「今回の選挙で問われる日本の課題とは」自由民主党編

2016年6月27日

第二話:自民党の政策は課題解決の手段として妥当なのか
―言論NPO政策評価委員との対話

160621_kudo.jpg 工藤:評価体系として論理的な説明でしたので、納得する人も多いかと思いますが、逆にそこに挑まないといけません。新藤さんは、今回の選挙のポイントを3点言われましたが、最後のところから伺いたいと思います、つまり、内政、外政も含めて、思い切って未来に向けたステージに上げていくということでしたが、それは立党の原点から見ても、憲法改正だと言わざるを得ないと考えます。憲法問題に関して、今日紹介された選挙公約ではあまり触れられていないのですが、どう考えているのか。それから、選挙では、どういう議席数であれば勝ったと言えるのか、お聞きしたいと思います。



国民生活向上のための仕事を進めた結果として、憲法改正がある

160621_shindo.jpg 新藤:憲法を改正することは我が党の立党の原点です。昨年は自民党の立党60年でした。昭和30年11月15日に立党した時の党の綱領はきわめて明快です。日本の自主独立の完成、これが、自民党の立党の原点なのです。政策の基本方針の軸が、現行憲法の自主的制定で、これが正式な言葉なのです。その意味において、今ご質問をいただきました憲法の改正、は、究極の目標です。

 しかし、今の憲法で戦後71年、我が国は立派に成長してきました。その中でまずは国民生活を向上させ、安心と安全をつくる。そのために「日本を取り戻す」というミッションのもとに政策を実行する。その結果として、最終的にこの国の姿、あるべき将来のかたち、規範をつくる作業に入っていくわけです。憲法をどのようなものにすべきかは、我々は野党時代、既に憲法の自民党案を出しました。国民の議論のたたき台にしていただきたいという思いで私もそこには深く関わりました。ただ、そういった姿を見せつつも、憲法改正のために選挙や政治をやるわけではなく、仕事を進めていった結果として憲法改正にたどり着かなければいけない、というのが私たちの考えです。憲法改正という目的は変えませんが、今それをここで乱暴に、急にやるものでもない。日本を新しいステージに引き上げるということは、改憲と直接結びつくものではありません。

 今回、我々の改選議席は、野党になったときに自民党が議席を大きく減らしたときの議席です。したがって、選挙区で39、比例区で12の51。その後1人離党しましたので、我々は50と考えています。この50議席、改選の現有議席を維持しても、これは野党時代に負けていたときの議席ですから、勝利とは言えないと思います。したがって、これを積み上げて、具体的な数字は申し上げませんが、3年前の直近の選挙、安倍内閣になって最初の参議院選挙は65議席でした。野党時代は50議席です。ですから、65と50の間に私たちの勝利が見えてきます。1議席でも増やしつつ、自公の選挙協力も含めて、3年前の議席にどれだけ近づけられるかが目標ラインになってくると思います。

工藤:次に、消費税の問題です。先ほど、消費税引き上げを前提として予定していた社会保障への影響について「努力を積み上げる」というお話でした。今回の公約の中に「デフレ脱却をより確実なものにするために消費税増税の延期」という表現があります。この表現は非常に理解できるのですが、この表現は、2014年の総選挙のときに安倍総理が言っている消費税に対する考え方と違うのではないでしょうか。そうであれば、ずっと増税をしない方がいいのであって、当時は、財政に対する影響にも言及したかたちで2017年4月に「絶対に上げる」と言い、さらに財政再建に翌年夏までの出すとまで公約し、その計画を選挙後に明らかにしています。消費税の再延期に伴い、想定していた社会保障や財政再建には影響が出ていますが、公約ではそれを充分に説明していません。

 ただでさえ、2020年のプライマリーバランスの黒字化は、消費税増税をやり、実質2%、名目3%成長の目標が実現しても6兆円足りないという状況の中で、公約ではその目標を維持するのでしょうか。どうやって実現するのか、財源的な裏付けはどうなのか、社会保障の話をもう少し具体的に国民に説明すべきではないかと思うのですが、どうでしょうか。

 また、14年後の公約を元に、政府は財政再建の計画として「2018年度にプライマリー赤字のGDP比を1%にする」という中間目標を入れました。その達成は難しい、と思うのですが、いかがでしょう。



