新しい年の幕開けです。皆さんはこの年に、どのような思いがありますか。
2012年、私は、この新しい年こそ、私たち有権者が日本の課題や未来を、きちんと決断しなければならない年だ、と思っています。
今年、世界ではアメリカ、ロシア、韓国などの主要な国で大統領選が行われ、中国では指導部が交代します。日本でも総選挙は避けられない事態になっています。
しかし、新年、私たちに覚悟が問われているのは、国際政治のトップの交代時に直面したからではありません。
この国自体が、現状のままでは国家破綻が避けられないほど統治の混乱が深まり、新しい変化が問われる局面になっているからです。
それは、政治のトップ交代だけで解決できるような段階ではなく、政治自体の転換を私たちに迫っています。この状況が誰の目にも明らかになり、決定的な転機となったのは、昨年、2011年だと思います。
3.11には東北で大震災が発生し、原発事故はメルトダウンという異常な事態に陥りました。にもかかわらず政府の対応は遅れ続け、被災地の多くが未だに困難の最中にいます。そして年末には、消費税の増税を決断しようとする首相に対して、民主党の国会議員が相次いで離党する騒ぎになりました。
多くの人は感じたはずです。この国の政党政治は機能不全に陥り、私たちの代表として機能していないのではないか、政治に安易に期待するだけでは、この国が直面する課題に答えを出せないばかりか、自分たち自身の生活や未来自体に重大な影響をもたらすのではないか、と。これまで遠い世界に感じていた政治やこの国の現実を自分の問題として考えてみなくては、と思った人も多いでしょう。
新しい年に、その課題の全てが持ち越されているのです。
私たちに問われているのは、「民主主義とは何か」ということだと私は考えます。
本来、政治家とは私たちの代表であり、選ばれた政治家は有権者の代表として国の課題に挑まなくてはなりません。その業績評価の場こそ選挙なのです。
民主統治には、そうした緊張感が必要だと、私は考えてきました。
問題は、私たちがそうした意識で政治を考えてきたのか、ということです。
私は野田首相が、これまでの政権が先送りし続けた消費増税にこだわることを評価しています。財政破綻や、高齢化の中で行き詰まった社会保障を立て直すことは、この国に差し迫った深刻な課題だからです。
しかし、多くの政治家はいろいろな理由をつけてこの増税、つまり国民への負担の話を避け続けます。政治家という職業を失いたくないからです。
一度、私も政治家たちに聞いたことがあります。答えは、そんな話を持ち出したら、選挙で勝てるはずはない。有権者は有識者とは違うというものでした。
有権者を言い訳にして、政治が決断を避け続ける。こうして、この国は国家債務がGDP対比で200%にもなり、これから高齢化が急な坂を上るように進んでも持続可能な仕組みすら提起されず、国家破綻が指摘される事態にまで来てしまいました。
こんな政治を当たり前と考えたら、出口を見出すのは不可能でしょう。
今の政党政治は、政策でまとまっておらず、権力を維持するためだけに集まっている"烏合の衆"です。昨年の年末、離党者が民主党から相次いだのは、その矛盾を抑えられず、党の分解が始まったということです。
これを私たちは政局として見るのではなく、民主主義の問題と見るべきなのです。
今の政党政治は、国民の代表として課題に挑む、そうした仕組みになっていない。つまり、民主主義がうまく機能していないのです。
私は、こうした政治はもう変えなくてはいけない、と考えます。
昨年の年末、言論NPOは、有識者を対象に緊急のアンケートを行いました。その結果は、これからの日本を知る上で示唆的なものでした。
9割の有識者が、新しい年は「日本の将来に影響を与える重要な1年になる」と判断し、その課題として「財政破綻」と「原発」と、「政党政治の立て直し」を挙げています。
しかし、今年予想される総選挙後の「政治の姿」に関しては、既存の民主党や自民党への政権交代を予想する人は少なく、それぞれ4割近くが、「政界再編」と「不安定な政治の継続」を予測しています。
政治の変革が問われているのに、その出口が見えない。
こうした迷路に入り込むのは、この変革を政治にまだ期待しているからです。しかし、新しい変化を、政治の世界に期待するのは、もう無理だと私は考えます。
では、誰がこの状況を変えられるのか。
それは私たち有権者しかない、と私は考えます。
これまで何度も触れましたが、民主主義とは私たちの人権や平等にもっとも適した制度ですが、 それ自体、不安定さや危うさを持っています。
この不安定さは、大衆の空気に支配され、それに迎合する政治や扇動する政治を期待してしまうことにあります。
こうした不安定さに私たちが流されてしまったら、この国は破局しかありません。
では、どのようにこの状況を変えるのか。
そのためにも、これまで政治家を選んできた、私たちがまず変わらなくてはなりません。そして、政治家にお任せするのではなく、私たちが当事者として考え、決断し、それを政治に迫るしかない。その結果で、選挙での判断を決めることになる。
そうした良循環を、政治の世界につくり上げるしかない、と私は考えます。
言論NPOは、次の10年に向けて2つの目的を掲げています。
「強い民主主義」と「健全な輿論の形成」です。
強い民主主義とは政治家にお任せする民主主義ではなく、私たち自身が当事者として考え、政治を選ぶことです。そのためにも雰囲気に流されるのではなく将来に向けて責任ある意見を言い合う、そういう議論が必要です。
そのための触媒役に、私たちはならなければいけない、と考えているのです。
健全な社会には健全な言論や議論の舞台が不可欠です。これまでのこうした原点を大事にしながら、さらにそれを進化させて、議論の力で、この国に目に見える変化を起こさなくては、と考えています。
2012年、言論NPOは、そのための具体的な一歩を踏み出します。