「自民党×民主党 政策公開討論会」3日目 【医療・年金・介護政策】 議論要旨

2009年7月10日

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2009年7月7日

 【テーマ】 医療・年金・介護政策
 【出席議員】
  自民党:大村秀章(衆議院議員 厚生労働副大臣)
  民主党:枝野幸男(衆議院議員 医療制度調査会会長 元政策調査会長)
 【司会者】
  工藤泰志(言論NPO代表)
  高橋進(日本総研副理事長)
 【コメンテータ】
  上昌広(東京大学医科学研究所特任准教授)
  鈴木 準(大和総研資本市場調査部上席次長)
  西沢和彦(日本総研調査部主任研究員)

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議論要旨

人口減少社会の課題をどう考えるか

工藤泰志 少子高齢化で、今後の日本は人口減という深刻な状況に入っていきます。両党はそれをどう認識して、安心できる社会を作るのかをまず問いたいと思います。それから社会保障の組み立てについて、国民に何を提案できるのか。自民党には、これまでの改革の総括をしてもらい、特に年金改革については2004年の改革で提示した「マクロ経済スライド」がまだ発動されていないことと、世代間のギャップが拡大する中で今の制度が維持されていることなども含めてきちんと説明していただきたいと思います。民主党には、政権を担うことになった場合に、社会保障の組み立てをどう行っていくのかを話していただきたいと思います。


大村秀章 用意した資料の中に、社会保障の給付率の推移というグラフがありますが。昭和45年、大阪万博の年に3.5 兆円だった社会保障給付が現在ではほぼ100兆円を超えています。日本経済のGDP総額は500兆円ですから、社会保障は2割を占めているという現状を踏まえ、まだまだ伸びていく社会保障費をどのように支え守っていくのかということが大きな課題だと認識しています。

 社会保障全体の機能強化についてですが、国民の安心と安全を守るためにも社会保障の機能強化が必要です。高齢者に向けた社会保障の機能強化は戦後一貫して行ってきました。特に1930年、1940年代には国民皆保険、皆年金などを実現し、高齢化社会に向けてやってきたことが今まさに成熟を迎えています。社会保障費用100兆円のうち、7割以上が高齢者向けです。一方で子ども、子育てに向けた支出は4%、約4兆円です。こうした状況も含め、高齢期の社会保障に加えて現役世代の支援も強化し、全世代に切れ目のない社会保障を目指していきたいと思っています。

 その際に大切なポイントは、次世代への責任です。今度の選挙でも、責任を持って財源を確保し、機能強化をしていくということを訴えなければいけません。そういう意味で、安定した財源の確保が必要です。具体的には、年金の国庫負担を2分の1とする法律を通しました。医療、介護、子育て支援も含めてさらに強化をしていくつもりです。財源については、今回の「骨太の方針2009」で、来年度のシーリングをやりましたが、これまでは、社会保障費を毎年 2200億円削減するという方向でやってきましたが、今回はその抑制をやめ、自然増1兆円をそのまま要求するというかたちで決着しました。負担と給付のバランスを考えると、国民の皆さんには負担増をお願いする以外ありません。3年間は経済対策に全力を挙げ景気を回復させ、そのうえで消費税を含めた税制の抜本改革を提案していきたいと思っています。

 また、若い世代と高齢世代とのバランスをどうとっていくかが大きな課題だと思っています。社会保障の一番の基本としては、若い人に将来の安心を見越して、制度に参加してもらわないといけないわけです。保険料を徴収するのが大変な状況ですが、このような現状を解消しながら払いやすく、透明な制度にしていくことが必要だと思います。世代間の分配のルールを作るということでこの数年間、マクロ経済スライドを入れたり、高齢者医療制度を設けたりしてきました。これらに加えて、現役世代の子育てや雇用強化など切れ目のない社会保障を訴えていきたいと思っています。


枝野幸男 少子高齢化により人口が減少し始め、この国は新しい社会状況に突入しています。しかし従来の社会保障制度は、人口増の時代、若者の方が高齢者よりも多いことを前提に組み立てられた制度です。この前提のもとでいくら手直しをしても、安定的な社会保障制度を組み立てていくことは不可能です。まず年金などをはじめ、世代間扶養という発想で組み立てられた枠組みを一度取り払わなければならなりません。

