日韓の国民感情はやや落ち着いたが、依然冷え込んだ状況両国の閉塞状態に改善の兆しは見られるか

2021年9月28日

⇒ 第9回日韓共同世論調査結果

言論NPO代表 工藤泰志

 日韓の国民意識は、2018年の韓国での徴用工に対する判決や2019年の日本政府による輸出制限などを受け、日本では2019年から、韓国では2020年の調査で激しく国民感情が悪化したが、一年が経った今もその影響を払しょくできない状況にある。

 2021年の日韓共同世論調査の結果は一言でいえば、両国民の相手国への印象や現在の日韓関係に対する国民意識は、昨年よりはやや落ち着いたものの依然、冷え込んでいる状況にあるということである。

 ただ、その背景には様々な意識の変化や揺れが存在している。その中で私たちが特に注意して観察したのは、国民意識の中に両国関係の改善を促すような兆しが見られるかという点にある。それを明らかにすることが、今回の世論調査のもう一つの目的と言ってもいい。

 過去数年間、急速に広がった日韓の国民間の感情悪化は相手国政府の行動に対するそれぞれの反発である。両政府が修復に取り組まない限り、こうした国民感情は改善しないが、政府行動が変わるためには、それを促す国民意識の変化が必要なのである。

 そのためにも、冷え込む両国の国民感情の中に、改善を促す未来志向の意識が育っているのか、それを注意深く点検することが大事な作業だと考える。

 日韓関係の不信を決定的にした韓国の文在寅大統領は来年3月の選挙で交代し、日本の菅義偉首相はこの10月に交代となる。両国の新しい政府がこの局面で改善に取り組まない限り、この状況は長期化し、構造化する可能性もある。

 ただ、私たちの基本的な問題意識はそうした余裕が両国にあるのか、ということにある。

 中国の台頭とそれに伴う、米中対立の深刻化。世界に分断の危険性が高まり、アジアでも緊張が高まっている。北朝鮮の挑発的な行動も始まっている。米国と同じ同盟関係にあり、民主主義という共通の価値を持つこの二つの国が、このまま反目し続けていいのか、ということである。

  今回の世論調査は全てで63設問である。この膨大な結果から、私たちは次の3つの論点に関して、世論調査の分析を試みたいと思う。

 第一は、日韓両国の相手国への意識に改善の傾向は見られるか。
 第二は、両国民の意識に両国の未来に向けた新しい変化はあるか。
 第三は、米中対立下で、両国の戦略的な連携の可能性はあるのか、である。
 

日本の新首相、韓国の新大統領に日韓関係改善を期待する声は少ない

 まず、2019年より大きく悪化した相手国への印象に改善の傾向が見られるか、である。

 結論から言えば、日韓両国の相手国に対する国民の印象は昨年よりはやや落ち着いたものの、冷え込んだ状況は依然、続いている。

 韓国人の63.2%と6割が依然、日本に対して「良くない」という印象を持っている。

 昨年の71.6%よりは改善したが、この6割の水準は2015年の慰安婦問題の合意で改善が始まった2016年の水準よりも悪く、改善の効果が全てなくなった状況に等しい。

 これに対して、日本人の韓国に対する印象は昨年よりもわずかに悪化し、48.8%が「良くない」と回答している。

 次に、現状の日韓関係に関しては、昨年よりは両国民ともに認識はやや改善したが、韓国人の81%、日本人の52.7%は「悪い」と判断している。現状の日韓関係を「良い」と見ている人は、日本人で8.1%、韓国人でわずか1.3%しかいない。

 私たちが懸念したのは、今後の日韓関係が今後は「良くなっていく」と見ている人は、両国民のそれぞれ2割にも満たず、今後もこの冷え込んだ状況は「変わらない」と考える人は韓国で54%、日本で35.6%と最も多かったことである。

 日韓関係の今後に悲観的な傾向は特に日本人に強く、来年3月の大統領選挙で誕生する韓国の新大統領に日韓関係の改善を期待している日本人はわずか4.6%、また、間もなく誕生する日本の新首相に関係改善を期待する人も1.6%しかいない。

 韓国人は、自国の新大統領への期待が22.4%、日本の新首相に期待するのは18.1%と、日本人よりも期待はやや高いが、48.3%と52.3%とそれぞれ半数程度は新大統領、新首相になってもこの状況が「変わらない」と見ている。


