第二話:共産党の公約は、課題解決の手段として妥当か
―言論NPO政策評価委員との対話
工藤:それでは、私の方から、言論NPOの評価基準を踏まえて質問させていただきます。
私たちが政党の公約やマニフェストの評価をしているのは、あくまでも有権者のためです。今日は、一緒に評価をやっている日本総研の湯元副理事長にも来ていただきましたが、多くの人たちの議論をまとめて評価をしていきます。今回、私たちは共産党のマニフェスト(公約)の書き方がかなり変わったと感じています。
今回出されているものに関して、数値目標や期限、財源がある程度示されており、少なくとも政策の体系は示されています。これは共産党の公約では初めてのことです。ただ、それが課題解決の手段として妥当なのかどうか、見ていく必要があります。
小池書記局長のお話で私が非常に印象を受けたのは、「政策以前の問題だ」という話です。今までの日本の選挙では、争点と掲げられたものが、その後国会でも大した議論になっていません。ただ、それは政権与党だけの問題なのか。例えば、予算委員会を見ていても、野党も含めて、財政の再建について、それが集中的に議論されているわけではありません。2012年の衆院選時に、安倍政権は震災の後には「まずは被災地の復興に集中したい」と言い、2014年の衆院選では「消費税増税延期の信を問う、次は上げられる状況をつくる」と言っていました。加えて、「翌年夏までに財政再建のプランを出します」と言って、翌年6月に骨太の方針が出されたにもかかわらず、予算委員会の論戦を見ていると、財政再建プランよりも安保法制の話が行われている。これは政権だけの問題なのだろうか、日本の政治そのものが国民に向かい合うべき選挙の意味を軽視しているのではないか、という気がするのですが、それについてまずお聞きしたいと思います。
もう1つ、私たちが6月に公表した有識者アンケートでは、今回の選挙の持つ意味について、小池書記局長がおっしゃったような争点を考えている知識層もけっこういました。つまり、安保法制や改憲などの問題に関して気にしている人たちも存在しています。しかし、今の日本の有識者の圧倒的多数が今回の選挙で政党に求めているのは、人口が減少し、高齢化が急ピッチで進んでいくが、それに政府や政治が対応できるのかということです。私たちが行った欧米のジャーナリストのアンケートでは、日本の政府は、人口減少、高齢化のマネジメントに失敗するのではないか、と見ているわけです。
消費税引き上げの延期によって「政府がいっている2020年のプライマリーバランスの黒字化はほぼ無理になった」とおっしゃっています。共産党のプランを見ると、「2030年までにプライマリー赤字の解消にチャレンジする」ということで、政府目標より10年延期することになっています。しかし、2030年という年は、おそらく人口が1200万人ほど減少し、高齢者が800万人ほど増え、労働力人口が1000万人近く減っている時期です。つまり、人口減少、高齢化のプロセスにもろに入り込んでいく中でプライマリーバランスの黒字化を実現するということが、今の財源論だけで静態的に対応できる問題なのか。我々は、より急がないと、手遅れになるのではないか、と考えているのです。この2点をお伺いしたいと思います。
将来に希望の持てるプランを示し、好循環を図っていくために発想の転換を
小池:選挙時に主張していたことがなかなか国会で議論されていない、という実態はあるかと思います。ただ、予算委員会での議論でマスメディアが取り上げるのは、最初の1日、2日や途中の集中審議が中心であって、それ以外の場では、国会にいる者として非常に落ち着いて、様々な政策課題について与野党問わず真摯な議論が行われています。特に、参議院の予算委員会では、予算そのものの成立は決まっている中で、かなり突っ込んだ良い議論がなされています。昔は、総括質疑は1週間くらいありましたが、私が国会議員になってからは1日、2日しかありません。我々自身も知らせていく努力をしなければいけませんが、いろいろな良い議論をしているということは、一方では申し上げたいと思います。
ただ、おっしゃるように、政治の場なのでどうしても対決的なテーマに集中してしまう傾向はあります。野党はそこを議論しないと野党としての役割を果たせないので、そのようになっていくことはご理解いただければと思います。
