講演録:「地域再生とパートナーシップ ~『公』の担い手とNPOの役割~」(その2)

2007年3月15日

地方に問われる4つの自立

〔当日配布資料〕

次のページ(p5)です。NPOということに関して、どうもいろんな人と話をしていると誤解があるなと思っています。NPOへの誤解は、NPOがあたかも1つの業界になっているというものです。実はさっき言った委員会で、大森彌という東大の先生(東大名誉教授)の、それに対してのコメントが非常に明確な説明だったのですが、NPOというのは、多くのボランティアが自発的に社会に参加するムーブメントに法人的な性格を持たせたということだけなのです。阪神大震災でその動きは大きくなりましたが、非営利的な活動を法人格、法人の資格を持たせることによって他といろんな交渉ができたり、契約関係を結んだりすることができるからです。


よくNPOじゃなくて他のところも非営利活動はあるじゃないかと言われます。確かにNPO団体のほかにNGOとか社会的企業家とか、公益法人とか非営利には様々な形があり、それらが業界化しているようにも見えます。NPO側にも自分たちだけでまとまればいいという間違った考えがあるのかもしれません。
それらがばらばらに考えられていることが本来はおかしいのです。私はNPOが、まさにそうした自発的に社会に参加しようとした大きなエネルギーに支えられ生まれたということを大切に考えるべきだと思います。

だからこそ、NPO法もそうしたエネルギーを背景に超党派の議員提案で法律となったのだし、NPOがこれからお話しする地方での協働でも本来は大きな可能性を持つ動きだということをまず理解していただきたいと思います。


私は今の地方に問われているのは、4つの自立だと考えています。

一番目の「中央からの自立」ということはよく言われている分権改革の議論ですが、今問われていることは、実はこれだけではないのです。これからお話をする3つの自立を加えて、地方の自立が問われているのです。

中央からの自立はそのまず前提となる発想ですが、これを貫くことは意外に難しいのです。地域の人の中でも本当に自立したいのか、と問われても結構悩んでしまう人がいると思います。以前、産業再生機構の斉藤社長と議論をしたときに、彼が地方は本当は自立を求めていないのではないか、と言っていました。地方の企業の再生で地方に行って、地元の企業と議論をすると、「私達は自立したい」とか、「自立して経営をしたい」という人は本当に少なかったそうです。これを私が、ブログで書いたところ、北海道の方からメールが来て、「私も同感だ。いろんなことを見ていると、本当に地方が自立したいというのが地方にいても疑問になる」と言う人がいました。

二つ目は「経営体としての自立」というのがあって、地方自治体は経営体として経営できなくてはいけないのです。ところが、自らが経営する意思を持って経営をしようとしている自治体が日本にどれくらいあるのかです。すでに破綻をしている自治体もあります。それから、三つ目として「市民の自立」があります。これは、「市民は受益者だけれども負担もする主体として自立をし、政治に参加していく、地域社会の中で担っていくというこの流れがないとダメです」ということを言っているのです。

もう一つは「地域経済としての自立」がないと、つまりエコノミクスで成り立たない分権論というのは無理ということです。経済的に成り立てない仕組みは、誰かがそれを負担しない限り持続性がないからです。

この四つの自立を連立方程式として、どのようにして答えを出すのかということが実は問われていまして、ただそこでは、全部答えを出すのではなくて、その一つ一つでいろんなアクションとかドラマが始まっていると思います。地域経済として、例えば地域で何かをしていく、町づくりから、それから市民が何か関わっていくなど、いろんなことが始まっていくわけです。そのつみ重ねが大切なわけです。これは自治体の経営でも同じです。経営体としての自立というのは、自ら経営するためには管理会計をもち、財政や人材のマネジメントをしなくてはなりません。また地域の課題に答えを出すための取り組みも必要です。それらを可能とする分権改革、道州制を含めた大きなデザインが必要になってくるだろうと思います。


