代表の工藤が公約に切り込む
福山哲郎:立憲民主党幹事長聞き手:
工藤泰志(言論NPO代表)
第二部:立憲民主党の公約について代表・工藤泰志が切り込む
工藤:どうもありがとうございました。では、ちょっと厳しい言い方にもなるのですが、評価の視点から質問させてもらいます。我々は2004年からマニフェスト評価をやっています。確かに立憲民主党の結党の経緯とか目的は非常に納得できるところがあるのですが、評価体系から見ると、マニフェスト自体は非常に抽象的で具体性がない。つまり評価がなかなか難しい状況になっているわけです。結党して時間がないからということであれば、いずれそれを具体化したものをどこかで発表しなければいけないだろうし、それとも、きちんと考えていない状況の中で何かを集めただけだということも言えると思うのですが、このマニフェストの作り方はどういうことなのでしょうか。
福山:具体的な政策の項目は、民進党時代も含めて、かなりいくつか準備ができています。それを出すことも必要だと思ったのですが、今回はそれよりも政策理念、党の考え方としてどういうことを具体的にやっていきたいのか。今、具体的なものがないというご指摘がありましたが、実は、かなり細かい項目では具体的なものが入っています。私は他党のことを批判する気は全くありませんが、自民党の政権公約を拝見しますと、具体的なことは確かにたくさんあります。IoT(モノのインターネット化)とか生産性を上げるとかありますが、あれは分かりやすく言えば概算要求の予算項目が並んでいるだけで、私も予算をつくってきた経験がありますので、予算要求の項目を並べるのが具体策だといわれると、若干、違和感があります。別に「出せ」と言われると出さないわけではないのですが、そのことよりも今回の選挙の争点、そして国民が求めていることからすると、こういうかたちで、国民に自分たちの政策理念、立ち位置をはっきりさせる方が、この選挙においては優先だと考えました。
「個人の生活」を守るための課題である人口減少への対応は
工藤:立ち位置の問題なのですが、立憲民主党というものを考えたときに、例えば個人の自由とか、少数者であっても権利を守るとか、差別や個人の生活の改善といったものを位置づけているのは、立憲民主党の性質に合っていると分かるわけです。しかし、個人の生活を考えるならば、一番皆が気にしているのは、人口減少・高齢化・団塊世代が後期高齢者になる2025年問題があり、課題が目前に迫っていて悩んでいるということです。それから、経済がどうなっていくのだろうという話があります。そういうマクロ的な問題に政策で触れていないというのは、それよりも党としての立ち位置をはっきりさせることを優先させたという理解なのでしょうか。
福山:冒頭申し上げた「生活の現場から、暮らしを立て直す」という項目は、まさに国民の生活に根差した問題に対して、可処分所得を上げていこうというものです。我々が政権のときにやらせていただいた子ども手当や高校無償化、いつの間にか各党が言い出しましたが、当時は「バラマキだ」と散々批判されました。まず、国民の皆さんの生活の中に安心を持っていただかなければ消費につながらない。マクロで言えば、消費はGDPの6割を占めるわけですが、その消費がアベノミクスで全く改善してこなかった中で、我々はこのことを言っています。
ここに書いてあります「全ての子どもの育ちを支援します」というのは、我々が政権で子ども手当や高校無償化を実現したとき、若干、出生率の下げが止まったのです。実は自殺者も、10年以上ずっと3万人台が続いていたのが、我々が政権のときに初めて3万人を切って2万7000人になって、そこから先は2万人台前半になり、ある意味では自殺する方々が減っているのです。つまり、そういった中で、我々はまず経済の下支えをしなければいけない。
異次元緩和の出口戦略を示さない政権与党は無責任