新たな社会保障の充実は必ず財源を捻出し、赤字国債は発行しない

新藤:まず、方針は何も変わっていません。目標を定めて、国民に約束をして期限を切ったわけです。それは、強い決意として実行するだけであって、アベノミクスの「三本の矢」を合わせて強い経済を実現しながら、財政再建も同時に実現させる。しかし残念ながら、消費税を8%にして以降、消費が伸び悩んでいます。したがって、まだ経済の体力が完全に回復していない中で、予定通りに増税することは重荷になるかもしれない。こういうリスクを取らずに、今、確実に経済が上向いているトレンドを崩さずに、増税を延期した中でさらなる目標の実現を図ろうという判断をしました。しかし、これは「新しい判断」です。判断を変えました。経済は生き物ですから、改めることに躊躇があってはならないという総理の判断です。私たちもそれを受け入れています。ですから、そのもとで、今回の参議院選挙という国政選挙で信を問う、大きな柱の1つになっているということです。

 そして、社会保障を充実させるために消費税で賄うお金、これは2%分つまり5.6兆円の税収が欠けることになりますが、社会保障の充実に使われるのはそのうちの1.3兆円です。1.3兆円の内訳は、赤字国債を発行しないで社会保障のいろいろな努力、そして経済成長、歳出削減、こういった工夫によって実現したい。介護や子育て分野の歳出は、必ず財源を捻出することに決めました。赤字国債は発行しません。でも、それは1.3兆円です。この分については発行しないということです。もともと赤字国債は発行されています。税率が上がらなければその分歳入に穴が開くわけですから、その分の国債は発行せざるを得ません。しかし、国民にお約束している新たな社会保障の充実部分については、これは国債を発行しません。そういった無責任なことはしません。これが他の党とは違うところだと、明確にしています。



経済再建による税収増、歳出削減ともにまだ余地がある

 それから、プライマリーバランスについては、そもそもが難しいとの指摘もありますが、少なくとも2015年に対GDP比のプライマリー赤字を半減、つまりマイナス3.3%にすることは達成済みです。このまま経済改革が進んだとしても2020年にはまだ1%足りない、という試算が既に出ています。ですから、それをどう乗り越えていくかが、私たちの挑戦なのです。しかし、GDP成長率との絡みになりますが、経済の再建に伴って、税収増にはもう少し伸び代があると思っています。対する歳出の方は、物価上昇率が2%を前提にした歳出の増大です。ですから、約1.4兆円、自然に伸びていってしまうのですが、これを5300億円に圧縮するという方針を既に定めています。ですから、経済再生のラインとして組んでいる今の計画は、歳出においても歳入においても、まだ余地があるということです。それは、私たちの我が国に対する経営努力です。この範囲で、とにかく2020年のプライマリーバランスの黒字化を図るということです。

 消費税の税率変更は2020年時点での姿ですから、2019年10月に消費税を上げると、2020年には、1年間フル充当された税収が実現します。今まで考えていた2020年の税の姿と、今回は税率変更を延期したとしても2020年に実現する姿は、税収においては変わりません。ですから、その中で、あとはどれだけの努力ができるか、そして国民の皆様がこういう目標を共通認識していただいて、それに向かって頑張れるか、ということだと思います。

 2018年度にプライマリー赤字を1%まで持ってくというに中間目標は、税率が上がらないのですから難しいと思います。しかし、どちらにしても、2020年にどういう姿にしておくかということですから、歳出・歳入にまだまだ工夫の余地があります。そして、最終的には税収の姿は変わらないという中で、この方程式で私たちは達成しようと目標を掲げています。

工藤:1番目の目的についてお伺いします。確かに、経済成長と分配の好循環を否定する人はいないと思います。正しい考え方です。しかし、本当にできるのかという問題があります。私たちが気にしているのは、日本の最大の課題として人口減少と高齢化のスピードが速すぎるということです。2030年ぐらいになると、人口が数千万人減少し、高齢者が800万人増えると予想されます。手遅れの状況になってくる前に経済を大きく変える必要がある。この状況において、安倍首相が取った「新三本の矢」がその課題に応えているのではないかと思ったのですが、国民にはアベノミクスの評価が争点として国民に提起されています。我々は前の「三本の矢」ではなく、「新三本の矢」は日本が直面している課題に向かい合ったものだと思っていますが、選挙時はそれを争点に打ち出すべきなのではないのでしょうか。 

