2009年7月9日
【テーマ】 国と地方
【出席議員】
自民党:衛藤征士郎(衆議院議員 地方行政調査会長)
民主党:玄葉光一郎(衆議院議員 分権調査会長)
【司会者】
工藤泰志(言論NPO代表)
高橋進(日本総研副理事長)
【コメンテータ】
林良嗣(名古屋大学大学院環境学研究科教授)
福嶋浩彦(中央学院大学k教授 前我孫子市長)
増田寛也(株式会社野村総合研究所顧問 元総務大臣)
議論要旨
工藤泰志 国のあり方を考えるうえで地方分権は重要です。分権社会が目指すものとは市民の自立であり、市民が強くなることによって自治の力が強まり、最終的にはその中で行政が営まれるということではないでしょうか。まずは分権型社会の将来をどう考え、それを具体的にどう実現しようとしているのかについて、お聞きしたいと思います。
衛藤征士郎 29歳のときから6年間、大分県で市長をしていましたが、当時は全国に合わせて3300の市町村があり、 3300分の1である縮尺日本国を良くすることで日本全体が良くなっていくという考え方がありました。しかし行き着くところはやはり財源問題でした。尺度のひとつに経常収支比率というものがありますが、平成19年度の兵庫県の経常収支比率は何と103.5、大阪府は102.7、東京都は80.2です。このことだけでも、分権というのはかけ声ばかりで、現実のところは行き詰っているのだということがおわかりになるかと思います。 また、平成21年度末の国と地方の長期債務残高は816兆円であり、これは対GDP比で168%という値になります。ヨーロッパの先進諸国では、この比率は高くても70%です。今後、分権というものを進めていくにあたり、やはり財源をしっかり確保しない限りは絵に描いた餅になってしまいます。経常収支比率が100を超えるような状況では、どうしようもないわけですから。
また、これまで市町村合併が進められ、市町村の数も1800まで減りましたが、詰まるところ、地方の財政事情が極めて劣悪であるために合併せざるを得なかったという現実があります。この1800の姿を今後どうしていくかということですが、今ある市税、県税、国税という世界を、究極的には国税と市税というかたちに持っていくことになるのではないかと思います。国と地方の税配分を64から46にするという方向性については私も賛成です。常に国際比較を行い、各国の国税、地方税の対GDP比や平均所得に対する割合を見ながら進めていくことは重要であると考えます。
玄葉光一郎 日本全体が未来への希望を急速に失いつつあることに対して、政治が何をできるのかが問われているのではないかと思います。それはしくみをつくり直すことしかないと思っていますが、地方分権もこの一環として進めなければなりません。まず、我々日本人には潜在力があり、それぞれの地域も潜在力を持っているはずです。しかし制度によって、その潜在力にフタをしてしまっているのではないか。だとすれば、地域の潜在力のフタ開けをすることこそが、分権の第一の目的となるはずです。もうひとつの目的は、中央政府の機能を本来の機能たらしめるということです。外交・安全保障戦略の確立や、地球環境問題でのリーダーシップ発揮、セーフティネットの張りかえなど、本来中央政府がしなければいけないことに対して、国会議員全員が集中できる環境にあるかというと、必ずしもそうではないわけです。陳情政治が多いとか、そういうことから解放されないと、本来の役割を発揮することはできません。また、地域主権とは住民主権のようなものですから、住民にとって身近なところで決定がなされる。そういうしくみをつくるという意味でも、分権はぜひ進めるべきだと考えます。
政権を取ったときに重要になってくるのは、やはり補助金、負担金、義務付け・枠付けの問題であろうと思います。潜在力のフタが閉まっているということの原因は、裁量権が限定されているということですから。そこを広げてやることができれば、極端に言えば国会議員も国家公務員の数も半分で済むかもしれません。これは専門家でチームをつくり、1年間かけてやっていきたいと思います。基本的には、基礎自治体つまり市町村中心主義で進め、そこが充実したところで、広域自治体のあり方を考えていけばいいと思います。そこで道州制などを議論することも結構だと思っています。
工藤 小沢さんが代表のときは、国と基礎自治体との二層制で、しかも基礎自治体の数は300だという方針だったと思います。そこを転換したのはなぜですか。
玄葉 数字を取ったというだけで、方針は変わっていません。私も当時の小沢代表と議論させていただきましたが、自治体の数を300まで減らしてしまうと、そこでできない仕事を中央政府が全て担うということで、逆に中央集権が進んでしまうのではないかと。広域自治体についてもきちんと書いていますし、基礎自治体中心主義という方針はこれまで変わっていないということです。