政府間の対立である以上、政府が修復に動かない限り、氷を溶かすことは不可能

 今後の日韓関係が良くなることを国民が期待できないのは、両政府間に修復の動きが全く見られないことである。加えて、両国民に相手国政府への不信が根強いこともある。さらに、この間の自国政府が取った相手国政府への対応を評価する傾向もまだ続いていることも大きい。政治はこうした世論環境ではなかなか動きにくい、という状況がある。

 私どもは世論調査にて、両国民に対し、日韓関係は重要かを毎回、尋ねている。この回答は、そう大きく変動するものではない。事実、韓国の国民で、「日韓関係を重要だ」と回答する人はこれまでの9年間の調査で、7割中盤から8割後半の幅に収まっている。

 ところが、日本では2017年の調査から重要だと考える人が減り始め、今年は46.6%と、ピークの2013年時の74%から27ポイントも下落している。

 その理由も聞いているが、今年の調査では67%が、「歴史認識問題で過去の政府間合意を現政権が覆しており交渉相手として信頼ができない」と答え、最も多い回答になっている。

 これに「現政権が日本を過度に刺激する行動をする」が44.8%で続いており、韓国の現政権の行動に対する根強い不信が、日本国民にはある。


 韓国には別の傾向がある。この間、韓国政府が取った日本政府への厳しい対応に関しては、「評価する」が30.2%、「評価しない」が34.5%で分かれている。

 だが、その理由は同じ方向を向いている。韓国政府の行動を「評価する」人の81.7%が、「日本の輸出規制に強力な対応」と「歴史問題で断固たる態度」を韓国政府が取ったことを、その理由に挙げている。

 また、「評価しない」人でも、その理由で最も多いのが「日本により強い対応を期待したが、その期待に及んでいなかった」の38.4%だった。

 両国民は相手国政府の行動に反発し、未だ不信を解消できていない。そうしたそれぞれの空気は、悪化した二国間関係を政府間が放置することを認めている。


 日本政府が2019年に韓国への輸出規制などの対応を取ったのは、その前年の2018年の韓国の大法院の判決で、徴用工への請求権の問題での日韓合意を覆す判断をしたことに対する日本政府の反発がある。

 日本政府はこれを韓国との国交を樹立した1965年の日韓基本条約の骨抜きで、日韓関係の基礎が壊れたと判断したのである。これに韓国側が報復して、それが国民感情の激しい反発に繋がっている。

 つまり、政府間の対立である以上、この状況は政府が修復に動かない限り、氷を溶かすことは不可能なのである。


 ただ、今回の調査では、相手国を批判する国民の意識に少し変化も見られている。

 例えば、日本人では、日本政府の韓国への対応を評価する人が、19.9%(「評価しない」は27.3%)で、昨年よりも10ポイント近く減少している。韓国側にもわずかではあるが、自国政府の対応を評価しない人が増えている。

 さらに、今の日韓関係を改善すべきと考えている人は、韓国で71.1%、日本でも46.7%であり、この設問の最も多い回答になっている。

 その際に、日韓は今後、どのような付き合いをすべきかを聞いているが、「未来志向で対立を乗り越える」と「少なくとも政治的対立は避ける」と回答した韓国人は合わせて74.6%、日本人でも54.8%にもなっているのである。


日韓は、未来志向で対立を乗り越えるか―少なくても政治的対立は避けるべき

 二つ目の課題は、両国民の意識に中に両国の未来へ向けた新しい変化はあるか、という点である。ここは両国の世論の構造にも注目して判断してみたい。


 まず、相手国への意識はどう作られるか、である。この場合、直接交流は、相手国への相互理解を高めるための極めて重要な要素となる。その経験がない場合は、相手国への理解は自国のメディア報道などの間接情報を頼るしかないからだ。

 私たちの世論調査では、相手国への渡航件数が多く、相手国に知人や友人がいる人の方が、印象が良くなることが分かっている。こうした直接交流の程度は、日韓関係を重要だと思うかどうかにも影響がある。

 今回の調査でもこの傾向は証明されている。例えば、今回も、日本人の韓国への「良い」印象は、韓国への渡航経験数がある人が38.7%で、渡航経験がない人の21.7%を大幅に上回っている。これは韓国人も同じで、渡航経験がある人の日本への「良い」印象は32.7%で、経験がない人の11.8%を3倍近くになる。

 ただ、こうした渡航経験が今回の調査結果を大きく改善することにならなかったのは、コロナ禍の影響や韓国側の日本への渡航自粛で訪問経験者がこれまでのように増えなかったからである。2020年の両国への渡航客はピークから10分の1程度(日本でピーク時の13%、韓国人で6.5%の水準)にまで落ち込み、直接交流が大きく減少している。