 「三本の矢」についても、新藤さんがおっしゃった話は非常に明快だったのですが、公約には「実質2%・名目3%」という成長率の目標は書かれていません。それから、「GDP600兆円」もいつまでに達成するのか分からないし、極めて曖昧な目標になってしまっています。今までの自民党の公約はそれをもっと明確に書いていましたし、消費者物価上昇率2%の目標もありました。ということになると、努力の方向は正しいけれど、実際に国民に示す目標に関しては実質的な修正が図られている、と国民は思うのですが、いかがでしょうか。 



「新三本の矢」では、少子化対策で個人が果たす役割を明確に位置付けた

新藤:まず大切なことは、国民の皆さんと政府が政策の目的を共有することだと思います。政権の政策が定まらず、そしてその効果が国民に賛同を得られなければ、みんなでバラバラに動いてしまう。道はいくつもあるけれども、大切なことは、政権が信念をもって「これが正しいのだ」という客観的な分析をしながら、目標をきちんと掲げることなのです。

 その意味において、今言われたことは非常に重要で、この国の国家的課題は人口減少です。それをどうやって食い止めるか。皆さんもご認識されていると思いますが、人口の置換水準は出生率2.07です。今は1.42。私たちは希望出生率1.8を達成すると言っていますが、1.8でも人口減少は止まりません。2.07を達成しなければこの国の人口は横ばいになりません。でも、2.07の人口置換水準を達成してから実際にこの国の人口減少が止まるのは、80年後です。ですから、今すぐに取り掛からなければいけません。そうしないと国の経済や国民生活、我々の子々孫々に重大な影響を及ぼします。この解決の道筋を決めるのは、私たち、今生きている人たちの責任だということを、国民全体が知るべきだと思います。

 そのためには、「子どもを産んでください」ではなく、産んでも育てられる社会をつくることが重要です。したがって、少子化対策や福祉政策を日本の経済成長戦略の中に合体させたのは、戦後、安倍内閣が初めてです。「できるか、できないか」というご心配もいただいて結構だと思います。少なくとも、国家戦略としてここまで明確に、自分たちの地域や自分の家庭において、また1人の人間が何をしていきましょう、という目標をみんなで明確にしましょうと位置付けたのは、私たちの安倍内閣が初めてです。「新三本の矢」というのは、「三本の矢」に加えて、少子化や福祉、介護、それから教育、子育てといったものを入れ込んだ、今までにない新しい仕組みの中で、まずみんなでそれぞれの役割を果たせるかということが我々のメッセージです。



GDP600兆円は決定済みなので、あえて公約に書く必要はない

 それから、成長率2%という数字を挙げていないではないかということですが、わが党とすれば、今年の「骨太の方針」でも明記しています。公約の前に「GDP600兆円」を掲げていて、それをどうやって実現していくか、目標年次も既に定めています。私は最初に「GDP600兆円はこの6年間で実現させる」と申しましたが、それはこういうことで既に決定しています。ですから、その600兆円を実現するための内訳を今回示しているのであって、その前段の「何%成長」とかいうことは、あえてここに書き込む必要がない、もう決まっているということなので、ここには何の変更もありません。

工藤:私からは最後に、民主主義についての基本的な考え方をお聞きします。野党からは「立憲主義の破壊」と批判されていますが、それ以前に、自民党は選挙の持つ意味というものをどう考えているのでしょうか。2014年の衆院選のとき、消費税増税を先送りすると同時に言ったのは「次は絶対に引き上げる」ということでした。それに加えてもう1つ言ったのは、「翌年の夏までには財政再建のきちんとしたプランを明らかにします」ということでした。しかし、私たちが見ていると、選挙のときに「プランを明らかにする」とあそこまで言ったにもかかわらず、当時の国会の論戦はほとんど安保法制の話ばかりでした。つまり、選挙のときに国民に言ったことをその後まったく継続せずに、一方で選挙のときに言わない話が政権運営でかなり出てしまうことが、政権運営についてはある程度やむを得ないのかもしれませんが、選挙の持つ意味が非常に形骸化、イベント化してきているのではないかという危惧を持っています。

