言論NPO政策評価委員会(2003/5/12)
私たちは、評価作業を通じて現在の各党のマニフェストは依然、国民への説明という観点から極めて不十分であり、このままでは適正な評価に結びつかないと判断しました。そのため政策評価委員会では、マニフェストは以下の体系で構成されるべきであると考え、その考え方を公表することにしました。
マニフェストに書かれるべき項目は以下の通りです。
1. 大枠の方向と思想的背景
2. 政策の体系と重要度、優先度
3. 個別施策の達成目標、達成時期、および妥当性
4. 具体的ステップと必要資源、その調達方法
5. 推進体制と実行計画
6. 作成事務局とアクセシビリティ
7. 決意表明と結び
以下、それぞれについて簡単に解説します。
1. 大枠の方向と思想的背景
ここでは、自らの政党が何を目指したいのかを説明し、立場を鮮明にするのが目的となっている。日本の国や日本の社会にとっての望ましい将来像の下で、解決すべき優先度の高い課題の抽出と現実とのギャップの認識を明確に示し、それをどのように埋めようとしているのか、そして、それら大枠の方向付けが有権者にとって短期および中長期にどのような意味合いがあるのかを説明すべきである。そこでは表現が抽象的になることはいとわない。抽象論と観念論とは異なる。観念論にはロジックの裏づけがないが抽象論にはロジックがある。
続いて、それらの方向に対する思想的裏づけをメリハリよく説明する必要がある。二大政党制といっても、お互いの差があまりはっきりしない中道的な政党になっていく傾向があり、有権者にとってどう違いがあるのかがわかりにくくなってきている。一見同じように見える方向づけであってもその背景にある思想が違うことを示す必要がある。
2. 政策の体系と重要度、優先度
政策の体系とは大枠の方向付けを受けてそれを有機的に連携しながら推進する政策を構造的に示したものである。その場合、何を重要と考え、何を重要と考えなかったかを示す必要がある。特にどのような分野の施策は意識的に切り捨てたかをまず明記すべきだ。逆に重要な事項が語られていないということもあってはならない。しかし、網羅的に政策の数が多ければよいということではない。留意すべき点は、重要と考えなかったことは何も対策を打たれないのではないということである。マニフェストは日本国をゼロから作り直す政策を盛り込んだマスタープランのようなものではない。マニフェストで述べるべき政策は、抜本的な変革が必要なものを中心に語るべきである。すなわち、メリハリが必要なのである。すべてが一様に重要なのではない。何を優先度が高いと考えているのかはすでに思想的背景と大枠の方向で述べているはずである。それに沿って政策の重要度を明確にするべきである。
既存の行政機構が持つ弊害は縦割り行政である。省庁ごとの持つ権限の枠組みの範囲内で実施可能な政策の限界が明確になってきている。これまで前提としてきた「境界条件」を変えなければ答が出ない課題が増えてきている。各省庁の縦割りに対して横串をいれる発想が最も重要になってきている。このような発想こそが政治の責任であるといえよう。
優先度と重要度の違いは時間軸の違いである。同じ重要度であっても時間軸の短いほうが優先度が高い。重要課題の羅列ではなく、優先順位の提示とその理由付けを説明しなければならない。
3. 個別施策の達成目標、達成時期および妥当性
個別施策は、その目指す目標が明確であることは当然であるが、妥当性と具体性が必要である。有権者全体としては甘くやさしい施策を常に求めているのではない。厳しくても納得感のある施策を求めている。個別施策の妥当性のロジックがしっかりしていれば、自ずと妥当な達成目標が定量的、定性的に明確に示すことができるはずである。それら達成目標と達成時期をはっきりさせることが政党の責任とコミットメントを示したことになる。「やっています」ではなく、いつまでにどこまで達するかを有権者に約束するべきである。
4. 具体的ステップと必要資源、その調達方法
達成目標と達成時期が明確に設定されればそこの到達点にたどり着くのにどのようなステップを踏まないといけないかが明らかになってくる。目標に達するためには細かくかつ具体的施策が積み重ねられていなければならない。「何をやる」というだけではなく、「どうやってやる」という表現を必ず加えることである。
必要資源は予算配分だけでなく、実行できる人材がいるかどうか、それらの人材にどういう権限と責任、そしてインセンティブを与えられるかも重要であろう。
5. 推進体制と実行計画
推進体制とは想定される閣僚人事ということでは必ずしもない。それよりも重要なことは内閣と与党の関係である。それをどのように組み立てるのかを明確に提示する必要がある。その下で、各党の思想に合った推進体制を構築し、これを明確に提示すべきである。政策が確実に実施されるかどうかはその推進体制がどれだけ革新的かつ現実的かを有権者に示し、その判断を仰ぐべきだ。そのためには事前の学習を進めておき、政権をとってから考えるという時代の要求するスピードに合わないやり方は避けるべきである。6. 作成事務局とアクセシビリティ
マニフェストは一回限りのものではない。継続的に改善していく必要がある。それは内容の質だけではなく、それを有権者にどのように説明すれば理解を得られるかの両方である。各界からの反応をくみ上げ、対話し、議論し、取り入れるプロセスを政党として持つべきである。しかし、ここで重要なことはその機能を党全体として有権者のニーズや価値観の変化、そして時代感覚の移り変わりに対する感覚を鋭敏にするための手段として有効に活用するという意思がどれだけあるかの問題である。一部の親しい学者やジャーナリストとの付き合いだけではなく、マニフェストをまじめに読む層がどのような考え方をしているかを十分汲み取るためには対話型のやり取りが必要である。
以上