それから、マクロ経済の話でいえば、別に他党を批判するつもりはありませんが、「アベノミクスを加速する」というくだりが今回も自民党の公約にあるわけですけれど、日銀ですら異次元緩和がこれ以上にっちもさっちもいかない状況なのに、これ以上の緩和をするのか。これ以上GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)で株価を維持するということがアベノミクスの加速なのか。現実問題として物価上昇率目標は達成しなかった。あれだけ「輸出の総量が上がる」と言っていたのに、上がらなかった。マクロ経済の目標も私は大切だと思いますが、それよりも、今の異次元緩和や日銀のやってきたことに対し、それを補完するために、結果としては伝統的な財政政策もやってきた。このことに対する出口戦略を示せない方が、政権与党としてよほど無責任だと思っています。この出口戦略は非常に難しいと思います。急激に量的緩和を引き締めるということになると、国民生活が痛みます。まさに国民生活とコミュニケーション、対話をしながら出口戦略を考えなければいけない。アメリカはそういったかたちで、「(緩和を)やるぞ、やるぞ」と言いながら、実はうまく見ながら、徐々に金利が上がる状況をつくろうとしています。日本は出口戦略が今のところ全く見えません。
その中で、今、野党で、ましてや78人しか候補者がいない我々が出口戦略を言っても、それは国民生活を直接痛めつけることになります。我々が政権を取っても、出口戦略はそう簡単ではないと思います。そのことを示さないこと自体が、今の政権与党としては非常に無責任だと考えています。
工藤:今の話は非常に納得できるところがあるし、マクロ経済運営についてある程度見識を持っていることは分かりますが、マニフェストにそういう話が入っていないということは、そういうことを国民にいま説明しなくてもいいという判断をしているわけですか。
福山:説明しなくてもいいとは思いません。そこは問題意識として非常にありますが、では、今、この量的緩和、「異次元緩和」という言葉はいいですが、分かりやすく言えば異常な緩和です。このことの出口をどのようにつくっていくのかというのは、野党がスローガン的に「こうやればいいんだ」という簡単な話ではありません。まず国民生活の中で安心を持っていただいて、その中で経済が安定的に回るようにしていく。私は「GDP600兆円」というスローガンも「本当にどうかな」「そういう時代ではない」と思いますが、その中で国民と対話をしながら進めていくというのが、経済の運営の仕方だと思います。
今は消費増税の時期ではない。
将来の増税時は国民との対話の仕方を改め、まず使い道の信頼を得る
工藤:あと、消費税の問題です。立憲民主党は、一応消費税を上げる方向はあるのだけれど、今はその時期ではない、という判断に見えます。ただ、ここで一つ聞かなければいけないのは、三党合意の問題です。あれは民主党政権のときですよね。立憲主義というのであれば、国民の民意を問いながら法律をつくり、今もその法律は残っています。それに関しては、景気弾力条項の問題はあるかもしれませんが、今のタイミングではないと判断されているものと、法律で決まっていることとの間に齟齬はないでしょうか。これはもう反故にしていいという判断なのでしょうか。
福山:私は、そもそも三党合意は安倍政権がつぶしたと思っています。二度にわたって消費税を上げることを延期したのは安倍政権です。安倍総理は、三党合意の相手方である当時の民主党に何ら説明したわけではありません。そして今回、自民党の政権公約は「消費税の使い方を変える」と言ったわけですから、三党合意などどこに行ったのかという話です。「三党合意、三党合意」とよく言われますが、向こうは勝手に引き延ばしたし、中身は変えると言っているわけです。さらに言えば、国民生活と対話をすることは重要だと思います。これは、消費税を上げないための議論だという批判は覚悟のうえで言えば、森友学園問題で追及されていた佐川理財局長が国税庁長官になるわけです。国民からすれば、今この状況で「税を上げてください」と言っても、どう考えても国民の理解を得られないし、国民生活それぞれを見れば、これだけ分断が進んでいて、年収300万円の方が圧倒的に増えていて中間層が激減している中で、消費税を上げる環境にはないと思います。
工藤:それは、経済的な要素だけでなく、人的な信任の問題なども絡んでいるという話なのかもしれません。しかし、ではいつになったら上げられるのか。そして、財政再建の問題がマニフェストに全く書いていないのですが、これについての問題意識はそれほど強くないということなのでしょうか。