 私たちは保険と税の役割を水割りにしてしまうのではなく、しっかりと仕分けをし、わかりやすい仕組みにすべきだと思っています。保険とはリスクの分散であり、年金は長生きするかしないかというリスクの分散で、医療は病気になるかならないかというリスクの分散です。たとえば年金であれば、平均寿命まで生きた場合には現役世代に納めた額が、老後もらう額と一致するようにします。しかし、それだけでは公的社会保障が成り立たなくなるので、そこは世代間での支え合いではなく、全国民による相互の支え合い、つまり税で賄うと。全世代にわたって、支払い能力のある人が所得の少ない人に対して所得移転を行うということです。したがって保険部分である所得比例年金と、税で所得の低い人を支えるという部分を明確に分け、保険のほうは積立方式でやっていく。

 医療や介護も同じです。現状の医療保険制度は、保険の理屈と所得移転の理屈とがごちゃごちゃになっています。これでは若い世代に納得してもらえないし、そこに気を遣いすぎると、全体の収入が不足し、今のような医療崩壊を招いてしまいます。保険料でまかなう部分と税で支える部分を明確に分けるために、少なくとも財政の計算上、縦割りになっている保険制度を組み立て直さなくてはなりません。

 その上で、税の使い道を大きく転換する必要があります。ここに踏み込まないで議論しても無意味です。少子高齢社会で社会保障負担が大きくなりますが、人口は減少するので、それ以外の部分については支出を大きく減らせるはずです。新規の公共事業はほぼ必要なくなり、今ある建物や道路を改修すれば、新しいニーズに対応した利用ができます。その分の財源を、必然的に増えていく社会保障費に回す。その資源配分をいかに大胆に出来るかが、少子高齢化社会における私たちの課題であり、政権交代の最大のテーマです。

 これからの日本社会と経済にとって、増えていく社会保障費は、雇用というものを考えたとき大きなポイントになります。今後は内需主導経済に変わっていかざるを得ません。日本が輸出で稼げるのは高付加価値分野に限られますが、日本が内需を拡大していける分野は医療と介護、保育、教育です。高齢化社会の中では医療や介護のサービスがどうしても必要となりますが、今は明らかに不足している。このニーズがあるところで供給を拡大していくしかないわけです。政府支出は大きくなるけれども、それを通じて安定的な雇用が確保されるのです。しかし医療現場などでは需要があって供給が不足しており、仕事もハードであるにもかかわらず、低賃金であるために悪循環が生じています。したがってこれからの雇用拡大の場として、医療や介護の部分に資源を配分していくということは経済の観点からも必要になってくるわけです。
 

工藤 自民党と民主党との間に明確な違いが見えました。民主党は世代間扶養の枠組みを取り払い、保険料と税を区別して制度を作り直すと言っていますが、自民党はどうでしょうか。


大村 具体性がありません。税と保険料を分けるとおっしゃいましたが、実際にどう役割分担するのかについて、個別の制度ごとの話が一切ありません。社会保障の議論は具体的な各論をひとつひとつ積み上げていかなければ解決にならないと思います。

 内需拡大で雇用を確保するという点には同感です。我々も、介護・医療・福祉分野の職業訓練で雇用を確保しようと努めてきました。社会保障の費用は 100兆円ありますが、その60兆円以上は保険料、30兆円が税です。そこは民主党ともそれほど変わらないと思いますが、これを伸ばすとなると税負担を増やすことになります。60兆円は企業と本人の負担なので、社会保険の保険料も飛躍的に伸ばさなければなりません。私は、社会保障というものは国民皆さんの負担で成り立っているということは理解していただきたい部分だと思っております。


枝野 先ほど述べたのは総論です。年金についてはわが党は保険方式で、見なし掛金だけで現役時代に納めたものと同等のものが老後返ってくると。それ以外に、所得の低い人には税で、所得再分配として最低保障年金を給付します。これは5年前から一貫して申し上げていることです。

