放送第6回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、「日本の未来、みんなで考えよう」と題し、日本の財政危機と社会保障について考えました。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。
「ON THE WAY ジャーナル
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工藤: おはようございます。「ON THE WAY ジャーナル」水曜日、言論NPOの代表の工藤泰志です。毎朝様々な分野で活躍するパーソナリティーが自分たちの視点で世の中の出来事をばっさり切っていく番組ですが、毎週水曜日は私、言論のNPO代表の工藤泰志が担当します。
もう11月10日ということでさすがに寒くなって来ました。風邪なんかひいていませんか。実はうちの事務所は暖房をかけていますが、男性陣が寒いと言うのですね、しかし女性陣は暑いと言うのです。僕もそこの調整が大変になっています。さて、私は先週佐々木毅さんが発言したことが非常に心に残っているのですが、つまり国民は今、何が本物なのか嘘なのか、そろそろ本物を見極めるぎりぎりの段階にきているのではないかということです。。今日はその問題をやりたいのです。つまり日本が今直面している問題は何なのかということに関して皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
番組へのご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどを是非お寄せください。番組HPの水曜日「工藤泰志のページ」に行っていただいて、そこでメールやtwitterでお寄せ下さい。
「ON THE WAY ジャーナル」水曜日、言論NPOでは政治・経済・事件などなど様々な問題に関して、私工藤泰志が市民レベルの視点から皆さんに投げかけます。それでは今日のテーマはこちら。
谷内: 「日本の未来、みんなで考えよう」です。
おはようございます。番組スタッフの谷内です。暖房全開で、男性は・・・、結構ね・・・。最近寒かったり暑かったりで大変だと思いますが、さて、今日のテーマは、「日本の未来、みんなで考えよう」ということです。工藤さんは日本の未来はかなり明るいと思っていますか。
工藤: そうですね、僕は明るくなってほしいと思っているのですか、何か不安なのです。ただ考えてみると、僕たちはただ未来に期待するだけではなく自分たちが未来を切り拓いていかないといけないのです。僕たち次第で未来は明るくなりもするし、暗くなりもするのです。ただ未来を考えるときに今の日本はどうなのかと。それではじめて未来を考えることが出来るのです。私は今日未来を知るために今を知る、ということをテーマに議論を行ないたいと思います。
谷内: なるほど。
工藤: 今日実は面白い本を持ってきました。それは「高橋是清暗殺後の日本」という本なのです。著者は松元崇さんですね。この人は現役の内閣府の官房長、非常に偉い官僚の人です。皆さんも「高橋是清」ってご存知だと思います。以前、NHKのドラマ、司馬遼太郎の「坂の上の雲」をやっていましたが、あのドラマで西田敏行が演じていた英語の先生が、高橋是清です。あの人はその後総理大臣になって、戦前の昭和金融恐慌のときの大蔵大臣になり、そして軍事の拡張を抑制しようとしたために二・二六事件で暗殺されてしまいます。その後、日本の政府とか国会が戦争にまっしぐらに進んでいくわけです。それがどういう風に進んでいったのかとか、その結果、日本経済なり財政がどんな事態に追い込まれたのかがすごく詳しく書かれています。僕も本をよく読みますが、こういった本を初めて見ました。あの戦争で、結局310万人くらいが亡くなりました。東京大空襲とか原爆とか、民間人もたくさん死ぬのですが、ただ人が亡くなるだけではなく、日本の経済や財政そのものが壊滅的になっていくのです。つまり国が滅びていく。最後は1億総玉砕、本土決戦みたいな状況に追い込まれていくのです。それで驚いたのが、敗戦の前の年1944年ですが、この本によると、国民総生産と軍事費の比率が98.6%とほぼ同じ額なのです。つまり今に例えれば、日本のGDPは600兆円でしょう。だからそれと同額の600兆円くらいが軍事費なのです。政府の軍事費をベースにした予算が、その年の国民が頑張って作り上げた経済活動の結果であるGDPと同じ額くらいが軍事費に投入されるのです。「欲しがりません、勝つまでは」とか、国民が総動員されて戦争のためにすべてが投入され、それだけでは軍事費が賄いきれないので、借金、つまり国債をたくさん発行するのです。その結果どうなったかといえば、GDP対比で政府が作った国債が199.1%、つまりGDPの2倍近い額がまさに借金になったわけなのです。そういう状況に追い込まれたのです。
