評価の対象に選んだのは、自由民主党、公明党、民主党、生活の党、日本維新の会、みんなの党、日本共産党、みどりの風、社民党、9党の公約です
・全9党のマニフェスト評価は、最高点の自民党でも29点で、多くの党は20点を下回るなど、2004年より開始したマニフェスト評価では最も低い結果となった
2013年7月21日投開票の第23回参議院選挙には12の政党が立候補者を届け、投票日まで約一週間を切っている。そこで、言論NPOは、各党の公約を二つの形で評価を行い、それぞれ公表することにした。
今回、言論NPOが公表するのは、公約が、有権者や日本が直面する課題にどれだけ本気に向かい合ったものなのかを形式面から判断する「基礎評価」と、公約自体の政策評価の結果である。この政策評価は、言論NPOのマニフェストの評価基準に基づき、12の政策分野で行った。
言論NPOが今回評価の対象に選んだのは、自由民主党、公明党、民主党、生活の党、日本維新の会、みんなの党、日本共産党、みどりの風、社民党、9党の公約である。
言論NPOが、「基礎評価」と「マニフェスト評価」の、二つの評価を今回公表するのは、各党の公約自体の形骸化が進み国民がこれをどのように読めばいいのか、判断できない事態になっているからである。さらに今後の国政の状況にもよるが、この参議院選挙後、今後3年近く国政選挙がない可能性も高く、今回の選挙が国民の判断を求める機会として極めて重要な機会であることも考慮した。
「基礎評価」は、政党の公約が、国民や日本が直面する課題に本気で向かい合って書かれたものかを判断するために行うもので、マニフェスト評価は公約が国民との約束にふさわしい課題解決のプランになっているのか、を形式、実質面の7つの評価基準で採点している。
この作業には言論NPOのマニフェスト評価に参加する、国内の各分野の研究者など約20氏が参加したほか、政策の現場にいる約50氏に協力していただいた。
「基礎評価」は、自民党は2点、他の政党は1点に過ぎない(5点満点)
「基礎評価」の評価基準は、政党の公約が「有権者」と日本の「課題」のそれぞれにいかに向かい合っているかを、判断するもので(別図参照)、公約の①メッセージ力や、②形式要件、③衆議院選マニフェストの関係、さらに④公約の絞り込み度、⑤実現の道筋、⑥説明責任、の6つの項目で評価し、それを5点満点で示している。
その結果は、どの党の公約も評価が低く5点満点で最も点数が高いのは自民党の2点で、そのほかの党の公約は大部分が1点となった。
日本の政党は国民に本気で向かい合っているのか
政 党 | 有権者に 向かいあっているか | 日本の課題に 向かいあっているか | 総合評価 (左記を5段階で評価) | |||||
マニフェストの位置付け ※1 | 約束としての形式度 ※2 | 昨年末のマニフェストとの関係 ※3 | 課題の抽出力 ※4 | 課題の解決力 ※5 | 正直度 ※6 | |||
1 | 1 | 2 | 1 | 1 | 1 | 0 | 2 | |
2 | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | |
3 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | |
4 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
5 | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | |
6 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | |
7 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | |
8 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | |
9 | 0 | -1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
有権者と政治との緊張感の希薄さが生んだ現在の政治状況
「基礎評価」は、公約が本来持っているはずの最低限の要件を、満たしているかを判断するもので、ここまで低い点になった最大の要因は公約そのものの形骸化にある。
マニフェストを軸とした政治とは、政治が直面する課題に対する解決や取り組みを国民に約束し、その評価を次の選挙で受ける、そうした国民に向かい合う政治のサイクルが回ることである。
参議院の選挙は、その政権の中間評価として行われるもので、与党はその自己評価と新しい課題の提案、野党は政権の評価と、対案を問われることになる。
ところが、今回の公約はどの党も曖昧な願望やサービスを並べたものが多く、それが何の課題をどのように解決するのか、実現性を判断できるものがほとんどない。また、財政再建や社会保障など国民に痛みを問う政策や、重要な判断を求める政策は与野党ともに選挙後に判断を先送りしており、野党に至っては、公約のほとんどが現政権に対する批判で、対案を提起できている政党もごく少ない。
この状況では、国民は今回の参議院選挙で政党や政策を選ぶことは難しく、今後の重要な判断をすべて選挙後の政権に一任する結果になりかねない。そういうことになれば、有権者主体の政治の意味は極端に形骸化することになる。
政党は「国民」に本気で向かいあっているか
以下、「基礎評価」の概略を説明する。まず今回の「基礎評価」で問われたのは、政党が国民に何を伝えたいのか、そのメッセージがしっかりと示されているのか、である。
与党の公約は、昨年の総選挙でのマニフェスト(政権公約)の実績を踏まえて、何を今後実現するのかを説明する必要がある。また、野党は与党政権の何が問題で、それをどう変えたいのか、党首や党の明確なメッセージが必要である。