 医療についても、今の医療保険制度では納めている保険料のほとんどはその保険に入っている人の医療にかかる費用だけではなく、高齢者を支えるために拠出しています。この拠出の基準も曖昧で、負担する人にはわかりづらい。全国民を統合したかたちで財政計算をして医療保険制度にし、年齢に関係なく全体としてのリスクから保険料を計算すべきです。その場合、高齢者は所得がない人がほとんどなので、医療保険料を年金に上乗せするか、保険料相当額を税でつける。まだ決めていませんが、基本的には地域ごとに、どれくらいの保険料水準にすれば保険としてつじつまが合うのかを考えないと。そのうえで所得の低い人の保険料は税で何とかするというように、分けて考えたほうがいいでしょう。


工藤 大村さんに質問ですが、今マクロ経済スライドを含めた給付抑制の仕組みが機能していないことを考えると、将来世代にしわ寄せをしてしまっていることになりませんか。世代間の助け合いというのはわかりますが、自民党がやっていることが順調に動いていないことについて説明していただけますか。


大村 2004年の年金改革では、物価が伸びていくときに年金の伸びを抑えるマクロ経済スライドを入れましたが、これが機能していないのは物価が1%以上伸びていないからです。となると、数年来のデフレ状態を何とかしなければならないということです。デフレによって経済が縮小していくと、国家財政そのものも危うくなります。年金の制度自体、何年も続いていくと積立金が減っていきますから、やはりトータルの経済政策をやっていかなくてはならないと思っています。


高橋進 2点質問があります。ひとつは年金について。自民党は最低保障機能、民主党はナショナル・ミニマムとおっしゃっていますが、年金生活者に最低限保障することは大切だと思いますが、一方で若者の貧困、生活水準の低下も深刻です。若者も支えるのであれば、高齢者だけでなく若者の最低限の生活保障が必要ですが、最低賃金や生活保護をどうお考えでしょうか。
 もうひとつは、少子化の原因は何であるとお考えですか。また、具体的な少子化対策はどうするおつもりでしょうか。


枝野 我々の年金制度では、今の制度を40年かけて転換していきます。現在20歳の人が60歳になる時には高齢者の生活保護は不要になるということです。そうなれば、現役世代で仕事がない人、ハンディキャップによって仕事に就けない人に対する生活保護や失業手当は、少なくとも最低保障年金の水準までは引き上げます。仕事をする意欲はあるが仕事に恵まれない人には、生活支援に加えて、職業トレーニングのための給付を上乗せしてあげないといけません。

 少子化の原因は3つあると思います。ひとつは若者の貧困です。これは経済・雇用政策の問題で、経済的に自立できないために結婚・出産を想定すら出来ない人が増えている。2つ目は子育て支援制度の不備です。その裏返しとして3つ目に、女性の社会参加に対する障害が大きいということがあります。保育所に待機児童がいるというのは論外で、仕事に就きたい人が保育所に行けないようでは、仕事を諦めてしまいます。あるいはソフトの問題もあって、例えば選択的夫婦別姓が認められていない。色んな夫婦の形態の中で、安心して出産・子育てができる仕組み作りを政治がリードしていく必要があります。


大村 選択的夫婦別姓ということには、私も賛成です。若者と子どもの対策としては、やはり切れ目のない社会保障が必要だと思います。戦後の日本は来るべき高齢社会のために医療・年金を成熟させてきました。その中で子育て対策が遅れていましたが、現状を考えるとやはり社会保障の柱として整備していかなければなりません。自民党のマニフェストでは安定的な財源を確保しながら、幼児教育の無料化を検討しています。また、特に高校・大学向けの給付型の奨学金なども盛り込みながら対策をやっていきたいと思っています。保育所については、景気対策と補正予算で子ども安心基金をつくって取り組んできました。これからも社会保障の大きな柱として子育て支援をやっていくつもりです。