若者層の意識と両国のポップカルチャーは新しい潮流の一つになれるか

 こうした政府間対立の局面でも今後の日韓関係の新しい潮流の一つになりえる、二つの傾向が国民間の意識に出始めている。


 一つは若者層の意識であり、もう一つは両国のポップカルチャーなどの文化の影響である。Kポップなどの文化の影響が政府間の対立にも拘わらず相手国に対する好印象をもたらしていることである。

 今回の調査でも、若い世代では相手国に対する相対的にプラスの傾向があることが、明らかになっている。

 日韓両国民で、相手国に「悪い」印象を持つ人は、日本人で48.8%、韓国63.2%であることは、先に説明したが、これを年代別に見ると、日本人の20代未満で、韓国に「悪い」印象を持つのは32%、20代は34.7%と、全世代での傾向よりもかなり良くなっている。韓国でも、日本の印象を「悪い」と感じる人は20代未満で31.3%、20代は43.1%と20ポイント以上全体よりも低い。

 現状の日韓関係の状況に関しても、日本人の52.7%、韓国人の81%が、「悪い」と考えているが、日本人の20代未満は24%、20代で40.6%と半分の水準しかない。韓国人も20代未満で75%、20代で68.1%と、全体よりも低くなっている。

 こうした若い世代の意識が明確に出ているのが「日本に行きたい」という韓国人の意識である。この厳しい環境下でも韓国人の51.6%が「日本に行きたい」と回答し、昨年の46.5%から上回ったが、これを牽引しているのは韓国の若者であり、20代未満と20代の層の二つの層の中で「日本に行きたい」と思う人は66.5%も存在する。

 相手国への渡航という直接交流のチャネルが閉ざされている中で、こうした傾向が出るのは別の要因があるためである。

 それが、相手国を知るための情報源と多様化と、直接の情報となる相手国のポップカルチャーなどの文化の影響である。ただ、このポップカルチャーは若者層に限った話ではなくなり、世代を越えた影響に発展しつつある。


 まず、相手国の情報を知るための情報源だが、両国民のそれぞれ約6割が自国のテレビで相手国の情報を得ている。ところが、若い世代は、パソコンや携帯を使った情報収集を活用しており、特に韓国の場合、18歳から29歳まででみると自国のテレビを情報源として活用している人は27%しかなく、63%はパソコンや携帯電話のニュースアプリや情報サイトから日本の情報を得ている。

 こうした情報源による違いは相手国への意識の違いは、今年の調査でも確認できる。

 韓国では、パソコンのニュースアプリなどを情報源として活用した層は日本に「良い」印象を持っているのは32.1%、「悪い」印象は47.2%、また携帯電話のアプリを使う人は「良い」印象が19.5%、「悪い」との印象は55.8%であり、それぞれ既存のテレビを情報源とする人の「良い」印象の16.6%と、「悪い」印象の70.1%よりはプラスの傾向が顕著である。こうしたアプリ情報は生活の視点から様々な旅行やショッピング、食べ物の情報を提供しており、韓国では携帯やパソコンを情報源に使う人の層で、日本に「行きたい」と思う人はそれぞれ7割近くになっている。また、日本では、携帯機器を使う人の層に韓国に「行きたい」と思う人は44.6%で、テレビを情報源として活用する人の29.9%を大きく上回っている。


日本人では日韓関係が悪化しても、Kポップを楽しむ熱狂ファンが64.6%

 さらに無視できない状況になっているのは、両国のポップカルチャーの影響である。特にその傾向は日本で特に大きい。

 日本人で韓国に「良い」印象持つ人の53.4%が、その理由として韓国のポップカルチャーに関心があるからだと回答し、その影響は全世代に広がっている。特に20代未満では約80%が良い印象の理由として、韓国のポップカルチャーを挙げている。


 韓国で日本の印象が「良い」層では、日本のポップカルチャーをその理由に挙げる人は17.4%に過ぎないが、これは韓国の場合、日本の食文化やショッピングが魅力的といった、日本への訪問に関係する要素の方が多いためと見られる。

 ただ年代別で見ると韓国人の20代未満や20代で日本のポップカルチャーを「楽しんでいる」(「とても」と「ある程度」の合計)人はそれぞれ50%、40.6%いる。

 その中で、相手のポップカルチャーを「とても楽しんでいる」という層に絞ると、日本人でKポップをとても楽しむ人の77.5%が韓国に「良い」印象があると答えており、韓国でも、日本のJポップをとても楽しむ人の55%が日本に「良い」印象を持っている。さらに日本人では日韓関係が悪化しても、Kポップを楽しむという熱狂的なファンが64.6%もいる。