衛藤 特に反論はございませんが、現在は良い方向に進んでいるのではないかと思います。申し上げたように東京都の経常収支比率は80ですが、基礎自治体も80くらいになるのが望ましいと思います。合併をすると経常収支比率は一時的に上がりますが、きちんと行政改革を進めれば、中長期的には下がってきます。また、そのために税財源の移譲を積極的に行う必要があると思います。
玄葉 合併について補足しますと、やりたかったけれども諸事情によりできなかったというところもありますので、そういうところに機会を設けていくことは大事だと思います。あえて数字的な目標を掲げるのをやめたというだけで、多様性を重んじていくということです。
工藤 自民党の方針はどうですか。
衛藤 合併については一段落したという認識ですが、合併を進める意志のある自治体にはしっかりした支援策をとって誘導していく必要があると思っています。
高橋進 地方分権というのはある意味手段であり、活力のある地方をつくるということが目的のひとつになるのだと思います。すると、地方活性化のために分権がどのように貢献していくべきなのでしょうか。それから、分権以外には何が必要になってくるのかについて、ご意見をうかがいたいと思います。
玄葉 繰り返しになりますが、分権は地方の潜在力のフタ開けにつながります。しかしそれが全てではありませんので、やはり国の基本政策を変えていく必要があります。農村にお金が回るしくみをつくるとか、子ども手当なども、実施すれば比較的地方にお金が回りやすくなるという面があります。企業の誘致なども古典的ではありますが、やはりそこに頼らなければいけないところがあります。また、我々も独法や特殊法人を整理していきますが、残るものの中に、東京に必要なものがほとんどないとすれば地域に分散させてやればいいのではないかと。そういうことも含めて、国の政策として考えていくべきです。
衛藤 国税と地方税の配分のあり方を抜本的に変えていく必要があります。少子高齢化で活力がなくなっていくときに、直接税偏重では窮屈になっていくことは目に見えていますから、間接税とのバランスを取って、地方に重点的に配分することが必要になってきます。
増田寛也 分権というものは行政権の話だけにはとどまらないと思います。今はどうも、行政権の中でお金の配分をどうするだとかいう議論に終始してしまっているように見えます。しかし広い目で見れば、知事や県庁官僚だけが強くなって、地域にミニ中央省庁ができるというような状況を目指しているわけではないので。地方の政治家が中心となって、地方行政も巻き込んで意思決定をしていくというのが本当の分権の姿なのではないでしょうか。立法権の分権ということももっと考えたほうがいいように思いますが。
衛藤 おっしゃる通りです。市町村議会における議員立法の条例が非常に少ないのが現状で、自分たちで決めることができるものを、いつの間にか「県がこうだから」「国がこうだから」といって固まってしまっています。そういう殻を打ち破ることが重要で、そのためには地方政治のイニシアティブをもっと強めていかないと、地方自治、地方分権というものは真の意味を持たないと私も考えます。
玄葉 それぞれの得意分野を活用して公を豊かにしていくことが求められると思います。市長はそのためにコーディネーターとなる必要があります。条例の上書き権について衛藤先生からお話がありましたが、私もこれは重要だと考えています。国がまずそのことをそれぞれの法律に書いてあげることも必要です。地方議会の質を高めることももちろん重要です。職業、経歴が固定化しすぎている傾向がありますので、サラリーマンがもっと地方議会に出ていけるように環境を整えていかなければなりません。地方議会の裁量権拡大については、我々もマニフェストに書き込んでいきたいと思います。
福嶋 地方分権には3つの視点があると思います。ひとつ目は、地方に任せるものは地方に任せて、国をスリム化するということ。2つ目は、地方に権限を置くことで、住民のための行政をより効率的に行うということ。3つ目は、住民に近いところに行政やお金の権限が来ることで、住民が主権者としてそれらをコントロールしやすくなるということです。私は、分権というのは国が自治体に権限を分けることではなくて、主権者である市民が、国と自治体とに権限を分け与えることではないかと思います。その前提でお聞きしますが、両党の考える分権の主語とは何でしょうか。国ですか、住民ですか。それから3つ目の視点がどれくらいあるかということですが、この視点で考えると、分権は決して手段ではなく、民主主義の原理そのものであると思います。道州制の議論などには、住民に近いところに権限を持ってきて、住民がコントロールするのだという視点が欠けているようにも思いますが、いかがでしょうか。