西沢和彦 大村先生に質問です。与党ということで実績が問われると思いですが、マクロ経済スライドが機能していません。2023年にはマクロスライドは終わると言っていましたが、今回の財政検証で2038年にまで延びてしまいました。しかも甘い経済見通しを前提としているので、もっと伸びるかもしれない。このように若い世代を巻き込んでしまっていることを説明できるのでしょうか。私はできないと思います。だとすれば、前倒しで給付抑制を終わらせるような政策を、今回打たなければいけなかったのではないでしょうか。

 また、基礎年金の国庫負担が2分の1に上がることについてですが、今回は埋蔵金で2年つなぐことになりましたが、保険料の6分の1を税にリプレイスしようとしています。なぜ3分の1から2分の1にするのかという説明に説得性がないと、消費税の引き上げに理解が得られないと思いますがいかがでしょうか。

 枝野先生にも、以上のことをどう思われるかということをお聞きしたいと思います。また、所得再配分を効率的に行うことが求められていますが、今回の定額給付金でもわかったようにそれがスピーディーにできる体制が整っていません。これと関連して、徴収の一元化について説明していただければと思います。

 
大村 マクロ経済スライドについては、デフレが続いている状況で再計算をすると先延ばしになってしまうのは事実です。 2004年度の年金制度改革で、保険料上限を固定しマクロ経済スライドで負担の抑制をしていく、そして積立金を使って国庫負担を上げる、ということでやってきました。長期的に安定させるための年金制度なので、枠組み自体は問題ないと思っています。ここ数年の日本経済の有様が問題なのだと思いますが、このままではいけないので、5年に1度の財政検証で見直しを行い、納得いただけるような改革をしてきました。

 国庫負担の引き上げは、長期的に見た場合の年金財源安定のためです。5年前までは永久均衡方式というかたちで計算をしてきました。それをやめる際の前提として、国庫負担割合を上げ、財政を強化するということで2分の1にしました。しかし特別会計を取り崩しましたから、2年後は税制抜本改革で国民にお願いせざるを得ません。


枝野 基礎年金の半分は保険料で半分は税、しかもそれは保険なのか所得再分配なのかわからない。税なら税、保険なら保険、どちらなのかを決めないと、負担する側も困る上に誰にいくら給付するのかが明らかにならない。最低保障年金は税でやり、保険の部分は保険でやるべきです。国庫負担割合2分の1というのが経過措置だというのはある程度理解できますが、結局のところ安定的な制度にはなりえません。

 徴収の一元化についてですが、社会保障をこれからやっていくためには所得を十分に把握して、低い人にきちんと給付できるようにしないと。保育や教育についても親の所得で線を引いていますが、この基準が制度によってばらばらだというのは不便であると同時に、それだけ行政コストもかかっていることになります。所得の把握については負担者側から歳入庁という一カ所に届けてもらえば済むわけです。所得情報についてきちんとしたプライバシー保護が確保されれば、そこに年金や医療情報が集約されても国民にとって不利益にはならないと思います。近い将来、消費税増税を検討しなければなりませんが、二段階税率よりも戻し税方式の方がフェアで、そのためには所得の把握と給付の事務をやるところが一体化している必要があります。


年金改革とその財源をどう考えるか

工藤 次に、年金の商品設計と財源の問題についてお尋ねしたいと思います。基礎年金と言うけれども、具体的にどういうものが提供されているのか、生活保護との関係はどうなのかということを説明していただきたいと思います。その上で、財源としてどうやっていくのか。同様に最低保障についても答えていただきたいと思います。


大村 その前にひとつ、枝野さんから税と保険料の話がありましたが、それは言葉の遊びだと思います。介護も医療も税と保険料のミックスです。保険料だけでやっていく場合、低所得者はどうするのかとなると、そこは税で負担をすると。共助と控除でやっていこうと。確かに、基礎年金を税でやるかどうかという話も、財源をどこに求めるかという議論になります。

 我々は年金制度を持続的なものにするため、改革を着実に実行していきます。保険料の上限を補てんしたことが、04年の改革では大きかった。それからマクロ経済スライドの不導入ですね。積立金も取り崩して5年分から1年分にすると。それから、国庫負担の2分の1への引き上げです。年間50兆円という大きな制度を安定的にこれからも運営しなければなりません。

