今回(第25回)の「工藤泰志 言論のNPO」は、3月11日に発生した東北関東大震災を受けて、現地にいち早く先遣隊を出したボランティア組織「難民を助ける会」の事務局長・堀江良彰さんをスタジオにお迎えして、現状報告と今後市民が出来ることはなにか考えました。なお、この放送は3月17日に収録いたしました。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。
「ON THE WAY ジャーナル
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「被災地のため市民は何ができるか」
工藤: おはようございます。ON THE WAY ジャーナル水曜日、言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語るON THE WAYジャーナル。毎週水曜日は、私、言論NPO代表の工藤泰志が担当します。
さて、3月11日に東北地域で巨大地震がありました。まず、今回の地震でお亡くなりになられた皆様のご冥福をお祈りすると同時に、一人でも多くの皆様や、ご家族の方がどうかご無事であること、被災地の復興が1日でも早くなされることをお祈りしたいと思っております。ただ、こうした困難の時には、僕らは黙っていていいのか、という思いがあります。そこで、今回のON THE WAYジャーナルでは、みんなでこの状況をどう乗り切ろうか、ということを考えてみたいと思います。そういう思いから、「被災地のために市民は何ができるのか」をテーマに、今日は皆さんと議論したいと思っています。
今日は、スタジオにゲストをお招きしております。日本のNGO団体で、真っ先に被災地へボランティアの先発隊を出した、難民を助ける会の事務局長の堀江良彰さんです。堀江さん、今日はよろしくお願いします。
堀江:よろしくお願いします。
工藤: その前に、私たちの番組に、幾つかお便りをいただいています。全部を紹介できないのですが、一部紹介させていただきます。
まず、Hさん。「本当に今回の大災害に直接あわれた方に、1日も早い平穏が訪れることを、ただ祈るばかりです。しかし、こんな日本の現状では、立ち直りはできない。否、地震ではないが、ますます沈み行くばかりです。みんながファイトを出すように、そして、もっと明るくなるように、ぜひ言論NPOを通して、呼びかけてください。」
もう一つMさんから。「みんなで力を合わせて、この難しい局面を乗り切りましょう。日本の底力を見せる絶好のチャンスです。音頭取り、方向付けをよろしくお願いします。」
皆さんも、ご意見、ご感想をお寄せください。番組ホームページの水曜日、工藤泰志のページに行っていただいて、メールやツイッターでお願いします。ON THE WAYジャーナル「言論のNPO」、今日はスタジオに、難民を助ける会の事務局長の堀江良彰さんをお招きし、議論を進めます。そして、今日のテーマは「被災地のために市民は何ができるのか」です。
さて、難民を助ける会では、被災地に真っ先に先発隊を出したという話なのですが、現地はどのような状況だったのでしょうか。
堀江:私ども難民を助ける会では、被災から2日後の3月13日に、3名のスタッフを被災地に派遣しました。着いた第一報が、大混乱していて大変な状況だということでした。もちろん、被災地へ向かう道中にも地震や津波の被害の跡が見られたのですが、災害対策本部にまず行きましたけど、とにかく大混乱しているという状況でした。で、全く支援が届いていないという状況が、まず第一報でした。
どうやって被災地に入れたか
工藤: 被災地へはどうやって行ったのですか。車ですか。
堀江:車です。
工藤: 道路は大丈夫だったのですか。
堀江:道路ですが、高速道路は通行止めでした。警察の方から緊急通行車両ということで、許可を取ろうとしたのですが、NPO法人にはすぐには許可が出なくて、先発隊は14時間以上かけて、被災地に入ったような状況です。
工藤: 通行証を取れなくて入ったのですか。
堀江:取れないまま国道を、東京から400キロ弱を北上しまして、途中で支援物資を買いながら現地入りをしました。
工藤: 今、色々なNPO団体が、どんどん行きたいと声を上げていますが、通行証が取れないというか、だんだんできていくと思うのですが、地元の受け入れ先ができていないので、気持ちははやっているのですが、なかなか行けないという状況がありました。よくそこを突破しましたね。