玄葉 国か住民かと聞かれると、住民ですという答えになってしまいますが。身近なところに権限を持ってくるというのは、私が思うに潜在力のフタ開けだということになりますけれども、もうひとつは、住民参加だとかそれに伴う生きがいだとか満足度だとか、そういうこともあります。手段ではなくて民主主義の原理そのものだというお話は勉強になりましたが、私はやはり手段でもあると思っています。
衛藤 国家主権と地域主権は対立するものではないと思います。それから、4年に1回知事選や市町村選が行われていますが、地域にとって重大なテーマについては、住民投票の機会をもっと開いていくべきだと思っています。そういうものが手ごたえや満足につながっていくのではないでしょうか。
玄葉 減税というのもひとつの考え方ですが、起債制限がかかるのでできない、という場合があります。すると起債への関与を緩和する、あるいは段階的になくしていくということも、考えていったほうがいいかもしれません。
福嶋 衛藤先生、経常収支比率を下げるための方法は、合併だけではないと思います。単独でやったほうが徹底した改革できる場合もありますから。
衛藤 確かに、市長村長や議会の努力で、経常収支を下げていくことも可能だと思います。真っ先に何をするかといえば、国の行政機関のスリム化で、国家公務員の数を15年間で3割削減ということを提案しています。玄葉先生は将来的に5割とおっしゃいましたが。それから地方公務員と、都道府県あるいは市町村職員は5割減を目指すべきだと考えております。その前に必要なのは国会議員の定数削減です。一院制にし、議員の数を3割削減すると。まずは立法府から行政改革を進めていきたいと思います。
林良嗣 別の観点になりますが、分権を進めるにあたって、人々が豊かな暮らしを続けていくためには空間というか、地域のかたちをどうするかということも重要になってくると思います。ドイツに中心地理論というものがあって、第1中心の都市には何でもそろっていますが、一番下の単位のところには病院がないので、その場合は隣の町村に行く。それを結ぶのが道路などのインフラです。そういう助け合いというか多段階のシステムも必要なのではないかと思います。
玄葉 我々は広域自治体の存在を認めつつ基礎自治体中心主義で行くと言っております、基礎自治体の多様性を認めるという意味では、多段階の事務配分を考えています。ひとつの町にいろんなものを集積させるといった話は、それぞれの自治体が考えることなのではないかと思います。
衛藤 まちづくりに関しては、公的支援による国主導のまちづくりになってしまう危険性もありますので、玄葉先生のご指摘の通り、地域社会全体で参加しながら進めるという共助の関わり合いが重要だと思います。
高橋 道州制についてどうお考えなのかも、うかがいたいと思いますがいかがでしょう。
玄葉 下から盛り上がってくる道州制ならば十分検討に値すると思っています。今議論されているのは、国が法律で決めて国家を分割するということですが、そういうやり方では不可能だと思います。まず基礎自治体がきちんとできたうえで、結果として州というかたちが望ましいということになれば、それは考えてもいいのではないかと。
衛藤 ベストな道州制の姿が出ているかというと、必ずしもそうではありません。ここを積み上げて、道州制のあり方を真剣に検討したい。道州制にするということは、県をなくすということですよね。すると道州制になったら、州税は極めて制限されたものでなければならない。それから基礎自治体と国という考えのもとでは、道州の権限は小さなものでなければなりません。
工藤 政府のほうは来年3月までに法案をつくらなければならないということで、期限が迫っているわけですが。それから民主党は政権を取った後、分権を具体的にどういうスケジュールで進めていくおつもりですか。
衛藤 分権改革法案ですが、秋には最終的な取りまとめを行って、それに則って進めていきます。なかなか進まない原因は、国の地方支分部局の統廃合の問題にあります。道州制の問題とは分けて考え、地方支分部局のあり方を厳密に詰めていく必要があります。
玄葉 最初の1年間は補助金や負担金、義務付け・枠付けに関わる作業に集中します。その間、成果が出ないということになりますが、今の政府の地方分権改革推進委員会の議論の蓄積を上手に活用したいと思っています。まだマニフェストに書き込むかどうかわかりませんが、省令改正で風穴を空けたいと思っています。
増田 財政の話ですが、知事会は地方消費税引き上げということを言っていますが、両党の見解はいかがでしょうか。
衛藤 将来的にはヨーロッパの国々のように2種類、3段階の複数税率を導入して、地方消費税は増額すべきだと思っております。
高橋 地方の取り分を増やすということでしょうか。