 その際、無年金・低年金・低所得の人の最低保障年金をどうするかという議論があります。非正規雇用の問題もあります。低年金者のケアをきめ細かくやり、給付水準についても検討を進めていきたいと思います。財源の問題もありますから、経済成長と少子化対策とあわせてやっていくことが大事でしょう。


枝野 財源の話ですが、何度も申し上げているように、我々は現状制度の延長線上で新制度を作るということはしません。現状の制度は区切って過去債務を切り分けます。これまでにお約束したものについては支払わざるを得ません。マクロ経済スライドを否定するわけではありませんが、受け取っている年金を減らすことは出来ませんし、過去にお支払いいただいた年金に対応する額は給付します。しかし現在の計算では大赤字で足りない、今の仕組みはもうもちませんから一旦区切るのと。過去債務についてはいくら足りないかを検証し、積立金を崩すなどして将来にわたって返していくことになります。

 今後は見なし掛金立て積立方式ですから、新たな赤字の問題は出てこない。そしてこれを満額受け取る人が出てくるのは40年後ですから、今すぐ消費税を上げるという話にはなりません。利息を生む世界ですから、計画的にやっていきます。


工藤 大村先生に質問ですが、マクロ経済スライドに入れば自民党の言う満額というのが6万円6000円が5万円くらいになる、そういうイメージでいいのでしょうか。それから枝野先生がおっしゃっている最低限の所得というのはどの水準で、それをどういう形で約束するおつもりですか。


大村 マクロ経済スライドは上がっていくものを抑えるしくみです。確かに減っていくことになりますが、基礎年金の金額は財政の裏打ちがあって初めて成り立つ話ですから。一人暮らしの高齢者などについては上乗せを検討していきたいと思います。

 枝野さんに申し上げたいのは、今の制度に入っていた人にお支払いして、新しい制度に移っていくとなると、二重の負担という議論が出てくるのではないでしょうか。これでは、負担が増えずみんながハッピーということにはならない。明確な財源を示さなければなりません。民主党案はどれだけの額を何年払っていくら貰えるのかが明らかでないと思います。4年間は先送りだという考え方だけ示して具体的なプランがないというのは、マニフェストとは呼べないのではないでしょうか。


枝野 過去債務は50~100年をかけて切り分けてお支払いせざるを得ません。二重の負担についてはきちんと説明しています。過去債務として確定した額は、ファイナンスが成り立つ範囲内で、できるだけ長期にわたって負担していきます。

 給付と負担の関係も明確になっています。現役時代にかけた保険料の2倍を貰うことができます。現役時代の平均所得の約30%が、所得比例年金としての給付額となります。所得額が低いために年金が少ない人については、税で所得の再分配をし、全世代で支えることになります。現在の貨幣価値では7万円くらいの水準だと思いますが、これは政治的に決めるしかないことですから。


高橋 最低保障のレベルや財源については、両党は現在の制度を見直すのかゼロから作り直すのかで見解が全く違いますが、例えば超党派で協議を行っていくということは考えていないのでしょうか。


大村 枝野さんに問いたいのですが、見なし積立金制度などというものを本当に発表されているのでしょうか。それから二重の負担ですが、長期にわたってとおっしゃいますが、切り離すということは国民全体が年間50兆円を別途負担するということですよね。そうなると年金だけで巨額のお金が必要になりますが、その点は詰めておられるのか。

 年金について現行制度を作り直すか否かについては国民全体のオープンな議論があっていいと思います。4年前の今頃、年金制度に関する国会での協議会は、半年ほど行った結果打ち切られましたが、自民党は野党に対して協議会での議論を提案しています。その時に税方式のメリット・デメリットを率直に議論したらいいと思います。


枝野 50兆という突拍子もない話が出てきましたが、申し上げているように、基礎年金の国庫負担分で出しているお金は過去債務に回すしかありません。見なし掛金なので、納めた保険料をすべて積み立てるのではありません。人口減少の比率に合わせて必要な額を積立てておけばいいのであって、完全積立方式だなどと言った覚えはありません。

