工藤の代表質問を受け、両党議員はまず以下のように述べました。
園田氏は、安心社会の中核をなす社会保障制度について、従来型の「若く、元気な人によって支えられるシステム」が限界に近づいてきたことを指摘した上で、「社会保障制度の財源として消費税をアップし、国民全員で支える仕組みを構築する必要がある」と述べました。この点に関しては、「今や社会保障費は一般歳出の半分に上っており、消費税を上げるということになれば、地方に振り分ける分は除いて、その他は全て社会保障費に充てる。財政再建はその他の税目で実現すべき」と付け加えました。また、「社会保障というと、従来であれば医療、介護、年金という分野だったが、『少子化対策』も重要な施策と明確に位置づけ、このために必要な財源も確保していくべきだ」としました。若者に希望を与えるための施策づくりについては、次代の日本を支えていく若者が夢を持てるような施策を具体的にマニフェストに提示したいと述べました。
長妻氏は、これまでの自民党政治では優先順位の低いところにカネが流れるということが長年にわたって温存されてきたとし、政権交代後の一期目は、ひも付き補助金や天下りあっせん、特別会計などの仕組みに徹底的にメスを入れることを強調しました(同氏は焦点を当てるべきものとしてH(ひも付き補助金)、A(天下りあっせん)、T(特別会計)、K(官製談合)、Z(随意契約)を挙げ、これらを総合して「HAT-KZ」として説明しました)。
続いて福山氏は、民主党の独自政策である「子ども手当」に触れ、「賃金の格差や働く格差が拡大する中で、とにかく教育の機会だけは守っていきたい。どの地域でどんな家族の下に産まれようが、最低限のナショナルミニマムとして、若い人が勉強できる環境を守ることを政策としてきちんとやっていきたい」と述べました。
その後、6人のコメンテーターを交えた議論が行われました。
まず小島明氏(日本経済研究センター顧問)は、少子高齢社会の問題について触れ、「働く人が足りないといいながら労働力の中核を担う若い世代に十分な機会が与えられていないというのは根本的な矛盾であり、どうやって若い世代に希望を与えられるかを示してほしい」と述べました。
土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部教授)は財政健全化施策について、「自民党は『経済財政改革の基本方針2009』にこれを打ち出しているが、今回のマニフェストでもこれを提示することになるのか。一方で民主党は今後の任期4年の中で財政健全化をどれほど本気に考えているのか。自民党の政策に代わるものはあるのか」と問いました。
田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)は、園田氏の「『官から民へ』の流れは基本的には変わらない」とのコメントに触れ、「基本的なスタンスは変わらないとしても、これまではそれが単なる『アウトソーシング』だった一方で、今回はより自律的な『参加』を目指しており、その意義は大分違っている」と指摘し、また民主党の政策に対しては、「国民に負担を求めずに直接的に予算を分配するという傾向が強い。これでは国民は自立しないのではないか」として疑問を呈しました。
さらに深川由起子氏(早稲田大学政治経済学部教授)は、官僚機構に代わって政策のための専門的なリサーチや立案を行う専門的なシンクタンクの役割について両党の見解を問い、
水野和夫氏(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)は安心社会を実現するための手段として、従来型のマクロの成長戦略では時代に対応できなくなっているのではないか、と指摘しました。
最後に若宮啓文氏(朝日新聞社コラムニスト)は、「マニフェストは大切だが、それが立派だからといって安心できるものではない。政党として安心感をもたれるための最低要件が問われている」と述べました。
これらのコメントに対し、園田氏はまず、低炭素社会など成長戦略をきちんと立てられるかどうかが非常に重要であり、こまめに政策を立てていくことを強調し、消費税についても、非常に速いスピードで社会保障費が増えていることを考えると、どこかでその議論は必ず必要になってくることを改めて指摘しました。
福山氏は、「先般の参議院選挙の際に、『国民の投票こそが政治を変える』と改めて感じた。1年半前に国民は民主党に『仮免許』を与えてくれたと思っている。今は油断せず、謙虚にこれまでやってきたことを訴え、ひとつひとつ政策を実行していきたい」と述べました。また、官僚機構との関係については、「官僚を叩くのではなく、今までのしがらみの中で機能不全に陥っている点を修正していこうと思っている」と述べました。コメンテーターから指摘のあったシンクタンクについては、「社会的な受け入れ体制も含めて整備していきたい」と述べました。
また長妻氏は、マニフェストは政権交代が実現したら国民との「契約」に変わるものだとの認識を示し、国民の審判に耐えうるきちんとしたマニフェストを作り上げたいとして、今回の選挙にかける強い意思を示しました。
その後、言論NPOの学生インターンによって、先日東京大学で実施したアンケートの結果が報告されました。アンケートによれば、東大生の9割が「今の政治は若者のための政策を実施していない」と考えていることが明らかになりました。しかし「次回の選挙に行く」と回答した学生も9割に上り、現在の政治に不満を抱いている一方で、自分たちの未来を選択するため積極的に政治に参加しようとしていることが明らかになりました。ここで発言した学生インターンは3人の政治家に対し「夢を描けない若者に対してどのような未来を約束するのか」という質問を投げかけました。
さらに、日本の国際的地位の低下について不安を抱いているという学生アンケートの結果を踏まえたうえで国分氏は、アメリカの研究機関が2025年の日本の姿を「少子高齢化、産業基盤の老朽化、外国人労働者問題などで苦しみつづけている」と予測していることを紹介し、日本の国際的地位についての両党の考えを尋ねました。
これらの問題提起に対して園田氏は、「日本が経済力だけではなく、技術供与などを通じて世界の諸問題に対処していくことで国際的な存在感を示すようになることが必要だ」との認識を示すとともに、国内社会については安心感のある社会をつくるため少子化などの問題をひとつずつ解決していくべきだとしました。これに対し長妻氏は、環境・医療分野の研究開発支援を充実させ、その技術によって利益を生み出しつつ国際社会に対しても貢献することが重要だと述べ、さらには、「世界平和のため民主主義を広めることが日本の役割だ」とも述べました。また長妻氏は、少子化対策として子供手当てを充実させるとともに、老後にボランティアというかたちで公務に従事してもらえるような仕組みづくりも必要との認識を合わせて示しました。
その後、田中氏による「外部からの評価が可能であるようなマニフェストをつくってほしい」という意見、小島氏からの「日本の研究・開発支援には戦略性がない」という指摘など、各コメンテーターから意見や質問が出され、園田氏・長妻氏・福山氏がそれぞれ回答しました。
最後に、司会の国分氏が「本討論会のような議論の場は極めて珍しい。今後はこのような議論の場をメディアの方々にも積極的に設けていただきたい」と述べ、「自民党×民主党 政策公開討論会」の第1日目を締めくくりました。