自立のための4つの課題

〔当日配布資料〕

次のページ(p6)に、自立のための課題について書いてあります。一番はじめに「地方は本当に自立を求めているのか」ですが、先ほど言った話で、これは覚悟を決めないとなかなかできない、格好よく自立したいというのは分かるんですが、実を言うと、そう簡単にはできないというところもあるのです。本当に自立をしたいということが、地域社会の中で合意形成され、そのトップがそれを目指してさまざまなアクションのサイクルが始まっていないとなりません。そこの中にいろんな自治体の経営とか地域への規律を取り戻していかなくてはいけないなどの問題があります。

自立とは何か、皆さんも頭の中でいろんな問題が浮んでいると思いますが、自立に向かっての試行錯誤のプロセスが始まっているかどうかということが非常に大きいわけです。政府はやる気がある所を支援するとか打ち出していますけれども、とりあえずその循環が始まらない限り、地方が主役になって大きなシステムをダイナミックに変化を起こすということは難しいのです。その時にそれを担う役割として、まさにコミュニティーとして、地域社会ではNPOというものがあり、それが行政側と本当にある意味での対等的な形でのパートナーシップを組めるかということが問われているのだと思います。


NPOの現状と課題

〔当日配布資料〕

その次にですが、先月、こちらに田中弥生さん(独立行政法人大学評価・学位授与機構助教授)がいらして同じような話をしたということを聞きました。田中さんには私ども言論NPOの監事をやってもらっているのですが、その方と議論をすると、これはよく教科書に出ているような話で少なくとも公益法人が100年ぐらいで26,000ぐらいの数の団体ができたのですが、NPOは8年ぐらいでもう30,000を越している、すさまじく急増しているわけです。しかし、その実態はどうなのかということがあります。

自立したパートナーシップが行政との間で期待されているのですが、実態は行政などの下請け化が進行しているわけです。下請け化というのは委託の形態でもありますが、しかしそれだけが自己目的になってしまい、本来のミッションがきちんとできないということがあるわけです。そういう形がかなり多いという状況は問題だと思います。

この問題は皆分かっている話ですが、NPOとしてもなかなかお金、資金調達ができないなど、いろんなことがあるので、どうしても委託に頼ってしまうという問題もあります。多分NPOをやられている方は悩んでいる人がいっぱいいらっしゃると思います。

しかし、こうしたNPOの実態に対する問いかけそのものが政府の中でまだ少ないわけです。ようやく最近、この問題を皆さんが意識し始めました。国民生活審議会の佐々木毅会長(学習院大教授)は、言論NPOの発起人なのですが、彼にも言われまして、「このことについて内閣府と議論ができないか」と。本来、非営利組織に期待された自立・自発的な大きなダイナミックな動きが、何となくその基調は残ったとしても、少なくとも行政の下請け化みたいな形となり、かなり苦しい光景が今見えてきている。そこに今のNPOの問題があるように思えるわけです。

何故、私がここにこだわっているかというと、本当の行政とのパートナーシップを発展させていくためには、NPOが自立できるかがかなり重要だからです。今日は行政の人がかなり来ていますが、行政の人達がそうしたことも含めてきちんと制度設計できているかということが問われているのだと思います。ただ問われていても行政だけは責められなくて、実際に「では、どこにそんな自立したNPOがあるの」ということもあって、かなりここのゾーンについては、結果としては雇用の受け皿であり、それから行政の効率化という目的の中では、結構何となく皆がこうした委託文化に納得してしまうような状況があると思うわけです。だから、NPOの本来持っている可能性を十分活かしきれずに、実態の可能性の間でにらみ合っているのではないかというふうに私は思っているわけです。

後は、NPOそのものが未成熟で力不足だということです。これはNPO自身の力不足という問題もありますが、制度設計がなかなかNPOが経営できるような仕組みになっていないという問題もあって、これはNPO側にとってもかなり大変です。私自身言論NPOの経営そのものもすごく大変で、このNPOをどう持続させるかを毎月悩みながら自分たちが目指した活動をなんとか続けています。その背景の一つにはNPOの制度設計がまだ非常に不安定だということもあります。

