「エクセレントNPO」が市民社会を強くする

2010年3月11日

言論NPOと「非営利組織評価基準検討会」が提起する、「エクセレントNPO」を軸とした強い市民社会づくり。今、なぜ市民社会が問われているのか。エクセレントなNPOはなぜ必要なのか。そして強い市民社会に向けた「良循環」とは。工藤が語ります。

 「エクセレントNPO」が市民社会を強くする

 このたび、「『エクセレントNPO』とは何か」というブックレットが発売になりました。このタイトルを見て、「おや?」と思った人がほとんどではないでしょうか。というのも、「エクセレントNPO」とは、このブックレットにおいて私たち非営利組織評価基準検討会が初めて使い、提案するものだからです。さらに、「強い市民社会への『良循環』をつくり出す」というサブタイトルについても、「どういうことなんだろう」と疑問に思った方が多いはずです。私たちの提案の詳細についてはぜひブックレットを見ていただきたいのですが、ここでは、検討会が考える「エクセレントNPO」とは何なのか、強い市民社会のための「良循環」というものがどのように実現するのか、ということについて、少しご説明したいと思います。

今、なぜ「市民社会」なのか?

 私はいろいろなところで「市民が強くならなければ、日本は変わらない」ということを言っています。言論NPOではウェブサイトの全面リニューアルに伴い、「市民を強くする言論」という議論づくりを始めましたが、私は、政治に何でもお任せするのではなく、私たち自身が変わっていかないと、この国は根本的に変わらないと思っています。有権者が当事者意識を持って政治や政策を判断する社会、さらに市民が自ら社会の課題解決のために自発的に取り組み、そうした動きが尊重されるような社会。それが私の考える、「強い市民社会」です。
 鳩山政権は「新しい公共」という考え方を提起していますが、実は政治サイドからこうした提起がなされるだけでは不十分なのです。「公」に対する「気づき」が、市民の生活レベルから生み出されて、そこから社会参加という自発的な行動が生まれていくという循環が始まらない限り、「新しい公共」は実現できないのだと、私は思います。


「エクセレントNPO」とは―非営利の世界から社会を変える

 非営利の世界に目を向けてみると、NPO法制定から11年が経って、NPOの数は約4万団体にまで膨らんでいます。しかし、日本の市民社会は本当に強くなったのでしょうか。なっていないとすれば、強い市民社会をつくっていくためには何が必要なのでしょうか。
 「非営利組織評価研究会」を前身とする「非営利組織評価基準検討会」は、そのような問題意識のもと、日本や海外で活躍するNPO・NGOの実践者と専門家たちによって結成されました。そして、2年間にわたる議論の末に私たちが出した答えが、「エクセレントNPO」を軸に、強い市民社会に向けた「良循環」をつくり出す、ということなのです。市民社会を強くするためには、受け皿となる非営利組織こそが強くならなければなりません。非営利の世界で、優れたNPOが課題解決を競って切磋琢磨し合い、そうしたエクセレントなNPOを目指す競争が始まる。それらの活動が市民から信頼され、支えられていく――それを軸として市民社会が強くなっていくような大きな変化こそが、今の日本の閉塞感を打ち破り、未来を切り開くために必要なのです。
 「エクセレントNPO」とはまさに、市民社会を強くしていくためのモデルとなるNPOのことです。私たちの提案は、この「エクセレントNPO」を軸として、強い市民社会に向けた変化を促すしくみをつくるということなのです。「エクセレントNPO」を判定するための評価基準は4月にも公表予定ですが、私たちは「社会変革」「市民性」「経営の安定性」の3つのテーマとして考えています。社会の課題解決のために自発的に取り組む競争力を持つためには、持続的で安定的な経営が不可欠です。そして、その活動は政府から自立し、市民による寄付やボランティアという参加に支えられたものでなければならないのです。
 そうした「エクセレントNPO」の評価体系が市民社会の中で機能すれば、先ほど言ったような課題解決のための競争と、そうした優れたNPOを目指そうする競い合いが生まれるはずです。エクセレントなNPOが社会で信頼を獲得し、それを目指そうとする社会のインフラが整えば、多くの市民の資源がそこに向かって動き出すことでしょう。
市民社会の中にそうした「良循環」が始まることで、非営利セクター全体の信頼の底上げにつながり、非営利組織が強い市民社会の受け皿として機能する展望が見えてくるのです。


「強い市民社会」に向けた議論をここから始めたい

 私たちはこれまで行ってきた議論を踏まえ、まず今月14日に京都で開催される日本NPO学会のパネルで、「望ましい非営利組織の条件と評価基準」をテーマに発表を行います。ここでは、今お話ししたようなことを中心に、強い市民社会に向けた「良循環」をどのようにつくっていくのかということの全体像について、説明する予定です。また、来月には公開シンポジウムを開催し、「エクセレントNPO」の評価体系を公表しようと考えています。私たちの提案を世に問うことで、「強い市民社会」に向けた大きな議論を始めたいのです。

 私には「今年こそ、新しい市民側の変化を起こしたい」という強い思いがあります。編集委員会による議論をはじめ、市民社会の担い手たちとの対話なども行っていますが、その内容はホームページやメールマガジンでどんどん公開していきます。今回の提案をきっかけに、日本の非営利セクターを巻き込んで、「強い市民社会」のための議論のうねりを起こしていきたいと考えていますので、ぜひいろいろな方に参加していただきたいと思います。
 また、ブックレット「『エクセレントNPO』とは何か」には、NPO・NGO間で交わされた議論をはじめ、専門家や実践者の方々の発言も収録されています。とても斬新で、内容の濃い一冊に仕上がったと思っていますので、ぜひご覧ください。