それから、将来の問題について、私どもの考え方を説明します。公約パンフレットの4ページに、財源の考え方を非常にざっくりとした中身で示しています。お配りしている「『消費税にたよらない別の道』――日本共産党の財源提案」は、一応、財源の提案を文章化したものです。
私たちは、消費税頼みでは財政再建も社会保障の再建もできない、と考えています。だから、消費税以外の道で行こうではないか、ということを提案したいと思います。公約の中で提示しているのは、富裕層・大企業に対する応分の負担、「税は負担能力に応じて」という大原則で行おうということで、大企業の所得に対する、研究開発減税や連結納税制度、配当益金不算入制度などを見直すことで4兆円。それから、法人税率の引き下げを止めて安倍政権以前の水準に戻す、外形標準課税による増税分を差し引いて2兆円くらいは財源になるだろうということで合計6兆円。また、富裕層に対する課税の強化、所得税の最高税率を所得税と住民税を合わせて65%の段階まで戻す。それから、相続税の最高税率を50%まで下げたのを70%まで戻す。証券税制について、株式の配当は総合課税というかたちにしていく。株式譲渡益については、高額の株取引は欧米並みの30%の課税というかたちにして、合計で約3兆円。それから富裕税です。これは資産課税として、相続税の評価基準で5億円を超える資産に1~3%の累進課税をかけ3兆円程度の財源をつくり出す。加えて社会保険料の上限の引き上げなどを考えています。
歳出の見直しについては、民主党政権のときに「約17兆円」というのを掲げていましたが、我々は無理だと思っています。逆に、公務員の賃下げをそんなスピードでやったらデフレの加速になります。軍事費の5兆円のうち1兆円程度、あるいは大型開発予算、原発関連、政党助成金など細かなものを全部かき集めても3兆円程度だと思います。
軍事費に関して、思いやり予算は米軍再編経費と合わせて3500から3600億円です。思いやり予算だけだと2千数百億円です。我々のイメージとしては、いわゆる思いやり予算と米軍再編経費、それから、防衛費の中でも、オスプレイを買うというような最新鋭装備を見直していく。例えば、「ヘリコプターをやめろ」というようなことは言っていませんし、防衛費の半分は人件費ですから、そこを削れとは言っていません。そういうことを考えると、せいぜい1兆円程度なのかなと思っています。
それから、社会保障の充実をするためには、大企業や金持ちの負担だけではできないと思っていますので、そこはみんなで負担していく。それは消費税ではなくて所得税で賄うために、所得税の税率に累進的に上乗せするかたちで6兆円程度の財源を生み出していく。同時に、名目2%程度の成長が実現できれば、10年後には20兆円くらいの自然増収になるだろうということで、2030年頃にはプライマリーバランス黒字化の実現を考えています。
今のように消費税頼み、あるいは社会保障の削減一本槍ということでいけば、少子化を加速するだけですし、将来不安を煽るだけです。個人消費を停滞させて、経済の低迷という悪循環を生み出すだけなので、好循環を生み出すような発想の転換を実行していく以外にありません。少子化は避けられない事態ですから、その中で、政治としては将来に希望の持てるようなプランを示していくことで好循環を図っていく道しかないのではないかと思います。
工藤:人口減少、高齢化の問題について、政府は出生率の向上や働き方の改革などいろいろな取り組みを行っていますが、今のシミュレーション通りに動いていけば、本当に日本の人口はかなり減っていく。しかも、高齢化の中で減っていくという状況です。この状況に関しての共産党の考え方はいかがでしょうか。
少子化対策の柱は、長時間労働の是正と子育ての経済的負担軽減
小池:少子化については、私どもは、対策は次の2つだと思っています。
1つは、長時間労働の是正など、働き方の改革がどうしても必要です。今、子育てが非常に困難になっている最大の理由は、仕事と子育ての両立ができなくなっていることだと思います。長時間労働、非正規雇用、ワーキングプアが広がっているという問題を解決することがどうしても必要です。残業時間の上限規制を、労働基準法で明文化する。安倍さんは「同一労働同一賃金」を主張していますが、そうであれば、労働者派遣法改正は元に戻してもらう必要がある。加えて、働き方改革を実現していくべきだと思います。
