講演録:「地域再生とパートナーシップ ~『公』の担い手とNPOの役割~」(その4)

2007年3月17日

「言論NPO」の取組

〔当日配布資料〕

では、言論NPOは、何をしているNPOかという話ですが、これはたくさん、いろんなことをやっているので、ここでは二つだけ言います。

一つは、民間外交として「東京-北京フォーラム」をやっています。私たちが昨年の8月に東京で実現したフォーラム後、10月8日の日中首脳会談は再開したわけです。非営利セクターが日本の外交を動かしたというのは、多分あまり歴史的にもない事例だと思います。何故出来たのかというと、もちろん私達だけがやったわけではなくて、外務省なり政府ともいろんな形で非公式な打合せをしていました。個人的には日中関係、中国に対する思いはいろいろあるにしても、日中関係が非常に悪化し、最悪な局面で暴動まで起こっていったわけです。ところが、政府関係が悪化した時にそれを補うような仕組みが日中間に全く存在していないのです。これまでにも日中友好のいろんな運動があったのですが、閉鎖的で限られた人しか参加していないために、日中間の政府間関係が悪化するとほとんどの動きが中断・延期になってしまいました。これはまずいのでないかと私たちは考えたわけです。政府間が悪化したらそれで戦争になるのかという話ではなく、経済的にはアジアのダイナミックな連動、補完がもう始まっているわけですから、それに対して民が何かをしなくてはならなかったのです。それで僕達は中国に何度も行って中国政府を動かそうとしたのです。

結果として、中国のチャイナデイリーという中国の4大メディアの英字新聞があるのですが、そのメディアと私たちは提携し、歴史的な事業に取り組むことになったのです。そのメディアというのは1日800万アクセスもある巨大なメディアで、関係している会社を含めて一日何千万というすさまじいアクセスを持っている巨大なメディアです。言論NPOというのは小さな10人足らず、会員は500人ぐらいですが、チャイナデイリーと対等に提携しました。そして、この日中だけではなくてアジアに向けて議論を発信し、きちんとしたコミュニケーションを取ろうというチャネルを作ることになり、北京大学も加わり、人の輪が創られたわけです。中国でもNPOがたくさんありますが、政府型NPOしかないので、何だかよく分からない部分があります。中国の人達は、言論NPOのことを「何なんだ、でも何か有名人がいっぱいいるぞ」と思っているようです。

ただ、これは非営利組織だからこそできました。なぜできたかというと、その時同じようなことをやっている団体が、日本のメディアでした。営利的、ビジネスをやっている人達は、何かをして中国に印刷会社を造るとか、いろんなことを考えていましたが、純粋にコミュニケーションでつなごうと思った僕達との大きな違いがそこでした。その思いが発展し、中国を動かし、中国のメディアが加わり、日本のメディアである朝日新聞、毎日とかNHKなどの皆が僕達のプラットホームに入ってきました。非営利セクターのプラットホームに政府側から安倍前官房長官、自民党側からも中川政調会長や現職の閣僚、メディアの関係者、それから企業経営者が皆集まり、100人ぐらいの大きな会議が出来たのです。

その場で安倍前官房長官が、日中の関係改善に取り組みたいという話をし、それが中国・北京につながり、直後の首脳会談の再開につながって、まさににアジア外交が動き出したのです。これを民間のNPOが実現したのです。

あの局面において、コーテンで言えば第三か第四ぐらいの状況を私たちのNPOは生み出しました。もしあの時、私達が外務省から補助金をもらっていたら、多分この運動は出来なかったと思います。あくまでも外務省から頼まれてやった動きではなく、自発的に動いたから歴史を動かすことができたのです。外務省は最後になってこの重要性が分かって、レセプションだけ外務省がやりたいと言っていました。

もう一つの話は、さきほど北川さんのお話をしましたが、これもマニフェスト評価、政策の評価をやっております。政府の評価を先駆けて行い、それを継続的に実施しているのは私たちの団体だけです。政府の政策について全ての分野でやっています。少し前に、竹中平蔵さん(元経済財政政策担当大臣)から、地方分権について民主党に高い点をあげたのですが1週間前に怒られました。「お前、何で民主党がすごいんだ。」と言われました。つまり、私たちの評価は政府や政党の間でも無視できない存在になっているのです。

不思議なことに、この作業に霞ヶ関の中央官僚の方、課長以上の人達にたくさん協力をしていただいております。NPOに行政の人達がかなり自発的に個人の資格で参加しています。これを青森においてイメージすれば、県庁の人達が自発的にお手伝いをしている。委託しているのではなくて一緒にやっている、そういうイメージができているわけです。こういう形で今、僕達は運動をやっています。また地域の再生の議論と作業を北海道でもやっています。


ガバナンス

〔当日配布資料〕

次のページ(p15)で見ると、僕達がこの運動を行うにあたって最も強調をしているのはガバナンスの問題です。公益法人の問題で議論になったのは、公益性というのは誰が認定するのですかということです。公益法人では、今まではお上が認定し、民法34条もありますが、それが変わって、認定というよりは、有識者会議を作って、今基準を作っています。基準は僕も見ていて、そんなにおかしくはないのですが、公益性というのはこういう形で決めていくのは無理だと私は思っています。では、公益性のある仕事とは何ですかというと、公益性を評価できるのは市場しかないと僕は思っています。市場というのはお金だけではなくて多くの人がボランティアで参加をしたり、寄付をしたりしています。つまり、社会的なニーズ、担える人達の参加が多い、お金が集まる、これが多ければ多いほど公益性があると思うし、それしか公益性を判断できるものはないと思います。