緊急通行証から始まった
堀江:そうですね。とりあえず、まず現地に行きたいということがありましたので、時間がかかっても下道で行こうということで、最初は行きました。で、3月16日に第2陣が出ました。その第2陣は通行証がもらえました。というのは、第1陣が県庁の災害対策本部に行きまして、そこから支援要請の紙をもらいました。それがあると、警察の方で緊急通行証を発行してくれますので、第2陣については、東北自動車道を使って、5時間から6時間ぐらいで到着することができました。
工藤: 今は、一般の市民の人たち、つまり寄付とかボランティアをしたいという声は、かなりきいているのでしょう。
堀江:堀江:はい、もの凄く来ています。メール、電話等で、問い合わせが数百件にのぼるぐらいきていまして、お金のご寄付は大変ありがたいので、それはそのままぜひいただきたいと思っています。ボランティアの問い合わせも沢山きております。自分も被災地へ行きたいのだけど、どうしたらいいかとか、後は、物資を送りたいという方も沢山いらっしゃいます。大変、申し出はありがたいのですが、今の問題が、現地の方で食料や燃料が足りていないという状況があります。ですから、例えボランティアに行ったとしても、そのボランティア自身が食べる食料ですとか、滞在する場所を確保できない状況ですので、人は必要な状況なのですが、なかなかそういった人達を受け入れる態勢が、今の段階では整っていないということ。それから、ガソリンを始めとする燃料が全くありませんので、例え、支援物資を積んだトラックが行っても、帰りの保証が全くないのですね。そうすると、支援物資を下ろしたところで立ち往生してしまうと、そのドライバーを含めて、避難民という形になって、本来、元々の避難民が食べる食料などを使わなければいけなくなる。そういうことが、現状です。
工藤: 確かに、メールなどの情報では、行ったのですがガス欠で、そこに残らなければいけないという人達も結構いるみたいです。今回の地震は、昔の阪神淡路大震災とは違って、アクセスですよね。それから、津波の影響とかがかなりあって、壊滅している状況で、地元の受け入れ態勢というのが、なかなかできていないという状況ですかね。
救援の全体調整は必要
堀江:堀江:そうですね。全体の調整機能が、まだ働いていないような状況です。ここを一刻も早く解決しないといけません。気持ちがある人は沢山いますし、現地へ行きたい人、物資を送りたい人は沢山いても、そういう人達の声を集めて、有効に被災者へ届けられれば、かなりの人を支援できるはずなのですが、そのための基礎的な燃料、食料が足りていないところ。そこが、一番ネックになってしまっているところです。
工藤: 今回、東京でもガソリンを買うために行列になっているような状況なのですが、震災の規模はかなり大きいですよね。範囲が広い状況で、しかも、被害のレベルが想像を超えるようなレベルということで、僕たちも何とかしなければ、と思っているのですが、これをどういう風に実現に向かって組み立てていけばいいか、というのがイマイチ見えない人も多いと思います。今は、多くの方のお金とか、それから食料とか物資を集めている段階で、同時に先発隊が行って、そこの中で何ができるかということの組み立てをする段階という感じですかね。
堀江:そうですね。もちろん、その組み立てもしていますし、どうやったら支援が届くかということを、県の災害本部とかとも調整をしています。同時に、私たちもできる範囲で買えるものは買って、配布を始めています。既に、お米を含めて色々な食料を買って送ったりしています。第2陣の便は、毛布と衛生用品、簡易寝袋を積み込んで送っています。それから、現地も寒いですから、灯油とか軽油なども現地に送っています。
ですので、各方面と調整をする、そして、どこに被災者がいるかを探す作業、物資の配布ということを並行してやっています。ただ、支援に関しては、どこでも足りないというのが明白なものですから、今はどの地域も、食料が欲しい、暖をとるものが欲しい。最低限、生き延びていくためのものが欲しい、という状況になっています。
工藤: なるほど。普通、まず行政なり、地元の受け入れの動きがありますよね。それはちゃんと機能しているのですか。