 一から組み立て直すという前提に立っていただけるのであれば、我々の案にも柔軟に手を入れていきます。その場合は超党派でいろんな議論をしたいと思っていますが、現状の制度の微修正ということであれば話になりません。


西沢 一般の有権者にとっては、テクニカルな議論はわかりづらいと思います。与野党が今回示さなければいけないのは、政府が老後の保障をどこまで行うかということでしょう。少子高齢化が進む中で、年金制度の1階も2階も守りきれるのかということではないでしょうか。それから民主党の案は税方式かスウェーデン方式なのか明らかではないように思えますが。岡田さんが代表の時は基礎年金税方式だと言っていましたが。

枝野 基本的な考え方は変わっていません。説明の仕方の問題だと思います。


大村 老後の所得保障は非常に大事で、我々も基礎年金が6万6000円だという制度は守っていかなければなりませんが、低所得者に対して上乗せをしていくことが必要です。現役世代についても、保険料を払うことが困難な人に対しては負担をしてはどうかということは、マニフェストでも明確にしていきたいと思います。

 枝野さんのお話の内容はあまり世の中に知られていないのだと思います。制度を作り替えれば、いずれは財源が枯渇していきます。制度のどこに課題があるのかを議論すべきです。30兆円の二重の負担について、「みんなで賄えば大丈夫です」ではなくて、もっと明確かつ具体的に説明していただかないと。それから、今の制度がだめだから聞く耳を持たないというのはどうかと。国民の皆さんのことを考えたときには胸襟を開いて、十二分に議論することは有意義です。


医療制度の崩壊をどう考え、組み立て直すのか

工藤 次は医療の問題です。少子高齢化と人口減少が深刻化する中で、医療保険財政の持続性をどう考えておられるのでしょうか。各健保が高齢者を支援してつないでいるような状況ですが、それももう維持できないというのが現状です。それからミクロの問題としては地域での病院倒産、医師不足があります。こういう問題をどのように解消するのかと。その際に、医師不足については麻生首相も課題として認識しているものの、どの程度のマグニチュードをどうしたらいいのかということが見えてきません。


枝野 医療財政については、保険間の拠出の構造上、財政そのものが国民から見えないということが根本的な問題です。我々はまず、医療保険財政は少なくとも一元化をする。これから高齢化が進んでいくにあたってどの程度お金が足りないのかということを見える形にしていきます。足りなければ、それを保険料で負担してもらうか、切り分けて所得の再分配としてやるのかを決めていきます。

 医療費の抑制については、先進諸国間のGDP比を見ると、日本だけが抑制をしていかなければならないということではない。まずは医療の人件費にかける金を増やすことが必要です。これは診療報酬体系のレベルでできる話です。それも1割2割のレベルでお金を上乗せしていきます。医師全体の数も足りていませんが、特に救急対応が必要な高度医療の部分で勤務医が不足していて、今の給料体系では無理だということで人が出て行ってしまいます。そうなると高い報酬で人手不足を解消していくしかありません。

 その上で、それでも財政を考えると医療費の抑制を考えなければなりません。抑制すべき部分が間違っているわけです。薬や医療機器は日本で認可を取るのにコストがかかる。こういうところをグローバルスタンダードに近づければコストが下がるので、そこを人件費に回すべきです。


大村 最後のご発言には大賛成です。医療機器や薬の承認に時間がかかるところをここ数年で半分にしようとしているのでしっかりやっていこうと思います。もちろん、安全性を守ることはないがしろにできませんが。

 保険制度の持続性について、一番のポイントは国民皆保険制度をどう守っていくか。そしてそれを堅持しながら、WHOが世界最高とする保健医療水準をどう守っていくのか。切れ目のない医療をどう実現するのかということです。医療は各論の積み重ねだと思います。医療提供体制の確保ということで、医師数は大幅に増加させていただきました。また、医師派遣機能を強化し、周産期医療の機能強化や救急医療の整備に予算を投入しています。