衛藤 そうです。
増田 今、国税と地方税の割合は46ですが、それを最終的に55にするということについてはいかがですか。
衛藤 次回選挙のマニフェストはまだできていませんが、方向性としては55にすべきだということです。
玄葉 将来的には5対5ということは考えられますが、次の4年間は現行通りの可能性が高いです。フタをあけて潜在力を発揮させてやることが先だと思います。地方消費税が最も偏在性が少なくて、すぐれた税であるということは理解しております。
増田 いずれにしても税の体系をどうするかという議論には時間がかかります。国民的な議論が必要ですから、できるだけオープンに、封印せずに議論をしていただきたいと思います。
衛藤 三位一体改革の後、経済が順調に伸びればもっと望ましいかたちになったように思います。ところが低成長になってしまったために、国から地方に行くべき財源がどんどん減ってしまったという側面があります。交付金や補助金は、その財源を少しでも確保しようという努力の結果でもあるわけですが、このまま続けるわけにもいきませんから、この問題については今後大きな枠組みの仕分けを行っていく必要があります。
玄葉 一括交付金の話も義務付け・枠付けの問題とあわせてゼロベースで、全面的に検討し直したいと思います。しかし一気にできる話ではないので、3年くらいかけて段階的に行っていきます。負担金ははっきり言って減らせませんが、縛りを変えることで創意工夫の余地の余地があるのではないかということです。
増田 最後にひとつお聞きしたいと思います。基本政策は国が決めるとしても、分権のかなりの部分は、地域がみんなで議論して決めていくということなので、各地域に合う解決策を見いだしていくことが必要だと思います。そのときにはやはり地方議員の役割が重要だということで、政党支部が持つ重要性についてもっと考えていく必要があります。政党内の政策の決まり方というのも非常に中央集権的で、地方議員の人たちはみんな本部の受け売りだと思います。そこを切りかえて、政党の支部自身も大きく変わって、地方の自分たちの問題として考えていくことが必要なのではないかと。そして、地域ごとに決まっていくいろんな政策を中央がくみ上げて、党としての政策が決定されるというのが本当の分権的な社会のあり方ではないでしょうか。
福嶋 都議選の公認候補を最終的に中央で決めるというのもおかしな話だと思います。その意味で政党の分権化は大きな課題です。それから政党助成金も国から出たものを中央が地方に下ろすのではなく、各自治体から出るようなしくみにしていくことも考えていく必要があります。
衛藤 今のようなお話は政党法をいうものをつくって、その中でしっかり規定していく必要があると思います。
玄葉 支部の裁量というものも確かに重要ですが、たとえば党費の問題などについては全国一律のほうが望ましいという場合もあります。難しい話だと思います。確かに、政党支部の役割を十分に活用しきれていないような部分もあります。中央との情報交換をもっとしかあり行っていく必要があります。
高橋 最後に、次の選挙に向けて、マニフェストに何をお書きになるのか、何を重視しているのかについてお話しいただきたいと思います。
衛藤 やはり立法府のあり方を議論することが大事です。衆参一院制にするということはマニフェストに書き込みたいと思います。
玄葉 申し上げたことはだいたい書き込むことになると思いますが、実現のためには相当なエネルギーが必要ですから、政権交代という変化によって生まれるエネルギーを十分に活用していきたいと思います。
工藤 ありがとうございました。討論会もこれで終わりとなりますが、私たちが問い続けてきたのは日本の未来に対して政治がどう答えるかという点でした。次の選挙ではぜひ、未来に向けての課題解決で競っていただきたいと思います。また、マニフェストが約束だとするのなら、約束に耐えるようなかたちで目標設定や財源やプロセスをきちんと示してほしいと思います。今回の議論をベースにして真剣な勝負に挑んでいただきたい。先生がた、皆さんどうもありがとうございました。
< 了 >
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衛藤 征士郎(衆議院議員 自由民主党地方行政調査会会長)
1941年生まれ。早稲田大学卒業。1983年に衆議院議員初当選、以後8回連続当選。防衛庁長官、外務副大臣、国家基本政策委員長などを歴任し、現在は自由民主党地方行政調査会会長、衆議院予算委員長を務める。
玄葉 光一郎(衆議院議員 民主党分権調査会長)
1964年生まれ。上智大学卒業。福島県議会議員を経て、1993年衆議院議員初当選、現在5期目。民主党ネクスト総務大臣、選挙対策委員長、幹事長代理などを歴任し、現在は民主党分権調査会長を務める。