この点では自民党は、昨年12月の政権公約を迅速に着実に実行しているとし、半年で実行した政策を説明すると同時に、「その歩みを止めず、さらなる課題にも取り組んでいる」新しい取り組みも加えている。公明党の公約は参議院でも自公の安定的な基盤を得ることが目的と党首が語っているが、この半年、与党として何を実現し、その上で何を今後は実現するのかについては説明していない。
野党は、安倍政権の批判に終始しており、具体的に何をどう解決するのか、対案がすくない。これらが野党の評価が低い原因となった。
次は、公約が国民との約束としての形式を整えているのか、である。
国民との約束として有権者が公約を判断できるためには、その公約が何を約束したものなのか形式的に示される必要がある。そのためには、最低限、測定可能な数値目標や達成時期、財源が明らかにされないとならない。
今回の参議院選での9党の公約数は合わせて1440項目あるが、この3つのうち最低1つでも明記された公約はわずか123項目(8.5%)しかない。与党の自民党は32項目(22.9%)、公明党が16項目(17.2%)とかろうじて1割を超したが、野党では1割もなく、政党の自己主張の羅列になっている。
3つ目は2012年末の衆議院選挙のマニフェストと、今回の参議院選挙との公約との関係を十分に説明しているのか、である。
今回の参議院選の公約と昨年の12月の総選挙時のマニフェストとの公約の関係を党ごとに比較すると、衆議院選時と比較可能な7党の公約1234件のうち、そのまま今回の公約に採用したのは928件(75.2%)に過ぎない。削除されたのは446件、新規が343件、加筆修正が51件だが、その理由が今回の公約で説明されたのは29件しかなく、大部分の政党は公約の変更を説明していない。
政党は「国民」に本気で向かいあっているか
次に、公約が、この国の「課題」に向かい合っているのか、である。
まず、公約の絞り込みである。公約は党の主張集ではなく、課題解決のプランであるためには、政策の優先があり、実現すべき課題が絞り込まれていなくてはならない。
この点では、各党とも重点的な政策課題は10個以内に絞り込んでおり、電話帳のような批判集はなくなっている。
次に、公約は実現の道筋を描いているのか、そして国民が本来判断をしなくてはならないことや負担などに関しても政党は説明しているのか、である。公約がその道筋を描いているか、さらに説明責任を果たしているか、ほとんどの公約はそれを満たしていない。
別表では各政党の11の政策分野での主要な主張の違いを整理している。
ほとんどの公約が説明不足であるが、「財政再建」については、公明党、共産党、社民党、生活の党、みどりの風はほとんど触れていない。与党である自民党や公明党も目標は出しているが、すでにそれは困難視されており、目標達成がどう可能なのか、についての説明はない。
「社会保障制度」については、制度問題については触れられているものの、毎年増える社会保障関係費をどのように抑制し、持続可能なものにしていくのかということについて全党がほとんど触れていない。「エネルギー政策」、「憲法改正」、「経済成長」、「外交・安全保障」については、各党ともに政策を提示しているが、大部分が抽象的で道筋が描かれているわけではない。政党によっては政策的に大差ない公約も多く、その違いが有権者にとっては分かりにくい。
また、農業における戸別所得補償の法制化や直接支払制度など、バラまきを競う反面、例えば米の減反問題や水田農業を今後どのように再生させるかの長期的な道筋を提案する政党は少ない。
来年、再来年の消費税の引き上げについても、反対や凍結はあっても、その場合、年々急増する社会保障や財政再建との関係をどの党も説明できておらず、また引き上げを主張する政党もない。
国民が直面する課題への政治側の説明は、大部分が選挙後に先送りされており、今後、3年間選挙がない可能性が高いことを考えると、国民がなんら判断できないまま重要政策が決まる可能性がある。これらはすべてマイナスの評価になっている。
政党は「国民に向かいあっているのか」
【マニフェストの位置付け】
まず今回の公約で政党が国民に何を伝えたいのか、そのメッセージがしっかりと示されているのかを判断した。ここでは与党は、昨年の総選挙でのマニフェスト(政権公約)の実績を踏まえて、何を今後実現するつもりなのか、を説明する必要がある。また、野党は与党政権の何が問題で、それをどう変えたいのか、党首や党の明確なメッセージが必要である。
【約束としての形式度】
全体の政策項目のうち、数値目標、達成時期、財源が1つでも入った政策項目がいくつあるかの割合について、下記の通り判断した。
-1点:0% 3点:30.1%~40.0%
0点:0.1%~10.0% 4点:40.1%~50.0%
1点:10.1%~20.0% 5点:50.1%以上
2点:20.1%~30.0%
【国民への説明】
2012年の衆議院選挙の公約と、2013年の参議院選挙の公約との関係性を国民に対して説明しているかについて、加筆・修正、削除、新規、変更なしの項目についてそれぞれ説明したかどうかについてそれぞれ判断する。
政党は「日本が直面する課題に向かいあっているのか」
【課題の絞り込み度】
加えて、「中味から見る基礎評価」については、電話帳のようにただ政策を列挙しているのではなく、政党のマニフェストが日本の主要課題に政策を絞り込んで本気で実現しようとしている姿勢を判断した。ここでは、書かれている政策が1~5個の場合は2点、6~10個の場合は1点、11個以上の場合は0点とした。
【課題への解決力】
そして、その絞り込んでいる政策が、手段や数値目標など、実現への道筋をどのように描いているか、その具体性を判断した。政党が、日本が直面する主要課題に対して、どのような筋道を描き、どのように対応しようとしているのか、説得力のある筋道を描いていれば2点、何らかの筋道を描いている場合は1点、何も書いていな場合は0点と判断した。
【正直度】
