになった。 原子力規制委員会は川内原発の審査に職員を集中させていた態勢を元に戻し、ほかに申請のあった11原発17基の審査を本格的に再開させる方針で、川内と同じタイプの加圧水型炉(関西電力高浜、九州電力玄海、四国電力伊方など)は審査のひな型ができたことで審査が早まる見通しである。一方、東電柏崎刈羽(新潟県)など福島第一と同じ沸騰水型炉の6原発7基は依然として審査が停滞気味であり、残り1年を切った「3年以内」という目標達成は厳しい状況である。 また、判断プロセスにも問題がある。国家行政組織法3条に基づく「3条委員会」として、独立性を担保された原子力規制委員会の専門的判断を尊重するというマニフェストで掲げた方針は、国民の原子力への信頼を回復させるためにも一定の妥当性はある。ただ、その審査合格後については、政府は規制委の審査を安全性の根拠に、政治判断なしで原発の再稼働を進める方針を示している。しかし、最終判断は政府がすべきであるし、また、エネルギー基本計画では「国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む」と明記しているにもかかわらず、説明責任が十分に果たされていないことは減点要素である。 |
当面最優先で再生可能エネルギーの最大限の導入と省エネの最大限の推進を図る 【出典】2012年衆院選マニフェスト、2013年参院選マニフェスト |
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総合資源エネルギー調査会が9月10日に示した試算によると、5月までに計画された発電設備がすべて動くとすると、発電量全体に占める再生可能エネルギーの比率は13年の10.7%から30年には20.5%まで上昇することになり、政府目標は達成されることになる。特に、太陽光発電量の伸びは大きく、2030年の目標は5300万kwであるが、設備認定量も含めれば今年5月の時点で7431万kwに達しているなど、「最大限の導入」は進んでいるといえる。
しかし、課題もある。9月下旬に、日本の10電力のうち5電力が、7月末時点の太陽光の接続申込量が全て接続された場合、季節によっては太陽光の発電電力が需要を上回るとの見通しを理由に、相次いで再生可能エネルギー発電設備の接続申込みに対する回答をしばらく保留した。これにより安定供給に対する不安が広がっているが、実際の再生可能エネルギーの発電電力のデータや、地域間連系を利用した広域運用を含む系統運用の実態は公表されていない。こうしたデータが明らかにされないまま電力会社の法的な根拠のない判断で突然の接続保留を認めれば、固定価格買い取り制度(FIT)の根幹を揺るがし、政策への信頼を失わせ、今後の再生可能エネルギー投資への委縮効果が生じる恐れがある。さらに本来、再生エネの拡大にはFITのような導入促進策に並んで、系統システム対策も両輪で進めていく必要があるが、現在の系統システムは再生可能エネルギーの大規模導入に対応しうるものになっていないという問題がある。
また、FITそのものについても、制度の大枠は維持される見通しだが、国民負担のあり方に関しては、総合資源エネルギー調査会では大きく意見が分かれている。さらに、エネルギーの海外依存度の低減や地域での産業・雇用の創出、日本の低炭素技術の国際競争力の維持、温室効果ガスの削減、災害時の電源確保など、日本にとっての中長期的な戦略課題と関連付けた議論が行われていない点も問題である。したがって、今後も再生可能エネルギーの導入が順調に進むかどうかは現時点では判断できない。
他方、省エネに関しては、「日本再興戦略 改訂2014」において、「徹底した省エネルギーの推進」 が掲げられている。さらに、6月施行の改正省エネ法に「電気の需要の平準化」の概念を追加し、ピーク対策に取り組んだり、スマートコミュニティを推進したりと「最大限の推進」を図っていると評価できる。
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遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な「電源構成のベストミックス」を確立する 【出典】2012年衆院選マニフェスト |
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4月11日閣議決定のエネルギー基本計画においては、原子力を「重要なベースロード電源」と位置づけて再評価したが、電源全体に占める比率は示さないなど、電源構成を盛り込むことはできなかった。さらに、達成期限についても原子力発電所の再稼働、固定価格買い取り制度に基づく再生可能エネルギーの導入や国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)などの地球温暖化問題に関する国際的な議論の状況等を見極めた上で、「速やかに示す」としているのみであり、マニフェストで掲げた「10年以内」という目標も消えている。
経済産業省で電源構成を議論する総合資源エネルギー調査会基本政策分科会は8月19日、約8カ月ぶりに会合を開いたが、いつまでにどの程度原発が再稼働できるか見通せないという理由で具体的な議論に入れておらず、ベストミックス確立に向けた道筋は現時点では見えてきていない。
しかし、40年廃炉ルールを考えると2030年に稼働している原発は20基程度と予想されるので、それを織り込んだ形で目標設定をしていくことは十分に可能である。それにもかかわらず議論が進まない背景には、選挙を意識してエネルギー関連の争点を避けようとする政治の姿勢があるが、国民に対する説明責任という観点からは大きな問題である。そもそも原子力規制政策とエネルギー政策は別個に考えるべき事柄であるので、再稼働の状況はベストミックス策定の遅れの理由にはならない。また、再稼働の是非など短期的な話ではなく、50年先の日本のエネルギーミックスをどう考えるか、などの長期的なビジョンに関する視点も欠けている点も問題である
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電力システム改革を断行する 【出典】2013年参院選マニフェスト |
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経済産業省は電力システム改革の第1弾として、8月22日、「電力広域的運営推進機関」が2015年4月1日に発足することを認可した。同機関には電力会社に加え、小売りを手がける新電力、発電だけを手がける事業者の3グループが参加する。同機関は送電線の整備などに強い権限を持つが、電力会社の議決権は3分の1に抑え、新電力や発電事業者と対等とすることで競争環境が整えられつつあることは評価できる。