また、認可保育所を増やすことです。我々の政策では、「税金の使い方のチェンジ」ということで、30万人分、3000カ所の認可保育所をつくろうという提案をしています。1970年代には8000カ所の認可保育所をつくっています。ぜひ、国有地、公有地、無償提供なども含め、緊急課題として仕事と子育ての両立を図っていくことが必要です。
もう1つは、子どもの医療費の無料化や保育料の軽減などによって経済的な負担を軽くしていくことをしっかりやっていくことが必要だと思います。こうした取り組みに本腰を入れて、少子化のスピードを少し遅らせることができるかどうかだと思います。今のように長時間労働をどんどん進め、あるいは非正規雇用をどんどん広げるようなことをやっていたら、今以上のスピードで少子化が進むと思います。今できるかどうか、ということが分かれ目になってくると思います。
工藤:もう1つ、外交についてもお伺いいたします。確かに、立憲主義の姿勢などに関する問題点について納得できる部分はあるのですが、どうしても分からない部分があります。
共産党は、日米安保条約は認めているわけですよね。アメリカは、今回のトランプ現象に見られるように、世界に積極的に介入していくという姿勢を変え、逆に、世界の問題に介入しなくなり、それが秩序の不安定化を引き起こしています。強大な軍事力を持ちながら、他国への関与を減らしていくという「現代版アメリカ・ファースト」という考え方から、アメリカは世界の問題に関してリーダーシップを発揮できない、「警察官」となることができない段階に来ている。
ということになると、アメリカが自ら戦争を起こしてそれに日本が巻き込まれるという構造がかつてはあったとしても、これからの国際政治の流れとは違うのではないでしょうか。一方で、中国が台頭し、尖閣周辺にも軍を出すという状況になったときに、日本も対抗力を強めていかないといけない。国際政治ではある意味でパワーが重要だと思います。 そうすると、安保法制は別にしても、アメリカの力の後退と中国の台頭の中で、日本の安全をどうやって守るのか。それから、ロシアも含めて、核を保有する大国が現状の秩序にチャレンジしている現状に対して、日本はどのような立ち位置を取ればいいのでしょうか。
世界的な秩序が不安定化する中で、共産党は日本の安全をどう守るのか
小池:安保法制についていうと、中国を意識したものではなく個別的自衛権の世界です。日本の安全をどう守るのか、ということにおいて、我々は「自衛隊を即時解散せよ」などと主張しているわけではありません。今の北東アジアの安全保障環境のもとで「自衛隊はなくなっていいですか」と国民に問えば、到底賛同は得られないと思います。憲法9条から見れば、自衛隊は違憲の存在です。どう考えても、あの憲法では軍隊は持てません。しかし、それを即座に解決することはできないと思います。これは我々の責任ではなく、憲法9条のもとで自衛隊をあれだけ強大化させてきた自民党政治の生んだ矛盾だと思っています。将来的にどうするのかということでは、我々は、憲法9条が掲げた「軍隊によらない国づくり」という理想は追い求めるべきだと思っています。ただ、何年かかるか分からない、それこそ、私が生きている間にできるかどうか分かりませんが、そういう環境を北東アジアで作っていくことを目指して、それによって自衛隊を解消していくということは訴え続けていきたいと思います。
しかし、同時に、今、それはできません。日本の安全保障を考えた場合に、今の自衛隊でどうなのか。既に、世界有数の十分な軍事力を持っているわけで、専守防衛に徹するということであれば、現状で十分な戦力になると思います。現在の中国の行動を見て、逆に防衛費を増やしたほうがいい、という指摘もありますが、今、自衛隊が新装備として導入しているものは、ほとんど海外派兵用のものが多いのが実態なので、日本の装備は十分ではないかと思います。
