【座談会】マニフェスト選挙でメディア報道はこう対応 「報道の現場担当者が語る問題点と今後の課題」 page2

2003年12月24日

〔 page1 から続く 〕

政策評価は公表時と政権の実行度チェックの2段階で、との意見も

梅野 マニフェストの政策評価の仕方は2通りあると思うんです。まず、出た段階でどう評価するか、そのやり方はどういうものがあるかという点です。もう1点は、彼らが出してきているのは衆院選、任期最大4年の間にこれだけやりますということだから、次の衆院選の時点で評価する。評価の時期は、この2つの段階があると思うのですけれども、前者のマニフェストが出たときの評価については、先ほど倉重さんからも大胆に採点したというお話がありましたが、それは一つの大きな挑戦だと思うんです。我々がやるのは、評論家とか、そういう専門家に見せて評価してもらうやり方が多いわけで、今回、共同通信がやったのは、各党の政策責任者に互いに評価してもらって原稿を出したのですけれども、例えば社民党とか共産党についてはあまり言わないんです。どうしても自民、民主中心になる。

だから、出た時点でどう評価するかというのは結構難しい。マニフェストの意味というのは、そこのところも大事だけれども、マニフェストは、実は実績評価の大きなたたき台とも言えるわけです。だから、次の選挙のときにそれがどれだけ達成されたのかをきちんと評価していかないといけない。嶋名さんも言われたように、各党の政策が非常に似てきているというのは必然なんです。小選挙区で51%以上の支持率を得るためには一種政策の総合デパートみたいな形にならざるを得ないので、互いの主張が似てくるんです。だから、そこの違いを我々は意図的に見つけ出そうとします。そういう作業をしなければいけないけれども、実はその作業とともに実績を厳しく評価しないといけないでしょう。結局何が違うかというと、達成の度合いというか、スピードが多分違ってくると思うんです。どれだけ達成したのかというところをきちんとこっちでチェックしていくのが一番大事かと思うんですね。だから、マニフェストを出してきたことをどう評価するかというのも大事な視点ですけれども、実は次の選挙のときに政策の達成度がどうだったのかということが一番大事かなと思います。

工藤 確かに、約束をしたことについて実績をみれば非常にわかりやすいのですが、約束自体が非常に不完全な、あいまいな場合がある場合に、いや、おれは民営化をやったじゃないかと言って、それだけに終わりかねない。だから、政策評価作業をやることが重要になる。その場合、本当にやると判断基準が社によって違う可能性もあるだろうが、逆にそこを明確にすることが読者にとっても、ここはこのような視点でこの政党を評価しているのかなどがわかる。いずれそういうふうになっていくような感じがするんです。

今までは、識者などがそれを担っていたのですが、その識者も何となく業界人みたいになってしまい、こっちは右側、こっちは左側という感じでやるため、一般の人たちは飽きてきているんです。顔や名前を見ただけで反対だなとわかります。要は、政策評価をメディアがやるのか、第3者のどこがやるのかでしょうが、むずかしいところです。

牧野 私は、梅野さんが今おっしゃったように、政治ジャーナリズムの現場も試行錯誤の部分が非常にあると思うんです。ただ、これからのメディアの問題はフォローアップが大事で、政府・自民党は何とか方針であるとか、意向を固めたとか、そういうではダメ。その後、その政策はなぜ実現しなかったか、何に問題があったか、いわゆるフォローアップをすべきです。

今回の政権公約の実現度チェックを、次の参院選でやるか、次の衆院総選挙時に総括するか。実現度、達成度について、丹念に報道することによって初めてメディアの責任が果たせるし、有権者に判断材料を提供することになります。そういう面で、これから問われるのはフォローアップをどうするかというところかなという気はします。

工藤 それは最低限必要なのだけれども、年金で現行の受給している人たちを守るという議論と将来世帯に責任を持つというのは全然違っていて、そういうときに判断の差が出てくるんですよ。だって、選挙では約束がそういう話になっていないでしょう。じゃ、どうするのか、将来にツケを飛ばせばいいだけなのか、おれはここを約束したのだからこうだというだけではメディアもおさまらないですよ。