さらに、第2弾の改革として、家庭向けを含めた電力小売りを2016年に完全自由化する改正電気事業法が6月11日に成立した。これにより多くの事業者が参入し、電気料金が下がっていくことが期待される。
一方で、現状の政策には長期的なビジョンが欠けており、事業者から見ると予測可能性が狭まっている。すなわち、電力が自由化されると、電気事業者にとって長期投資のリスクが増え、その結果新たな発電所を建設するインセンティブが失われ、系統全体の供給力(予備力)が減ってしまうことも懸念される。さらに、電力会社の経営体力も弱まってきていることを加味すると、電力システム改革の目的の一つである「エネルギーの安定供給の確保」との調和をどう図るかという課題は残る。
全体的には工程通りに進んでいるものの、電力システム改革の最も重要なカギを握る第3弾の「発送電分離」も残っており、改革が真に実効的なものになるかどうかは現時点では判断できない。
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ポスト京都で主導的な役割を主導、温室効果化ガスの長期目標は堅持、中期は目標再設定で現実実効的政策を推進 【出典】2013年Jファイル |
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2020年以降の地球温暖化の防止に向けた京都議定書に代わる新枠組みについて、2015年末にパリで開く国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)での合意が予定されているが、日本の温室効果化ガスの削減目標についての議論は遅れている。すべての国は2020年以降の削減目標をつくり、可能な国は2015年3月末までの提出を求められているが、環境省と経済産業省による有識者会議は10月24日にようやく初会合を開いた。安倍首相も9月23日の国連演説で、「できるだけ早期に提出することをめざす」と述べたが、具体的な取りまとめ時期の言及は避けた。有識者会議は、議論が進まない背景には、原子力発電所の再稼働が遅れているため、温室効果化ガスの排出量を左右する電源構成(ベストミックス)が決められないことが大きい、としている。
しかし、40年廃炉ルールを考えると2030年に稼働している原発は20基程度と予想されるので、それを織り込んだ形で目標設定をしていくことは十分に可能である。それにもかかわらず議論が進まない背景には、選挙を意識してエネルギー関連の争点を避けようとする政治の姿勢があるが、国民に対する説明責任という観点からは大きな問題である。昨年打ち出した05年比で3.8%削減という暫定的な中期目標の見直しがなされていないのも同様の問題が背景にある。
長期目標である「2050年までに50%削減、先進国は80%削減」については、堅持はしているものの、その達成に向けた長期的なビジョン(省エネ、再生エネの戦略的な推進策など)に基づくロードマップを政治が責任を持って国民に対して示せておらず、この点でも説明責任上の問題があり、減点要素となる。
また、安倍首相は、国連演説で途上国の取り組みを促すため今後3年間で計1万4千人の人材育成を支援する方針を表明し、日本の貢献策をアピールしたが、その一方で、アジアの途上国で石炭火力発電ビジネス支援を展開するなど、「技術で世界に貢献」していくという方針と矛盾した政策の展開も見られる。
現在、EUは首脳会議で温室効果化ガスの排出量を30年までに1990年比で少なくとも40%削減する目標で合意し、世界全体の温室効果化ガス排出量の3分の1を占める米国と中国も削減に向けた長期計画で合意するなど、活発な動きを見せている中では日本の出遅れが目立つ。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次報告書の「地球温暖化を2度以下に抑制するシナリオ」のような国際的な議論の趨勢と、日本国内の後ろ向きな議論のギャップは大きく、「ポスト京都で主導的な役割」を果たしているとは言い難い状況になっている。
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各分野の点数一覧
経済再生
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財政
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復興・防災
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教育
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外交・安保
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社会保障
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エネルギー
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地方再生
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農林水産
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政治・行政改革
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憲法改正
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評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・未着手、断念
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1点 |
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
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2点 |
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
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3点 |
・着手して順調に動いており、目標達成の方向に向かっている
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4点 |
・この2年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |
※理由を国民へ説明していなければ1点減点としました。