日米安保条約が役に立つのかということはありますが、例えば尖閣で何か起こったときに、安保条約を発動して米軍が動くのか。NATOというものは、一方の国に対する軍事攻撃であれば自動的に参戦する仕組みになっていますが、日米安保条約では、アメリカ議会が承認しない限り米軍は動きません。そうであれば、尖閣という島のためにアメリカが軍隊を動かすか。私は、なかなかそうならないのではないかと思います。今の米中関係を考えれば、むしろ「そんな争いはやめてくれ、日本と中国が尖閣諸島をめぐって争うのは絶対にしないでくれ」というのがアメリカの思いだろうと思います。日米安保条約は、尖閣の問題、日中の問題にとってはほとんど影響がないというか、むしろアメリカはそちらを見ていないのではないかと思います。
日米安保条約については、我々は破棄すべきだと主張しています。戦後70年経って、事実上の占領下に置かれているような沖縄の現状、経済的にも軍事的にもアメリカに支配されているような現状を変えるためには、日米安保条約は破棄して友好条約に切り替えていくことを求めていきます。国民連合政府、あるいは野党共闘の中では、我々は安保条約破棄を求めてはいませんが、共産党の政策としては、安保条約の廃棄を現実の政治課題として訴え続けていきたいと思います。これをなくさないことには、国政上の様々な対米従属的なゆがみを解決していくことはできませんので、これは主張し続けたいと思います。
工藤:ただ、海外に行くと、逆の質問を受けることがあります。大国によって踏みにじられている国の人たちは、「日本はアメリカとの間で強い同盟関係があって、非常にいいね」という言い方をします。自分たちの国を守るためには、自国の防衛力を強めるか、他国と同盟するしかないと思っている。それ以外の、例えば観念的な平和だけでは守れないということを多くの人が気にしています。現実論としてそういうことがあるわけです。共産党が考えている当面の考えはわかったのですが、最終的な姿としては、どのように軍事的な同盟を組むのでしょうか。それとも同盟を組まないということなのでしょうか。中国は核兵器を持っている大国で、アメリカも核を持っていますが、日本だけが全く関係ない状況なのでしょうか。また、日本は軍備をどの程度持つことになるのでしょうか。
一方で、説明のあった「北東アジア平和協力構想」に入る国はどこなのでしょうか。中国と韓国と日本の3カ国なのか、それとも、アメリカやロシアも入るのでしょうか。
小池:私たちがイメージしている「北東アジア平和協力構想」の土台は6カ国協議です。6ヵ国協議の枠組みを更に発展させて、「北東アジア平和協力構想」をつくっていこうという提案です。だから、当然、アメリカも含めていく。日米安保条約解消の前の段階で、こういった枠組みをつくっていくことが必要だと思っています。
軍事的な同盟も結ばないのかというと、いわば集団的安全保障的な、地域的な安全保障の枠組みをつくっていくことになるかと思います。特定の国、アメリカとの軍事同盟というところから脱却して、アジア全体を見据えたような集団的な安全保障体制をつくっていくということが我々の構想の基本的な考え方です。
工藤:今、アメリカ大統領選が行なわれています。ドナルド・トランプ氏とヒラリー・クリントン氏のどちらが大統領になれば、アジアの平和的な秩序が安定すると思われますか。
アメリカ大統領選は、日米安保のあり方を考えるチャンス
小池:他国の大統領選挙なので、どちらが、ということは言及しませんが、私はこの大統領選挙で日米安保条約そのものに対して、疑問が投げかけられているということは、ある意味いいチャンス、大統領選を機会に日米安保条約を国民的に考えるきっかけになるのではないか、と思います。「本当に安保条約をこのまま継続していいのか」、あるいは「ただ乗りだ」というけれど、あれだけの財政的な負担も払っている。アメリカが軍事同盟、安全保障条約を結んでいる国の中で、駐留経費を払っている26カ国のうち、半分以上出しているのは日本だけで、異常にホストネーションサポートが大きい。トランプ氏は「ただ乗りだ」と言うけれど、逆に「これだけ払っているのにこれでいいのか」ということは、今回の大統領選をきっかけに問題提起できるのではないかと思っています。
工藤:野党による連合政府の手応え、実現可能性をどう見ているかということについて、やはり、それぞれの政策について各政党の意見が違うことがよく分かるのです。長いプロセスだと言われましたが、本当に実現するのでしょうか。
