総 評
・成長戦略や財政再建では具体的な目標設定が行われ、その財源として消費税の税率を「当面10%」と具体的に設定している。これらの目標は政権党と比べても具体的で評価ができるが、271の公約全体で見ると「数値目標」や「期限」、「財源」などの指標が一つでも書かれた公約はわずか36項目(13.3%)に過ぎない。マニフェストという文字自体が副題に追われており、自民党として約束を国民とかわし、政権を奪取するという気迫が伝わらない。形態も約束としての形が後退し、その達成状況が有権者から検証不可能な従来のスローガン的な公約集に後戻りしている。
・消費税率引き上げ幅(当面10%)と、その使途を具体的に書いた点は高く評価できるが、マニフェストには歳出増の項目が非常に多く、財政構造改革は(今後10年以内にプライマリーバランスの黒字化)は伴う歳入増加や恒久財源という歳入改革が柱で実現できるか、現時点で判断が難しい。
【形式要件】
・マニフェスト全体は271もの個別政策が列挙されており、民主党マニフェストよりも精緻、具体的ではあるが、単なる政策集的なつくりのまま個別政策の優先順位が明らかではなく、マニフェスト実現のための工程が見え難い。参議院選挙は政権選択選挙ではないが、自民党は野党の挑戦者らしく、その実行のための政策決定や推進体制で自民党がどう変わったかを示すべきだが、そうした記述はない。
・マニフェストは基本的に「日米の信頼回復」など現政権の失敗などに対抗する姿勢が濃厚だが、「日本らしい日本の姿を示す」「頑張る人が報われる社会へ」などの記述があるだけで、経済政策、社会のあり方に対する明確な理念が示されていない。
【実質要件】
・経済成長では、「3年間で名目成長率4%以上」という目標達成のために、「金融政策、税・財政政策、成長戦略などあらゆる政策を総動員する」と明記、インフレ・ターゲティング設定、法人税率20%台への思い切った引き下げ、を打ち出している。これらは、自民党政策の中での「上げ潮路線」がより鮮明になっているもので、実現性という意味では相当高いハードルである。にもかかわらず、郵政民営化に対する記述は少なく、郵政票を意識した書きぶりとなっている点は、整合性に欠ける。
・成長戦略では、具体的な成長戦略を並べているが、必要財源の明記と捻出方法には触れていない。「子ども手当の全面的見直し、高速道路は無料化しない、農家個別所得補償はしない」など、民主党政策との違いを強調しているが、代わりに小学校給食や幼児教育の無償化、道路の積極整備、農家に対する「日本型直接支払い」の創設など選挙を意識した政策が随所に含まれている。
・社会保障では、診療報酬の大幅引き上げで安心できる医療の実現を掲げたが、民主党の評価で前述したとおり、こうした歳出増と財政再建の両立の姿が現時点では見えず、10%の消費税は当面としてもそのレベルで持つとは考えられない。そうした全体像への説明はまだ十分とは言えない。また年金ではその中長期の持続性への不安や制度体制に関する不信が広がっており、この制度設計を含む課題にむしろ野党としての挑戦的な対応も必要と考えるが、それらに対する言及はマニフェストに見られない。
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