「日本の危機を救えるのは誰?」
  -ON THE WAY ジャーナル 2010.12.8 放送分

2010年12月08日

放送第10回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、元フランス大使の小倉和夫さんのインタビューを交え、強い市民社会とはなにか?市民社会の役割について考えました。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。

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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
―日本の危機を救えるのは誰?

 
(2010年12月8日放送分 17分47秒)

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「日本の危機を救えるのは誰?」


工藤: 「ON THE WAYジャーナル」水曜日「言論のNPO」、今日のテーマはこちらです。

谷内: 「日本の危機を救えるのは誰?」

 おはようございます。噛んでしまいましたが、番組スタッフの谷内です。「ON THE WAYジャーナル」水曜日、「言論のNPO」ではこれまで日本の政治をどう考えればいいのかを考えてきました。今まで9回の放送があり、多くの人に議論づくりに協力していただきましたが、その方々が口を揃えていたのは「日本は多くの課題に直面しているのに、政治はそれを解決できない状況に陥っている」と。政府や政党で、様々な機能が信頼を失っていて統治の危機に陥っていると。よく「ガバナンス」という言葉がでてきましたが、ではこの状況を誰が変えられるのかということを今日考えていきます。

工藤: そうですね。以前、元東大総長の佐々木毅さんが「ナショナルクライシス」と言っていましたが、僕もこの言葉にはすごく驚きました。課題を乗り越える力が日本の政治になければ、この国は滅びてしまいます。ただこれを誰が解決するのかと、それについて考えていかなければいけない、そういう段階に来ました。それでこの前、昔からすごいなあと思っている論客がいまして、その方は元フランス大使で今は国際交流基金の理事長の小倉和夫さんっていう方です。今回、その方と僕はこの問題を議論してみましたが、そうしたら非常に本質的な議論になりました。これをちょっと僕は皆さんに紹介しながら、「日本の危機を救うのは誰なのか」ということを考えてみたいと思います。 

 先週、石破茂自民党政調会長とお会いしたときの発言から振り返ってみますが、先のメールでもありましたが「いい加減な気持ちで政治家を選べば自分たちの身に色んなことが降りかかってくる、それを覚悟しなければいけない」と言っていましたね。「まだ間に合うので、今そのための覚悟を固めろ」、という話もあります。また別の人は、何が嘘か本当か見抜く目をつけるべきと、そのギリギリのタイミングに(有権者は)来ていると言っています。考えてみれば、結局ボールは僕たち有権者にあります。つまり僕たちがしっかりして変われば、この今の日本の状況を、時代の流れを変えられると。僕もそれに賭けたいと思います。

 石破さんも「まだ間に合う」と仰っていました。そういうことを考えていったときに、私がよく言っているのが「健全な社会には健全な議論が必要」ということと、「強い市民社会が必要」ということです。強い市民というのは、何でも政治にお任せして、もう自分たちの運命をもお任せするのではなく、自分の運命は自分で考える、みんなで考えるということです。自分たちでこの政治や未来に関してきちんと考えて、議論して意見を持っていく。社会の問題に関して「なんか自分でも貢献できないか」とかそういう気持ちを持っている人たち、こういう人たちが強い市民です。

 こういう「強い市民」が動いて行かないと流れを変えられないと思います。それでこの問題を小倉さんにお会いした時にずばり聞いてみました。日本の政治の混迷と市民社会の役割をどう考えればいいかと。


 それではまず小倉さんの話を聞いてみましょう。


政府不信は、市民の自己不信であり、だからこそ、市民社会の役割が一番大事


工藤: 基本的な話なのですが、今市民社会の状況ということに関する小倉さんの認識ですか、どういう風に今とらえているんでしょうか。それから今まさに市民社会を強くしなければならない問題提起は今の状況においてどれぐらい大事なのでしょうか。


小倉:  世界で今一番大事な...政治の上で社会問題の上で大事なことの一つだと思います。なぜかといいますと、政党、機関、国際機関もそうですが、既存の制度や団体に対する不信感、これが先進国を中心に世界中を覆ってるわけです。しかし、そういった状況をつくったのは誰かといえば、あなたは選挙でその政党なり政府に投票したではないかと。あなたはその国際機関としての代表を送り込んでいる政府になぜ文句が言えないのか、ということになるわけです。制度不信、組織不信というのは翻って考えれば自己不信なのです。よく考えれば。つまり、自己責任。あたかも自分がつくったもののように、自分とは関係ないように思っているところに重大な問題がある。そうじゃない。政治が悪ければそれは政党も悪いかもしれんが一人ひとりの市民の意識がまだ十分成長してないからではないのか、ということにもつながるわけです。そのギャップを埋めるのは何かというと、それは一つしかない。それは市民自身が直接市民運動をしたり、市民社会をつくっていく。その声を制度的にエスタブリッシュされたルートとは別に違ったやり方で、もちろん同じやりかたもあってもいいですが、社会に投じていくことしかないだろうと思うんですよ。そういう意味で市民社会の役割というのは、制度に対する不信感、それから組織に対する不信感が先進国を始め、世界中にみなぎっている今こそ実は一番大事なことではないかと思います。