 国民皆保険制度を守るというベースの考え方は枝野さんとそう変わりません。市町村国保の加入者は、今は半分以上の方が無収入です。日本の医療保険制度を守るということは市町村国保をどう守るかということに収斂していきます。今は高齢者医療制度に必要なお金を現役世代の保険から拠出して埋めてきましたが、そこの負担割合をわかりやすくするために、独立型の高齢者医療保険制度を作りました。ここについてはご意見をいただいたので、保険料の軽減や自己負担の抑制をやらせていただきます。日本の医療保険制度を守るためには、透明でわかりやすいものにして、かかったものについては負担をしていただくことが重要だと思います。

 それから、やはり市町村国保の保険料が高いことは事実なので、そういうところへの公的な助成を拡充していくということはきめ細かくやっていきたい。


上昌広 地域の医療崩壊は相当ひどいと思いますが、厚労省が地域医療のために1兆円弱の基金を積んでいます。民主党も地域の中核病院の診療単価を2割増やそうとしていて、これは同じくらいの金額ですがやり方が全く違います。これについて説明していただきたい。

 また、医師不足の件については、医学部の定員数を決めてきたのは政府ですが、2007年に政府は「医師は余っている、偏在しているだけだ」と言っています。これをどう検証するのか。それから舛添大臣は、医学部定員を10年かけて5割増やすと言っています。2030年の時点で、医師数が2割増えても、G8で一番低いレベルにようやく達するという程度です。10年間のビジョンについて、舛添案と自民党のマニフェストとで異なるのはなぜでしょうか。また、民主党はどういうビジョンを持っていますか。また、33兆円の医療費の使い方を決めている中医協のやり方についてどう考えていらっしゃいますか。


枝野 「基金か診療単価か」というのが両党の決定的かつ本質的な違いだと思います。民主党は基本的に、お金を流すならダイレクトに当事者に流した方がいいと考えています。つまり、診療報酬に乗せるのがいいのではないかと考えています。なぜ基金というワンクッションをわざわざ入れなければならないのかわかりません。

 医学部定員については1.5倍くらいに増やすのが現実的だと思っています。そのスピードをどれだけ前倒しできるのかは難しい問題で、作れと言ってすぐできることではありません。それから今の中医協というシステムは抜本的に変えなければならないと思います。単価の決め方を考えたとき、市場に任せるようなやり方ができない場合は公的にやらざるを得ません。単価の決め方については国会でもほとんどプロセスが見えず、国民はもっと見えないのが現状です。第三者的な委員の比率を増やし、決定プロセスを見えやすくしていくことが必要だと思います。


大村 民主党の案もひとつの考え方だとは思いますが、特定の病院だけを選んで20%上げるというのは現実的に難しいのでは。そういった病院を国が選ぶのとなると、公的な裁量の行政そのものになってしまう。我々の基金方式ですが、診療報酬は2年に1回と決まっていて、今回基金をやって当初予算にも入れていますが、実はこれを直接お医者さんに配るわけです。夜間勤務医だとか産科医とか僻地医療の交通費とか、そういうところに出す予算ですから、しかも県の基金なので、天下りのためのものではありません。

 診療報酬の改定方法ですが、これは医療費の負担割合は国が25%、地方が10%、医療保険が50%、自己負担が15%ですから、医療関係者に集まってもらい、医療現場の声を入れてやっていただくのがいいと思います。ただ中医協の今のやり方が本当にそれでいいのかと。診療報酬の各項目と決定プロセスを透明にしていくことが必要だと思います。これについては党派を超えての議論が必要でしょう。

 医師不足については、国民のニーズ、医療の高度化に合わせて医師はトータルに増やし、診療科目や地域の偏在を解決しなければなりません。将来的に5割増ということですが、いきなり5割増やしても物理的に対応できないため、方向性だけは決めて国民の意見を聞いてやっていきたいと思います。


工藤 5割増というのはいつどこで決まったのでしょうか?