野党間の信頼関係が徐々に生まれつつある
小池:言論NPOのアンケート結果を見て、「野党共闘・候補者の一本化をどう評価しているか」ということで、「評価している」と「どちらかといえば評価している」がほぼ半数ということでした。かなり意識の高い方々のアンケートだと思いますが、半分近く、ほぼ半数の方に評価して頂いていることは大変心強いと思っています。
参議院選挙に向けた世論調査のトレンド調査などを見ても、野党、特に、選挙区での野党への流れが広がってきていて、差が縮まってきている。今までは、なかなか「選挙に行っても、自民党が強いと一票投じても勝てない」ということで足を運んでいなかった方が多かったと思いますが、野党共闘で、自分たちの一票で変えられるのではないかという期待が生まれつつある、私は、大きな変化が起こってくる可能性が十分にあると思います。
同時に野党間の関係でいえば、冒頭で香川県での確認書を紹介しましたが、これまでは各県の共産党委員長が民進党の県連幹部と話をしたことも、連合の事務所に行ったこともありませんでした。それが初めて顔を合わせることができた。「会ってみたら意外に話ができるじゃないか」というような関係で、お酒を酌み交わしたりするような機会も段々増えてきています。そういう意味では、大きな変化が起こっています。もちろん、長年積み重ねてきたいろいろなものもあり、一朝一夕に解決しないと思いますが、実際の選挙戦に向けて、候補者を一本化するにあたって、各地で詰めた話をしていく中で、だんだん信頼関係が生まれてきているということもあります。
我々もこの間、野党間で幹事長の会議などを定期的に開き、電話でいろいろ情報交換しあうような関係になってきています。実際に、4月の北海道5区の補欠選挙は、現地でもかなり、お互い気持ちよく戦えたという思いがあります。共産党の組織というのは、本当にみんな真面目ですから、やろうと決めたら、一生懸命、民進党のビラを地域で撒いたりするのです。そういう中で、私も、北海道5区の選対本部に行って、選対責任者の民進党の道議の方と選対事務局の責任者の連合北海道の方と話をしましたが、「本当に献身的に頑張ってくれてありがとう」ということを率直に言っていただきました。私は、まだ始まったばかりで、スムーズに全部が進むとは思いませんが、参議院選挙の取り組みを通じて、氷はかなり溶けつつある、溶け出してきているのではないかと思います。だから、そういう意味でも、今回の1回だけではなくて、何回かの選挙を通じて、きちっとしたものに進んでいく必要があると思います。やはり、政治を変えるためには、安倍さんではありませんが、「この道しかない」と思っていますので、是非、これを進めていきたいと思います。
「消費税以外の増税」によって何を実現するのか
湯元健治(日本総研副理事長):これまで言論NPOで、各党のマニフェスト評価、特に経済政策を中心に行ってきましたが、共産党の今年のマニフェストは、これまでと比べてかなり進化したなと思います。具体的には、財源を提示して、「やるべき政策はこうだ」と示しているという意味では非常に進化したと評価しています。
3つだけ、私が受けた印象と疑問を申し上げたいと思います。1つは、民主党政権は、約17兆円の財源を歳出削減で捻出して、それによっていろいろな政策ができると主張しました。結局、集められずに実現できず失敗しました。共産党の場合は、歳出削減は少なくて、増税が中心になっています。「消費税はやらないけれども、他の増税はやります」ということになっていますが、他の増税の中で、本当にできるのかという増税も含まれています。例えば為替取引税とか投機的な取引に対する税というのは、「何が投機的か」を把握するだけでも大変で、現実的に難しいのではないかと思います。それから、富裕層の増税も、確かに国民から拍手があがると思いますが、富裕税を持っていたスウェーデンは、富裕層のお金が海外に出て行ってしまったことを踏まえて、廃止しています。現実問題として、主張している増税ができるのか、ということが1点目です。