それで戦争に負けて、しかし負けても借金は残りますよね。それを政府は国としてどうしたのかというと、その後、3年位すごいハイパーインフレになり、物価が100倍くらいになるのです。すると、国民の資産も金融資産も100分の1、しかし物価だけは100倍なのですが、みんな働くところもないわけです。すさまじく高い物価、財政の破綻の状況の中で、みんなが強制的なインフレで借金を埋めるという状況になるのです。つまり財政破綻の現実はこういった問題なのです。
僕がすごく怖いのは、今の日本の借金はどれくらいの規模なのかということです。今年の政府の見通しで、日本の債務とGDPの関係がどれくらいかというと、200%越しているのです。204%くらいと言われています。すると、あの戦争時の壊滅的な日本の財政状況よりも今の財政、つまり借金の量が大きいのです。この問題は非常に深刻だと思います。ただ、なんかそういう緊張感がないではないですか。
谷内: 数字がすごく大きすぎて分からないですね。
工藤: そうですね。しかし財政破綻はそれぐらい大変なのです。それでよく見ると、その借金が膨らむペースが拡大したのは1990年、つまりこの20年ぐらいなのです。その当時を考えてみると、やはり景気が悪いので財政拡大しろ、ということで財政拡大をして色々やっているのですね。景気対策で何かをしてほしいと思いますが、何をやっても経済が回復しない。つまり経済がほとんど回復しないままお金をどんどん出して、借金だけが膨らんできている。
それからもう1つ。後で説明しますが、その間に日本ではもっと大きな変化が始まりました。それは、異常な高齢化です。お年寄りの数が増えていますから、医療費とか年金の給付によって、支出が非常に増えてきて、その中でまた財政が拡大していく。もうかなり厳しい状況になっています。
それでこの前菅政権が、6月に「中期財政フレーム」を出して、このままいったらまずいので、借金を、今年の予算で44.3兆円ですが、その額と同じ額の上限を維持しましょう、と決めるのです。それを国際公約にして、そして2015年までに、後で説明しますが、プライマリーバランスの赤字(GDP比)を半分にしましょうと言ったのです。それが実は参院選のマニフェストになっていました。
しかし実はこの約束は何なのかということです。メディアでも一応報道はされていますが、ほとんどの人はなかなか分からないのです。今年の6月に、トロントでG20、つまり20カ国の先進国の首相がみんな集まりました。財政破綻というのはギリシアが厳しくなって財政破綻して、IMFを含めていろんなところが融資しました。かなり世界経済がきびしいので、先進国は、財政赤字を2013年までに半分にしましょう、ということを首相間で合意しました。しかし、実はたった日本1国だけはその合意に入れなかったのです。その2013年まで財政赤字を半減するというのは大きい目標なのです。どれくらい大きい話かというと、日本の財政赤字は44.3兆円で、借金の額と同じです。これを、3年後の2013年に半分の20兆円くらいにしないといけないのです。20兆円を3年で減らすとなれば、消費税も7%くらい上げないといけない話なのです。これは無理なので、日本はできないと言っています。しかし、もし日本が財政破綻となれば世界的に大変なことなので、「それでは日本だけは特別にしましょう」ということで、日本だけ実は別の目標があります。それが2013年ではなく2015年という目標になったのです。ただ実をいえば、私はつい最近財政学者で有名な慶応大学の土居先生と議論をしましたが、土居先生が言うには、2015年まで財政再建なり目標を達成するということできちんと政府は政策体系を作って取り組んでいるのかといえば、実はまだそうはなっていないのです。今の日本はそれ以前なのです。前回も話しましたが16.8兆円というバラマキのマニフェストがあって、それを止めるのか止めないのか、まだその問題があるのです。16.8兆円の支出増は2013年までなのです。16.8兆円も財政の支出が増えて、同時に20兆円を減らすというのは非常に大変です。いろんなことを整理しないとこの目標が実現できない状況なのです。そこで日本は2015年までに「プライマリー赤字を半減する」と言ったのです。
このプライマリーバランスとは一体何なのか、これからもこの言葉はメディアでたくさん出てきますので、簡単にこれを理解する方法を教えます。実はこれは「借金はいっぱいあるのですが、借金のことは今は忘れましょう」ということなのです。家計でいえば、借金を忘れて毎月の収入と生活費のバランスをきちんと見ましょうということです。例えば収入より生活費が増えるのであれば、支出が多いので赤字ですよね。これを「プライマリー赤字」というのです。例えば、私が30万円の収入があって生活費に40万円かかってくれば10万円足りないですよね。これがプライマリー赤字なのです。これを半分にするなら10万円のうち5万円を削減しましょうという目標なのです。それをまた5万円減らすのは大変ですが、ここで忘れていることが1つ。実はその後ろに僕は今まで900万円の借金があり、その支払いは毎月20万円あります。しかしその支払いの20万円は今、忘れましょうと。忘れても5万円を減らしましょうというのがプライマリー赤字です。しかし待てよ、と。「あなたは借金の支払いがあるだろう」、本当は30万円減らさなければいけないのですよと。それを2013年までにするのは無理だから、2015年までにプライマリー赤字分だけ半分に減らしましょうということにして、それを国際公約にしたのです。