メディアが問題浮き彫りのため意識的に「争点化」努力も必要

倉重 その辺は争点化の努力がどの程度できるかだと思います。年金だと、初めは民主党が制度設計を出して、自民党はスケジュール方針しかなかったですね。厚生労働省案と財務省案があったけれども、政府案や自民党案はなかった。しかし、小泉首相も民主党に追い込まれて最後は支給水準とかそういうところまで言及するようになった。要するに、メディアが争点化したからこそ、そこまで土俵が近づいたのではないかということです。年金問題で、もう1つ言えることは世代間闘争です。今もらっている人と将来負担する若い人たち、もう1つは、できるだけ保険料負担を抑えたい経済界と、そうでない厚労省を中心とした人たち、それら対立構図をうまくぶつけ合えればよかった。年金報道ではもう少しマニフェストの比較報道をもう少し深くできなかったかという点に反省が残ります。

嶋名 今の話は、ポイントのところなので、整理させてください。マニフェストが出てきた段階で、あれだけの分量のものをいくら簡略版をつくっても、国民、有権者が全部完全に読むことはなかなか難しいし、読んで理解するのは大変だ。また、読んでどちらがいいかという比較、判断をするのはさらに難しい。その意味で、まずメディアがそれをわかりやすく伝えることが大事で、やれる限り比較検討して、この政策はどういう意味があってどう実現させるかというところを示し、同時に政党に迫る、そういう試みが今回だったと思うんです。

もう1つは梅野さんも言われたように、次は実績、評価の部分です。政権を持っている与党はそれを実行する責任があるわけですから、我々は厳しく追及する。与党の公約は、実行責任が伴うので、どうしてもあいまいになりがちですが、民間でも成果主義ですから、メディアとしてそこはきちっとチェックしていく。もちろん野党の方も言いっ放しではだめだということで指摘します。しかし、まずは与党の実行力を問い、それがだめなら政権交代しなさいと。

マニフェスト選挙で国民生活どうなる視点もメディアに重要

金井 1回目にしては大いなる踏み出しではないかと僕は思います。そもそもみんな初めてだというのがまず一つ。あと、本来このマニフェスト選挙なるものの醍醐味は、選挙の後の国民生活はどうなるかというのをわからせることと、過去の実績を評価する。その2本柱のはずですけれども、その2本目の柱が今回初めてだからできないという、2つの醍醐味のうちの1つが失われたところで始まった選挙だけれども、ここまでいったことはすごいことではないかと個人的には思います。

あと、中立性の観点での判断基準の話でいくと、最終的には各メディアがどの政党のマニフェストがいいというベクトルに向かうしかないのかなと個人的には思います。その過渡的な過程として、どの党のマニフェストの方がより具体性があるとか、ある種、倉重さんのところが今回やられた独自の政策評価のアプローチに踏み込んでいかなければいけないときに来ているのかなと思っています。

後日談ですが、うちも今回、政策評価をどうしようかと考えた。ただ、今回は独自評価は時期尚早との結論に達して、では、どうするかとなった。識者の意見を聞くと、きっと自民党寄りと民主党寄り2人の意見を両論併記しなければならなくなって、それじゃ意味ないという議論になった。そこで、世界に冠たる政権公約問題のスペシャリストで、外国人に聞けばとなり、イギリスのエセックス大学に選挙公約の権威がいると聞きまして、彼らのところに会いに行って個別にコメントをとろうという決意を固めた。ところが、その前に、まず各党のマニフェストの要約を英訳しなくてはいけないと思い、途中までやったりしたんですが、公示日が近づき、最終的に断念しました。

外国人専門家がどれだけの権威かわからないですけれども、外国人であるところに公平性が保てるのではないかと考えたのです。それはある種こそくなというか、過渡期の手段なのであって、どの党がいいかはさておいて、どの党のマニフェストがより具体性があって、継続性とかそういう点で国民を裏切っていないかという判断を、していかなければいけないのじゃないかと思います。

これまでと違った世論調査で有権者の声を吸い上げ必要

大石 さきほどから有識者にコメントや政策評価を求める話もありましたが、正直言って、有識者はどうしても特定の勢力の別動隊である方たちが多い。そうすると、有識者にはあまり期待できない部分はあるので、若干考えているのは、最後は有権者の声を聞くしかない、世論調査をうまく活用できないかということです。ただ、従来型の世論調査で、公約は達成されたと思いますか、思いませんかというのを聞いても、それは例えば自民党が好きですか嫌いですかと聞いているのと結局、同じになってしまう。工夫が必要ですが、そういう答えがきちんと出れば、有権者の求めているものはこうであり、政権が問われているものはこれだとぶつけられるのでないかと考えています。