堀江:まだ機能していません。ようやく、震災から1週間余りが経ちますが、そろそろ立ち上がり始めたところです。これがしっかり立ち上がって、うまく機能していけば、かなりの人を受け入れられますし、モノも受け入れられるのですが、ただ、そのためにはどうしても移動するための燃料と、その人達の生活も含めた食料の確保が第一になりますので、それがないと、せっかく行ったにもかかわらず立ち往生という状態になってしまう。そこが一番懸念されています。
工藤: 2つあるのですが、医療というか救助という点では、今でも救助されたという報道がありますよね。まだ、やっぱりその段階のあるのですよね。
堀江:
「点」から「面」に広げる
工藤: そこに、まず自衛隊とか色々な人達が関わっていて、一方で、地域的な広がりということで見れば、まだ「面」ではなくて、「点」で動いている感じですよね。ということは、取り残されている地域は、まだある可能性がありますよね。
堀江:まだまだあると思います。私どもは仙台に行きました。で、実際にもっと北の岩手県の方でも、大きな被害が出ていると思われますが、そこに入っている団体は少ないですし、福島県は原発の問題もありますので、入っていける団体はほとんどいないような状況になっていますので、この被害の甚大さ、広さに対して、まだまだ足りていない状況が続いています。
工藤: これは、どれぐらいになるのですかね。つまり、かなりお金が集まっているという話は聞いているのですが、それは集まっているというよりも、全然足りないというレベルなのですか。
堀江:全然足りないと思います。復興していくためには、それこそ何年もかかることです。で、とても、私たち一団体ではできることではありませんし。
工藤: まず、今は、救済と生活支援ですよね。そこが足りるかどうかというところで、まだ目処が見えないというところですか。
堀江:まだ見えていません。
工藤: こういう場合の進め方というのは、誰が全体像を把握したり、アピールしたりするような流れになっていくようなことが理想なのですか。
堀江:そうですね、私ども難民を助ける会では、ハイチとかパキスタンとか、スマトラ沖の津波の時にもこういう緊急支援をしていて、こういう現場にはよく遭遇します。国々によって態勢は違いまして、国が機能していないところでは、国連とかが入っていて、大規模に調整をしていきます。日本の場合は少し違って、政府がしっかりありますので、やはり国が中心になって、支援や調整をまずしていく。そこに、NGO団体を含めた多くのNPO団体、ボランティア団体が、調整の元に活動をしていくという形態がいいのかな、と思っています。
工藤: 日本の場合は、まず行政にきちんとした拠点を作ってもらって、一方で、そこと連動する形で、市民の動きが動いていく。その動きがいつできるかということですね。
堀江:そうですね。
市民の力
工藤: 今回は、私たちも何かの形で行きたいという気持ちは非常に強いし、そう思っている人は沢山いると思います。ただ、驚いたことは、市民の力というものが、日本は非常に強いという感じがしています。その辺りは、どうでしょうか。
堀江:それは思います。やはり、こういう状況でも大きな略奪もありませんし、支援したいという人も沢山申し出てくれています。そういう意味でも、本当に市民の力は強いですし、行政が調整機能を果たすのですが、最終的には市民同士の繋がり、助け合いで、全体を復興させていかないと、とても行政任せですむ問題ではありません。行政が調整するもとに、市民同士の連帯が進んで行って、みんなで助け合っていくという姿勢が、絶対に必要だと思っています。
工藤: なるほど。後は、市民側の動きがかなり入ってくるような受け皿ができて、そこを地元の必要なこととマッチングさせるような仕組みが、とにかく整ってくれれば動く可能性があるという段階にきているわけですね。
先日、言論NPOに、早瀬さんという、阪神淡路大震災の時に、市民や民間、経済界の人達を集めて、ボランティアをコーディネートして、地元の救済のために、仕組みをつくってやった人の話を聞いたのですが、やはり行政の役割と、住民やボランティアの役割は決定的に違うのだとおっしゃっていました。行政というのは、かなり公平にやらざるを得ないのだけど、こういう被災者の人たちは一人ひとりドラマがあって、色々な思いがあって、自分の生活を立て直したいと思っていると。そこに、きちんと寄り添うのがボランティアなのだとおっしゃっていました。やはり、このボランティアなり、市民の役割と行政の役割はやはり違うのでしょうか。