 政府間関係の対立とは別に相手国の生活や文化への関心や、観光や食文化や携帯などを活用したショッピングなどを通して、両国民が繋がり始めている。


「QUAD」に韓国も加わるべきと考える韓国人は51.1%と半数を超える

 最後が、米中対立下で、両国の戦略的な連携の可能性はあるのかである。この領域では、今回の世論調査でも様々な変化が見られる。

 まず、今回の調査で明確に浮き出てきた傾向として、韓国人の中に中国への脅威感やそれに伴う、米国や日本との協力に強い期待が高まっていることである。

 例えば、今回の世論調査では、61.8%の韓国人が軍事的な脅威を感じる国として中国を挙げており、昨年の44.3%から17.5ポイントも上昇している。その結果、韓国人にとって中国は、北朝鮮の次に脅威の国として、今年は意識された。

 また、日米韓三カ国の軍事・安全保障協力を強めるべきだと、考える韓国人も64.2%と昨年の53.6%から10.6ポイントも増えている。また、日本、米国、豪州とインドを加えた新しい協力の枠組みである「QUAD」(クワッド)に韓国も加わるべきと考える韓国人は51.1%と半数を超えており、日本人で韓国を「加えるべき」とする11.4%を大きく上回っている。


 こうした韓国人に広がる安全保障上の協力の姿勢は、中国の行動だけではなく、北朝鮮の非核化が不安定化し、その実現への展望が見えない状況とも連動している。

 韓国人で10年後の朝鮮半島が、このまま不安定で、かつ緊張が高まると見ている人は57.4%と昨年の50%から7ポイントも増加している。

 今回の世論調査では、さらに韓国人の日本との協力の希望は経済分野にも広がっている。

 例えば、自国の経済にとって大事な国として、日本を挙げた韓国人は52.4%と、昨年の41.7%よりも10.7ポイントも増加している。日本人で韓国を挙げる人は今年減少しており、それとは対照的な傾向を示している。

 日韓の経済協力が自国の将来にとって必要か、という設問でも韓国人は80.4%が「必要」だと答えている。これに対して、日本人で日韓の経済協力が「必要」と考える人は44%で昨年の47.1%を下回っている。


日本人は、報復を行った日本政府の行動を支持しているわけではない

 日本人がこうした韓国の関係改善や日韓協力で、韓国人ほどの意欲的な姿勢が示せないのは、今回の対立が日韓基本条約の骨抜きという、日韓関係の根底を壊しかねない問題を韓国側が提起しながら、その問題に誠実に向かい合わなかった韓国政府への強い不信がぬぐえていないことが最も大きい。

 ただ、その後、報復を行った日本政府の行動を日本人が支持しているわけではないことは、政府間の報復の動きを支持するかという設問で「支持」を選んだ人がわずかに11.9%しかなかったことからも伺える。ここでは、むしろ「支持しない」が24.3%、「わからない・どちらともいえない」が63.3%になっている。
 
 政府間が解決に動かない中で、この状況をどう判断したらいいのか、わからない、というのが日本人の意識なのである。韓国側が、日本との協力に強い希望を持ちながらも、こうした政府間の報復の動きを47.5%も支持しているのとは好対照である。

 今回の調査結果では、国民対立の発火点である、徴用工の判決の解決に向けた両国民の意向はかなりかけ離れ、歩み寄りが難しいことも浮き彫りになっている。

 ただ、この中で、まだ両国民ともに2割程度の支持に過ぎないが、昨年よりも支持を大きく増やしたのは、「第三国の委員を交えた仲裁委員会の設立か、国際司法裁判所に提訴する」という項目である。

 政府間での解決が難しいのであるならば、第三者に解決を委ねることへの環境づくりである。こうした問題を踏まえて、両国政府で話し合いが始まることを期待するしかない。


解決に向けた覚悟を固めるべきは両国政府なのである

 今回の世論調査で見てきたように、日韓の国民間の相手国への気持ちはまだ冷え込んでいるとはいえ、米中対立下での新しい意識の変化や新しい潮流があることもわかった。

 これから誕生する両国の新しい政治指導者に対する両国民の期待はまだ少ないが、韓国人の中では、歴史認識問題においても、「両国が未来志向の協力関係を作っていくことで、歴史問題も徐々に解決されるだろう」との見方が38.1%となり、昨年の24.5%から13.6ポイントもこの一年で増えている。

 国民の意識は、コロナ禍で交流が不足する中でも確実に日韓で繋がり始めている。

 この地域の将来のために、解決に向けた覚悟を固めるべきは両国政府なのである。