当選や政権獲得が目的化してはいけない

新藤:そういうご心配はしなくてもいいのではないかと思います。私たちはまず、選挙が当選するための手段であると考えてはいけないと思っています。そもそも、一番やってはいけないことは、手段の目的化です。例えば、「政権交代」が目的になった政党もありましたが、政権交代は手段です。手段が目的化すると、目的達成のあとに何をやっていいか分からない。選挙に出る者は、投票をいただきたい。選挙に当選したい。でも、それは目的ではないのです。当選をして議席を持ち、また政権を維持して仕事をすることが目的なのです。その上で、最大限皆さんに分かりやすい、そして期待をいただける、実行可能なものを提案する。これができるかどうかにかかっています。ですから、その意味において、その時々の状況によって変えるものは変える、守るものは守る。自分たちがこの国のために役に立つと思ったことは、徹底的に信念をもってやり遂げる。その覚悟が必要です。それが、自分たちの利得権益のためになるようであれば、この世間、有権者が審判を下すことになるだろうと思います。

工藤:「手段を目的化してはいけない」という政策評価の基本を政治家の方から聞いたのは初めてで、驚きました。次に、言論NPOの政策評価に関わっている湯元さんと田中さんからも、一言お願いします。

160621_yumoto.jpg湯元健治(日本総研副理事長):自民党のマニフェストは最も体系的かつ戦略的で、非常に完成度が高い政策集が入っていると思います。KPIも目標達成のために入れ込んであるということなのですが、私たちがマニフェスト評価をやるときに、政策がどこまで実行可能なのか、ということを1つのメルクマールとして、その財源をどこから調達してくるのかということと、具体的にどういう手段で調達するかということが、マニフェストの中に明記されているのが理想的な姿だと思います。今回の公約では、他の政党で財源を明記された政党はあります。

 その中で、「アベノミクスが道半ばだ」というのは総理自身もおっしゃっていることで、非常に良い経済指標があることは間違いないのですが、肝心のマクロ経済の成長率や物価上昇率といったものがまったく目標に届いていません。成長率は、最終的に財政健全化という中長期の課題を解決していく上でも、安倍政権の財政健全化はかなりのところを成長に依存しています。名目3%の経済成長をしてもまだ足りない状態にあるということですから、成長ができないということは、圧倒的な確率で財政健全化目標を達成できないということになっていくのだろうと思います。

 その時に、これまでの「三本の矢」で、私の感覚では、三本のうち最初の二本、金融政策と財政政策にかなりの程度依存してきました。金融政策もマイナス金利まで来て、国民から見ると逆に不安を感じるような状況になっています。財政政策もこの3年間で23兆円、さらにこれからもやっていこうという感じになると思います。8%への消費税増税による8兆円の増収はありましたが、その3倍くらいの経済対策を打っていて、なおかつ成長率はあまり上がっていない状態です。これに対して、なかなか思い通りいかないことを、どうやって最終的な目標に達するようにしようとしているのでしょうか。
成長戦略に書いてあることを実行するだけ、ということかもしれませんが、それは実行のスピードが遅いのか、成長戦略の中身にまだ足りないのか、どのようにお考えになっているのでしょうか。

 今回のマニフェストは、まさに「新三本の矢」に焦点を当てて、少子高齢化、人口問題に正面から切り込もうと、具体的な数値目標を入れてやっていこうとしています。問題の本丸に切り込もうとされているという点では非常に評価できるのですが、ただ、実際にこれだけの高い困難な目標を、2025年とはいえ、そう簡単に達成できる目標ではまったくないと思います。これまで補正予算や当初予算で投入した資金は約3兆6000億円ですが、実は、10年間くらいこういう対策を打ち続けてもできるかどうか難しいところです。一億総活躍社会を実現するためトータルで投入すべき予算、財源はどのようにお考えになっていて、どういうかたちで調達しようとされているのか。先ほど、社会保障の充実は国債発行なしでできるということをご説明いただきましたが、新アベノミクスの第二、第三の矢を実現するためには相当な新しい政策、これまでやっていなかった政策の上積みで、予算がかかることになります。その全体像が示されていない点が、本当にできるのかという疑念を生み出している部分もあるかと思います。ぜひその点をお聞かせください。

160621_tanaka.jpg田中弥生(大学改革支援・学位授与機構教授):大変わかりやすいお話、また、工藤さんからの突っ込んだ質問にも誠実に答えていただき、ありがとうございました。私からは3つ質問がございます。

 まず、新藤さんは総務大臣時代に政策評価法に基づいた政策評価に取り組まれました。自民党も、政策集に基づいて、今おっしゃった体系をつくった上での実績報告書、検証、これは2001年から2004、2005年くらいまでは出ていた記憶があるのですが、最近出ていませんので、ぜひ出していただけたらと思います。