工藤: 例えば若者たちの中で一番優秀なのが非営利セクターに働きにいくっていうのはその現象なんでしょうか。


小倉: それも関連しているとは思います。それだけではないですけどね。例えば今のアメリカのティーパーティーとかですね、あれを全部見て結局は既存の組織政党に対する民衆の不信感というものが非常にあることを感じるわけです。あれを単なる保守の回帰とかオバマへの反発とかみるのは間違いだと思います。


工藤: 今の発言が、佐々木さんの問いかけの答えなのですよ。つまり、不信が強まって、ポピュリズムになっていって、最後、地検も崩れてほとんど信用失って統治が崩れていくという、ナショナルクライシスという国家の危機の段階ではないかと佐々木さんはおっしゃっていました。ただ、それに対する答えはどうなればいいかっていうと、佐々木さんは権力のリーダー側の転換をやはり考えるのですよ。だけどそのとき、僕はやっぱり市民側じゃないかと思ったわけですよ。


小倉: 僕はそう思いますね。権力というか、そっちのほうが変わればいいということであれば、自民党から民主党に変わったからよいではないかということになるのではないですか。


工藤: この発言でね、少しショックを受けたのは、つまり日本の政治の不信は自己不信ではないかということです。自分たちの自己不信ではないかと言っています。つまりこういう権力とか政府とか政党に対する不信は世界中で高まっていると仰っており、しかもそれはあたかも自分とは関係ない話ではなく、自分たちがそれを選んだのではないかということです。僕たちは傍観者で、映画やテレビで見ている話ではないのです。この政治は自分たちが選んでいる話で、それが信用できないのは自分に不信がある、自分が信用できないのと同じだと。ということになれば、やはり僕たち一人ひとりが市民として成長していかないといけないのです。自分たちの成長が問われる段階に来ているのではないかと思います。これはやはり日本を変えるっていう時にかなり本質的な発言だと思います。ではどうすればいいのか、これをまた小倉さんに聞いてみました。


工藤: でも今市民が変わらなくてはいけない図式っていうのは明確になってきているけども、しかし考えてみれば、それが一番困難なところですよね。でもその一番困難なところに僕たちは動かなくてはならない。


小倉: 日本社会で市民度とか市民社会が成長していく上での一つ大きな問題は、集まるフォーラムの問題でしょう。教会があれば教会にみんな集まるわけですし、モスクがあればモスクに集まるわけですが、日本の場合はどうでしょうか。信じるかどうかは別にして、社会的な集合の場所があればそこから色々な市民的なものが発生していく、ということは十分あり得ます。日本の場合は、市民が集まるお祭りはあっても、信条を基にして集まるという場所は他の国に比べると非常に少なくなっている。


工藤: そこをどう再設計するかなのですが、例えば、大学や色々なところだって本来はそういう役割を果たさなきゃいけなかったところが、自分たちがやらなきゃいけないところが結構崩れていますよね。


課題に対する対話を様々な分野で始める必要がある


小倉: 僕は、一つ一つのイシューだと思います。小さなものでいいと思うのですよ。小さなイシューでいいから、不登校なら不登校、小学生の制服がいいのか悪いのか、非常にささやかな問題ですよね、ささやかな問題での市民との対話というものを、もっとたくさんつくっていく、ということからスタートするより仕方ない。

 つまり、市民に問題を提起して、市民にこの問題について議論しましょうという場を与える、機会を与える。大学もそれができればいいのですけが、大学はいささか偉すぎる人が多いから。でも、大学みたいなところでもやる必要があるだろうし、新聞社がやる、政党もやる、地方自治体もやる、イシュー、結局は市民社会が成熟して、みんながそういう風になっていくためにはイシュー・オリエンテッド、つまり課題からのアプローチが大切でしょう。