福山:現状では、まず国民生活を豊かにする、安定させる、安心を持っていただく、ということが優先だと思います。財政再建は否定はしません。しかしながら、今の状況ではその時期ではないと思います。一方で、消費税をいつ上げるのか。私たちは財源の議論から逃げる気はありません。しかし、社会保障・教育分野への財源は、全てが消費税とは限りません。先ほど申し上げたように、所得税や相続税や金融資産課税も含めて、日本の人口構造が変わり、それから経済の状況が構造的に変わっている中で、本当に経済成長型の税構造がそのままでいいのかという議論は必要だと思います。その議論を含めて、我々は財源の議論から逃げるつもりはありません。
将来的には消費税を上げざるを得ないと思いますが、そのときには必ず国民に「このサービスがあるから消費税を上げさせてください」、もしくはサービスを経験していただいて、「このためには財源が必要です」と言う。今までの国民との対話の仕方を逆にしていかなければいけない。国が上から「税を上げるよ、サービスはこれだよ」と言ってもそのサービス通りにならなかったり、消費税が何に使われているのか分からなかったり、消費税を上げたけれど国民の生活は全く豊かになっていなかったり、という、不信感の中で税を上げる議論はもう国民には通用しないのではないかと思います。
原発ゼロへの工程表は、政権を取ればただちに作成する
工藤:立憲民主党は原発ゼロについてもかなり強く打ち出しています。他の政党もこういうかたちで打ち出していて、基本的に同じことを聞くのですが、いつまでにそれを実現したいのか、工程はあるのか。そして、その時に目指しているエネルギーミックスのイメージは、原発がない場合どのように考えているのでしょうか。
福山:原発ゼロの年次ですが、安倍政権が原発をベースロード電源にしているということは、安倍政権が続く限り原発は稼働し続けるわけです。ベースロードですから20数%でずっと維持するということは、動き続けるわけです。我々が政権を担わせていただき、その時点で、経産省も原子力規制委員会も、立地自治体の状況も含めて、ロードマップをつくらなければいけません。「何年にゼロ」ではありません。我々が責任を持った立場になれば、1日も早く、原発ゼロというのは稼働ゼロですが、稼働ゼロにしていきたいと考えています。
工藤:そのときの電源構成はどういうかたちなのですか。
福山:基本的には石化燃料も3割くらいは必要です。LNG(液化天然ガス)を中心にしなければいけないと思いますし、再生可能エネルギーも3~4割に構成していかなければいけない。いろいろなものの組み合わせの中で、最も重要なのは、省エネと、ライフスタイルを変えていくということと、それぞれの地域での電源をちゃんと融通できるということが、構造的には必要だと思います。今年、既に九州全体では、再生可能エネルギーだけで電力需給ができるようになったのです。そのくらい、再生可能エネルギーの可能性は広がっているので、そういったものを組み合わせてロードマップをつくっていきたいと思います。
工藤:急増する社会保障関連費をどう負担するか、という大きな問題が将来あるのですが、今、全世代型社会保障という考えが出ています。つまり、現役世代も、引退する世代も、そして将来世代も保障の対象にするということです。立憲民主党はその全てを守るのでしょうか。全てを守るのか、それとも「こういうところに特化したい」というのがあるのか。それについてはどういうかたちでしょうか。
福山:「全世代型社会保障」は我々が言い出しているのです。我々が政権のときに初めて消費税を上げさせていただく中、社会保障と税の一体改革の中で、子ども支援システムというのを入れさせていただき、今まで子どもが置き去りだったものを、子どもの学びも含めて全世代に対しての安心を、というのは我々がもともと言い出しています。
実は、我々のときには成長戦略もつくっています。例えば、よく誤解があるのですが、「観光立国」は我々が言い出しました。原発はもう輸出することはあり得ないと思っていますが、インフラ輸出の話も我々のときに言い出しています。これは今、課題がいろいろと出てきていますから乗り越えなければいけませんが、サ高住(サービス付き高齢者住宅)も我々のときに言い出して、それが地方で、公共事業のようなかたちで一定程度、経済を潤すことにもなっています。