 2番目に、「国民と政策目的を共有する」とおっしゃっていますが、一億総活躍はまさに、50年後、60年後の日本の未来のために議論していると思います。ただ、公約を見る限り今現在の話であって、本当は将来の危機的な状況だという話がなく、耳に心地よすぎると思います。恐怖を煽るだけのポピュリズム政治はまずいかもしれませんが、もう少し、将来の課題について厳しい側面を入れるべきではなかったでしょうか。

 3点目は、財政規律に関する質問です。これは工藤さんが既に質問していますが、この部分がもっと公約のパンフレットに記されるべきでしたし、自民党はもう少し、この危機感について明確に示し、何をどうするか、例えばプライマリーバランスだけでなく1000兆円の債務残高をどうするのか。また、一億総活躍でもどちらかというと分配の議論をしていますが、社会保障こそ本当に切り込んでいかなければいけない課題だと思うのです。これに関してどうするのかというプランを、少し厳しめの目線でご説明いただければと思います。

全要素生産性の向上により潜在成長率を高めることが、成長戦略の前提

160621_04.jpg新藤:本当に成長していけるのかというご質問ですが、いま、私たちは2020年初頭にGDP600兆円を達成するには平均で名目3%、実質2%を続ける必要があると述べました。2015年は名目で2.2%、実質が0.8%ということでした。だけれども、直近で言いますと、今年の1月-3月期は名目2.4%、実質1.9%まで改善しました。ほとんど、皆さん顧みられていないのですが、2015年の7月-9月期は名目3.5%成長しています。これはできるのかではなく、成し遂げなければならない。そのための政策を投入していかなければならないということです。その大前提になるのが潜在成長率だと思います。結局のところ、労働と資本の投入を行うにしても、おおもとの全要素生産性を上げなければどうにもならない。生産性向上のために何があるかということで、技術の開発、地方の活性化によって、その地方で必要な教育や医療、福祉、こういったものも負担は大きくなくとも産業化できる。世の中の、社会的課題を解決するために払ってもいいというコストはあると思います。そういうものを産業化、事業化できるのではないかということが地方創生の中に織り込もうとしているものであって、規制緩和、特区で、実現できるのではないかと思います。

 それから、生産性を上げるという意味においては、市場を拡大していくこと、国内のみならず、TPPも含めた自由貿易体制を作っていって、関税だけでなく、技術認証、検査等こうした基準を統合することによって、市場をもっと拡大できます。また、日本が20年前、30年前にクリアした問題をいま抱えようという国があって、課題解決のための技術を海外の国に提供できると思います。こういうものも生産性のなかに組み入れられないかと考えます。それは、大企業や輸出企業がやるだけでなく、日本の産業の最大特徴は中小企業のネットワーク化ですよね。大企業から中小零細企業までパッケージとなって、全てが海外に出ることはなくとも、海外に出て行く人たちの部品や技術を支えるのは、町の中の工場です。こういうものを使った、私たちの国なりの新しい全要素生産性の上げ方ができないかという、その挑戦がいま、私たちがやろうとしていることです。
特区というのも、そのなかの最も先進的なもので、国家戦略特区はそういう思いで作りました。



一億総活躍の財源は、税収増と企業の内部留保の活用

 一億総活躍社会をどういう財源でやるかというご質問ですが、第1は税収です。税収が思い切って上がってきている。平成24年と比べて21兆円増えています。税収がバブル直前まで57兆円まで上がってきたのと合わせて、国債発行額も2年連続で、減額補正しています。今年の税収57兆円も見込みですから、おそらくもっと上回ると思います。そういう財政努力によって財源を生み出していくということが1つ。もう1つは、企業の内部留保、すでに350兆円に達しています。先程の質問とも関係するのですが、「三本の矢」の第一の矢、第二の矢に偏重していると私も思います。ただ、そうでもしなければ、持ち上がらないほど、前政権時代の経済は苦しかった。だから、カンフル剤を打ち込んで、無理矢理引き上げた。それが今度は、成長をしていくことによって、自律経済に持って行けるかどいうかという挑戦をしているわけです。

 自律経済が持ち上がっていく時には、今度は政府の予算だけではなく、民間、国内のお金が動き出せば、政府の支出は絞っていけることになります。今のところ、企業の内部留保が史上最高、経常利益も史上最高で巨額でありながら、投資にまわるお金が5兆円、これだけの利益を出しておきながら、給与に回るお金が3000億円という状態です。投資と留保と賃金のなかで、賃金をもっと上げられるような見込みが立てられないと企業も留保を崩せないというわけですから、ここの好循環ができるまでは、我々が政府として、徹底して後押ししなければならない。

