司会:曽根泰教(慶應義塾大学大学院教授)
小川是(日本たばこ産業(株)代表取締役会長)
おがわ・ただし
1962年東京大学法学部卒。同年大蔵省(現財務省)入省。主税局長、国税庁長等歴任後、96年大蔵省事務次官を務める。97年退職後、東京大学先端科学技術センター客員教授、同志社大学、政策研究大学院大学客員教授を務め、2000年日本たばこ産業株式会社顧問に就任。01年6月より現職。
保岡興治(衆議院議員)
やすおか・おきはる
1932年生まれ。64年、中央大学法学部卒。鹿児島地方裁判所に裁判官として赴任後、72年衆議院議員に初当選。現在、党緊急金融システム安定化対策本部本部長代理
党国家戦略本部事務総長、党司法制度調査会会長、衆議院憲法調査会幹事。主な著書に『思春期を迎えた日本の政治』など。
村松岐夫(学習院大学法学部教授)
むらまつ・みちお
1940年、生静岡県生まれ。62年京都大学法学部卒。76年より京都大学法学部教授。87年ワシントン大学客員教授、88年オックスフォード大学(St. Antonys College)客員教授に。著書、「戦後日本の官僚制」でサントリー学芸賞、「地方自治」で藤田賞受賞。その他の著書に「日本の行政」、「行政学教科書」などがある。
曽根泰教(慶應義塾大学大学院教授)
そね・やすのり
1948年生まれ。慶應義塾大学大学院法学部政治学科博士課程修了。98年から99年ハーバード大学国際問題研究所客員研究員を経て現職。著書に「決定の政治経済学」、「この政治空白の時代」共著等。
概要
マニフェスト型政治に向けて政治や行政は本当に変わるのか。内閣と与党、官僚システムなど実行過程についての論点は何か。自民党の保岡議員は、官僚の限界を超えた総合的な政策設計に向けて政治の改革が進展していると現状を評価し、行政学者である村松教授は、重要テーマを評価する民間機関の必要性を強調する。元大蔵事務次官である小川氏は、権限とミッションの所在を明確にした政治のリーダーシップの下で公務員の志が生かされることへの期待を表明する。
要約
マニフェスト政治を論じるに当たって欠かせないのは、内閣と与党、官僚システムとの関係など政権公約の実行過程の問題をどう考えるかである。慶應大学の曽根教授の司会により、自民党で政権公約に関する提言をまとめた保岡興治衆議院議員と、官僚として政治との接点に置かれ大蔵事務次官まで勤めた小川是氏、行政学の立場から官僚論を研究し政府の政策評価委員会の委員長を務める村松岐夫教授が議論に参加した。
まず、マニフェストの意義について、保岡氏は、長期のビジョンで縦割りを乗り越える総合的な政策は官僚にはできない分野であり、それを政治が担う歴史的な転換に向けて、まさに小泉総理のもとで変革が進んでいることを強調する。村松氏は、政策を実行する官僚制の意義と同時に限界を指摘し、政治の側の問題は権限と責任の所在の不明確性であるとする。小川氏は、政党政治の本来の意義に鑑みてマニフェストの動きを歓迎しつつも、政党は誰がリーダーで何を基本政策と考えるのか、理念とともに政策の重点と順位を選挙民に示すべきであると注文をつける。官僚と政治家との関係については、小川氏は、行政官と政党が直接接触することを問題視し、村松氏も何らかのルール化を提起したが、保岡氏は、陳情をこなす機能は行政チェック機能として正当化され、国会議員や地方のダイナミズムの源となっているという現実面を指摘する。
マニフェストを機能させるための今後の課題について、保岡氏は、政策を総合的に設計し、国民に具体的なメッセージとして示す政治に向けた小泉総理の今の方向を大胆に推進すべきであるとした。村松氏は、政治の統一的な意思形成の重要性を指摘し、国民が判断できるよう重要テーマを評価し多様な意見を出す民間側の機関が必要であるとした。小川氏は、全ての政策を数値で縛ることの問題点をマニフェストの限界として指摘し、最後に、公務員の原点にある政策の企画立案への参画の志が政治のリーダーシップの中で生かされていくことへの期待を表明した。