大村 去年、厚労省の「安心と希望の医療確保ビジョン」の検討会の取りまとめで決まりました。この夏に方向性を出していきたいと。


 この2年、医療政策については官から政治主導になってきました。このことについて頑張られたと思います。しかし中央政府が医学部定員を決め、医療価格も決めているのは日本だけです。それから話に出ませんでしたが、コメディカルにもお金がかかり、アメリカ並にするなら1兆円が必要です。医療従事者が減ると医療事故が増えて患者の不利益となります。医療従事者数は今のままでいくのか増やすのか。これについてどういう長期ビジョンを描くのかをお聞きしたいと思います。


枝野 これは雇用の受け皿として大事な課題で、実は厚労省よりも財務省主導でやってきた弊害が出ている問題だと思います。医療はニーズが先で、それにカネをつけるのが財務省の仕事だという発想の転換が必要です。医療費で減らせる部分も若干ありますが、トータルで増えるのは当然です。


大村 コメディカルはしっかり確保していきます。また看護師不足も重要な問題で、診療報酬で、過重勤務をしっかり見ていく必要があり、そのためには財源が必要です。医療については財政の視点も大きなポイントですが、診療報酬改定を政治の場でやっていくと、一方で保険者、支払い側の方々の理解もいただく必要があります。医療の提供体制を作るのと合わせて、診療報酬を上げていくためにも財源を確保し、支払う皆さんにも理解をいただいていい医療を作っていきたい。


高橋 党として年金と医療についてマニフェストに何を書くか、現時点で答えられる範囲でお答えいただきたいと思います。会場からの声として、「民主党の年金案では多くのサラリーマンが給付カットになるのでは」という意見が出ています。お二方はともに、もっと医療を充実させたいとおっしゃっていましたが、財源をマニフェストにどう書くのかも含めて伺いたいと思います。


大村 医療については、国民の命と健康を守る一番の基盤ですから、盤石なものにしていきます。様々な課題を抱えていますが、医師確保の問題から地域医療の充実など各論を積み上げていきます。そのためにも安定した財源を作りたい。もっと医療に資源を投入したいと書くつもりです。

 年金は制度改革を行い、低所得者対策、低年金者対策をしていきます。現在の年金制度は非常に大きなものなので、1年2年かけて安定したものにしていく必要があり、将来構図については与野党で議論したいと考えています。社会保障の機能強化には安定した財源が必要ですので、大胆な景気対策で経済を立て直した後に税制改革を行い、国民の理解をいただきたいと思っています。


枝野 会場からの声は本質を突いていると思います。新しい制度を仕切り直したら所得代替率が下がるのは当然です。 50%欲しいとなると25%納めなければならない。自分が納めたものに対してもらっているのはどれだけで、人が払ったものから受け取るのはいくらなのかを明らかにする必要があります。税か保険かをはっきりさせることが大切です。我々の案はポピュリズムに走っているわけではありません。

 自民党は景気回復してから抜本改革をして税制改革をやると言っていますが、我々はまず徹底した資源配分をし、公共事業を削るなど無駄を省き、制度変化により良くなったという実績に納得してもらった上で負担していただきたいと思っています。今の制度のままで、「負担を上げる」などと言うほうがおかしいわけです。無駄遣いを削ることができる党とできない党のどちらを選びますか、ということです。


大村 無駄遣いを削ることを大前提としてお話したつもりですが。無駄遣い削減を5兆10兆、どうやって出すつもりですか。言葉だけです。数字的な根拠のないことを、やると言っているほうがおかしい。


工藤 議論が非常に白熱しました。このような熱気が日本を変えるにあたって大切だと思います。どうもありがとうございました。

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Profile

090707_omura.jpg大村 秀章(衆議院議員 厚生労働副大臣)

1960年生まれ。東京大学卒業。平成8年、衆議院議員に初当選、現在4期目。自民党厚生労働部会長、内閣府副大臣などを歴任。現在は厚生労働副大臣などを務める。主著に『再生、興国への突破口―それでも日本は蘇る―』など。


090707_edano.jpg枝野 幸男(衆議院議員 医療制度調査会会長 元政策調査会長)

1964年生まれ。東北大学卒業。1991年弁護士登録。1993年、衆議院議員初当選、以後当選5回。民主党の政策調査会長、ネクスト官房長官などを歴任。現在は医療制度調査会会長、衆議院予算委員会理事などを務める。著書に『それでも政治は変えられる』。