民主党政権の3年間をどう見るか

2012年12月06日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、言論NPOが毎回選挙毎に行なっている、現政権のマニフェスト評価・実績評価の結果を踏まえて、選挙に向けて有権者が何を注目すればいいかを議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年12月5日に収録されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


民主党政権の3年間をどう見るか

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、さまざまなジャンルで活躍するパーソナリティーが自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAYジャーナル」

 今日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。

 さて、今年も残すところ1ヶ月になりました。寒くなってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。私たちは、選挙の時は必ず政権の評価をきちんとして、そして政党のマニフェストの評価をするということで、その作業を2003年から毎回の選挙でずっとやっています。ただ、今回は、解散が、私たちが考えているより早くなったために大騒ぎで、みんなで徹夜で評価をして、議論したりインタビューしたりということを毎日繰り返しているのですね。それで、11月24日に、言論NPOと毎日新聞が合同で民主党政権の実績検証を行いました。私たち自身は、ホームページにこの内容をかなり詳細に書いています。また、メディアとも組んでやったということで、有権者の視点で選挙というものを考えるという点で、一つの大きな動きを私たちは作り出し始めているという段階なのです。

 今日は、現政権の実績評価をした時に私が何を考えたか、ということを皆さんにお話しして、今度の選挙について皆さんがどう考えればいいか、というところまでいければと思っております。

 ということで、「ON THE WAYジャーナル 言論のNPO」今日のテーマは「民主党政権の3年間をどう見るか」で行います。


財源の16.8兆円が捻出できず、鳩山政権は1年目で崩壊

 さて、民主党政権の評価というのは、2009年の鳩山代表の時のマニフェストをもとに行っています。全部で167項目の公約があり、その他に「5原則」や「5策」など政権運営の方針についても書いています。時間があれば、一度昔のマニフェストを見るということも、勉強になると思うのですが、私たちは定期的にずっと評価をしていますので、今回改めて、この何が実現できたのかということを一つ一つ検証してみたのです。そうしたところ、167項目のうち、約6割が「もう現実的に困難だ」、「未着手」という形で、それから「一応動いたのだけれど、この先は非常に難しい」というものもかなりあるのですが、一方で「実現した」とか「実現に向かって動いている」ものは13項目しかなかったのです。これをどう見るかということなのですね。一言で言ってしまえば、民主党はマニフェスト型の政治を目指そうとしていたのですから、その方向性に私たちは賛成しています。しかしマニフェストそのものが、野党時代が長かったということもあるのかもしれませんが、非常にずさんなマニフェストだったわけです。しかも、マニフェストを実行するプロセス、政府に政策決定を一元化して政治主導でやる、というスタイルも、ほとんどうまくいかなかった。ということで、特に民主党がやりたかったいろいろな施策の財源が捻出できなくて、1年目からそれが崩壊していくわけです。これはどこに問題があるのかということを、私たちが政治を見る上でいろいろ考えなければいけないと思うのですね。考えないまま今回の選挙を迎えるということは非常に良くないと思っています。

 民主党は、この政権の間にやったこともありますし、やれなかったこともあるのですが、それをきちんと反省して、このように改善しましょう、次にこのような形でやりましょう、ということを、次のマニフェストで国民に説明する義務を負っています。そういうことがちゃんとできているかが問われるだろうし、民主党政権がうまくできなかったことが他の政党ならどのようにできるかということを、私たちは判断しないといけないわけです。その上で、政権がどういう課題を残したかという教訓を、私たちはチェックしないといけないのです。
 

日本が直面している課題に対して答えているか

 私は、その教訓は二つあったと思います。

 一つは、マニフェストでは、やりたいことをどのように実行するのか、財源や、どういうテンポでという工程をきちんと描いて、それが政策論として辻褄が合っていなければいけないのです。そういうことがうまくできなかった、ということがあったと思うのですね。

