今回の調査結果をどう見るか

2008年9月15日

9月8日の記者会見で日中共同世論調査の分析結果が発表されましたが、工藤さんは今回の調査結果をどう見ていますか?

これについては是非僕たちのWebサイトを見て頂きたいんですが、今回の世論調査はかなり重要な内容になったと思っています。3年前に僕たちがこの世論調査をした時は、反日暴動が中国であって、世論調査を実現するということ自体が難しかったんですね。でも、僕はやっぱり、デモをはじめ色んな形で抗議している中国の人たちがどういう意識なのかを知りたかったんです。この世論調査を行うことで、その民意をきちっと正確に僕たちが理解出来るし、その上で今の政策課題にきちっと取り組むことが出来るので、その内容を僕たちは非常に重要視していたんですね。

今回の調査結果では、非常に考えさせられる事がありました。それは日本と中国の世論に意識の差というか、世論が逆に動いていることです。去年から今年は日本と中国の政府関係が非常によくなってきました。胡錦濤さんも今年来ましたしね。つまり政府間関係はかなり良くなったので、中国の方は非常に日中関係に好意的な、かなり前向きで建設的というか、かなり良いイメージを持っている。にもかかわらず、日本の世論は逆に厳しくなっている。どうしてこんなに逆になっているのかということが、今回の世論を分析するときに一番僕たちが考えた点でした。

クロス分析など色んな分析をしてみたのですが、その中でわかったのは、中国の世論は政治を軸にして対日イメージを作っているということです。それは日中間の歴史の問題や、ある意味で政治の問題が課題となっていたという状況の中で、そうした意識を持つ傾向が強まっているのが分かります。しかし、面白いことに日本はそうではないと言うことなんですね。日本はむしろ生活者とか、消費者的な視点で中国を見ていることが、今回はっきりしたわけです。


それはどういう点を見てはっきりしたんですか?

僕たちは世論調査で、「日中間を阻害するもの、障害になっているものは何なのか?」という質問をしました。3月にはチベット問題、5月には聖火リレーの問題、そしてその後に胡錦濤氏の訪日があり、またその期間を通じてずっと、食の安全の問題があったと。だから、そういう点を質問に入れなきゃいけないと僕たちは思っていました。そこで、たとえば中国における愛国的な動きの問題とか、人権の問題とか、食の安全とか、そういう項目を結構いれておいたんですね。だけど一般の日本の国民は、少なくとも人権や愛国的な動きにはほとんど反応せず、一番反応したのは食品の安全性だったわけですね。日中関係というのは元々歴史問題というのが阻害要因になっています。しかし今回の調査を見てみると、この食の安全問題が半数近いんですね。「お互いの国に行きたいか」という設問でも、行きたくないという人が半数を超えています。その理由を見ると、やはり食の問題が出てくるわけですよ。世論調査の中に日中関係を阻害するものは何かという項目があるんですが、46.2%の人たちが中国産品の安全性の問題と答えている。これはもう歴史問題に匹敵するくらい大きくなってる訳ですね。

つまり、日本国民にとって食の問題、自分の生活観で理解できる問題というのは非常に大きいという事が今回分かった。とすると、今まで日中間の政府間関係があまりよくなくて、その中でお互いに対する印象が非常に悪かったのですが、政府間関係が良くなることによって改善した中国と、政府間関係は改善したけれど生活レベルで見て非常に違和感を感じてきた日本の世論、という点に今回の調査の非常に大きな特徴があったわけです。実をいうと、これはひとつの大きなテーマを僕たちに与えてると思うんですね。つまり、政府だけではなくて民間の視点、生活の視点というものがそのまま世論に大きく反映するという事が分かってきたわけです。そういう意味では、食の安全問題というのは日本と中国が本気で解決しないとまずい。私も当初はそこまで思ってなかったけど、非常にそれが今回の調査に出てきちゃったわけですね。

一方で前から指摘していたのですが、日本と中国には直接的な交流がほとんどないんですね。中国の国民は1%未満しか日本に行ったことがない。日本はそれよりは少し多いのですが、ほとんどの人がメディア報道でお互いに対する国のイメージを作っちゃってるんですね。しかし、メディア報道の責任も大きいのですが、一方でその間接情報に頼らないとお互いを理解できないという、閉鎖された、交流が少ないこの社会に大きな問題があると私たちは思っています。今回もその構図は変わってないんですね。

同時に中国の人は日本の事を半分くらいはいまだに軍国主義だと思ってるんですね。直接的に友達がいるとか、実際に日本に来た人などは自分の目で見てそれが違うということが分かるんですが、そういう経験がない人はテレビなどのメディアの報道を信じる。だから、メディア報道のあり方もあるけれど、やっぱりその根底にはお互いのその交流の薄さがゆがんだ相互認識を作ってしまうという事が今回の非常に大きな問題だったわけです。この二つが、今回の世論調査で浮き上がった問題だったわけですね。

では、世論調査の結果を受けて今回のフォーラムの中ではどういう事を議論されるのでしょう。

今回のフォーラムでは、特に「メディア対話」分科会で、世論調査で浮かび上がった日中問題そのものについて徹底的に議論しようと思っています。両国を代表する有識者、メディア関係者を集めて徹底的に議論しようと思ってます。是非皆様に直接会場に足を運んで参加して欲しいのですが、会場に来れない方も、議論の風景をインターネット会議方式で中継するので、それを見て議論に参加してほしいと思っています。(注:言論NPOサイトより事前の登録が必要です。お申込みはこちらなので、ご自宅でも仕事場でもね、仕事場でみると怒られちゃうかもしれないけど(笑)、見て頂いて、この両国の正反対に動いた世論とその中で浮かび上がった日中間の問題をどう考えていけばいいのかという事を議論しますから、それに色んな形で参加して欲しいと思います。


メディア対話分科会の他に、工藤さんのお勧めの分科会はありますか?

お勧めといえば全部お勧めなのですが(笑)、あえて言えば、今年は日中平和友好条約が提携されて30年です。この30年を踏まえて、これからの日中関係や、アジアの未来について政治家同士が議論する政治対話がお勧めです。中国側パネリストも、外務大臣経験者などがかなり来るんですね。政治対話は、前半は椿山荘の会場で、後半は東京大学の福武ホールで学生の前で議論します。登録さえしていただければ、無料で見れますので、ぜひ会場に足を運んでいただければと思います。

僕たちは、他にも食品の安全問題(食料対話)や、環境問題(環境対話)と安全保障問題(安全保障対話)、また今回は「地方対話」分科会を新設して、アジアと日本の地域対話も今回はスタートさせます。オリンピックも終わった直後、しかも日本はまさに総理大臣が辞任を表明し、総裁選が行われている真っ只中で、私たちはアジアについて、また日中のこれからについて本気の議論をしますので、是非参加していただきたいと思ってますね。