2012年2月1日 にダイヤモンドオンラインに寄稿した原稿です
2012年、新しい年が始まり、政治の世界では内閣改造が断行され、消費税の導入を巡って解散話が連日、話題を集めている。
正月から、言論NPOは、ウエブサイトで「2012年は決断の年」というメッセージを流し続けてきた。
私が、「決断の年」と書いたのは、総選挙が近く予想されるからだけではない。
この国の代表制の民主主義がうまく機能せず、統治の混乱が大きくなっている。
こうした政治の状況を抜本的に変え、新しい変化を生み出すためにも、私たち有権者の決断が必要な局面にある、と考えるからだ。
代表制民主主義とは、有権者が自らの代表を選び、その代表がこの国の課題で仕事をすることである。ところが、既存の政党政治は、私たちの代表者としてこの国の未来に競い合うのではなく、近づく選挙で、大義名分を自分のものにどうしたらできるのか、それだけのために行動している。
その状況をどう変えるかは、有権者自身にかかっていると思うのである。
先日、言論NPOは、「野田政権の100日評価と日本の政治の行方」と題した有識者アンケートを公表した。このアンケートは、私たちが7年前から行っている政権評価の一環として、自民党政権時代の安倍政権から、政権発足の100日後に行っているもので、今回が、6人目の評価となる。
今回、私がその内容をここで紹介したいと思ったのは、私たちが考えるべき、この国の政治の論点が見事に浮き彫りになっているからである。
既成政党への期待がしぼむ
浮かびあがった新たな特徴
今回もこの調査は約2000人の有識者に質問票を郵送やメール媒体で送付して行われ、うち423人が回答した。回答者はかなり男性に偏っているが、企業の経営者や企業幹部、メディア関係者、国と地方の公務員、学者・研究者、NPOや各種団体の関係者などが6割を超えている。
最初に断っておきたいが、この調査書を送付したのは、100日目ではなく昨年の年末で実は政権発足から120日後のことである。これは、政府の予算案の決定まで調査の送付を延ばしたためである。この結果、政権の判断材料は出そろった上での調査だと、私は考えている。
設問数は27で、2つの分野で構成されている。1つは、野田政権の100日目の業績や首相自身の資質に関する設問と、そして日本の政治の状況に関する評価である。
その結果が、これまでと性質を異にしたのは、回答者の間に、既成政党に対する期待が少なく、新しい政治の変化を求めながら、政治の世界にこの状況を変えることを期待できない、そういう日本政治の課題が見事に浮かび上がったからである。
この調査に対する回答者の意識を俯瞰するとこんなストーリーが見えてくる。
第1に、野田政権の評価がこれまでの政権の100日と比べて相対的に高いのは、野田氏が消費税などこれまでの政権が先送りしてきた課題に取り組もうとしているからに過ぎない。しかし、野田政権にはこれらの課題に答えを出せる力はない、と多くは判断しており、解散総選挙後は、野田政権の継続を期待する声は少ない。そればかりか既成政党間での政権の交代自体が支持を集めていない。
第2に、多くの回答者が今の既成政党を期待できなくなっており、解散後は、多くが政界再編などの新しい政治を期待している。しかし、そうした変化に展望があるわけでもない。この状況を本格的に変えるには、この政治の当事者としての有権者の覚醒に期待するしか、なくなっているという現実である。
評価するのは消費税増税
その他の政策評価は散々
私が期待しているのは、このアンケート結果を皆さんが、どう考えるかである。
以下、少しこの結果をかいつまんでみていくことにする。
まず、首相としての野田氏の資質に関する回答を5点満点で点数化すると、8項目の平均で2.4点である。
この8項目では国民への説明能力や指導力や、閣僚などのチームや体制づくり、政策の基本的な理念や方向性が問われる。この点が高いのか、低いのかで言えば、基本的に満点の半分にも至っていないわけで、低いに決まっている。
特に国民への説明能力や閣僚などの体制では評価は1点台と低く、それが全体平均を押し下げる形になっている。
が、この2.4点は6人のこれまでの首相の中では政権交代時の期待に乗って点数が高かった鳩山首相と並ぶ最高点で、前の菅政権の1.8点を大きく上回っている。
こうした相対的に高い首相の評価は、これまでの政権が決断できなかった、消費税やTPPへの参加問題での野田氏の判断が強く寄与している。逆に言えばそれ以外の圧倒的に多くの政策課題で多くの回答者が、首相にその実行力を感じていない。
野田政権は政権交代時の2年前の民主党のマニフェストに基づいて政策の実行をしているわけではない。そのため、所信表明での首相の発言を元に30項目の政策課題を国民との約束と判断して、アンケートではそれらの評価を求めている。
結果は散々である。
これまでの100日で「うまく対応できた」、あるいは「うまく対応できてはいないが、今後に期待できる」という回答が合わせて40%を超えたのは、TPPの参加問題と消費税の決断、復興庁の設置などの震災対策の3つしかない。
「普天間基地問題」や「閣僚人事」、「無駄の削減」などの20項目は、「対応もしていないし、今後も期待できない」がそれぞれ50%を超えている。
つまり、野田政権はこの3つ、より厳密に言えば、これまでの政権が答えを先送りし続けた、消費税の決断のみで相対的に高い評価を集める政権なのである。