 もう一つ、決定的に大きかったのが、やりたいことはいいのですが、やりたいことだけではなくて、有権者が悩んでいることとか心配に思っていること、つまり日本が直面している課題に対して政治が答えを出す、それに対して、どのくらいマニフェストが肉薄したのかが重要なのです。課題に肉薄しなければどういう現象が起こるかというと、結局、課題をどのように解決するかを書いていないマニフェストは、必ず修正に追い込まれます。なぜかというと、社会や政治というのは、政党のマニフェストを中心に動いているのではなくて、日本の課題を中心に動いているからですね。

 この二つを考えてみると、非常に明確だったのは、鳩山さんのマニフェストが1年目からうまくいかなくなった。これは単純にいえば、彼らは16.8兆円という自分たちがやりたいこと、それに対して国民が支持していれば国民との約束としては十分なものだと思うのですが、その財源を捻出することに失敗したのですね。一つは、リーマン・ショック以降の経済がかなり厳しくて、税収が大幅に落ち込んだということもあるのですが、もともと、財源捻出の時に政府の予算に無駄がある、それを徹底的に見直せば財源を捻出できる、と言っていました。私はその時に民主党の人に「大丈夫か」と聞いたら「大丈夫だ」と言っていたのですが、結局大丈夫ではなかったのです。事業仕分けというものをやって、1年目こそオープンな形で傍聴人も多かったのですが、その時でも目標の3兆円に至らなかった。やはり財源捻出ができなかったわけです。

 もっと重要だったのが、それ以外の予算はどうだったのかというと、日本には決定的な課題がそこにあったのですね。高齢化が進む中でお年寄りが増えていて、その人たちに対して若い世代が負担し合っているのですが、その社会保障の仕組みそのものがもたなくなってきている。けれど毎年、1兆円近い社会保障の関連費が増えているのです。それに対して財政がもたなくなり、それだけでも予算が組めない状況で、1年目に小沢一郎幹事長が首相官邸に乗り込んで、「これはやめろ」と首相を恫喝するのですね。つまり、党が政調会を持っていなくて幹事長室に要望を一元化したということがあったのですが、政府で予算の決定をできない状況に追い込まれて、その中で党が入ってきてやるような状況になっていったわけです。その時は、お金が減ってしまうので暫定税率をやめないことになるのですが、そういう形で予算編成が追い込まれてしまったのですね。結果として、税収よりも国債が多くなってしまって財政が非常に厳しくなる。


国民への説明責任がある政策変更

 そして、次の菅政権ではマニフェストがかなり変わりまして、今度は財政再建という問題を出さざるをえなくなるのです。つまり、やはり高齢化に対してきちんと考えないといけない。そして、このままいったら財政破綻するので財政を考えないといけない。また、高齢化で財政を切り詰めるけれども、それだけなら日本の経済が引き締められて大変になってしまうので、経済の成長力をどうつけていけばいいか、ということを「強い財政、強い社会保障、強い経済」という形で出したわけです。これは実を言うと、政策を変更したのですね。先程言いましたが、日本の政治は必ず課題に引き戻されるのですよ。だから強引に戻されたのです。政権はその時に「我々はいろんなことをやったのだけれど、こういう課題があった。これに向けて政策を組まないといけないので、こういう形に変えました」と、ちゃんと国民に説明すればよかったのですが、うやむやになってしまった。ですから、消費税がその延長で出てきた時に、「マニフェストを守っていない」という議論になって収拾がつかなくなったのです。このことはすべての政党に言えるのですが、課題に対してきちんとした答えを出さないマニフェストは、必ずこのように修正になってしまうのです。


日本の課題とは経済成長、社会保障、財政問題

 ではその課題は何か、がここではっきりしたのですね。つまり、経済成長、社会保障、財政の問題、これが、日本が直面している課題なのです。まずこの三つで政党は必ず、課題がどれくらい深刻か、を理解した上で、国民に説明して、それに対して答えを出す。そうしないマニフェストは、まずこの段階で、民主党のマニフェストと同じ失敗をしてしまう可能性がある、ということを考えてほしいのです。

 そして、参院選の後、日本は3・11の地震が起こって、東北地域は非常に厳しい状況になりました。それだけでなく、原発の安全性が問われてきた。そして、安全性と同時に、エネルギーの供給をどうするかという、日本の本質的な骨格にかかわる問題が出てきてしまった。この問題が先程の三つに加わっているわけですね。