工藤 我々言論NPOは、小泉改革を検証する、ということで、すべての政策課題の評価軸を書いて6項目、あなたはどれを選びますかと有識者のアンケートを行いました。そうしたら、小林陽太郎前経済同友会代表幹事ら、いろいろな人たちが答えてきました。関心が高いのです。小泉さんの改革の実行性には、みんな不満を持っているんです。不思議なもので、そういう雰囲気がいろいろな評価の作業と結構一致したんです。

梅野 なかなか難しいと思うんですね、いわゆる評価のあり方と公平性というテーマだと。それぞれ皆さんがおっしゃっているように試行錯誤でしょうから、いろいろと模索していくしかないんじゃないですか。

メディアのフォローアップが重要、政治に緊張与える効果も

牧野 問題は、これからのメディアのフォローアップです。ぜひ皆さんにお聞きしたい。

嶋名 基本的には、具体的な予算編成や法案作成などのところで、与党中心に見ていくということです。態勢としては今回の取材もそうでしたが、政治部だけでなく経済部、うちで言えばくらし編集部、社会部など、いろいろなセクションと連携してやっていかないととてもできない。それは既に経済財政諮問会議の取材など、うちなども官邸に経済部、暮らし編集部の記者も配置しています。逆に言えば、そういう形でやっていかないと今の政治報道は成り立たない部分があります。

もう1つ、これだけマニフェスト選挙と言われながらなぜ投票率が低かったのか。投票に行かなかった人にどうアプローチしていけばいいのかも考えなければいけない。世論調査を含めて、どうすればもっと選挙や政治に関心を持ってもらえるか。第一義的には政党の問題だけれども、メディアもそこを考えなければいけない。そうでないと結局変わらないという気がします。

倉重 若い人の足をどう投票に向けさせるか。年金については、若い人はあまり払っていない。将来を余り考えていない。生活保護を受ければいいみたいな議論になるけれども、もうちょっと考えて突き詰めていくと、自分も困るし、親をどうするかというのも困るので、そういったところまでうまく政策をおろしてきて、そこでの選択肢になるような選挙にすればいいと思うんです。

もちろん、それには時間がかかると思います。だから、選挙のときで変わるのだけれども、選挙のときというのは、政治家はメディアよりも国民怖い、有権者怖いから、いろいろのっかってくるけれども、終わった途端に多分、ハイ、サヨナラですよね。これからこちらが幾らやってもあまり乗ってこないですね。そこをうまくしつこく切り崩すためにマニフェスト報道にはフォローアップが必要かなと思っています。いずれにしても、政治に常に緊張感を与えていく、政治へのプレッシャーが必要だと思うんです。

工藤 緊張感を与えたいですね。

牧野 今回のマニフェスト選挙では、まだまだ政治の質は高められなかったけれども、間違いなく政治に緊張感を与えたですよね。自民党も、公明党との連立のもとでも、数の力で押し切れるなんて絶対思っていないでしょう。目先の国政選挙で参議院があるわけだし。

大石 フォローアップの問題については、それこそ04年度の政府予算編成とか参院選ぐらいまでは、同じように関心は有権者や新聞読者の側にもあるでしょうし、続けられるでしょうが、その後は、何もおきなければ審判を下す国政選挙は3年間ない。審判の場がないときにマニフェストというのはどう役立つのか。マスコミが独自の基準を持って中間評価するといっても、どの程度かな。

金井 来年(04年)の参院選挙は政権がかわる選挙ではないので、今度の衆院選挙のようにクリアな政権選択という選挙にはならず、政党側も設定が難しいし、我々メディアも報道は参院選挙の方がもっと難しいのかなと思います。だから、これからマニフェスト選挙に基づいた政策本位の政治を定着させていくに向けては非常に難しい局面だなと個人的には思っています。

嶋名 結果的に参院選で政権がかわらなくてもメディアがフォローアップを続けていけばいい。通常国会には道路や年金の法案が出てくる。その法案の作り方とか、国会の論戦、また野党の対案など、与野党が選挙での主張に沿った行動をしているのかどうかを我々がチェックし、それを紙面などで伝えていく。そうやって政治に緊張感を与え、いい意味で政党を追い込んでいく。それを続けていけば次の衆院選にも生きてくると思います。