谷内: 国際公約で実現できるのですか。
工藤: 僕が政府なのか、個人なのかよく分からなくなりましたが、政府は目標をプライマリーバランスの赤字削減にしてくれたのは、赤字削減のペースが遅くなりましたので大変助かったと思います。ただ気になっているのは、目標年次を「2015年度」にしたことです。しかし、2013年には、今の菅政権が途中で解散選挙をやらなければ任期が終わります。だから任期中であれば「ここまで実現する」と菅政権が国民との約束として言えますが、2015年になれば、任期が終わった2年後ですから、責任があいまいになります。そういう場合は、今の政府は自分の任期である2013年までに何をするのかということを国民に明らかにしなくてはいけない。でもそれを政府は何も話していないんですね。すると先ほどのプライマリー赤字の話はフィクションですが。
谷内: ノンフィクション。
工藤: ノンフィクションかもしれませんが、先の家計の話を政府で考えるとどうなるのか。今の政府のプライマリー赤字は今年30兆円あるのです。30兆円をあと5年で半分にするというのは、実は15兆円の赤字を削減しないといけないのです。となると毎年3兆円。でも例えばさっきのマニフェストで必要とされる16.8兆円。16.8兆円は新しい歳出ですから、その歳出の財源の目処はないのでそのまま赤字になります。それを全額やるというのなら、それとあわせると30兆円の削減がこの5年で必要になる。
しかしそれだけではないのです。日本は今極端な高齢化なのです。毎年1.3兆円ずつ年金・医療など社会保障のお金が増えています。するとこれが5年で6.5兆円増えることになります。すると合計で36兆円もあるのですよ。今税収が37兆円しかないんですよ。すると同じ額を削減するのはどういうことなのかと。するとまず、先ほどのマニフェストの16.8兆円の歳出は無理だと言えば、15兆円とさっきの6.5兆円で21.5兆円です。しかしこれでも大変な話ですよね。それくらい深刻な状況を、今政府は少なくとも国民に語っていないのです。しかもそれが国際公約になっていて、世界は固唾を呑んで日本を見ているのです。
なぜかというと、先のギリシア問題ですが、ギリシアの財政の債務とGDPの対比で見ると129%なのです。でも日本は200%ですよね。戦争時より多いのですから。日本は国債は国内の人が買ってくれるのでギリシアとは状況が違うなど、何かと理由を付けていますが、だけどこの国がそろそろ危ないとなれば、将来金利が上がり、国債の価格がどんどん下がるので、これではまずいのではないかと思って国債を売り出す人が出てきますよね。なので、そんなに安定はしていないのです。でもそれだけではなく、日本は世界レベルでもはるかに高い、「人口減少、超高齢化社会」に突入しています。人口はどんどん減少しはじめていますし、生産人口は今8100万人ですが、これからどんどん減り、2050年には5000万人を切ってしまいます。日本の社会保障は、現役世代が年寄りを支えて成り立っている賦課方式なのですね。だけども、現役がお年寄りを背負いきれないという状況にもうなっています。単純な数字で言えば、今は3人に1人のお年寄りを支えています。過去は7人に1人で支えていました。このままでいけば1人が1人を支えるという段階に来ます。これは避けられません。そうなれば、今つくっている社会保障なり年金・医療・介護制度などが維持できなくなるのです。「こうなれば1人になっても高齢者を支える」と現役世代が覚悟を決めれば理論上は多分成り立ちますが、現役世代も自分たちの生活がありますので難しい。
そうなればこの問題を抜本的に見直さないといけない。これを見直さないと日本の未来は見えない。若い世代の皆さんは自分たちの老後がどうなるかなんて全く見えない状況だと思います。これをなんとなく辻褄を合わせるために、政府は税金を投入したり、保険の中でいろんな人からお金を集めてぎりぎり埋めていますが、もう持たないことがはっきりしています。これが実を言えば、今の日本が直面している最大の課題なのです。
日本の政治は社会保障に対して抜本改革をしないといけない。それが財政問題と連動して一緒に解決しないといけない。だから社会保障の問題はかなり複雑なのです。でも、日本の政治は今の政権も含めてこうした未来への課題で競っていないのです。これに関しては必ずまた皆さんと考えたいと思います。未来を知るためには、今を知らないといけないのです。そういう意味で、今現実がどうなっているかを僕たちが考えて、様々な発言の中から何が本物か見抜いてほしいと思います。
今日もそういうことで時間になりました。また熱く語ってしまいましたが、皆さんと未来を一緒に考えていきたいと思います。どうもありがとうございました。
(文章・動画は放送内容を一部編集したものです。)