 そして、ご存じのように、中国が台頭して、尖閣で非常に大きな問題が表面化してしまった。それに対し、日本の外交はどうだったのかという問題もあるのですが、非常に緊張感があるという状況で、私もこの前シンガポールでの会議の報告をしましたけれど、今も尖閣諸島周辺では、中国の法執行機関の船や漁業の監視船のようなものと、日本の海上保安庁が対峙していて、世界が「どうなるんだ」と緊張している状況があるわけです。そうなってくると、民主党政権のマニフェストを評価した結果、私たちは、この五つの課題が、政党がちゃんと書かないといけない問題だということが分かった。この五つが、日本が問われている本当の争点なのです。ですから、今度の選挙はまず、これらに関してどうなのかということを、我々が考えていかないといけない。


課題に答える政策であったか

 実を言うと、もう一つあるのですよ。それは何かというと、政党はマニフェストを書く時に、ちゃんと課題に向き合わなければ、どんどんダメになってしまうのですが、ただ、この時に考えなければいけないことが、あと二点ほどあるのですね。

 一つは、毎日新聞と言論NPOが実績評価をした結果、毎日新聞の配点基準に私たちの評価を合わせると、5点満点で2.2点だったのです。これは通信簿なのであまり高くないのですが、民主党の国会議員の人たちと話すと「僕たちは努力したじゃないか、ちゃんと動いているのにどうしてそんなに低いんだ」と言われました。これは来週、もう一回皆さんに説明したいと思うのですが、私たちは「やったか、やっていないか」ということで評価しているのではないのです。政治は「努力したよ」、「じゃあ、頑張ったね」では済まされないのです。政治は、本当に困っているとか大変だったら、その原因をちゃんと把握した上で、これらに答えを出さないといけないわけですよ。例えば、子ども手当の問題と保育所の待機児童の問題があって、それに対して私たちは3点くらい、あまり高い点数をつけなかったわけです。確かに、民主党政権は、基本的にそれに対して予算もつけたし、保育所の設備に対してはある程度、施策を打っています。では、なぜ5点にならないか。実際に、今、お母さんが働きたいのだけれど子どもをどうすればいいのか、預ける場所がない、という人たちが潜在的にたくさんいるのです。そういうことに対してどうするか、ということを政策で立てないといけない。昔、「老人ホームの待機老人が何万人もいる、その人たちを5年以内に解決するような政策を組む」というマニフェストがある自治体で出されたことがあるのですが、ある時に厚生労働省の資料を見ていたら、その高齢者たちが待っている間に亡くなってしまうのですね。その際に、3年か4年くらいで亡くなっているとなると、その前に実現するしかないですよ。だから、政策というのは、課題解決と言う点から評価しないといけない。そこを日本の政党は理解してくれないので、私たちはこの評価をする時に差を感じるのですね。けれど、有権者は、自分たちの生活とか、この国の未来がかかっているのですから、やはりそういう視点で見ていかないといけないと思うのです。


党内ガバナンスはしっかりしているか

 もう一つの視点は、約束したことが党でどのように決定されて、それを政府でどのように決定・実行するかというプロセスですね。決まったのに、実行しようと思ったら党内から反対が出て離党するとかいう党は全然ダメなので、そういう党内ガバナンスもきちんと見なければいけない。そうした点で、私たちは実績評価で非常に低い点数をつけたのです。
 別に民主党がダメと言っているのではなくて、実績評価をすることによって、私たちは、次のマニフェストをどう判断していけばいいかという手がかりを、皆さんに提供したいと思うのです。言論NPOのウェブサイトにいろいろな議論が出ていますので、ぜひ見ていただきたいと思っています。

 この収録は告示前なのですが、私たちは告示、選挙戦を通していろいろな動きをしていきます。こういう形で議論を展開していくので、私たちの議論をずっと見守っていただけないか、ということで、今日の番組は終わらせていただきます。ありがとうございました。