これは現行の会社法とNPO法を比べるとよく分かります。株式会社の場合は、かなり長い歴史の中で、会社の存在の根拠を示す法律から、それがワークするようなビジネスモデルを背景とした法律体系にどんどん変わっていっているわけです。会社法の中味を見ると分かるように、資金調達面での緩和があり、一方でガバナンスの強化という形がかなり出ています。つまり、どんなに一つの動きを法律的な形にするとしても、そこの中はどんどん進化させていかないと実態と合わなくなってしまうだろうと思うのです。それが今のNPOの不安定な状況を招いている要因の一つだと私は考えています。

私がNPOを下請け型と自立型に、敢えて二つに分けて考えているのは、下請けが全然ダメだと言っているわけではなくて、ある意味で委託ということは必要だし、それに対して積極的にある程度担っているということも必要だと思っています。しかし経営としては持続性が非常に不安定になるわけです。その委託を受けることが自己目的化するために、それしかできなくなってしまうという問題があると思います。自立型というのは、まさに持続するということだけではなくて拡大の可能性があるということ、道を拓く可能性があるわけです。私は、日本のNPOは自立型を目指すべきだと思っているわけです。

こういう議論というのは私のNPOも日々問われているのですが、世界ではどうなのかということです。いろいろな文献を見ていたら、同じことで悩んでいる論文が見つかりました。ゴールドマン・サックスの人が書いた論文だったのですが、ゴールドマン・サックスの組織の中でかなり優秀な役職にいた人が辞めて非営利組織を創ったのです。創った時に「何でこんなに資金集めばかりで、毎日時間を使わなくてはならないのか。これでは何もできないじゃないか。」ということが書かれていました。彼らがそこで出した結論は、資本という概念だったわけです。つまり、安定した基盤を持つために、キャッシュフロー、収入と書いていますが、それでただ組織なり事業を行えるという流れはあまりにも不安定過ぎるだろうと。そうではなく、それが蓄積となって次の投資に向かえるという形を何かの形でできないだろうかということでした。

アメリカの最先端のNPOでも同じことで悩んでいるんだなと思いました。つまり、そこのゾーンが、まさに経営をするというところで、経営が出来ないと自立できないわけですから、結構大きな問題なんです。ここは、僕は敢えて制度設計の問題だと言っています。

ただ、田中先生がこの前出した「NPOが自立する日」を見ると、全国のNPOに対しアンケート調査をすると、寄付金を集めようとする人が少ないということが結構指摘されているわけです。僕達は、東京でNPOの研究会をやっていまして、そこには、いろんな先生達が入っているだけではなくてNGOの人達が入っているんです。オックスファームから始まって、いろんな発展途上国でやっているNGO団体の日本法人の代表にも参加してもらっているわけです。そういう人達の規模は何十億、何百億という、とてつもない全体的な資金規模を持っている人達ですが、僕の言っている話は全部皆さんの共通の理解を得られるわけですけど、そうは言ってもNPOは資金が集まらないという時に、どこかのNGOの代表が、「あんた、そういう愚痴を言う前に、寄付を集めようとしているのか。」と言ったんです。その場が、すごく「しらー」としてしまって、何か非常にまずい雰囲気を感じたことがあります。

つまり、やはり自立できるという仕組みにしなくてはいけないだろうし、それが何となく歯車があっていない状況の中で、今、数だけは30,000団体と大きくなったのですが、まだ一つのモデルを生み出すという点では試行錯誤という段階なのではないか思います。そこに行政とのパートナーシップという一つの地域社会だけではなくて、それは国政も含めて、冒頭に言いましたけれども、とても大きな課題が来ていると思っているわけです。

これは、そろそろ答えを出さなくてはダメだな、そういったことも含めてNPO法を私は改正すべきだと思っているわけです。

▼ 「講演録その3」へ続く