第4回 東京‐北京フォーラムを終えて

2008年9月18日

 今回のフォーラムは今までの3回に比べて分科会の議論は質の面でも数段良くなったと思います。それは日中間の現状の課題解決に皆が向き合う、という本気の議論にかなり近づいたからだと思います。第1回のフォーラム開催の時には、日中対話なんかやっても中国は建前的な議論しかしないから、本音の議論になんかなりっこない、と皆に言われました。確かに僕もそう思ったし、中国側も自分の政府の立場で説明することが議論だという感じが強かったのも事実です。今回も、実は新しく来た人の中には、そのような説明口調になる人もいました。ただ、それにもかかわらず、実際の舞台では議論がかなり噛み合った。これはどういうことなんだろうと思って考えてみると、やはりこの「東京‐北京フォーラム」は、日中の参加者が本音で議論する舞台なんだという意識がかなり定着してきたのではないか、と僕は思います。

 本音で中国と本気で議論を行う、というのはそう簡単なものではないのですが、そういう舞台になったきっかけの1つは議論が世論調査の結果と連動して行われるからだと思います。特に、1回目のフォーラムの時、世論調査結果を見て、中国側のパネリストの顔がかなり変わったのを今でも覚えています。その時の調査からわかったのは「中国人の半数以上が日本が今でも軍国主義だと思っている」という驚くべき結果でした。日本人と中国人の認識の差がはっきりと出ていたのです。お互いの交流は極めて少なく、ほとんどの認識は、自国のメディアに依存してつくられている。そうした脆弱な相互理解の実態が明らかになりました。これはまずいと中国側も判断したようで、第1回目のフォーラムはあの厳しい日中関係の最中でも、お互いにかみ合った議論ができたのです。

 2つ目のきっかけは、やはり第2回の東京でのフォーラムで、安倍晋三さんが日中首脳会談への大きな一歩となる発言をしたことだと思います。これは民間の対話でもお互いが尊重しあい、共通の課題に向かい合えば何かが実現できるという手ごたえを参加者に実感させたと思います。

 今日フォーラムが終わった時に、今までの中で一番良かった、と多くの人に声を掛けていただきました。日本と中国が本気で議論ができる場へ更に成長している、そう思った人も多くいました。でも、議論の舞台がそういう形で整ってくると、今度はパネリストの議論力が問われるようになります。本当に真剣な議論を行うのなら、遠慮をしないで相手に議論を挑むべきで、建前だけではなく、課題解決への答えを出そうという努力が参加者に問われているのです。それができなかったとしたら、それが今の対話の水準なのです。
 このフォーラムが素晴らしいのは、お互いが真剣に議論し、その内容が全部オープンになって両国民に見られていることです。今回は日中の課題になっている食品の安全性の対話には、中国側から政府の担当者が参加しました。この時期にそう言う人が来ただけでも画期的なことですが、その議論がすべて公開されているのです。

 ただ実を言うと、最終日の挨拶でも言ったのですが、本音としては、ようやく間に合ったということが、僕の気持ちの中では非常に強いわけです。まだ本当の意味で、民間対話が成功しているかどうか、言い切れない部分はあります。今はアメリカの金融危機の問題が発生し、世界が混乱の最中ですが、そういう中でも、アジアの今後について自らが考え、解決への方向を議論していくことが大事になってきています。こうして課題に真剣に向かい合う対話の舞台がこの民間対話なのです。国際的な大きな変化が迫る中で、ハイレベルな議論はその変化に向かい合わなければなりません。そのための対話の舞台づくりが、今年何とか間に合ったと思うのです。このフォーラムを舞台として、アジアの未来を自分たちが切り開くため、僕は議論の力でそれ行おうと思っているわけです。あとは、その場で、日中双方がどう具体的な議論を作り上げるのかです。この舞台をもっと前進させようと多くの人が支えてくれているのは、その理念に共感してくれたからです。

 僕はその意味でいえば、この日中の民間対話はこれからが本当の正念場だと思っています。僕たちが目指しているのは、日中のこの対話の舞台を、いずれアジアに広げ、この議論の内容を継続的に世界に発信させる仕組みを作り上げることです。本気の議論の舞台をアジアに作ろうというこのドラマは、これからまだまだ続きますし、僕はそれを必ずやり遂げたいと思っています。今回の議論については、公式サイトや今後出版する報告書を見てもらいたいですね。