そのためには、市場に開かれたガバナンスを構築しないといけないと思います。私達は三つの監事を持っています。会計・業務・言論の監事を持っていまして、会計と業務監事というのはほとんどのところにあると思いますが、言論監事というものを初めて導入しました。これはアドボカシー型のNPOということをどう社会が受け入れるかという話と連動しているのですが、これにアメリカの内国歳入庁(IRS)に準拠した自己評価システムを僕達は導入しているわけです。ここで私たちの活動が特定の政治や特定の宗教を応援しているものではないことを自ら立証する義務を課しているのです。これはものすごく厳しい基準です。僕は政治家の献金、励ます会、一切というか絶対行けません。特定の政治家などを応援することは許されませんし、それが間接的にも応援しないことに関して自分で証明しないといけないわけです。それを言論監事の二人がそれを評価して市場に公開します。この二人というのは、先般、こちらで講演した田中弥生さんと、この前事情があって政府税調の会長をお辞めになった本間正明さんのお二人に監事をやっていただいています。そういう形で公益的な概念を、市場で評価するという自立の問題をやっているわけです。

そういうことをしながら、僕達は様々な資金を集めています。僕達の財務諸表を見ると、「何でこんなの?」という感じになると思いますが、寄付の比率が約80%となっています。寄付を集めるためにガバナンスを強化し、それを説明し、自分達のミッションを行っている。活動内容は必ずこういう形で市場に公開していくというサイクルを繰り返しながら、市場に自らの評価を委ねているのです。

僕達は、先の中国の巨大メディアとの提携と同じように、一般の人達、一般の企業と協働することが行政よりも結構多いのです。いろんな形で助け合ってやった方がいいと思っており、それを今後も広げていきたいと思っています。


おわりに

最後にこれを言っておかなくてはダメだと思っています。

実を言うと言論NPOは、地方再生戦略会議というのがあって、具体的な地域再生に向けてのプランニングもやっています。また仲間には、かなりのお金を持っている、ファンドを持っているメンバーが結構います。そういうメンバーもいますから、意見交換をしたり、対案を作り出したりと、様々なことを協働でやったりしているのですが、各界の著名な有識者が皆ボランティアで参加してもらっているわけです。この現象を感覚で分かってほしいと思っています。

ドラッカーのNPO論に、今まで組織社会に忠誠心を尽くすということが一つの人間の生き方だったけれども、組織ではなくて個人に忠誠心を持つ人達が、組織を離れて横に動くという、横のネットワーク論が60年代、70年代から結構言われていました。多分、今、日本には、横のネットワーク、流動化知識ワーカー、こういう人達がすさまじく存在する社会だと思います。その人達は、非常に浮き上がってフワフワしているけれども、巨大なネットワークを持っていて、一旦何かがあれば迅速に動くんですね。

僕は夕張市が破綻するという発表後、北海道で会議をやっており、市長を含めて、様々な人が集まる北海道の自立のための民間会議をやったのですが、その時に夕張市に、もし子どもの1枚の写真、特に非常に困っている写真でもあれば、何か一つの物語を生み出すし、横の流動する知識ワーカーは一気に夕張に集まってくると言ったんです。同席していた北海道新聞の論説委員長が、「そんなことないよ、あれは人災だから誰も興味がないよ。」と言っていました。ところがどうでしょう。その後テレビで成人式に市からの助成が出ず、手作りで成人式を準備している話が出ました。それを見た多くの人が寄付をし始めた。つまり、そういう動きというのは結構あるんです。

僕もフラフラして東京でやっていますが、故郷のために何かしたいという気持ちはいつも持っているわけです。同じように、やっぱりそういう人達が青森県の外にもいるはずです。その人達を何かつないで協働していく、それをマネジメントしてプロデュースするのは地域の人でなければダメなんです。よそ者が来てもマネジメントできないんです。けれども、そういうことに参加して何かをすれば、多分今までにない単なる垂直的な地方分権ではなくて、横とつながって何か地方の再生なり地域再生に取り組む何かの一つのパワーが青森も得るのではないかと僕は感じているわけです。

その意味で、そういうことを是非つながるという枠組みを、行政とつながるというよりも、行政とはいろんな形でいい関係を作った方がいいのですが、横の、いわゆる知的な大きな人達とつながる仕組みを皆さんは考えるべきではないかというふうに思っています。そのためにはNPOはやはり自立をしなくてはなりません。社会には、別に悩みがあったわけでもないのに企業を辞めても、社会に貢献したいという人達というのはたくさんいます。僕だけじゃなく、いっぱいいます。そういう人達が何かをしたいと思っているのです。かなりレベルの高い専門性を持ったNPOがいっぱいできているということがあるわけです。

そういう形で協働ということを是非考えていただければ、次の、今後の地域の課題設定の答えを出すという作業でいろんなことが始まるのではないかと思っております。

今日は全体的な話になって恐縮でしたが、私が故郷に言いたいことを述べさせていただきました。

ちょうど時間になったみたいなので、これで終わらせていただきます。
どうも今日はありがとうございました。