工藤: まさに課題に対してみんなが考えるという、まさにそれは言論NPOがやろうと思っているのですが、そういう積み重ねが、色々な人たちにかなり見えていく。


小倉: それしかないと思うのですよ。それがやっぱり本筋じゃないかと。


その積み重ねの中で、当事者としてこの時代に参加する意味を感じ始める


工藤: その積み重ねの中で、自分たちが当事者として、今の時代や地域とか社会に参加していることの意味を感じていくわけですよね。


小倉: 実は、みんなそれを本質的には望んでいると思いますよ、どこかでは。ただ、チャンスがなかったり、そうは言われてもめんどうくさかったりするからだろうけど、心の奥底ではみんな望んでいると思いますよ。


今は市民社会が成熟するためのチャンス


工藤: みんな社会につながっていないのですよ。みんなバラバラで、他人事みたいに考えていて。本当はそれをつなげるのが非営利セクターだったのですよね。


小倉: これはある意味ではチャンスだと思うのです。というのは、既存の組織、あるいは団体に対する不信感が増しているということは、市民社会の成熟のためのチャンスでもあると思います。というのは、彼らは普通ならそこに属して安泰して、会社人間になったらいいわけですから。そうではなくなってきているわけです。逆にいうと市民社会を作っていくためのチャンスが出てきているのでは。


工藤: 今の話は一つの答えを出していると思います。やはり課題ごとにどんな小さな問題でもいいのでみんなで一緒に考えていく、その積み重ねが大事なのだということを仰っています。僕もまさにこの番組でそれをやりたいなぁと思っています。つまりこれからの時代、僕たちは自分たちが決められるのです。国も自分たちの運命も。ある意味でこの国が危機で統治が動かないからこそ、僕たちが考えなければいけないことになったということで、これはチャンスだと思います。それに気づくための状況に直面している。

 今僕が気になっているのは、大学にしてもメディアにしても会社にしても、様々な組織がその社会性に関して機能していない感じがします。でもそれぞれの人たちが、やはり自分たちの与えられた課題に関しきちんと仕事をすると同時に、その中で参加する人たちと一緒に社会的な問題に関しても考えたり向かい合っていくという流れが出てくると、本当にこの国は強くなります。


問題は、このチャンスを多くの人が感じること。そこから流れが始まる


 その中でポイントは、メディアの役割もあると思います。言論NPOはそのために非営利で参加型のきちんとした議論をして、それが時代とか社会の課題解決に向かって動いているNPOです。僕も10年前までは営利企業のメディアの記者でしたが、言論NPOを始めて何が変わったかというとそれは当事者意識なのです。つまり会社の中で与えられた仕事をするのではなく、自分も社会の当事者なのだと。自分の行動とか仕事に関しても責任があるのだなというのを自覚してから、何か僕の視界がひらけた感じがします。だから皆さんも同じ状況だと思います。ですから無関心だと思わないで、その社会の当事者として地域とか社会に何らかの形で参加していくべきです。

 小倉さんが言っていましたが、こういうときだからこそ市民社会の成熟のチャンスだということです。僕たちが当事者として社会に関わっていく。そういう感じが大事なのだと思います。多分この動きが始まれば、この国は間違いなく変わると思っています。問題はこのチャンスを自分の問題として考えられるかです。チャンスといっても他人の話ではなく自分のチャンスなのです。なので自分も何かを今日から、明日からでもいいですが、社会に関して自分で考えてみようとか、友達同士で考えてみようとか、学生であれば先生に質問してみようとか、親と家族とかに話してみようとか、何かしてみるべきです。新聞を見てみるとか。新聞はあまり信用しすぎないで、「これは本当かな」と疑問を持ちながら読んでみる。自分を主体にして自分で社会に立ち向かっていく。それが多分これから大事なのです。ボールは僕たちにあり、必ずこの国と未来は変えられるのです。そういうことを本気で考えてみてはどうでしょうかと思っています。

 小倉さんがここで最後に言っているのがもう一つあって、僕が非営利セクターの話をしましたが、市民が色んな形で自発的に参加するときのその受け皿は何だろうと考えれば、それは僕たちNPOや大学、地域社会です。しかしそれがきちんと機能していないのではないかという問題が一つあります。僕はこの問題は次の週に議論したいと思います。つまり僕たちが意識を変えないといけない、しかし意識を変えた人たちが参加できる仕組みをつくっている人たちも、もっと意識を変えないといけないのです。そうやって市民社会を強くして、一気にこんなどうしようもない政治ではなく、本当に競争して未来に向かって生き生きと自分たちの人生を考えるような流れに変えたいのです。
 「まだ間に合う」と石破さんは先週、言ってました。それを信用してやっていきたいと思います。

 ということで今日はここで時間です。政治の危機と市民社会という問題、「市民社会」ということで非常に分かりにくい部分もありますが、小倉さんの話を聞いて少し掴めたのではないかと思います。また皆さんからいろんな意見をお待ちしています。今日はありがとうございました。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

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