2つ目は、消費税は上げないということですが、ここに数字を上げて頂いたものを計算してみると、企業増税が約6兆円、あと細かいものを除いて、家計に対する増税、もちろん高所得層向けの増税も合わせて合算すると約9兆9千億円と、10兆円近くになります。10兆円近い増税ということは、消費税にすると4%くらいの引き上げに相当します。結局かなりの増税をすることになるわけですが、増税をして、何をやると訴えるのか。消費税も含め増税することに対して国民は嫌だと思いますが、増税してその使い道に納得すれば増税を受け入れると思います。その部分が、働き方の改革や子育て支援で保育所の増設、ということは安倍政権も言っています。安倍政権とは違う、安倍政権を上回る素晴らしいものが、例えば子どもの医療費無料、大学の授業料半減とかは、違う、新しい政策だと思いますが、10兆円増税して、これをやるということの辻褄が合っているのかどうかということが2点目です。
3つ目は、格差是正ということが中心になるかと思いますが、分配するためには原資が必要で、それには経済成長して稼がないと原資が入りません。スウェーデンは高福祉国家ですが、企業が海外で稼いでこないと社会保障の財源は生み出せないという認識で、国民は一致しています。共産党のプランで増税をしていくと、日本の経済成長や企業の稼ぐ力を、どのような政策で高めていくのか、あるいは高めなくてよいという主張なのでしょうか。
分配のための原資をどう手当てするのか
小池:為替投機課税については、おっしゃるように、これは投機か投機ではないかと色が付いているわけではないので、考え方としてはごくごく低率の税率を掛ける。提案としては0.01%程度の税率でも1兆円程度の税収になると考えています。金融取引税、国際連帯税のような考え方でやろうということです。
それから、企業が海外に逃げるという話ですが、現実としてもう逃げています。タックスヘイブンに逃げることはもう通用しないと思います。今や、逃げるのを恐れるのではなく、逃げたのをどうやって押さえて、持ってくるということではないかと思います。
我々が考えている富裕税というのは、相続税の評価額で5億円ということになれば、大体税務署で見れば、あの人とあの人とあの人とわかるような世界の話です。これは、税務行政さえしっかりしていれば十分できると思っています。
それから増税については、企業6兆円程度、家計10兆円程度というご指摘ですが、家計10兆円程度というのは、将来的な所得税の税率を引き上げることも含めてだと思います。この6兆円分は次の課題です。だから、今の安倍政権に対抗して出していく社会保障の財源ではなくて、これをやった上で、さらに日本の社会保障制度をもっと前に進めていく。一番お金がかかるのは、最低保障年金。やはり、私たちは、年金は保険料だけに頼る今の仕組みは限界があると感じています。やはり基本的な部分は最低保障年金で対応していくしかないと思っています。それを作っていくための財源としては、大企業やお金持ちの負担だけではできないと思いますので、率直に、国民の皆さんには所得税の増税で負担をして頂きたいということになっています。見返りがなければ増税はできないので、最低保障年金あるいは医療の窓口負担をせめて1割程度まで軽減をするということはやる必要があると思っています。今ここで打ち出している税金の使い方のチェンジという範囲では、この6兆円の増税は入ってこない形です。
分配のためには原資が必要だというのは、おっしゃる通りだと思います。ただ、日本の場合は、内需が大きいということがあります。スウェーデンは、せいぜい埼玉県並みの経済力だと聞いたことがありますので、やはり、外需の比率が高くなると思います。一方、日本はこれだけの人口がある国ですから、外需を否定するわけではありませんが、国内需要をもっと活性化することに力を注ぐ必要があり、そのために働き方のチェンジを行っていく、個人の購買力を高めていく、そして社会保障制度の拡充で将来不安を取り除くことをセットでやっていく必要があります。それから地場産業、農業、漁業、地域経済を活性化していくことも重要です。我々も、経済成長を否定しているわけではありませんので、そういう意味では内需主導の経済立て直しに本腰を入れた取り組みは必要だと思います。しかし、そうした視点で見ればTPPは明らかに逆行だと思っています。