 日本経済は、それができた暁には、自律的にもっと動いていくだろうと。その時には、既に、税収が上がることによって、歳出削減をしつつ、国債の発行を抑制しているわけです。こうした政策を回していくことによって、その副次効果、相乗効果で次の新しいステージができるのではないかと私は考えています。

 それから、田中先生のほうから、政策評価のお話がありました。おかげさまで、政府の政策評価を各省庁、評価基準がバラバラで、評価を表す言葉もバラバラだったのですが、田中先生のご尽力もあって統一しました。
今度は、統合した評価がなければならないのですが、わが国には行政事業レビューと政策評価という大きな2つの体系があり、同じようなことをやっているのです。ですから、これも田中先生にご協力いただいて統合しました。まず、事業レビューが個別事業を羅列して、3000くらいの事業をチェックする。政策評価はそのなかから300くらいに絞って、そこから体系的なチェックをするという体系に切り替えていったわけです。

 今では、冒頭に申し上げましたが、自民党の政務調査会を通るにはKPI設定をしないと通らないというところまできました。したがって、自民党としても、政府が行っていることを与党としてチェックすることがあってもいいと思います。そのための検討をしたいと思っており、私も、政策調査会の中で考えておりますから、状況を見ながら、その基盤を作っていく必要があると思います。トータルとして、党としての検証ができるよう取り組みたいと思います。



公約には「やるべきこと」を書いた。危機的状況はその前段として説明する

 政策パンフレットに危機的な状況を書いてないということですが、大体、政治というものはネガティブなことは言いたくないわけです。隠しているわけではありません。大事なことは、厳しいことであっても、それは乗り越える目標だとポジティブに考えていく必要があると思います。この選挙公約は「やるべきこと」です。この選挙公約の前提となる社会情勢というのは、公約に書き込むというよりも、その前段として皆さんにきちんと説明しなければいけないことで、現実のこの国の危機的状況を認識させるための努力はやりたいと思います。しかも、私たちはやっているつもりなのです。是非、そういった意味で、パンフレットはこれを見て、皆で何をすべきか、目標を共有するために特化したものだと私自身は思っています。もちろん、「これの裏側に何があるのではないか」「そう言っても難しいよね」ということは皆がわかっていることだと思うし、私たちもそれを隠しても意味がないので、「こういう状態だから、それを直すためにこれがあるのですよ」という使い方をしていく必要があると思います。

 それから、財政規律、財政再建については、一度も旗を降ろさずに、しかも、先程おっしゃいましたけれども、成長と分配を両立させるというのは、今でこそ、そうだと思うかもしれませんが、今までは、成長か分配かのどちらかでした。他の政党は「分配が重要だ」と言い切っている政党もあります。「今の時点では分配でしょう」という政党もあります。私たちは、2つのものを同時に達成させる。それは、経済の再生と財政の再建。経済を成長させながら、財政規律を守り、歳出削減していく。これを両立させなければいけないと取り組んでいるのは、自民党政権でも、私たちが初めてだと思います。

 現実に経済が回復していければ、国債発行は激減しているわけです。しかも、当初予算で組みながら、それを年度途中で、税の自然増収分と歳出の余剰金で補正予算を組んだり、赤字国債を減額発行するための処理をしたりすることも同時に進めているわけで、ここはきちんと説明する必要があると思います。私たちがこの国の再建に対して、財政再建させることが将来に対する責任であり、そして、経済を成長させることも将来に対する責任であり、この2つは絶対に崩さないということでやっていきたいと思います。

160621_ogua.jpg小倉和夫(国際交流基金顧問、元駐仏、駐韓大使):大変包括的な、明快な説明有難うございました。1つだけ庶民感覚から申し上げると、最大の問題は政治に対する不信感だと思います。東京都知事の問題があって、政治と金の問題についてどうお考えかということが、実は最大の隠れた争点だと思います。今日のパンフレットを拝見しても、政治と金の問題について、例えば、政治資金法を改正するなどについては一切触れられていない。こうした政治の信頼の問題は、特に18歳に投票権が引き下げることで大きな問題になるかと思うが、どのようにお考えでしょうか。