しかし、その野田首相でも今後に、期待する声はあまりにも少ない。100日後の野田政権に期待する回答は、17.5%に過ぎず、49.5%と半数が「期待できない」としている。
政界再編を望む一方
不安定な政治の継続を予想
これに対して解散総選挙を求める声も半数を超えており、そのうち8割が、現在開催中の通常国会開催中か、閉会後を求めている。
私がややショックを受けたのは、総選挙後の日本の政治の姿に関する回答である。
総選挙後も「野田政権の継続」を予想する声はわずかに5.3%、「野田首相は交代するが、民主党は政権継続する」とみる人は3.9%に過ぎない。
さらに最大野党の自民党への政権交代も6.2%しか予想していない。
逆に政界再編を見込む声は39.6%、そして不安定な政治の継続を予想する回答は32.5%もある。日本の政治に変化を期待しながらも、その先に期待を持てない、漂流する政治が、多くの回答者が抱く、選挙後の日本の政治の姿なのである。
こうした混迷する、日本の政治に関して、私たちはいくつもの質問を投げかけている。
例えば既成政党に関する期待についてである。
61.8%が日本の既成政党に期待できないと応え、その理由として7割が「どの党も権力を取ることだけが自己目的となっており、選挙対策のために行動しているとしか見えず、日本の課題解決に挑もうとしていない」と答えている。
こうした既成政党への不信は、民主党政権の誕生後に高まっており、鳩山政権の100日時点では38.6%、菅政権時の100日時点では47.4%、そして今回は61.8%と6割を超えている。
さらに言えば、民主党の政権には8割がこれ以上期待できないと答え、自民党政権への交代も6割近くが、期待していない。
代表制民主主義は機能せず
代表を選んでいる実感がない
日本の政治問題の現状認識では、もう1つ、重要な質問がある。
それは、代表制の民主主義はこの国で機能しているのか、という問いである。先も触れたが、ここでは有権者が代表を選ぶという過程と、選ばれた代表がこの国の課題に挑むという、2つの過程があってこの民主主義が機能しているかが、判断される。
それに対しては、7割近く(69.1%)が、機能していない、と答えている。
この理由は、3つにまとめられる。
1つは、自分たちの代表を選んでいる実感がない、そして、選ばれた政治家に日本の課題を解決できる能力がない、政党が政策軸でまとまっておらず、組織としての体をなしていない、である。
この自分たちの代表を選んでいる実感がないと回答した人に、さらにその理由を尋ねると、最も多い回答は、「首相が党内だけで決められ、選挙が国民の民意を問う形で適切に行われていない」が59.1%と最も多く、小選挙区と比例区の重複立候補や選挙公約の曖昧さ、一票の格差など選挙制度の問題が続いている。
こう見てみると、回答者の多くは、政権政党を交代させるだけでは、日本の政治が落ち込んでいる混乱を変えられず、政党政治や民主主義の在り方自体の見直しが迫られていることに気づいている。私たち有権者が直面している政治の問題は、それくらい重いのである。
政治の混迷を
打開できる主体は有権者
最後に、私たちは2つの質問をこのアンケートで行った。
1つは、代表制民主主義を機能させるために何が必要かであり、もう1つが、この日本の政治の混迷を打開できる主体はだれなのか、である。
その答えはいずれも主たる答えは同じになっている。答えは有権者であり、有権者の当事者としての意識、である。
さて、皆さんはこの結果にどんな感想をもっただろうか。
結論はあまりに単純で、当たり前のことになったが、有権者に問われている課題は、あまりにも重いことがお分かりだろう。今、私たちに問われているのは、民主主義そのものを機能させ、民意を軸とした課題解決型の政党政治をつくり上げることなのである。
その後も、政治の世界の混乱は呆れるくらい深刻なものとなっている。
私自身は、今の野田政権は遅くても今の国会の会期中や会期末の解散は避けられないと、思っていた。野田首相が政治生命をかける「社会保障と税の一体改革」で5%の消費税増税を通すためには、対立する野党の協力が不可欠である。
そのためには、消費税の増税の合意を前提としての話し合いでの解散しかない、と思うからだ。ところが、最近、野田政権はそこまで持たないのでは、という気持ちがしてきた。
そう思い始めたのは、一部メディアに流出した年金試算の問題が、野田氏が主張してきた、一体改革の動きをとん挫させかねないからだ。
この月7万円の最低保障年金は、民主党が2年前のマニフェストで掲げた民主党独自の年金改革案の柱である。が、厚生労働省の年金局に試算させた結果、消費税の大幅増税が避けられなくなり、その存在を封印し続けたものである。
それが、1月6日の一体改革の素案で、突如、来年に法案を国会に提出する、と書き込んだことが、問題を表面化させることになった。
政府として決めた以上、その試算も含めて全体像を説明する義務があるのだが、そこまで考えての文面ではなかった。
多分、近づく選挙での民主党の独自性を残しておこうという、下心がこうした失政を招いたのだろう。ただ、これを決定する会議には野田首相も出席していたのである。
野田政権の混乱は、首相への期待とは別に政党としての民主党の限界を露呈している。
ただ、有権者から見れば、こうした政治の混乱は、日本の政治を変えるための始まりに過ぎないのである。