梅野 幸い自民党は最近、委員会をつくってマニフェストのフォローアップをするという姿勢を見せていますから、それの活動ぶりをこれから見ていくしかないですね。

工藤 私は、政府というか、小泉政権が自らのマニフェストについて、年次評価、自己評価を出し公表すべきだと思うのです。言論NPOとしても、それは徹底的にやりますよ。

梅野 そうですね。あと、我々ができるとすれば、1年後とか参院選とか内閣改造のときとか、そういう節目をとらまえてどうなったかを点検していく作業は必要ですね。

工藤 梅野さんが一番初めに言っていた、民主党に有利になったというのだけれども、民主党はどうすればいいんですか、マニフェスト報道としては。

民主党も政策主張に沿った対案提示など行動が必要

梅野 民主党は言いっ放しではだめだと思うんです。だから、対案をきちんと出していかないといけないし、選挙で政権をとれなかったから御破算ですということにはならない。そこは自民党と同じように民主党もちゃんとやっているのかという視点は必要です。

大石 国会報道については、どこの社も多分困っていると思います。極論すれば、民主党は137から40議席ふえたところで、実際の国会の場になれば、我々はこう主張しました、相手にされませんでした、否決されました、終わり、というのが実態としてあるのです。議席が何議席だろうと野党はしょせん野党で、相手にされないという点は永遠に同じなんです。彼らの主張が40議席ふえた分、世の中にどう浸透したか、それをまた、どう評価するか、非常に難しいんですね。

嶋名 数で言えばまさにそうなんです。しかし、ここは考えようで、どういうふうに緊張感を持続させていくかという点で言えば、常に我々は見ているぞ、監視しているぞと。逆に言えば、いいかげんなことをやったら、対案も出せない民主党というふうに批判する。そうして政府・与党側と緊張関係を持たせる。もちろん与党に対しては、その視点はもっとあるわけですが、野党に対しても言いっ放しで終わったじゃないかということですね。

例えば特別国会の予算委員会を見て思ったのですが、結局、マニフェストであれだけ年金だ、道路だ、三位一体といって、それももちろん言っているけれども、一番大きく取り上げのはイラクですよね。ところが、民主党がイラク問題をどれだけ選挙戦で前面に掲げていたかというと、安全保障政策に関して民主党内に両論があるので、そこはあまり強調しないけれども、国会論戦では政府が一番困っているからそこを突いていく。こういうところは、マニフェスト選挙の直後だけに、若干違和感を感じる部分もありますね。

牧野 今の落差みたいなところを嶋名さんのところはどういうふうに報道したんですか。

嶋名 そのあたりをどういうふうに伝えていけばいいのか、考えているところです。つまり、マニフェストで取り上げて主張したことをその後の国会論戦なり、あるいは政府・与党に対する対案でどういうふうに民主党がやっていくのか。与党は当然それを実行することが問われてくるわけだけれども、野党も、政府・与党に対して論戦だけでなく、どこまで実践しているのかと。

金井 民主党はどうあるべきかということに関して個人的に思っていることがあります。マニフェストの冒頭の5本柱の中に書いてある政治資金の全面公開については、政権をとらなくてもできる話なので、まずやってみろと言いたいですね。そういう積み重ねがうまくいけば、国民の見る目も変わり、少なくとも期待はつなぎとめられると思います。

あと、どのように国民のあれをつなぎとめていくかという話ですけれども、参院選挙を終わって、梅野さんがおっしゃるように、当面の政治課題というか、評価するチャンスがあまりないような気がするんです。強いて言えば、自民党のマニフェストに書いてある個々の年限、07年3月とか、そのタイミング、タイミングを我々が忘れずに覚えておくことかもしれません。ただ、これが非常に難しい作業で......。(笑)

工藤 金井さんが座談会の前半で言われた言葉がすごく印象に残った。生活実感、あれはすごく重要なんですよ。メディアも、政策論争が政策論争になってしまっていて伝わらないんです。自分の問題としてそれを理解できるところがあれば現実になるんですよね。だから、多分そういう議論が必要なのじゃないかと思いました。

(聞き手は工藤泰志・言論NPO代表、牧野義司・言論NPO理事)