<評価の視点>
経済分野においては、各党が持続的な経済成長実現すること、経済の実力である潜在成長率を引き上げるための成長戦略、あるいは経済政策全般を示す必要がある。現下の日本経済は、米国を中心とする世界経済の緩やかな回復を主因に、景気回復局面が続いているが、個人消費の回復力は弱く、米中間の貿易戦争激化を背景に、中国経済減速の影響を色濃く受け、景気回復局面が途切れるリスクがたかまっている。企業収益は増益基調を維持しているものの、収益拡大が賃上げと個人消費設備投資の回復に結び付く「経済の好循環」のパワーは未だに弱く力不足である。さらに、経済指標としては、6年間の平均で、実質成長率が1.1%、名目成長率が1.7%と、いずれも安倍政権が誕生した際に掲げた実質2%、名目3%という目標の半分前後程度にとどまっている。潜在成長率も1%にとどまっており、景気の本格回復への道のりはなお遠い。
こうした現状認識を踏まえ、評価のポイントとして、①日本経済の持続的な回復のために何が必要かをしっかりと認識し、そのためにどのような政策運営を行おうとしているか、②人口減少や少子高齢化など中長期の政策課題に正面から向き合い、日本経済の潜在成長力を引き上げるための適切な構造改革を指向しているか、を基本に据えて判断する。
<評価結果>
与党(自民党・公明党)
安倍政権が誕生して6年半以上続く長期政権になっている。安倍政権は誕生時から、アベノミクスという形で大胆な金融緩和で円安をつくり出し、そして、世界経済の好調とも相まって企業収益を拡大させていった。その結果、本来であれば企業収益の拡大が賃上げという形で家計に還元され、消費の拡大によって経済成長がする、という「経済の好循環」を目指したが、結果的には、十分な力強さを持つに至らず、成長率目標も達していない状況が続いている。その後、途中から「成長と分配の好循環」というキャッチフレーズを用いて、事実上、分配に軸足をシフトさせたが、昨年の保育・教育の無償化など、バラマキ政策と言わざるを得ない方向に向かっている。
自民党、公明党の与党については、これまで、アベノミクス三本の矢から始まり、地方創生、新三本の矢、女性活躍、一億総活躍、働き方改革、第4次産業革命、生産性革命と、毎年のように新しいキャッチフレーズや目標を掲げてきたものの、そうした点について、どのような成果があり、失敗があったのか。それを踏まえて、今後、政策をどのように改善していくか、ということを国民に明確に説明する必要がある。
そうした点を踏まえながら、今回の公約を見ても、これまで実施してきた政策に新たな政策を上乗せしているだけで、過去の政策についての自己評価的な説明はなされておらず、公約がどんどん増え、膨大な数に上っているのが実情である。持続的な経済成長に向けて、各政策がどのように関連し、実現の道筋をどのように示そうとしているのか、については不明であり、単なるウィッシュリスト化しているといわざるをえない。
今回の自民党のマニフェストを見ると、中小企業支援の政策が重視されており、公明党の政策も同様である。ほとんどの政策がバラマキ政策と化しており、単なる政策の羅列でしかない。本来あるべき理想のマニフェストは、「こういう政策をやるには、どういう目標を実現するためで、そのための財源をどのように調達するのか。あるいは、いつまでにこの政策を実施するのか」を示さないとならない。政府としては、骨太の方針や成長戦略の中で、多くの目標達成期限や、数値目標を入れているが、マニフェストという選挙公約ではそうした点を何ら記載しておらず、政策の羅列に終始している。これでは、有権者が今回の公約を通じて、どのような経済社会を実現していこうとしているのか、理解するのは難しい。
野党(立件民主党、国民民主党、日本維新の会、共産党、社民党)
野党については、国民民主党が「家計第一」を掲げ、消費の底上げで経済の浮上を支えている様に見えるが、実際は給付の羅列であり、具体策やその財源をどのように調達するのかは示されておらず、しかも、その配分を行うための原資となる安定的な経済成長をど実現していくのか、マクロ政策が欠けている。アベノミクスによる異次元の金融緩和や機動的な財政政策を継続することの副作用の懸念も高まっているが、その出口に向かっての説明もない。
その他の野党も同様であり、バラ撒き的、あるいは弱者保護的な政策で埋め尽くされ、経済政策によっていかに持続的な経済成長を実現しようとしているのかは全く不明である。仮に、経済成長よりも分配を重視するというスタンスであれば、成長なくして分配をいかに実現するのか、その具体的手段を国民に説明する必要があるが、そうした記載も公約からは見られない。
主要政党の政策項目数
経済 |
65 | 55 | 8 | 78 | 13 | 14 | 13 |
財政 |
8 | 10 | 1 | 13 | 4 | 2 | 2 |
社会保障 | 36 | 34 | 5 | 55 | 15 | 17 | 13 |
外交・安保 |
38 | 24 | 10 | 40 | 7 | 19 | 10 |
環境・エネルギー | 17 |
21 |
7 |
24 |
4 |
8 |
7 |
農業 |
21 |
8 |
1 |
23 |
0 |
4 |
3 |
憲法改正 | 3 |
3 |
1 |
14 |
7 |
1 |
1 |
その他(復興、地方、教育) | 94 |
60 |
7 |
86 |
9 |
16 |
14 |
総計 |
282 |
215 |
40 |
333 |
59 |
81 |
63 |