最後は「正直度」である。特段の事情がなければ、今後3年間は選挙が無いことになる。この3年間で説明しなければならない課題について、しっかり記載し、ウィッシュリストになっていないか。また、負担が必要ならばそれについてもしっかり説明しているのか。消費税の引き上げや社会保障制度の見直しなど各政党が国民へ負担を問うことから逃げていないかどうかを判断した。負担の理由など、具体的に国民に説明している場合は2点、一応書いてあるが曖昧である場合は1点、何も書いていな場合は0点と判断した。
言論NPOの「マニフェスト評価結果」について
言論NPOが政党のマニフェスト評価を公表するのは、今回で8回目である。参議院選挙は政権選択を争う選挙ではないが、公約は参議院や衆議院選挙であれ、国民にとっては課題解決のプランであり、約束でなくてはならず、今回も言論NPOのマニフェスト評価基準のもとづいた詳細な評価を行った。
言論NPOの評価基準とは、①公約が有権者にとって明確で約束として判断可能なものとなっているか、の形式基準と、②課題の解決案としての妥当性や実現に向けての体制や説明責任を判定する実質基準で構成されており、二つの基準の8項目でそれぞれの公約を審査している。
今回評価したのは、経済政策から、社会保障、外交など12の政策分野で、これらすべてをこの形式と実質の8つの基準で評価を行い、100点満点で採点した。同時に、この12の政策分野の平均点をその政党の公約の点数として公開した。
9党はこれまでにない低い評価となり、平均点は15点、最高点の自民党も29点である
9党の公約はこれまでにない低い評価となり、最も高い評価となった自民党でも100点満点の29点で、20点台にかろうじて乗ったのは公明党、みんなの党の21点の3党だけである。
残りは民主党、日本維新の会、社民党が10点台、共産党、生活の党、みどりの党は10点未満となり、9党の平均点も100点満点で15点となった。全ての政党の公約は合格点とは程遠く、言論NPOが政党のマニフェスト評価作業を始めた、2004年以降では最も低い評価となり、選挙における公約自体の意味を突きつけられる結果となった。
総合点 29/100 | 総合点 21/100 | 総合点 16/100 | 総合点 14/100 | 総合点 21/100 | 総合点 8100 | 総合点 13/100 | 総合点 8/100 | 総合点 6/100 | |||||||||
形式 | 実質 | 形式 | 実質 | 形式 | 実質 | 形式 | 実質 | 形式 | 実質 | 形式 | 実質 | 形式 | 実質 | 形式 | 実質 | 形式 | 実質 |
12 | 17 | 9 | 11 | 7 | 9 | 6 | 8 | 10 | 11 | 4 | 4 | 7 | 6 | 4 | 4 | 4 | 2 |
9党の11の政策分野ごとの評価では、一応の合格点と見なされるものは自民党の「経済政策」の53点のみで、自民党の「外交、安全保障」の47点、「教育」の42点がそれに続いている。それ以外は、30点台が12分野、20点台が16分野で、10点台が37分野、10点未満が35分野ある。また0点だったのは、公明党と社民党の「財政政策」、日本維新の会の「復興」、共産党の「地方」、生活の党の「市民社会」の分野である。
野党の公約でもっとも高い評価となったのは、みんなの党の「経済政策」の37点である。今回の選挙はアベノミクスへの評価が争点とされるが、公約の評価ではこの「経済政策」が9党平均で24点ともっとも高く、逆に社会保障の9党平均は3点である。
今回の評価がここまで低くなった最大の要因は、政党側に公約が国民に課題解決のプランである、という意識や意欲がなく、多くの公約が願望や自らの党の主張を述べるだけの、昔の抽象的な公約に戻ってしまっていることが大きい。その傾向は特に野党の公約に顕著である。
与党・自民党の公約は、政権を獲得した昨年12月の政権公約の実績を基に組み立てられているため、評価可能な現実的な内容が多いが、それでも、アベノミクスの実績を説明する以外、選挙後に国民の判断を求められる、消費税の引き上げや財政再建の道筋、社会保障の持続性などが、ほとんど公約で説明されず、選挙後に先送りされている。与党の点数が低いのも多くの政策分野で判断が曖昧だからである。
野党が問題なのは、対案を出して選挙に挑むというよりも、政権を批判するだけの公約が多かったことだ。政権から転落した民主党は自らの政策の総括もなく、かつての政策を出し直しており、多くの野党も同様に政策の体系を提起できなくなっている。
その背景に、政党の課題解決能力や政策の立案に関する党内のガバナンスの弱さを指摘せざるを得ない。 その結果、多党化した政党自体の存在理由が有権者側から見えにくくなり、どの党に投票していいかわからない状況が今回の選挙なのである。
約束を軸とした政治サイクルづくりに向けて
私たちが問題にするのは、こうした公約を許す限り、有権者はこれから問われる重要な選択に、自ら判断もできず、政権に判断を一任する、ことしかできなくなってしまうことだ。
本来、こうした状況を立て直すことが、マニフェスト選挙の意味であったはずである。有権者と政治の間には適切な緊張感ある関係が必要なのであり、約束を軸とした政治サイクルをつくることが必要だと私たちは考えている。
言論NPOでは今回実施した基礎評価、並びにマニフェストの評価に加えて、候補者アンケートについても同時に公開した。政党の公約が判断の材料にならない以上、候補者の政策判断を重視するしかないからだ。候補者には政治家に当選した時に実現したい課題や、日本の政党政治の今後、アベノミクスの評価、財政再建の道筋、原発再稼働、社会保障制度や水田農業の今後、尖閣諸島で日本がとるべき対応など、26問にわたって聞いている。この結果は、選挙区別に回答を全て公開している。
今回行った詳細な評価結果は、全て言論NPOのホームページでご覧いただけます。5日後に迫った参議院選挙の投票の際の判断材料にしてもらえればと思っている。
主要政党のマニフェスト評価
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29/100
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21/100
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16/100
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8/100
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14/100
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21100
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13/100
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8/100
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6/100
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形式
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実質
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形式
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実質
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形式
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実質
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形式
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実質
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形式
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実質
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形式
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実質
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形式
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実質
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形式
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実質
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形式
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実質
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12
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17
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9
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11
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7
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9
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4
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4
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6
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8
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10
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11
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7
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6
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4
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4
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4
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2
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※総合点は100点満点。配点は、形式要件に40点、実質要件に60点となっている。