160621_kawai.jpg河合正弘(東京大学大学院特任教授、前アジア開銀研究所所長):私自身、アベノミクスのサポーターですが、一番がっかりしたのが消費税の引き上げを延期したことです。今日、国民生活を犠牲にして増税しても意味がないと言われましたが、それならば、永遠に増税できないのではないかと思います。安倍総理が、2015年の10月の引き上げを2017年4月に延期したときに、あれだけ「17年には必ず増税する」と約束されたことを「新しい判断だ」と言って変えられたことで、2019年10月の引き上げは本当に起こるのか、誰も信用しないのではないかと危惧をしています。

 もう1つは、成長戦略の中で、外国人労働の活用は避けて通れないと考えますが、これはどのようにお考えでしょうか。



消費税の引き上げをうやむやにすることがあれば、個人として許容することはない

新藤:政治とカネは基本的なことで、しかも、それがテーマとなって政党が再編されたり、法律が改正されたりしています。私たちも、都知事をめぐる政治資金の使途については、心を痛めました。本当に残念なことだったと思います。しかも、話がやっかいなのは、政治資金規正法上違法ではないが、常識の範囲を超えた使い方に問題があったということです。これはひとえに、恐縮だけれども、個人的な考え方の問題もあったのかなという気がしております。何よりも、政治と金の問題については、私たちはいつも、居住まいを正し、問題があれば、まずは個人として、政治家として責任を取ることに尽きるわけです。

 ただ、政治の構造において、金に関する誤った、おかしなルートができているとは思っておりません。かつて、政治活動するのに、お金にまつわる、今では納得できないような使い方があったことも承知しております。それは、完全に変えましたし、現実に、選挙を、政治をやっている人間でそのようなことを考えている人はいないと思いますし、考えている人は必ず罰せられます。ここは、厳然たるけじめを付けて、しっかりやっていくべきだと思います。

 消費税の延期が、実施されるのかということですが、目標を立てて、「2017年4月に増税する」と言ったことをできなかったのですから、できない理由を皆様方にきちんと説明をしながら、こういう形でやっていきたいのだと約束しました。今の私たちは、これをやらなければならないとお願いをして、公約に出しているわけですから、その実現のためにあらゆる努力をするという一言に尽きますし、政治は、いつも責任を伴うことだと思います。それだけの覚悟を以てやることです。うやむやにすることは絶対にありません。私は、もし、うやむやにすることがあれば、個人として、政党の中で、それを許容することは致しません。これは、国是としてやっていかなければならないことなのです。しかし、その時期と内容を整えなければならないという意味において、我々も必死で、このような選択をしたということです。それだけに、国民の皆さんにこれだけの決断をせざるを得ない状況だということ、そして、こういう状況だからもっと頑張ろうと、皆さんと共有、共感して頂けるよう説明していかなければならないと思っています。

160621_02.jpg 外国人労働の問題は、国の根幹に関わる問題で、自民党のなかで初めて、研究、検討のための組織を作りましたが、まだ検討段階です。研修制度の充実をしようということでいままで来ましたが、外国人の技能実習制度は、もともと日本に来て、優れた技能を学んでもらって、母国に帰って活躍してもらうという制度だったのが、いつのまにか、単純労働の、しかも労働者が不足しているところへの充当策になってしまった。これでは意味がない。だから、ここをきちんと元に戻そうということがございます。

 それから、移民の問題が最後、出てくると思います。いま政府の中でそのことを考えている人はいません。それは閣僚の皆さんが明快に話されていると思います。後は、高度な技術を持った人材と、いま検討が始まっているのは、それとは別に、労働のある分野において、外国人であっても入っていける分野があるかないか、そういったものが社会に受け入れられるかどうかの検討が始まっているところです。これは、非常に議論を呼ぶと思いますので、慎重な、丁寧な検討が必要だと思っていますし、自民党の政策調査会のなかでも議論しているところです。

工藤:今日は自民党の政策を包括的に議論しました。私たちがここで言いたいのは、選挙の意味をもう一度よく考えるべきだということです。選挙は有権者と政治の契約であり、緊張感のある環境作りなのです。有権者が日本の将来や政策を考える力を身に付け、有権者が強くなることで日本の政治も強くなる、と我々は考えています。我々はこうした視点のなかで、日本の政治を監視し、また我々の考えを伝えていくマニフェストのサイクルを作っていきたいと思います。ありがとうございました。

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