堀江:全く、その通りだと思います。NPO、NGOというのは、それぞれに強みがありますので、全部に公平にやるというよりは、色々な多様性のある団体が、沢山入っていって、結果的に全てに行き渡るという状態がいいと思っています。そういう意味では、難民を助ける会は、障害をお持ちの方、あるいは、高齢の方々に対して、中心的に支援をしていこうと思っております。というのも、海外のカンボジアやミャンマー、ラオスで、障害者の方達の支援をしております。そういった意味では、こういった災害の時に取り残されてしまうのが、障害をお持ちの方ですから、そういった方達の支援に、重点を置いて活動していきたいと思っています。
もう1つは、日本にいる外国人の方ですね。まだ、情報もないような状況ですし、皆さんどうしていいかわからず、途方に暮れている状態だと思います。そういった人達にも目を向けて、やはり災害から取り残された人達がでないようにしていく、そこもNPOの大きな役割だと思っています。
まず具体的な行動から
工藤: 今向かっている人達というのは、海外でそうした実績のある救済系というか、そういうNGOが多いですよね。現状、どういう人達が、誰でも行けるのですかね。
堀江:今は、まだ誰でも、という状態ではないかもしれません。というのは、ある程度自分たちの活動を自分たちで完結できるところがないと、現地での動きが取れなくなってしまう可能性がありますので、そういう意味では、国際系のNGOは、各国の災害地、紛争地で活動経験がありますので、まず、出られたのはそういう経験が活かせるということで、被災地に入っております。ただ、もう少し状況が落ち着いてきたら、多くの団体が、思い思いの活動をしたいという団体が入っていける状態になると思いますので、そうすると、もっと支援の輪が広がっていくのではないか、と思っています。
工藤: さっきの早瀬さんは、交通インフラがきちんと整って、動けるようになったら、積極的に行くべきだとおっしゃっていたのですが、どうでしょうか。
堀江:そうだと思います。ただ、その際にも、
工藤: 自分で燃料を持っていくとか、自分の食料とかを持っていく。
堀江:後は、ちゃんとした調整のもとですね。必ず、色々な調整、あるいは窓口になるところがあると思います。日本であれば災害対策本部、あるいはその下に、社会福祉協議会がつくるようなボランティアセンターのようなものが必ず立ち上がりますので、必ずそこを通じてやるということが必要だと思います。
工藤: わかりました。とりあえず、そこに行って、とにかく何かできることはないだろうか、という輪がどんどん広がることが本当にいいと思いますね。最後に、お金なのですが、寄付とか義援金が色々と集まっているのですが、このお金というのは、どういう風になりますか。難民を助ける会へというのならわかるのですが、沢山の寄付がありますよね。これはどういう風に使われていくものなのでしょいうか。
堀江:難民を助ける会にいただいたものは、難民を助ける会が行う物資の配布とか、長期的には、これから建物の再建もありますし、様々な支援活動に使っていきます。また、国の方でも...
工藤: 色々な団体、メディアも含めてやりますよね。
堀江:これは、かなりのお金を通じて、インフラの整備から色々なことをやっていかないと、と思っています。
工藤: 早瀬さんが、義援金は災害にあった人にわたるもので、支援金というのは、活動に行っている人達が集めている、ということをおっしゃっていたのですが、そういう理解でいいのでしょうか。
堀江:そうですね。いいと思います。
必ず乗り越えられる
工藤:わかりました。僕たちの想像以上の災害が起こっているのですが、こういう時というのは、市民の一人ひとりが力を合わせるしかないと思っています。今の状況は非常に厳しいのですが、非常に重要だというか、これからの日本にとって、何かが変えられる、必ず乗り越えられるという確信をもてるような動きが始まっているということに、非常に安心をしております。とにかく、この輪を広げないといけないし、まさにこのON THE WAYジャーナルのチャネルというのは、市民一人ひとりが自立して、社会の問題に挑んでいこうという話ですから、まさにそれが今問われているのだと思っております。ですから、引き続きこの議論をしていきたいと思っています。今日は、堀江さんどうもありがとうございました。
堀江:ありがとうございました。