「自民党×民主党 政策公開討論会」4日目の後半は、自民党から谷津義男氏(総合農政調査会長 元農林水産大臣)、民主党から筒井信隆氏(ネクスト農林水産大臣)をお招きし、「農業政策」をテーマに議論が交わされました。
まず、司会の工藤泰志(言論NPO代表)が、「農政に関しては、バラマキばかりで改革の展望が見えないという見方がある」とし、政策議論をきちんと行ってほしいと述べました。同じく司会の生源寺眞一氏(東京大学農学部長)は「自民党と民主党の違いをはっきりさせてほしい」と語りました。その上で工藤から両議員に対し、「日本の農業の将来ビジョンをどう描くか、またどのように農業の担い手を育成し、産業としての農業をどう発展させていくのか」という問いが投げかけられました。
谷津氏は、農政改革については長年議論を行ってきたと述べた上で、「所有から利用へ」という考えのもと実施された農地法の改正や、平成23年度を目標とした耕作放棄地の利用・集積などを挙げました。また、構造改革の遅れや生産調整に伴う不公平感、世界的な需給逼迫などに触れ、問題解決には農業所得を向上させ、農業の担い手育成に繋げていくことが必要だとの認識を示しました。流通の合理化などを通じて生産者価格と消費者価格の乖離を是正していく必要があるとも述べました。
筒井氏は、農家の高齢化や後継者不足は深刻だが、その原因は「農業だけでは食べていけない」と認識されていることであると述べました。その上で民主党が主張する「所得補償政策」を挙げ、自民党の農政は「補助金行政」で政策効果も疑わしいと批判した上で、補助金から所得補償へ転換していく必要があるとしました。また、民主党が掲げる戸別所得補償制度については、農業が環境保全等の多面的機能を果たす点を挙げ、「バラマキ」との批判は当たらないとしました。生産価格の全国平均と販売価格との差額を補償するため、農家の努力へのインセンティブにもなると説明しました。
谷津氏は、筒井氏の「補助金行政だ」との批判に対し、「単発ではなく、継続性をもってやっている」として、積み上げ方式による運営の意義を強調しました。筒井氏は、「補助金の項目が多すぎて全体としてわかりにくい」と指摘しました。
ここでコメンテーターも交えた質疑応答に入り、生源寺氏から筒井氏に対し「全戸への所得補償に伴う行政コストをどう考えるのか。また10年前の政策とはだいぶ変わっているように思うが、これをどう説明するのか」という問いかけがありましたが、筒井氏は「戸別所得補償という方針は10年前から変わっていない」と述べました。
コメンテーターの小田切徳美氏(明治大学農学部教授)は両議員に対し「WTO体制下で価格支持政策をどう進め、またどのように消費者の理解を得ていくのか」と問いました。谷津氏は、「消費者と国の財政のどちらかが一定の負担を負わなければならない」と述べましたが、消費者の理解は得られるだろうとの認識を示しました。筒井氏は、「農産物の価格が下がったら政府が買い上げて調整する」というような価格支持政策には反対であると述べました。中山間地域対策については、両議員とも、直接支援の拡大が必要だとの考えで一致しました。
阿南久氏(全国消費者団体連絡会事務局長)は消費者の観点から、「税金の使い方とその効果を明確にしてほしい」と述べた上で、食の安全の問題に触れ、科学的根拠のもとで安全性を評価する仕組みが必要だと指摘しました。筒井氏は、消費者の理解を得るためには「簡素・公平・継続性」が重要だとしました。また食の安全については、トレーサビリティの義務化を主張し、谷津氏もこれに同意しました。
ここで工藤が2つ目の質問として、両議員に対し、減反政策の評価と今後の方針を問いました。筒井氏は「米を作らない農家に補助金を出す政策は問題外だ」と述べ、減反を取りやめる代わりに生産数量目標を設定したかたちで調整を行い、所得補償によって米価暴落を防いでいくとしました。また、主食米から飼料米への生産シフトにも言及し、主食米以外を作る農家の所得を補償していく必要があると述べました。これに対し谷津氏は、「減反ではなく生産調整だ」と反論し、主食米から米粉米や飼料米への転換を支援していく必要性にも触れました。米の買い上げについては、100万トンまでしか買い上げていないので価格支持ではないとしました。
生源寺氏は谷津氏に対し、農家の所得確保と農協のビジネス規模確保との間には利害のずれがあると述べました。また筒井氏に対しては「棚上げ備蓄米 300万トン」という方針は変わっていないのかと問いました。谷津氏は、農協の「商社」化については改革と見直しが必要だとし、筒井氏は、300万トンという方針は継続していくと答えました。生産調整については米と他品目とをリンクさせていくとする民主党の方針に対し生源寺氏は「品目ごとに完結させるのが望ましい」とコメントしました。
阿南氏は、「作りたい農家が自由に作って競争できる仕組みが必要ではないか」と指摘しましたが、「米の価格下落による国際競争力の低下を防ぐためにも、需給調整は必要だ」としました。また小田切氏は、生産調整について、「自民党は実効性重視、民主党は公平感重視だ」と議論を整理しました。その上で、筒井氏に対し「実効性をどう担保するのか」、谷津氏に対しては「実効性を追求しすぎると市町村や現場への負担増や閉塞感につながるのではないか」と指摘しました。谷津氏は、自治体や農家、農協などからなる協議会を設けて対処する案を提示しました。筒井氏は、生産調整のメリット措置を明確化して不公平感をなくすことで、実効性も得られるとしました。
さらに生源寺氏は、「これまでの議論は農業村だけの話に終始している」と指摘し、「WTOとの交渉をどう考えていくのか」と両議員に問いました。谷津氏は、ミニマム・アクセス米の扱いについては「飼料として消化していく」としました。筒井氏は「農業の多面的機能という、他産業との差異をもっとWTOの場で主張していくべきだ」と述べました。
最後に工藤が「両党の違いがかなりはっきりしたのではないか」と総括し、議論は終了しました。