つまり、我々はもともと、「全世代型」を地域も含めてどのように新たなかたちでつくっていくかということについて、政権のときにトライしだしたのですが、途中で頓挫しているわけです。我々は民主党政権のことが全ていいとは思いません。失敗したことも含め、そのことも受け継ぎながら、と考えています。別に与党側の「全世代型」に我々が合わす必要はなく、もともとは我々が言い出したという認識でいます。
北朝鮮を核保有国として認めない場合に起こりうる、
軍事行動の可能性にどう対処するか
工藤:ということになると、それを含めた財源をどうしていくかという話を出していかなければいけないことになります。
あと二つ、北朝鮮と憲法改正の問題についてお聞きします。立憲民主党は「北朝鮮問題の平和解決」とおっしゃっているのですが、ここまで非常に大きな、つまり北朝鮮が事実上の核保有国になってしまっている状況の中で、これをどのように平和解決していくべきだと思っているのでしょうか。また憲法改正については、「国民との約束」を読むと、否定しているわけではないのですね。
福山:北朝鮮の問題は、国際社会が、アメリカも中国も韓国も、国連も含めて、核開発も含めた北朝鮮の挑発行為、脅威に対しては非常に難しい局面を迎えています。そのことに対して、私たちも現実的な安全保障環境の中で対応していきたいと思います。平和的解決というのは、ただ「対話がいいのか、圧力がいいのか」という二者択一の問題ではありません。少なくとも、例えばアメリカが軍事的オプションを取れば、一番被害が出るのは日本と韓国・ソウルになるわけです。そのことは、これまでのレポート、そして1994年に北朝鮮とアメリカの関係が大変緊張したときにもあるように、今ですと数十万人規模で日本もソウルも被害が出る可能性がある。このことは避けなければいけないということは、第一の問題だと思います。
これを避けるために何をしていくかということだと思いますが、ウルトラCのような解決策はありません。日米韓の防衛協力を含めた体制をつくらなければいけませんし、中国に対して北朝鮮に圧力をかけるような制裁を求めることも重要です。しかしながら、例えばロシアとの関係でいえば、あれだけ安倍総理がロシアと何度も対話している割に、今回の北朝鮮への制裁についても、ある意味ではロシアにあっさり袖にされたわけです。ああいったことも含めて、安倍政権の北朝鮮政策について、難しい局面ですが、全てが全てうまくいっているとは限りません。そういう安全保障状況の現実的な対応の中で、我々はやっていきたいと考えています。
工藤:確かに、戦争という最悪の状況にならないというのは分かるのですが、北朝鮮問題で、党としての基本的な姿勢を知りたいと思います。北朝鮮を核保有国として認めるということはありえないわけですよね。では、それを認めないための圧力という話になります。その圧力を強めた結果、平和が脅かされる可能性があるかもしれない。それに対しては、どんなことがあっても戦争は党としては認めないということなのですか。
福山:今の「どんなことがあっても」という仮定がよく分からないのです。アメリカがシリアにミサイルを撃ち込んだときも、日本に事前に協議があったかどうか、はなはだ分からない。アメリカは今、マティス国防長官とマクマスター大統領補佐官という軍人が意思決定に一定の影響力を持っていますが、軍人ほど、戦争に行くことに対する一定の制約が働く可能性はあると思います。私は、軍事的オプションを取れば日本とソウルに非常に被害が出る可能性があるし、そのことは、経済的にも、今の経済の前提は完全に崩れることになります。そのことに対しては、避けるために何をするかを考えるのが筋だと思います。
工藤:いや、万が一の話をしているのではなく、政策目標の優先順位を「核保有国として認めない」ということに置くのであれば、様々な可能性がありうるということを言っているのです。
福山:様々な可能性があることは否定しません。していないけれど、そのことの中で、軍事的オプションを取るとソウルや東京に被害が出て、経済もぐちゃぐちゃになるので、それは避けなければいけない。一方で核保有国として北朝鮮を認めることはできないというのも、当然、隣に核保有国ができるなどというのはありえないことですので、それについてははっきりしていると思います。